『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の伏線を改めて読み解き、「完全なる桐乃エンド」を考察してみた(1巻編、下)

注意

この記事はライトノベル俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を全巻読んでいることを前提に書いています。
おもいっきりネタバレがありますので、未読の方はお気をつけください。

1巻の時系列

日付 出来事 原作
6月上旬(京介高校2年生(17歳)、桐乃中学2年生(14歳) 京介が玄関付近で桐乃とぶつかり、メルルのDVDを見つける 第一章
2日後 桐乃が深夜に部屋に押しかけてきて、初めての人生相談を受ける 第一章
6月中旬(上記の一週間後) 麻奈実と下校中に、友達と下校する桐乃と遭遇する 第二章
数日後の日曜日 2回目の人生相談、『妹と恋しよっ♪(18禁版)』を桐乃と一緒にプレイさせられそうになる 第二章
翌日 『妹と恋しよっ♪(全年齢版)』を桐乃と少しだけプレイ、桐乃がオタク友達を作るためにコミュニティ『オタクっ娘あつまれー』に参加表明メッセージを送る 第二章
翌日 『オタクっ娘あつまれー』の管理人“沙織”から承認の返信、桐乃がコミュニティに正式参加 第三章
6月下旬(上記の次の日曜日) アキバで行われる『オタクっ娘あつまれー』のオフ会の二次会に参加、沙織と黒猫に出会う 第三章
翌日 麻奈実と放課後の公園で過ごしている最中に、モデル仕事中の桐乃と遭遇 第四章
数日後 母親と会話、桐乃の凄さを聞かされる 第四章
数日後 『妹と恋しよっ♪(全年齢版)』をコンプリートする 第四章
上記後の日曜日 父親にメルルのDVDケースの中身を見られ桐乃の秘密がバレそうになるが、京介が父親と対決し、桐乃の秘密を守る 第四章
翌日 桐乃に人生相談の続きがあると聞かされ、笑顔で感謝される 第四章

第三章

P.133
「まぁ……ね。清楚なお嬢様系? ……なーんか想像つかないな。あたしのクラスには、そういうタイプいないし」

明らかな矛盾、その5。
重箱の隅をつつくようで申し訳ないですが、あやせは清楚なお嬢様系だと思うんですけど……。
まぁ、あやせの登場は2巻からですし、1巻を書いた時点では、おそらくそこまで考えていなかったのでしょう。

P.137
「分かってるって。ってか、あんまそば寄んないで。デートしてると思われたらヤじゃん」

12巻P.249の秋葉原でまったく同じ台詞を使っていますね。

P.138
でもな……。もう遅いから言わないけど。おまえ……今日の集まりに、その格好で出るのかよ……確かにかわいいんだけどさあ。……ったく、大丈夫かな。

京介の妹かわいい描写6回目。

P.147-148
俺が目線だけで訴えると、
「…………ふんっ」
アイコンタクトが通じたのかどうなのか、桐乃はふいっとそっぽを向いた。

このアイコンタクト描写は、今後頻繁に出てくるのですが、これは通じてるのか通じてないのかよくわからないですね。二人の関係も、1巻の時点ではまだまだということでしょうか?

P.153
「……何も言うな。……おまえはよく頑張ったよ」
ぽん、と頭に手を置いてやると、すぐさまバシッと払いのけられた。

京介が桐乃にやる、頭に手をぽん、と置く仕草。
これも今後頻繁に出てきますが、原作で初めて登場する場面がここです。

P.154
「彼氏でござるな?」
「「違ぁ――う!?」」
同時に反論する俺&桐乃。よりによってなんつー勘違いしてやがる!?

12巻のP.255で兄妹が付き合うことになった話を聞いた沙織が、この時のことを回想しています。

P.156
「ほほう。なるほどなるほど、きりりん氏の……似てない兄妹ですな」

この高坂兄妹が似ていないという設定が、桐乃義妹説をなかなか捨てきれなかった理由の一つ。
聞くところによると「PSPのゲームの桐乃義妹ルートでフラグを回収したらしい」のですが、僕は未プレイなので詳しくはわかりません。俺妹という作品はこの手のノイズが本当に多くて、12巻が出るまでは考察に本当に苦労しました。

P.158
一見同年代にしか見えない妹ではあるが、たまにこういう歳相応のところを見せられると、かわいいもんだと微笑ましくなる。

京介の妹かわいい描写7回目。

P.161
率直に言うが、黒髪のゴスロリ女はどえらい美人だった。
といっても桐乃とはだいぶタイプが違う。
前髪を揃えた長い黒髪。真っ白な肌。切れ長の瞳。左目の下に泣きぼくろ。
ドレス姿の女を、こう表現するのはどうかと思うが、どこか幽霊じみた和風美人である。
赤いカラーコンタクトを嵌めているのは、コスプレの一環だろう。
見るからに性格がキツそうで、陰気で――いまにも黒魔法とか使いそうな雰囲気。美人ではあるが、桐乃のような華やかさはまるでなく、マイナスベクトルの黒いオーラが全身からゆらゆら立ち上っている感じ。

京介の黒猫評。
どえらい美人と評してはいますが、あまり褒めている感じではないですね。
いちいち妹と比べる京介のシスコンぶりにも注目。

P.173
「では、改めて。拙者は“沙織・バジーナ”と申すものでござる。『オタクっ娘あつまれー』コミュの管理人を務めております。プロフィールページにも書いてはありますが、歳は十五――中学三年生ですな。確か黒猫氏とは同い年であったはず」

沙織の自己紹介。
結構忘れがちですが、沙織と黒猫って同い年なんですよね。
沙織は黒猫や桐乃に比べると大人なので、京介(17歳)>沙織(16歳)>黒猫(15歳)>桐乃(14歳)というイメージがあるんですが、実際は京介(17歳)>沙織=黒猫(15歳)>桐乃(14歳)です。

P.180
夕方になって、二次会を解散した直後のいまだってそうだ。あの二人は一応別れの挨拶もすませたってのに、依然として喧々囂々、邪気眼VS魔法少女をやっている。

毎度重箱の隅をつつきまくって申し訳ないのですが、喧々囂々の使い方が間違っていますね。この場合、侃々諤々を使う方が適切だと思います。

第四章

P.191
「あ~あ……眠くなってきた……」
ここで昼寝したら気持ちよさそうだ。枕があればいいんだが……なんて思っていると、肩をつんつん突っつかれた。
「きょ、きょーちゃんっ」
「……あ? なに?」
俺が寝ぼけ眼で振り向くと、麻奈実は、何やら両手を左右に広げており――
緊張の面持ちで、恥じらうように頬を染めて、こう囁いた。
「ど、どうぞっ?」
………………なに言っとんだこいつ?
何が『どうぞ』なのかサッパリなので、俺はいぶかしげに首を傾げる。

どう見ても膝枕フラグでしょう……。
前章の第三章では、あれほど桐乃の心情を慮ったり、沙織の気遣いにも気づいていた京介が、麻奈実に対しては、いかにもラノベの主人公のような鈍感っぷり。この扱いが麻奈実は京介にとって特別な人というフラグに見えて、8巻ぐらいまでは麻奈実が真ヒロイン説を捨てきれませんでした。

P.194
と、そこで麻奈実がベタ褒めしている女の子に、俺の視線は自然と吸い付けられた。
ふーん。あの茶髪の娘、確かにスゲー見てくれはいいな。
脚はなげーわ、背はすらっと高いわ、でもって顔も――
「桐乃じゃねえか!?」

京介の妹かわいい(見てくれはいい)描写8回目。
視線は自然と吸い付けられたというあたりに、京介の桐乃に対する容姿の評価の高さが窺えますね。

P.194
「ええ――っ!?」
俺と麻奈実は、ビックリ仰天しちまった。特に、事情をまるきり知らなかった麻奈実の驚愕は、大きかったらしい。何度も瞬きしながら、桐乃と俺を見比べている。
「え、ええと……桐乃……ちゃんって……妹さんだよね? きょうちゃんの……」

これが麻奈実の演技だったら凄い。
僕にはどう見ても素で驚いているようにしか見えません。

P.196
「うちの弟、妹さんと同じ学年なの。学校は違うけど。でね、この前、共同テストっていうのがあったんだって。それで――県の成績優秀者のランキングに、載ってたって言ってたよ。」
「誰が?」
「だからぁ、きょうちゃんの妹さん。桐乃ちゃん」

12巻 P.344-345
「いつもいつもいつもいつも邪魔ばっかして! 子供の頃からずーっとムカついてたんですケドぉ!」
「……邪魔ばっかりしてたのは、桐乃ちゃんの方でしょう?」
「あっれー? あたしのことなんか忘れてたんじゃなかったのぉ~!」
「……っ!」
「あ、やっぱ図星なんだ! この嘘吐き!」

12巻で麻奈実は桐乃について、知ってて忘れた振りをしていたという描写がありましたが、何度1巻を読み返してみても、僕にはこれらすべてが麻奈実の演技だとは、どうしても思えないんですよね。伏見先生は、1巻を執筆した時点で、1巻で終わるつもりで書いていたということなので、1巻の描写は、後の描写と辻褄が合っていないことが多いです。
ですので、1巻の描写については真面目に考察してもあまり意味がないので、おかしな部分はノイズとして切り捨てた方が良いと思います。

P.200
「えー?」
俺は思いっきり眉をひそめたが、お袋はガン無視して話を続行。
人の話聞かないところはソックリだなこの親娘。

非常に珍しい、桐乃の母親似描写。
桐乃が父親似と言われることは多いんですけどね。

P.201
「そういえば、最近あの子、表情がイキイキしてるのよねー。ま、あたしにしか分からないくらいの変化だから、だーれも気付かないだろうけど」
「はぁ?」
俺が眉をひそめると、お袋は、さらに突拍子もない台詞を吐いた。
「きっとアレよ……男ね! 京介、あんた何か知らない?」
「お、男?」
「そう、男ができたに違いないわ。だからあんなに笑顔が煌めいているのよ!」
ねーよ。あんなのと付き合える男が、そうそういてたまるか。いたら俺はそいつのことをゴッドと呼んで讃えてやる。

案外鋭い佳乃さん。しかし、まさか笑顔の原因であるその男が京介のことだとは気づかなかったようです。
桐乃の男についての、京介の反応にも注目。
7巻の御鏡の時と違って、大した反応を見せません。
この時点では、まだ京介がそこまで桐乃のことを意識していないのが、よくわかります。

P.202
――桐乃の表情がイキイキしてる、ねえ……。
……心当たりは、あるっちゃあるよ。まさかとは思うけど……もしかしたら。
ビックリ仰天の趣味を見せられたり、さんざん罵倒されたり、エロゲーやらされたり、オフ会に連れて行かれたり、アキバを引き摺り回されたり――空回りばっかだった俺への人生相談が、ちっとは役に立ったのかもな。
ははっ、ガラでもねー。なに言っちゃってんだか。アホらしい。

桐乃の表情がイキイキしてる理由は、言うまでもなく京介ですね。

P.217
それにアイツ、確か今日、友達とオフ会行くって言ってたもんなあ。
俺がついて行かなくても、自分一人で仲間と会って――きっと、とても楽しい時間を過ごしてきたんだろう。黒猫と喧嘩したり、沙織に毒舌吐いて平気な顔されたり……想像できるよ、なんとなくな。俺も、この前、そばで見てたからさ。
最近桐乃がイキイキしてる――この状況で、皮肉にもお袋の言葉を思い出した。
それってたぶん、ずっと隠してた趣味を分かち合える相手ができたから、なんだよな?

この京介の推察は半分しか当たってないです。
桐乃がイキイキしてる理由は、もちろん黒猫や沙織というオタク友達ができたからというのもあるでしょうが、もう半分は長らく疎遠だった兄と秘密を分かち合って、いろいろと話すようになったからでしょう。

P.202
「ほんっと、使えない子ねえ! あんたもちょっとはしっかりしなさいよ――妹は出来がいいんだからさあ! 血統は悪くないはずなのよお」

1巻の描写はあまり当てにならないのですが、一応実妹フラグ。

P.203-204
「はぁ――――」
勉強机に座っていた俺は、思いっきり背筋をのばして息をはく。
「…………ふぅ」
そうすると……達成感の余韻が、じわじわと、なんとも言えない虚無感に変わり……俺の胸をきりきりと締め付ける。さっきまでのハイテンションが、ぐわ――っと急降下していく。
初めて知ったが、ギャルゲーを全クリした直後の虚しさは異常だ。
だめだこれ、どうにもならん。なんだろうな、この、悟りを開いた賢者のような気持ち。
ふぅ……なんで俺は数秒前まで、あんなに舞い上がっていたのだろう……。

さっきまで興奮で上がっていたテンションが、急降下する京介。
これらの描写ってぶっちゃけオ○ニー後の描写(賢者タイム)ですよね?
まぁ、実際していたわけじゃないでしょうが、なんでこんな描写にしたのか……伏見先生のお遊びでしょうか?

P.204
ったく、コレだよ……。はぁ……やっぱりリアルとゲームは違うよな。イベント積み重ねたって、ちっとも好感度なんざ上がりゃしねえ。なにこのバグってるとしか思えない攻略難度。

P.205
フッ……そうか……俺はいま、ゲームでいう『選択肢分岐』にいるってわけだ……!
だが、目の前にいる『妹』の好感度は、マイナスに振り切れている。
よって下手な選択肢を選べば、命はない……そして人生というゲームには、セーブもロードもない……。一発勝負ですべてが決まる。デッド・オア・アライブ

桐乃から渡された妹ゲーの影響で、早くもエロゲ脳になりつつある京介。
妹相手に好感度や攻略難度とか言い出すあたり、染まっているとしか思えません。
桐乃による京介攻略は順調に進んでいますね。

P.206
くだらねえぇぇぇぇぇえぇぇぇえ! 冗談じゃねーよ! なんで実妹と妹ゲーについて語り合わなくちゃならんのだ!

よく読むと、1巻から桐乃の実妹描写ってちゃんとありますね。

P.212
「京介……あんまり驚かないのね」
「そりゃあな。アイツのことなんざ知ったこっちゃねえし」
本心だ。ウソは言ってないぜ。

P.214
お袋が出て行って、それから十分ほど、俺はリビングの扉の前でハラハラしていた。廊下を落ち着きなくうろついたり、爪を噛んだり……耳を澄ましてみるが、中の二人は小声で話しているらしく、会話の内容は聞こえてこない。
秘密の趣味が親にバレちまった桐乃は、果たして何と言い訳しているのだろう。

「アイツのことなんざ知ったこっちゃねえし」といった2ページ後にこれである(笑)
妹のことなんざ知ったこっちゃねえなら気にせずさっさと自室に戻ればいいものを、思いっきり妹の心配してるじゃないですか……どこが本心でウソは言ってないのか教えてほしいものです。京介は本当に信頼できない語り部ですね。

P.218
桐乃はあれで頑固なところがあるから、俺の名前を出しちゃあいないんだろうが、親父ならそのくらい言質を取らずとも察する。トボけるだけ無駄ってもんだ。

京介の桐乃への理解と信頼がわかる描写。
口ではなんだかんだ言いつつも、桐乃への評価は高いんですよね。

P.228
公園、商店街、ゲーセン、学校、駅前――美麗で目立つ妹の姿はどこにもない。

京介の妹かわいい(美麗)描写8回目。

P.229
まるで妹から借りたゲームの主人公みたいに、高坂京介は、飛び出していっちまった妹を捜して、
夕焼けの町を駆けていく。頭ん中はかわいい妹のことでいっぱいだ。

京介の妹かわいい描写9回目。

P.231-232
「うっせえよ。それよかオマエ、俺に感謝しろよな」
「……は? なんでそんなことしなくちゃなんないワケ?」
「あのあと大変だったんだかんな? 親父が、おまえの部屋に入ろうとして――」
「……な、え……」
桐乃は泣き腫らした目を見開いて、俺の襟首を締めあげてきた。うげげ、超苦しい。
「………………ちゃんと止めたんでしょうね」
てめえ、なんで俺が止めるのが当たり前みたいな言い草なんだよ。俺は、おまえの兄貴であって、下僕じゃねえんだからな? おい、分かってんのか、ああ?
「も、もちろん止めたっス……身体張って」
「よし」
よくやったワンころ。そんな感じの『よし』だった。半分自業自得とはいえ、俺の尊厳は跡形もないぜ。

身体を張って桐乃のコレクションを守った京介に対し、この言い草。
こういう桐乃の言動を見て、腹を立てる人たちの気持ちはよくわかります。桐乃好きの僕でも、たまにそう思いますし。

でもね、僕は桐乃が京介に対してこういう行動を取るのは、京介を信頼しているからだと思うんですよね。
京介(兄)なら自分を助けてくれる、わがままを受け止めてくれるという信頼感があるから、桐乃は京介に対して遠慮なしにこういう態度が取れるわけで、見方を変えれば、わがままを言うことで(それを許してもらうことで)桐乃なりに兄に甘えているとも言えます。
これは、子供が親に対してわがままをいうのと同じようなもので、桐乃はまだまだ子供なんですよ。

桐乃のこういう部分を許容できるかどうかが、桐乃に対する評価の分かれ目になっているように思います。

P.233
「……分かんない」
だろうな。家に帰ったら、親父がいるし。どうしていいか分からないだろうよ。
実際、桐乃はそう口にした。「……どうしたらいいと思う?」と。
妹の口からその台詞を聞くのは、これで二度目だった。
俺は、自分でも、頼れる兄貴なんかじゃないと思う。そんな俺に頼らざるを得ないほど、こいつは悩んで、追い詰められているってわけだ。あんときと同じさ。

一度目はP.71で桐乃のオタク趣味について相談された時のことですね。
京介自身は否定していますが、桐乃は京介のことを頼りにしているからこそ、こう聞いたのでしょう。わかりづらいですが、ここで桐乃は、京介に甘えているんですよ。

P.233
一つ残らず捨てろ。そう言われたことは、まだ伏せておくか。親父の台詞は、ウチじゃあ絶対だ。大事なコレクションが死亡確定だと知ったとき、こいつがどう想うか――。
ふん、ここでキレられても厄介だしな。とりあえず聞くこと聞くのが先だろうよ。

一見突き放したような言い方ですが、これは京介なりの気遣いでしょう。
オヤジの台詞を伝えたら桐乃がショックを受けるのはわかりきっているし、そんな桐乃を見るのは忍びないので先延ばしにしているんですね。

P.234
かわいい顔はぐちゃめちゃだ。俺はすぐに目を逸らしたが、それでも、こいつの胸中で荒れ狂っている激情がなんなのかくらいは、嫌になるほど分かった。

京介の妹かわいい描写10回目。
ついに2桁突入です。しかし、まだありますよ。

P.235-236
ここしばらく、妹の人生相談に付き合ってきた俺には分かる。
桐乃は、今日、逆鱗にふれられた。俺があのとき垣間見た『大切なもの』を踏みにじられた。
だから桐乃は、いま、こんなにもキレている。死ぬほど悔しくて、涙を流している。
比較するのはバカげているのかもしれないが、俺にだって『大切なもの』くらいある。
そいつをくだらんと否定されたなら、俺だって同じようにブチキレるだろう。
ぜってーだ、相手が親父だろうが必ずブッ飛ばす。そうしなきゃ気が済まねえからだ。
桐乃も同じ気持ちなんじゃねーかな?

ここの京介の『大切なもの』というのは、おそらく麻奈実との日常、普通の生活のことでしょう。
まぁ、それは置いておいて、ここで大事なのは高坂兄妹は似たもの兄妹だということです(顔は似てないですが)。やっぱり兄妹というのはどこか似るものなんですよ。どんなに本人たちが否定しようと。

P.238
……絶対言うつもりはないけどさ。こいつ、すっぴんの方がかわいいんじゃないか?

京介の妹かわいい描写11回目。
深刻な状況で何を考えてるんだか(笑)

P.238
「少なくとも、親父は、そう言うだろうな。親父が特別厳しいからってわけじゃない。普通の親なら、誰だってそう言うし、それが当たり前だ。自分でも分かってるはずだろう――世間体があるから、バラすわけにゃいかなかったんだって」

桐乃のオタク趣味のことを言っているはずなんですが、兄妹恋愛に当てはめてもぴったりくるのは単なる偶然でしょうか?

P.239
「でも、やめないよ。絶対やめない。だって……好きなんだもん……すっごい好きなんだもん! それなのにやめるなんて……やだよ。できないよ……」

P.240
「あたしは、やめない。好きなのをやめない。前にアンタに言ったじゃん。両方があたしなんだって。どっちか一つがなくなっちゃったら……やめちゃったら、あたしがあたしじゃなくなるの。確かにあたしは子供だし、お父さんの言うことは聞かなくちゃいけないと思う。それが当たり前だし、抵抗なんて出来ないと思う。……でも、もしも、全部捨てられて……なくなっちゃっても。いままでのあたしが、なかったことになるわけじゃ、ないから。……だから、好きでいることだけは、絶対、やめない」

この好きでいることだけは絶対やめないという頑固なまでの一途さは、桐乃という人間の魅力の一つだと思います。
ここも先ほどと同じく、京介への気持ちに当てはめてもぴったりきますね。

P.241
チッ。舌打ちひとつ、俺は妙に吹っ切れた気分で、おもむろに立ち上がった。
「桐乃――」
妹のツラ見て、親指で自分のツラをぐっと指差す。
「俺に任せろ」
十七年の人生で、俺は、もっとも自分らしくない台詞を吐いた。
まるでこいつの、兄貴みてえに。

京介お得意の台詞である「俺に任せろ」は、ここが初出です。

十七年の人生で、俺は、もっとも自分らしくない台詞を吐いた。

明らかな矛盾、その6。
中学生の頃の京介(11巻参照)は、この手の台詞を自信満々に何度も言っていましたが……。

P.242
桐乃は店に置いてきた。一時間経ったら帰ってくるよう、言い含めてある。一方的に喋って、返事も聞かずに出て来たから、アイツが言うことを聞くかどうかは分からんが。
どちらにせよ、家に帰る決心がつくまで、戻ってくるこたあないだろう。

アニメ二期の第13話の伏見先生オリジナル回で、京介が桐乃のために親父と対峙した時に、実はリビングの扉の陰で桐乃がコッソリこの口論を聞いていたという事実が明らかにされたのですが、この描写でその事実を読み取るのは、相当難易度が高いですね。

P.243
あんなヤツはどうでもいい。本当に、心底、どうでもいい。
おかしいと思うか? ウソをついていると、矛盾してると思うか?
……どうだろうなあ。自分でも、今日の自分のこたあ、ちょっと分かんねえ。
全部が全部本音ではあるんだが……もしかしたら、自分でも意識できてない何かがあるのかもしれん。
胸の内から沸き上がってくる妙な気持ちの正体だって、まだ判然としねえよ。

自分でも意識できてない何か。
これは過去の自分でしょう。
胸の内から沸き上がってくる妙な気持ちの正体は、昔の京介が持っていた熱い気持ち。
詳しくはP.249で説明します。

「矛盾」というのは俺妹という作品を語るうえで、外せない重要なキーワードです。
特に「信頼出来ない語り部」である京介の言動は矛盾が多い。
この矛盾をちゃんと読み解けないと、俺妹という作品は理解できません。

P.243
桐乃は、一度だって、そんなふうに呼んでくれたことはないけどな……
俺はあいつの兄貴なんだ。
大キレーだろうが、どうでもよかろうが、クソ生意気でかわいくなかろうが。
妹は助けてやんなくちゃならんだろうよ。
そうだろう?

「京介がどうしてここまでして桐乃のようなクソ女を助けようとするのか、理解できない」という感想を、他の人の俺妹感想でよく見かけます。実際に妹がいる人なら、この京介の気持ちはよくわかると思うんですけどね。

妹のいる兄というのは、子供の頃から親に「お兄ちゃんなんだから妹の面倒を見てあげなさい」とか「お兄ちゃんなんだから譲ってあげなさい」という感じで、「兄は妹の面倒をみるもの」「兄は妹のためになにかしてあげるもの」という意識と価値観を刷り込まれます。その結果、兄は「兄とはそういうものだ」と無意識に思うようになります。この子供の頃から刷り込まれた意識と価値観は、大きくなってもなかなか消えるものじゃありません。

兄にとって妹というのは、嫌いだろうが生意気だろうが無条件で助けなきゃいけない存在であり、兄とはそういう生き物なんですよ。だから京介(兄)は桐乃(妹)が困っていたら、つい助けたくなってしまうんです。「なんで俺はこんな奴のために……」と思いつつもね。

桐乃は、一度だって、そんなふうに呼んでくれたことはないけどな……

明らかな矛盾、その7。
その2でも出てきましたが、これも過去編とは明らかに矛盾する描写ですね。
1巻は作者が続きを想定せずに書いたのだから、たびたびこの手の矛盾が出るのは仕方ないことですが。

P.249-250
ちょっと前の俺なら、自分がこんな暑苦しい真似をするとこなんざ、想像もできなかっただろうよ。いまのいまだって、一言一言、自分が口開く度に驚いてるさ。
まさかこの俺に、こんな激しいところがあったなんてな。普通に、平凡に、凡庸に――のんびりまったり生きていくのが俺の信条だ。それはいまも変わんねえ。
でも、ちょっと前の俺と、いまの俺とでは、確実に何かが違っている。
アイツから相談受けて、色々面倒見てやって、いままで知ろうともしなかったモンをたくさん見て、影響受けてさ。変わっていったのは俺の方だった。
あんな変テコな連中やら、理解できねえ諸々に、自分が影響されていたなんて、認めたくはないけどな。事実なんだから、しょうがねえ。
俺はあいつらから、何かを得て、変わった。バカになった。恥ずかしいやつになった。

ここの一つ目の何かはP.243と同じものですね。
過去の自分が持っていた「心、魂のようなもの」です。
麻奈実の影響を受け、凡人の自分は平凡に生きるのが幸せだと思い込んで無気力な生活をしてきた京介に、昔の熱い魂を蘇らせるきっかけになったのが桐乃の人生相談です。妹や黒猫、沙織などオタクの影響(二つ目の何か)を受け、平凡に生きていくはずだった京介は、この先どんどん変わっていきます。

P.252
しかし、ホントに俺の写真は一枚たりともねえな。

アルバムに京介の写真が無い理由は12巻で明かされますので、そちらで。

P.254
「これも。これも。これもこれも……! 見ろよ! 全部二位だの優勝だのばっかじゃねーか! こっちは小学校時代のやつな! こっちは幼稚園時代のやつ! ……なんでこんなにあんだよチクショウ!? 集めた俺がビックリだぜ! なあ! 親父! あんたの娘は、こんなにもスゲエやつだろうが!?」

明らかな矛盾、その8。
11巻P.67にある高坂兄妹の歩みという年表を見ると、桐乃が兄を見返すべく努力を始めたのは、小学3、4年生からになっています。それまでの桐乃はそこまで凄い子供ではなかったはず。

P.263
あいつはあいつでいままでどおり、今朝も俺を、路傍の石ころみたいに無視してくれたぜ。

先程の、桐乃が京介と親父の口論を聞いていたという事実と京介の信頼出来ない語り部というのを前提に考察すると、ここは桐乃の照れ隠しということになります。
素直になれない桐乃は、自分を庇って父親と対決してくれた京介に対してどういう態度で接すればいいのか分からなくて、結果京介からは無視したように見えたのでしょう。

P.263
ふん、おかしいと思うかい? あんだけイベントこなして、あんだけ尽力してやったんだから、妹の好感度は、その分ぐーんと上がってなきゃあワリに合わねーだろうって?
冗談じゃねーよ! 気味悪い想像させんなや! 第一ゲームじゃねえんだからさ、人生ってのは基本ワリに合わねーもんだと思うよ? 特になぜか俺の人生はな!

一人で勝手にキレだす京介。
内心では桐乃の好感度が上がってくれるのを期待していたのに、そうならなかったから怒っているんですね。京介が気づいていないだけで、実際にはちゃんと桐乃の好感度は上がっているのですが。

P.265
その笑顔はなるほどかわいかったが、それが俺に向けられることは今後もないだろう。

京介の妹かわいい描写12回目。
京介の「かわいい」描写は、この巻ではこれで最後です。

P.266
「人生相談、まだあるから」


……………………マジで?


あまりの絶望に、俺は、じわ……と目に涙を滲ませた。
ドアノブを握りしめたまま、固まる。

この涙は嬉し涙ですね。
もう自分の役目は終わって、妹とはまた以前の関係に戻ってしまうんだと寂しがっていたのに、まだ妹が自分に相談してくれる、必要としてくれると知って嬉しかったんですね、シスコンの京介お兄ちゃんは。

P.266
「それと――一応、えと……」
そんな俺に、桐乃は、口ごもりながら目を合わせる。
たった一言、照れくさそうに微笑んで、
「ありがとね、兄貴」
はっきりと、そう言った。
それから、ふいっとそっぽを向いてしまう。
心なしか、頬が赤かったかもしれない。

ここのポイントは、桐乃が京介と目を合わせながら、作中で初めて京介を「兄貴」と呼んだこと。
冷戦が始まって以降、「あんな情けない男は兄貴じゃない」と思いこんでいた桐乃が、再び京介のことを兄と認めたという、高坂兄妹にとって極めて重要な場面です。

P.268
自分の目と耳を盛大に疑いながら、俺はこう想ったのさ。
俺の妹が、こんなに可愛いわけがない――ってな。

ここは「思った」じゃなくて「想った」なんですよね。
そして、今までは「かわいい」とひらがなで表現していた妹を、ここで初めてタイトルと同じ「可愛い」と表現しています。今までの「かわいい」と、この「可愛い」はまったく別の可愛いであることが、この表現から読み取れます。この「可愛い」は、京介が妹に対して本気で想った「可愛い」なのでしょう。

1巻のまとめ

改めて読み返してみたら、思った以上に京介がシスコンでした(笑)
京介の妹かわいい描写は12回(最後の可愛いを含めると13回)。約20ページに1回は言っている計算になります。

1巻はまだキャラがハッキリと固まっていないのか、微妙に手探り感がありますね。
桐乃以外にも、麻奈実、沙織、黒猫とのフラグもガンガンばら撒いています。

京介がいつから桐乃のことを好きになったかについてですが、この1巻のラスト時点で、妹のことはかなり意識しているようです。
この時点で桐乃のことを好きになったと解釈してもそれほど無理はないのですが、とりあえず一旦保留。ただ、京介に自覚がないのは確かでしょう。じゃないと京介の2巻以降の言動を、上手く説明できなくなりますから。

京介の「俺は妹が嫌いだ」というフィルターはかなり強いです。
しかし、この先、このフィルターが少しずつ破壊されて、京介のシスコンぶりがどんどん露わになっていきます。そんな京介の嘘を、これから容赦なくガンガン暴いていきますよ。

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