『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』8巻の感想

注意

8巻の内容のネタバレあります。未読の方はお気をつけください。
それと、僕は桐乃好きなので感想もそっちに偏っています。黒猫好きの人は読まない方が無難です。

全体の感想

今巻は黒猫の告白を受けて、京介と黒猫が恋人同士になり、イチャイチャする話がメイン。

いやー、俺妹を読んでて、こんなに嫌な気分になったのは初めてですよ。

もうね、黒猫と付き合う事になって浮かれまくってる京介は見てらんない。

京介が黒猫を可愛いと思ったり、黒猫とのイチャイチャぶりを見せつけられるたびにイライラしていましたよ、えぇ。

黒猫の事を本気で好きになる京介なんてみたくなかった。

とにかく第二章と三章は読むのがひたすら苦痛で、途中で何度も休憩を入れないとまともに読めなかったぐらい。

「どうせ四章になれば別れることになるんだろ?さっさと別れろよ、こんちくしょう!」

と思いながら何とか読み進めましたけどね。

221ページの最後の一行を見たときはおもわず「よっしゃ!」と拳を握りました、マジで。

第四章からはようやく桐乃のターンが始まり、溜飲が随分下がりましたけどね。

ふぅ……さて、ここからは真面目な考察です。
京介と桐乃、黒猫についてそれぞれ語っていきます。

京介について

まず第一章で京介は黒猫の告白の返事を先延ばしにしましたね。
ここで即答出来なかった理由の一つは268ページにも書いてある通り

妹には、『おまえに彼氏ができるなんてイヤだ!』と自分勝手な気持ちをぶつけておいて、
自分はちゃっかり彼女を作るなんて、ダメだと思った。

からでしょう。
そして、もう一つの理由は京介本人が気づいていない桐乃に対する気持ちだと思います。


ハッキリと明言こそされていませんけど(それが俺妹の文体の一番の特徴なんですが)、京介が桐乃に対して妹以上の気持ちを持ち始めているのは間違いないと思います。
7巻まではせいぜいシスコンレベルでしたが、8巻ではその域を超えるような描写が格段に増えています。一番わかりやすいのは桐乃を押し倒してしまった時の京介の反応(196ページ)でしょう。
ちょっと今巻での京介のそういった描写をまとめてみます。

8巻での桐乃に対する京介のシスコン描写一覧

桐乃に自分に本当に彼氏が出来たらどうするのか聞かれ、泣くほど嫌だけど、大丈夫そうなやつで桐乃がそいつの事を好きなら(二、三発殴って)認めるしかないと言って、桐乃にシスコンとキモがられる。(30ページ)

麻奈美が鼻と鼻が触れ合うぐらいに顔を近づけてきたときはほとんど動揺しなかったのに(35ページ)、桐乃に対しては(――好き好き連呼しながら可愛い顔を近づけてくんじゃねえよ! 俺が死ぬだろ!」)と思う。(190ページ)

桐乃のことを大切な妹だと認識している。(51ページ)

桐乃についての回想シーンで誰にもわたしたくないという本音を見せる。(52ページ)

妹ともっと仲良くなりたいと思う。(53ページ)

桐乃との『らぶらぶツーショットプリクラ』を携帯に貼って、待ち受け画面を桐乃の水着画像にする。(53、54ページ)

御鏡が桐乃にたいして興味なさそうなのを見て(俺の妹を何だと思っていやがる)と腹を立てる。(69ページ)


黒猫と付き合うことになっても、何かと桐乃を例に出して比較したり思い出す。(110、142、145、148、150、168、174、199ページなど多数)

桐乃との『らぶらぶツーショットプリクラ』を自宅の冷蔵庫に貼る。(129ページ)

妹の頭をポンポン撫でる。(185ページ)

妹の幸せそうな姿を見て満ち足りる。(185ページ)

妹との物語をボーイ・ミーツ・ガールに例える。(197ページ)

京介が感じた、くすぐったい気持ちの正体。(198ページ)

黒猫の事で誰かに話を聞いてもらいたい時に、麻奈美ではなく桐乃を選び泣きつく。(234、242ページ)

安らかに寝てる妹の寝顔を見てドキドキし、眠り姫をイメージする。(235ページ)(『眠り姫』は眠っているお姫様が王子様のキスで目を覚ますお話です)

寝ぼけた妹に抱きしめられ思いっきり動揺する。(236、237ページ)

妹にすげなくされて泣き出す。(241、242ページ)

妹に対して惚れてしまいそうになる。(253、256、295ページ)

桐乃の本音を知ってようやく兄妹に戻れたことを、泣くほど嬉しいと思う。(271ページ)

兄妹がお互いに彼氏彼女が出来るのが嫌だとわかって、彼女より妹を優先する(288ページ)

……とこれだけ挙げられます。
これで自分が桐乃のことを大嫌いとか、(ほんのちょっぴりだけ)シスコンっぽいところがあるとか思ってる京介は(32、33ページ)、もう鈍いとかそういう領域を越えてますね。相手が妹だからというフィルターが掛かってるとはいえ、さすがにそろそろこの認識は無理があると思います。

閑話休題
その後、京介は結局黒猫の告白を受けて付き合うことになるんですが、そのきっかけは桐乃が自分に彼女が出来てもどーってことないと勘違いし、彼女を作れと言われたと思い込んだこと(32、33ページ)だと思います。

ただ、どうしてもわからないのが、真剣に考えて黒猫と付き合うと決めた時と黒猫と付き合い始めて浮かれまくる京介の心境。
僕には京介が黒猫の事を本気で好きになっているというのが納得いかないんですよね。
確かに7巻までに京介の黒猫に対する好意の描写は散見されますけど、それはあくまで可愛い後輩としての好きであって、彼女として付き合うほど好きだとは全然思ってなかったです。まぁ、これは桐乃メインで読んできた僕の読み方が甘かっただけかもしれませんが……。

桐乃について

桐乃が京介と黒猫が付き合うことに対してどう思ったかは、第四章で本人が自ら語ってる通り(256ページから270ページ)だと思うので、わざわざ取り上げる必要もないでしょう。桐乃が一時でも黒猫と京介の仲を応援しようとしたという事実には少々がっかりしましたが……。(僕としては兄である京介に関しては、友達といえど絶対に譲って欲しくなかった)

それにしても今回の桐乃はデレ過ぎですね。
京介と同じように今巻での桐乃の京介に対する行動をまとめてみます。

桐乃の京介に対するデレ描写一覧

京介の怪我の治療をしてあげる。(132ページ)

『妹空』のアニメの声優さんのサンプルボイスを京介とイヤホンを片方ずつにして一緒に聞く。(188ページ)

『兄と自分のらぶらぶツーショットプリクラ』を自分の携帯に貼り、携帯の待ち受け画像を兄のコスプレ写真にする。(193ページ)

以前は掛けていた自分の部屋の鍵を掛けないようになっている。(234ページ)

人生相談に来て泣き出した兄の涙を袖で拭ってやり、後ろから抱きしめて慰め、励ます。(242、244ページ)

ごく自然に京介の手を取る。(253ページ)

黒猫に問い詰められて、「兄貴に彼女が出来るなんて絶対イヤ!」「あたしが一番じゃなきゃイヤ!」と本音を暴露(266ページ)

京介に暗にブラコンと言われて否定しない。(289ページ)

京介にお礼を言われて素直に笑顔を見せる。(300ページ)

今までツンデレ黄金比率を保ってきた桐乃の京介に対する態度が、今巻で一気にデレの方向に進みましたね。悪いことではないのですが、若干の寂しさを感じます。
僕は桐乃は基本的に生意気でムカツクんだけど、たまに出るデレが可愛いと思っているので、あまり良い子になられると、魅力が半減したように思えてしまうんですよね。

黒猫の願いである理想の世界について

黒猫がすべてを賭しても叶えたい理想の世界(アルカディア)とはどういう世界か?

黒猫が書いた一冊目の運命の記述(デスティニーレコード)の最後の1ページには、朝食を囲んで幸せそうに笑う少し大人っぽく描かれた京介と桐乃の絵が描いてあります。(116ページ)
これを見れば黒猫の願いは高坂兄妹が仲良くなることだと、すぐにわかるでしょう。黒猫は高坂兄妹のことが本当に大好きですからね。

第四章での黒猫と桐乃のやり取りを見ればわかるように、黒猫はこの願いを叶えるために京介に告白して付き合うことにし、見事に桐乃の京介に対する本音を引き出すことに成功しました。(もちろん、告白したのには284ページで真奈美が指摘する通り、京介のことが本気で好きだという気持ちもあるのですが……)
ここまでなら問題ないのですが、二冊目の最後のページにはそこに黒猫が加わっています。

黒猫の真の願いはその仲良くなった高坂兄妹の関係に(京介の恋人として)自分が加わること。これこそが、黒猫がすべてを賭しても叶えたい理想の世界(アルカディア)でしょう。
しかし、その願いは京介が(今はまだ)黒猫よりも桐乃のことを優先する事で頓挫し、そのことを察した黒猫が京介の答えを遮ることで、曖昧にされてしまいました。

高坂兄妹好きの僕としては、あまり黒猫にでしゃばって欲しくはないのですが、兄妹の関係を進めるのに黒猫の存在は不可欠になりつつあるので、悩ましいところです。

今後の高坂兄妹の関係について

どうなるんですかね?
京介の項目で書いたとおり、京介が桐乃に対して妹以上の気持ちを持ち始めているのは間違いないと思いますが、正直、京介が黒猫の事を本気で好きになるとは思わなかったので、全くわからなくなりました。桐乃の京介に対する気持ちも、8巻ではやや兄妹愛っぽく描かれてるようにも読めますしね。

一応持てる希望としては、

京介が黒猫の事を名前で呼ばない(211、212ページ)

妹の桐乃のためならもの凄い行動力を発揮する京介が、恋人で好きなはずの黒猫に対してはヘタレる。(251ページ)

気付きそうで気付けない、芽生えかけた気持ち。(297ページ)

妹に本気に好きなやつが現れるまで彼女は作らないと決める。(297ページ)

などがあるのですが、いずれも未来が確定できるほどの材料には成り得ません。どうも兄妹の仲が悪くなるきっかけになった過去話がキーポイントになりそうですが、現状では高坂兄妹の関係がどう転ぶかは何とも言えない状況だと思います。

まとめ

ほぼ完璧だった俺妹の面白さに陰りが見え始めた巻。
その一番の原因は何と言っても京介株の大暴落。
今まではさまざまな女の子に囲まれていても、ハッキリした恋愛感情のようなものは見せず、なんだかんだで妹の桐乃を一番に優先してきた京介が、黒猫に対して好きだと言い出してしまったのが非常に痛い。

妹とのフラグを立てておきながら、振られた黒猫に対して未練を見せ、なおかつあやせや麻奈美にも好かれてるなど、京介がまるで美少女キャラに囲まれたハーレムモノの主人公のようになってしまったのにはガッカリ。

78、79ページで御鏡が語ってたように「理想の兄貴」から「もっとぶざまな何か」に変わってしまいましたね。(京介のキャラ改変について、わざわざ登場キャラにこういう風に語らせるのが、なにか作者の言い訳臭く見えて嫌です)
黒猫に別れることを告げられてショックを受けてるときにしっかり勉強をこなすあたりは、桐乃の影響が見えてちょっと見直しましたけど、今回京介のいいところはそれだけでしたね。

8巻は結局黒猫に高坂兄妹が踊らされた感じがして、どうにもスッキリしません。
7巻を読んだ人の大部分は桐乃、京介、黒猫の関係にある程度のケリがつくものだと期待してたと思うのですが、蓋を開けてみれば、結局未来を曖昧にした中途半端な結末。
明らかに引き伸ばしを感じさせる展開には失望しました。

俺妹の面白さのピークは8巻時点で既に過ぎていると思います。
個人的にはこれ以上作品の価値が下がらないうちに、俺妹には早めに終わって欲しいところです。
jitsumai.hatenablog.com