『ひよこストライク! -泡沫の夢-』の感想

作品情報

桜紡糸学園に通う学生「神楽鳥 真」。
一人暮らししていること以外、平凡な日々を送っていた真だったが、ひよこを頭に乗せた桃色の髪の少女「ウタカタ」と出会ったり、実の妹「雛」がアパートに転がり込んできたりと、何かと可愛いお女の子に囲まれてしまい、彼の平穏な生活は壊れつつあった(泣)。
季節は出会いの春から夏へと移り変わり、煮え切らない態度の真に、ある奇跡が起こるのだが……。

上記はAmazonの内容紹介より転載。

公式ページ
2012年1月に発売された18禁PCゲーム『ひよこストライク!』のラノベ版。
原作のゲームと同じく小林公示さんと佐藤ヨシヒサさんの二人が分担して書いています。

挿絵も原作と同じくやすひこさん。
ゲーム画面の使い回しもありますが、描き下ろしも全員集合が1つと各キャラ1つずつ(雛のみ2つ)あります。

原作は18禁ですが、この本は一般なのでHシーンは無し。

目次

数字はページ、(カッコ)内は担当です。(担当のソースは本の著者紹介より)

プロローグ 夏の桜 009 (小林公示さん)
第一章 緩慢に続いている物語 013 (小林公示さん)

第二章 鏡ウタカタ・特別な祭りの日 095 (佐藤ヨシヒサさん)
第三章 姫宮ちよ子・ロスタイムの勇気 151 (小林公示さん)
第四章 舞原理々乃・想像もしていなかった未来 217 (佐藤ヨシヒサさん)
第五章 ぷーさん・満月の下で抱きしめて 265 (佐藤ヨシヒサさん)
第六章 神楽鳥雛・永遠の土曜日 315 (小林公示さん)

第七章 散らない桜 363 (小林公示さん)
エピローグ これから始まる物語 377 (小林公示さん)

説明

物語は夏である7月からスタートで、各キャラクターとは既に面識ありの状態。
状況やキャラ説明がメインのプロローグと第一章が終わると、ゲームのように各キャラごとのシナリオ(二章から六章)に分岐し、第七章、プロローグで締め。


(背表紙は雛)
400ページ近くあるのでなかなかのボリュームですが、物語は章ごとに分かれていて、文体も読みやすいのでサクサク読めます。

ちなみにこのラノベ版の物語はゲームの設定を基にしたオリジナルで、この手の小説化でよくある「単に原作をなぞっただけ」という内容ではありません。

小説本編で各キャラに対しての多少の説明は入りますし、各キャラの紹介ページもありますが、7月以前にあった出来事を、読み手に説明もなくキャラ同士が知ってる状態で話が進むので、ゲームをプレイ済みでないと理解出来ないであろう部分がチラホラ出てきます。

あとこの本、表紙や帯を見ても原作がエロゲであることは、まったく書かれていません。
普通この手の本は「18禁PCゲームで好評を博した◯◯が小説になって登場!」みたいな帯が入るものだと思うんですが、実際に本を開いて中の宣伝ページを読まないとエロゲが原作であることはわからない作りになっています。

ということで明らかにこの本はゲームプレイ済みの人向け。原作を知らない人にはお勧めできません。

感想

他キャラのファンの人には申し訳ないですが、いつものごとく感想は妹の雛についてのみ書いていきます。

雛の最初の出番は第一章で兄を起こすところから。
いきなり描き下ろし立ち絵と扱いの良さを感じます。

ここでの雛の行動や台詞は少々わかりづらいので解説を入れてみます。
ちなみにあくまで僕の解釈なのでこれが絶対正解であるという保証は出来ません。

P.18 さっきから、雛が視線を横に逃がしたまま、こちらを見ない

暑がる兄のシャツの胸元がはだけているので、見ないようにしている。(ハッキリとは書いてないのですが、「ばっちぃ自分」が兄をそういう目で見ることに引け目を感じているからかと)

P.21 「ん……今、誰もいないよ……?」

「おにいちゃんと自分以外は」という意味。

同P.21 「おにいちゃんばっかり……ずるい」

(おにいちゃんは私の目の前で胸元をはだけさせているのに、自分がやろうとするとダメというのは)ずるいという意味。

帰宅後にも雛とのちょっとした会話あり。
ここでの雛の態度や台詞、心境は原作をプレイしてないと本当に意味不明だと思います。

続いて第六章。
この章は今までの他のキャラの章とはやや毛色が違います。
ネタバレになるので詳しくは書けないのですが、この本の物語を終わらせるきっかけを兄に与えるのが雛の役どころ。

兄と雛のやり取りは原作者が書いただけあって、ゲームとまったく雰囲気が同じ。
雛の怒ってぷいっとする態度や、首をふるふるする動作、兄のちょっとした言葉に過敏に反応してすぐ泣き出すところ、雛と兄の認識の違いで微妙に噛み合わない会話などを見ると「あぁ、雛だなぁ」と感じます。

あと雛とのキスシーン(ゲームのCG付き)があります……っていうかちゅっちゅしまくりです。原作がエロゲとはいえ、一応一般向けの作品なのに実妹とのキスシーンをしっかり入れてきたことに、ちょっと驚きました。
この前感想を書いた『禁忌アンソロジー feroce』もそうですが、最近では実妹とのキスシーンは普通になってるんですかね? 非常に良い傾向だと思います。
まぁ、さすがにHシーンは無いですが。

エピローグは「ヒロインの誰を選ぶかは自分次第」という曖昧なエンドですが、主人公にはちゃんと自分の考えと答えがあってさわやかにまとめているので嫌な感じはしません。余韻のある良いまとめ方でした。

まとめ

予想以上に面白かったです。
エロゲ原作の小説というものには良いイメージがなかったので、正直大して期待してなかったのですが、さすが原作者自らの書き下ろしだけあって、ゲームの設定はそのままに、同じキャラを使った新しい物語を違和感なく読ませてくれました。

物語の構造も凝ってて、エロゲやギャルゲ特有のヒロインごとに物語が分岐するという特性を、実に上手く小説に落としこんでいます。この辺りはぜひ自分で読んで確認してもらいたい。『ひよこストライク!』という作品を気に入った人なら、充分読む価値はあると思います。

ノベル体験版というのが公式サイトにありますので、興味がある方は一度プレイしてみてはどうでしょうか?

余談

『ひよこストライク!』のFD『雛といっしょ』については一向に詳細が出てこないし、いまだにいつ発売されるのかよくわからない状態なので少々不安を抱いてましたが、この本の出来を見る限り、内容に関してはそれほど心配はいらなそうな感じ。
開発日記を読むと、なにか色々事情があるみたいですが、中途半端な出来で発売するよりは、少々遅くなってもいいので、しっかり作りこんだものを発売して欲しいです。