作品情報
『シスター・プリンセス』の原作者である公野櫻子先生による描き下ろし小説。全12巻からなる『キャラクターコレクション』のうちの1冊で、咲耶視点の独白形式によるエピソードが7編掲載されています。
咲耶について
名前 | 推定年齢 | 一人称 | 兄呼称 |
---|---|---|---|
咲耶 | 15~16歳 | 私、さくや(幼少時) | お兄様、おにいさま(幼少時) |
身長 | 誕生日 | 星座 | CV |
159cm | 12月20日 | 射手座 | 堀江由衣 |
おしゃれで、スタイル抜群、お兄様大好きな妹。
他の妹たちとは違い、兄に妹ではなく一人の女の子として見て欲しいと思っていて、兄に積極的に迫ってくる。
感想
1 恋する季節
咲耶がいかに兄のことを愛しているかを語るお話。
私、知ってるわ。お兄様が私のこと、困ってること……。お兄様もきっと、他の人達みたいに、私のこと“ブラコン”だって思ってるの。まったくもう、ホントにニブくって、おバカさんなんだから! ……私の本当の気持ち、わかろうともしないで……。
咲耶は年長だけあって、兄が自分を妹としか見ていないことをちゃんとわかってるんですよね。そして、それを不満に思っていること、自分の兄への気持ちは“ブラコン”などではなく本気であることが、この文章から伺えます。
兄が他の女の子からラブレターを貰っている場面を咲耶が見かけるエピソードがあるのですが、そこで咲耶は邪魔をしようとするも足がすくんで動けなくなってしまいます。
私、その日は結局、お兄様には手紙のことはなんにも聞けなかったの。
なんだか……怖くて……。もしもお兄様が……手紙もらって嬉しかったんだったら……どうしようって……。
普段は自信満々に見える咲耶ですが、心の奥ではやはり不安を抱えています。
そこが、またいじらしくて良いですね。
やっぱり、私……お兄様と兄妹なんかに生まれてこなければよかった。
もちろん、わかってる。もし、兄妹じゃなかったら、もしかしたらお兄様と出会えなかったかもしれないってこと。……それはそう思うけど、でも……きっと。……うぅん、そうよ、絶対にどんな道をたどっていたとしても、いつか私とお兄様は巡り会っていたと思うの。
だって……私とお兄様は……運命の2人なんだから……♡
でも、……でもね、きっとそれもこれもお兄様が私のお兄様だからイケナイのよねっ! そうよっ、もしも、お兄様がお兄様じゃなかったら……そうしたら……そうしたら……キャッーー♡
んもうホントに、なんで、お兄様は私のお兄様なのかしら? ……お兄様の……お兄様の、ばかーーーーっ!
咲耶は、兄と兄妹であることを障害に感じています。
兄妹じゃなければ誰に遠慮なんてする必要もなく付き合えるでしょうし、普通に結ばれることができますからね。
そ、そんな……「ツヤツヤの唇で迫ったら」なんて……♡ そりゃ、好きな人はいるけど、キ、キスなんてまだとうぶん……許してくれそうもなくて……。ハッキリ言って……どうしたら手を出してくれるのかな、なぁんて考えちゃったりして……困っちゃってるくらいなのにな……きゃっ♡
兄を受け入れる気満々なところが、非常に咲耶らしくて萌えます(笑)
2 ホーリーウェディング
リピュアの咲耶のキャラクターズパートの元になったお話。
アニメの方はアレンジされていて、原作とはかなり違いますね。
アニメでは咲耶は子供でしたが、原作では大人ですし、マリア像の前で愛を誓うシーンも原作では自宅です。
「あなたを……永遠に愛することを……誓います……」
ツー……ポトッ。
……イヤだ……私、幸せな花嫁のハズなのに……どうして涙が……出てくるの?
……わかってる! 本当は、いくら想ってもかなうはずのないことくらい、もう十分わかってる……。だからって、なにもこんな時に思い出すことないのに……もう私ったら、バカね……。せっかく幸せの予行演習のハズなのに……。
……ポトッ。
でもきっと……本当は、こうして微笑む私の横に立つのは、お兄様じゃなくて……。
……ポトッ。
イヤ……考えちゃダメ。……でも、どうしても、頭の中から消えてくれないの。
こんなドレスを着て白い燕尾服を着たお兄様の横で微笑むのは、きっと誰か……私じゃない女の人……。そして……私はそのそばで……「お兄様、おめでとう」って言ってあげなきゃイケナイの……。
「イヤ……そんなの……イヤよ。……お兄様……私そんなこと絶対に……信じないんだから……。お願いです……神様。どうか、私を……お兄様から……引き離さないで……どうかどうか……ずっと……お兄様のそばに……いさせて……お願い……」
このあたりは、アニメとほとんど同じ。
頭では現実を理解していながらも、それを受け入れることのできない咲耶の苦悩が伺えますね。
3 運命の山脈
前回の続き。
兄が他の女の子と結婚式を挙げる夢を見た咲耶は、不安になって兄を学校まで迎えに行くことに。兄が女の子と仲良さそうに喋っているのを見かけた咲耶は、そこに割って入ります。急に現れた咲耶に驚いた兄は、女の子に咲耶のことを妹だと紹介するのですが……。
……私が“妹”だって知ってそんなにホッとするなんて……やっぱり絶対にクサイわよね! 私のカンはそりゃあよく当たるんだから! ……だから私ね、ここまできてやっと気が付いたの。やっぱり昨日の夢は神様のイジワルなんかじゃない、お兄様に危険な存在が近づいていることを私に教えてくれるシグナルだったんだって……。……ウフフッ♡
そうとわかれば、私……負けないわっ! 私とお兄様のことを神様だって応援してくれてるのねっ♡ 咲耶、感激!
なんというポジティブシンキング(笑)
可憐ばりの電波も感じますが、まぁ、咲耶だからしょうがない。
「やだ、お兄様たら(っが抜けてるように思えますが原文ママ)またそんなコト言って! あの……私達、本当は義理の兄妹なんです。でも、私とお兄様はとっても仲良しなの……だって将来は婚約するかも……うふふふふっ♡」って……言ーっちゃった♡
お兄様ったら最初は気が付かなかったみたい。でも……クスクスクスッ♡
「そ、そうなんだ、いつまでも兄離れができなくてね……って、……ええっ!? ぎ……義理ぃ!? こ、婚約っっ!?」
私、今がチャンス! って思ったから、お兄様が驚いてるすきにぎゅうっとつかまえて「それじゃあ、今日はお兄様とデートの約束があるので失礼します♡」って――そのへんはちゃぁんと礼儀正しくね♡――言って、こちらもあっけにとられてる女の子を置いてかっこよく2人去っていったのよ♡ ……ウフフフフッ♡
強い(笑)さすが咲耶。
僕は咲耶のこういうところが大好きです。
兄を手に入れるためなら手段を選ばない妹っていいですよね。
ちなみに義理の兄妹はもちろん咲耶のウソですので、ご安心を。
義理なら、咲耶があんなに悩む必要ないですからね。
「義理ってことは……血がつながっていないのか……?」
……お、お兄様♡ 深刻そうな顔してるお兄様を見て、私……お兄様を抱きしめたくなっちゃった♡ でもそれは一応ガマンして、精一杯アヤシイ顔して「うふふっ……もし、そうだったら……どうする?」って言ったわ♡ お兄様は、なぁんだってホッとしたような、でもまだちょっと信じてるような、複雑な顔してた。だから私、お兄様の耳元に口を寄せて「あのね……」って「ウソ♡」ってささやいてあげようとしたんだけど……私の言ったことを真剣に受け止めてくれたお兄様が嬉しくてつい……そのままそっとお兄様の頬にキスをしちゃった。
咲耶の言葉に振り回される兄が可愛い(笑)
咲耶の小悪魔っぷりも良いですね。
ねぇ、お兄様……私やっぱり、お兄様のこと離してなんかあげない♡
私とお兄様はいつか絶対……結ばれる運命にあるんだから。……ずっとずっと一緒にいてね……お兄様……世界中の誰よりも私が1番愛してる♡
うん。やっぱり、これが一番咲耶らしいですよね。
4 愛の結晶
兄の誕生日を一緒にどう過ごすかについて悩む咲耶のお話。
だって私ね、お兄様のこととっても大事だから、なによりもお兄様の喜ぶ顔が見たいって思うし、プレゼントはやっぱり毎年チガウ物をあげたいし、もう毎年頭を悩ませてきたんだもの♡ 男の人って、女の子と違ってプレゼントには実用的な物が好きだっていうじゃない? だから自分の趣味だけになっちゃわないように、これでも私、ちゃんとお兄様の好きそうな物をリサーチしてたんだから。お兄様ったら、私のそんな努力……わかってくれてるかしら?
兄のことを思って、プレゼント選びも真剣です。
咲耶はちゃんと兄のために努力してるのも偉いですよね。
こういう妹を見ると、応援してあげたくなります。
他にも、子供の頃に手作りのビーズの指輪を兄に送った思い出、特注の誕生日ケーキを用意して二人でケーキ入刀など、咲耶がいかに兄を愛しているかのエピソードが満載です。
6 温泉でのんびり?
子供の頃に家族で海に旅行に行った時のお話。
子供の頃の咲耶の一人称はさくやで、兄呼称はおにいさまだったようです。
タイトルからついついお色気方面を期待してしまいますが、温泉は子供の頃の話で、しかも水着着用です。
……あっ、それともやっぱり……もうずいぶん大人になった私達だから……今度こそ、お兄様と2人でしっとり本格温泉なんていうのもいいかもしれないわね。うふふっ……兄妹なんだもの、一緒にお風呂ぐらい、いいわよね? ……お兄様♡
こういう時はちゃっかり兄妹であることを利用する咲耶(笑)
7 消せない絆
“お兄ちゃんの日”のデートとお泊りの話。
お兄様って……そんなに口数の多い方じゃないし、人を笑わせるっていう感じでもないんだけど……どうしてなのかしら? やっぱり……これは私がお兄様に恋をしているせい? ……きゃっ♡
シスプリの妹達は兄に対して大好き、愛してるというのはよく口に出しますが、ハッキリ恋という表現を使うのは咲耶だけです。 すみません、ここ訂正します。白雪も使っていました。
ねぇ……お兄様……。どうして……私達は兄妹なんかに生まれてしまったのかしら? お兄様はいつも私のこと……持て余すように言うけど……でも、お兄様だってきっとホントは私のこと……好き……じゃないの?
教えてほしいよ……。私には……ほんのちょっとの望みもないの?
私だって……本当の兄妹に、……ただの兄妹に戻れたらいいなって思う時もあるわ。だってお兄様と私がただの仲の良い兄妹だったとしたら……こんな想いに苦しめられることも……なかったんだもの。
うぅん……ホントは苦しいのはかまわない……だって私はお兄様が好きなんだもの。でも、もっと辛いのは……ただの兄妹だったらこんな時、一緒のベッドに入ったってもちろんかまわないはずなのに……私がお兄様を好きになってしまったせいで……そんなふつうの兄妹としてすることもできなくなっちゃったってこと……そのことが私には……1番辛いの。兄妹だからずっと一緒にいられると思って嬉しかった子供の頃とはもう違う……。だから……そんな自分を持て余して、いつも……。私……あなたを……どんな風に見たらいいの……?
兄を好きになってしまったがゆえの葛藤。
この咲耶の独白を読んで、切ない気持ちにならないお兄ちゃんがいるだろうか?
私、感じたわ。
私とお兄様の間には、やっぱりなにかたしかな強い絆があるって……。それは兄妹のつながりだったり、ラブのつながりだったり、きっと……とてもひとまとめにはできないの。
……でも、それは私とお兄様だけの……たしかな……消せない絆。いつかまた、こうやって私が迷う時が来るかもしれないけれど……今は……このままで……私達はこのままでいいんだって……素直にそう思えるわ……。
兄の寝顔をじっと見つめているうちに落ち着いてきて、何かを感じ取る咲耶。
兄妹愛、恋愛感情、血の繋がり、思い出。
兄妹の絆というのはいろいろあって、確かに咲耶のいうとおり一言で言い表すのは難しいものかもしれませんね。
そうして朝まで……ぐっすりお兄様の隣で……眠ったの。お兄様……私、アナタの妹に生まれて……よかった……な。
この本の話のなかで、幾度も自分たちが兄妹であることを否定的に語ってきた咲耶。
僕を含めて、そこにモヤっとしたものを感じた人もいたでしょうが、最後に咲耶は兄の妹に生まれてよかったと呟きます。
公野先生がどこまで意識して書いたのかはわかりませんが、実に上手い構成だなと思いますね。
まとめ
咲耶は他の妹たちとはちょっと違い、兄のことを恋愛的な意味で愛している妹です。
兄妹では結婚できないと理解しつつも、自分と兄は運命の2人であり、自分が兄を世界一愛していると断言して憚りません。
しかし、そんな咲耶も年頃の女の子。時には不安になり迷うこともあります。
この本は、そんな咲耶のキャラと心情を見事に表現しています。
『キャラクターコレクション』の中で一番のお気に入りですね。
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