『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の伏線を改めて読み解き、「完全なる桐乃エンド」を考察してみた(1巻編、上)

注意

この記事はライトノベル俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を全巻読んでいることを前提に書いています。
おもいっきりネタバレがありますので、未読の方はお気をつけください。

前書き

俺の妹がこんなに可愛いわけがない』は12巻で完結し、「完全なる桐乃エンド」で終わりました。

blog.livedoor.jp

伏見:そうですね。狙って1巻っぽいシーンを書いています。すべてに決着をつけて禁断の道に突っ込むという痛快な物語は、電撃文庫で、直接描くのは、とても難しいですし、桐乃を幸せにするエンドにしようと決めた以上、彼女の今後には、可能な限り良いレールを敷いてやらなくてはいけないし……非常に悩みました。結果は、読んでいただいたとおりなのですが、再読する方向けに、蛇足ながらコメントさせていただくと、

・「完全なる桐乃エンド」
・「最初の人生相談と同じように、兄妹は、二人だけの秘密を抱えて終わる」

12巻は、そんなお話です。

(上記記事より引用)

俺妹に関する謎や伏線は最終巻で大方明かされましたので、改めて俺妹原作を最初から再読し、今までは曖昧な描写ばかりでハッキリとはわからなかった高坂兄妹の心理や伏線を、読み解いていきたいと思います。

それと並行して、12巻を読んだほとんどの人が疑問に思ったであろう「京介は一体いつから桐乃のことを異性として好きになったのか?」という疑問についても、考察していきます。

ちなみに、この疑問に対する作者の伏見先生の答えですが、

――京介はいつごろから桐乃を異性として意識するようになったのでしょうか?
ここは秘密です。原作やアニメを観ていただいて、ここかな? あそこかな? と考えていただけたらうれしいです。


(『『俺の妹。』がこんなに丸裸なわけがない』のインタビュー記事より引用)

秘密とのことです。つまり答えはハッキリとはわかりませんので、読んだ人が推察するしかありません。

前提

まず、京介が1巻開始時点、もしくは開始前から既に桐乃のことを異性として好きだったという可能性ですが、これは12巻でハッキリと否定されています。

12巻 P.270-271
「あたしてっきり『あの人』のことだと思ってたよ! 『三年前もいまも答えは同じ』なんて
ゆーからよぉ~~~~~~~~~~! なに? 三年前から妹のこと好きだったの」
「いや、三年前に好きだったやつといま好きなやつは違うよ」

12巻 P.357
きっとこれが俺たちの、始まりすらしなかった、初恋の終わりだった。

櫻井の言う『あの人』とは麻奈実で間違いないでしょう。
11巻の過去編で櫻井と親しく接した人物は京介、麻奈実しかいないのですから、他に解釈のしようがありません。
京介の初恋は麻奈実であり、1巻開始時点では桐乃とは冷戦状態。
この時点で京介が桐乃を異性として好きだったというのは、かなり無理があります。

ということで1巻開始時点で京介が桐乃のことをどう思っているかは、原作内の描写を概ねそのまま受け取って問題なさそうです。
この時点では、まだ京介は「それなりに」信頼できる語り部ですから。

一方、桐乃についてですが、桐乃が子供の頃からお兄ちゃんっ子であり、京介のことを異性として好きだったことは11、12巻で明らかにされています。

しかし、1巻開始時点では冷戦状態で、三年前に桐乃が、京介を本気で嫌うようになると11巻のP.67にハッキリ書いてあるので、高坂兄妹は1巻開始時点ではお互いのことを本気で嫌っていたという認識で間違いなさそうです。

こういう認識を前提に、1巻を振り返ってみます。

補足

先ほど京介のことを「信頼出来る語り部」と書きましたが、
blog.livedoor.jp
これはアキバBlogの3巻のインタビューで、

伏見:現実では、私たちは『この人はこういう人だ』、『この人は、私のことをこう思っている』と、それぞれ主観で解釈しています。実際のところどうなのかは、相手の心を読めでもしない限りは分かりません。本作でもそれは同じで、作中に描かれていることはすべて『京介の主観』にすぎません。京介がいくら『俺の妹はこういうやつだ』『麻奈実はこういうやつだ』『あやせは俺のことをこう思っている』と思っていても、実際のところどうなのかは、彼には分からないわけです。もしかしたら京介も、勘違いしているところがあるかもしれませんし、今後その勘違いが修正される出来事があるかもしれない。なので京介の主観を疑っていただけると、より面白く読める部分があるんじゃないかと思います。

このように伏見先生が語っていたのが元になっています。
「京介の主観」についてはあまり信頼できないという前提で考察を進めているので、この記事を読む際はそこを頭に入れておいてください。

1巻の時系列

日付 出来事 原作
6月上旬(京介高校2年生(17歳)、桐乃中学2年生(14歳) 京介が玄関付近で桐乃とぶつかり、メルルのDVDを見つける 第一章
2日後 桐乃が深夜に部屋に押しかけてきて、初めての人生相談を受ける 第一章
6月中旬(上記の一週間後) 麻奈実と下校中に、友達と下校する桐乃と遭遇する 第二章
数日後の日曜日 2回目の人生相談、『妹と恋しよっ♪(18禁版)』を桐乃と一緒にプレイさせられそうになる 第二章
翌日 『妹と恋しよっ♪(全年齢版)』を桐乃と少しだけプレイ、桐乃がオタク友達を作るためにコミュニティ『オタクっ娘あつまれー』に参加表明メッセージを送る 第二章
翌日 『オタクっ娘あつまれー』の管理人“沙織”から承認の返信、桐乃がコミュニティに正式参加 第三章
6月下旬(上記の次の日曜日) アキバで行われる『オタクっ娘あつまれー』のオフ会の二次会に参加、沙織と黒猫に出会う 第三章
翌日 麻奈実と放課後の公園で過ごしている最中に、モデル仕事中の桐乃と遭遇 第四章
数日後 母親と会話、桐乃の凄さを聞かされる 第四章
数日後 『妹と恋しよっ♪(全年齢版)』をコンプリートする 第四章
上記後の日曜日 父親にメルルのDVDケースの中身を見られ桐乃の秘密がバレそうになるが、京介が父親と対決し、桐乃の秘密を守る 第四章
翌日 桐乃に人生相談の続きがあると聞かされ、笑顔で感謝される 第四章

第一章

P.12
妹の名前は、高坂桐乃。現在十四歳。近所の中学校に通っている女子中学生だ。
ライトブラウンに染めた髪の毛、両耳にはピアス、長くのばした爪には艶やかにマニキュアを塗っている。すっぴんでも十分目を惹くだろう端正な顔を、入念なメイクでさらに磨き上げている。中学生には見えないくらい大人びた雰囲気。背がすらっと高く、しかし出るところはきっちり出ている――。
これで歌でも上手ければ、いかにも女受けしそうなカリスマアイドルのでき上がりだ。
もっとも自慢の妹だと誇るつもりはぜんぜんない。男連中からはよく羨ましがられるし、連中の気持ちも分からんでもないが、俺としては冗談じゃないと言いたいね。
実際に妹がいるやつなら、ちょっとは俺の気持ちが分かってくれるんじゃないかと思う。
妹ってのは、そんなにいいもんじゃない。少なくとも俺にとっては。

1巻開始時点での京介の妹評。
特に疑う要素はないので、これは京介の本心でしょう。
注目したいのが、桐乃の容姿に対する評価の高さ。
これは最初から最後まで揺るぎないです。たとえどんな時でも京介は桐乃の容姿を褒めることを忘れません。

P.13
セーラー服姿の桐乃は、ソファに深く腰掛け、超短いスカートで足を組み、携帯に向かって何やら楽しそうにけらけら笑いを振りまいている。
その笑顔はなるほどかわいかったが、それが俺に向けられることは今後もないだろう。

京介の妹かわいい描写。
この類のモノローグは、今後ものすごい頻度で出てきます。

P.14
俺の名前は、高坂京介。近所の高校に通う十七歳。
自分でいうのもなんだが、ごく平凡な男子高校生である。所属している部活はないし、趣味も特筆するようなもんはない。そりゃ流行の音楽くらいは聴くし、漫画やら小説だって、まあそれなりには読むけど、趣味といえるほどのもんじゃないな。
放課後はだいたい友達と町をぶらつきながらだべったり、家で漫画読んだり、テレビ見たり。
ときにはまぁ……勉強したりもする。
だいたい普通の高校生ってのはそんなもんだろう? 無難でつまらない毎日だと言われるかもしれないが、『普通』でいるってのは、わりと大事なもんだと俺は思う。普通っていうのは、周りと足並み揃えて、地に足つけて生きるってことで。無難っていうのは危険が少ないってことだ。

京介の自己紹介。
この頃の京介は、確かに平凡な男子高校生ですね。
1巻開始時点の京介は麻奈実の影響(11巻の過去編参照)で、自分を凡人、普通の人間であると強く思い込んでいます。最終巻の京介と比べると、『普通』を大事にしていることは変わりませんが、中身はずいぶん変わっていますね。

P.15-16
「っと」
階段を下りてすぐ、玄関付近で、私服の妹とぶつかった。実はこの位置、お互いにとって死角になるので、接触事故が多発するポイントなのだ。
どん。俺の左肩が桐乃の胸にぶつかるような形で、軽く衝突。衝撃事態はたいしたことがなかったのだが、その拍子に妹のバッグが手から離れ、床に中身をぶちまけた。
「あっ……」
「お、悪い」
俺は素直に詫びて、床に散らばった化粧品等の諸々に手を伸ばそうとしたのだが……
ぱしっ。それを察した桐乃が、俺の手を平手で払った。
「なっ」
目を見開いた俺は、鋭い視線を向けられて絶句する。
妹の口から出た台詞はこうだ。
「……いいから、さわんないで」
それだけ告げて、散らばったバッグの中身を、黙々と一人で拾い集める。
うお……感じ悪りぃな……こいつ……。自分の持ち物にさわられるのがイヤだって?
どんだけ兄貴が嫌いなんだっての。
無表情で手を動かす妹を、俺は、ただ無言で見下ろしていた。
「……………………」
気まずい空気が玄関に満ちている。
妹は俺に背を向け、そそくさとパンプスを履き、
「………………いってきます」
義務をいやいや果たしているみたいに呟いて、バタンと強く扉を閉めた。
……とまぁ見てのとおり、俺と妹の関係は、こんな感じだ。
別に、たいしてハラも立ちやしねえ。
だってあいつのことは、もう兄妹だと思ってねえからな。
クラスメイトの誰それさんに同じことされたと思えば、ああこいつはこういうやつなんだなと諦めもつくってもんよ。

原作での京介と桐乃のファーストコンタクト。
実に冷め切った兄妹関係ですね。
前提の時にも書きましたが、この時点で高坂兄妹はお互いを本気で嫌っているので、ここの描写もそのまま受け取って問題ないでしょう。

P.29-30
自分でも不思議なんだが、このとき俺は珍しく積極的になっていた。普段の俺なら、ここで追求を打ち切って、夕飯まで昼寝でもしていただろう。そして、もしもそうしていたなら、これまでと同じ平穏な生活が、これからも続いていたに違いない。
だが、そうはならなかった。俺が俺の意思で、この件について追求をやめないと決めたからだ。むろんこの時点では知るよしもなかったが、良くも悪くも俺は、このとき自分で自分の運命を確定させてしまったのだろう。
この件で、俺は、超特大の地雷を踏み付けることになる――。

今思うと、非常に意味深な描写。
この時点で京介は(無意識のうちに)自分の意志で桐乃エンドを確定させてしまったことになります。ここから高坂兄妹の恋物語は始まったわけですね。

P.30
ちなみに今日の桐乃は、白黒のストライプのTシャツに、黒い短パンとスカートを混ぜたような代物を穿いている。よく知らないが、セシ――なんとかいうブランドのものらしい。こいつがファッションモデルだと言われたら、誰もが信じるだろう。
……かわいいじゃねえか。

2回目のかわいい描写いただきました。
しかし、京介の妹かわいい描写はまだまだこんなものじゃないですよ。

P.32
妹は超無言。こいつは基本的に、家族には無愛想なやつである。無言でメシを食っている姿を見ると、桐乃は間違いなく親父似だと思う。主に鋭い眼光とかがな。
ちなみに俺は、お袋と雰囲気がそっくりだとよく言われる。

桐乃は父親似、京介は母親似。
今では否定されていますが、6巻発売時ぐらいまでは、京介と桐乃は実は血が繋がっていないという『桐乃義妹説』が考察派の間では根強くありましたね。

P.38
部屋の中心で四つん這いになっていた桐乃は、ビクッと青ざめた顔で振り向いた。
怯えたような顔。けれども相変わらずのゴミを見るような視線が、俺の胸にぐさぐさ刺さる。
「……何やってんだ? って聞いたんだが?」
「………………なんだって、いいでしょ」
こちらにケツを向けたまま、噛みつくように呟く桐乃。緊張のせいか、息が荒い。
「……よくねえだろ? 人の部屋に勝手に入って、家捜しして……おまえが同じことされたら、どう思うよ?」
しかもおまえが手を突っ込んでいたのは、よりによって俺のエロ本の隠し場所じゃねえか。
口には出せぬ怒りも相まって、俺は冷然と言ってやった。

この描写から、冷戦状態の頃から桐乃は兄のエロ本の隠し場所を知っていたのではないか? と推測されます。更に深読みさせてもらうと、桐乃の息が荒いのは緊張だけじゃなくて、兄の部屋を家捜ししているという行為に興奮もしているのではないかと。

P.38
桐乃は無言で視線をそらす。怒りのためか、顔が紅潮し始めている。それから、ゆっくりと無言で立ち上がり、こちらに向かって歩いてきた。

桐乃の顔が紅潮しているのは、怒りのためだけでなく、先ほどの興奮と兄に見つかった恥ずかしさと久しぶりに兄とまともに会話をする緊張がごちゃまぜになったものと思われます。

P.42
「ふぅ……」
ったく、ありえねえ! 妹とこんなに口利いたの、何年ぶりだよ? 俺。

この程度の会話ですら何年ぶりとは……冷戦の根深さを感じますね。

P.42-43
「……ね、ねえ?」
「あ?」
まだいたのかコイツ。面倒くせえな、さっさと行っちまえよ。
俺が視線を向けると、妹はチラチラ窺うような感じでこちらを見ていた。普段のこいつなら絶対に見せない殊勝な表情だ。……な、なんだ……? ……どうしたってんだ?
俺は妙に胸騒ぎを覚えながら、「なんだよ?」と言葉を促す。
「……………………やっぱ。……おかしいと、思う?」
「なにが?」
「だから……その、あくまで例えばの話。……こ、こういうの。あたしが持ってたら……おかしいかって聞いてんのっ……」
…………ちっ。
「別に? おかしくないんじゃねえ?」
心の中で舌打ちして、そう応えた。さっさとこいつを追い払いたかったし、そう応えないと、またキレそうだったからだ。……ったく、なんでまだ喧嘩腰なんだよ。……俺はおまえの矜持をおもんぱかって、ことを荒立てないようブツを返してやったんじゃねえか。そもそもおまえがドジ踏んだのが原因だろ……俺に感謝こそすれ、逆恨みするってのはどうなんだよ。
「……そう、思う? ………………ほんとに?」
「ああ。おまえがどんな趣味を持ってようが、俺は絶対バカにしたりしねえよ」
だって俺、カンケーねえし。
「ほんとにほんと?」
「しつけえな、本当だって。信じろよ」
内心投げやりに言った台詞だったのだが、どうやら桐乃は俺の言葉に満足したらしい。
「…………そっか。……ふぅん」

このやり取りが、桐乃が京介に人生相談を持ちかけるきっかけになったことは間違いないでしょう。京介からしてみれば、妹をさっさと追い払うための適当なやり取りなのですが、桐乃にとっては、兄をもう一度信じて相談してみようと思うきっかけになった大事なやり取りです。

P.43
何度か頷きを繰り替えし――後生大事に『星くず☆うぃっちメルル』を抱きかかえ、その場から走り去っていった。その光景が何故だか俺に郷愁を抱かせる。ずっと昔、こんなことがあったような気もする。……もう忘れたけどな。

アニメ二期第13話で、桐乃が麻奈実の家で魔法少女アニメを夢中になって見ているシーンがありましたね。桐乃は子供の頃からああいうのが好きだったようですし、昔、似たようなことがあったのでしょう。

P.45
なんと襲撃者の正体は、パジャマ姿の桐乃だった。ベッドで上体を起こした俺に、覆いかぶさるような体勢で四つん這いになっている。化粧をおとした妹の顔が、すぐ間近にある。

8巻 P.239で化粧をしていないことを気にしていた桐乃との対比が面白い。この時点では桐乃の方もまだ京介のことをそこまで意識していないということでしょう。

P.45
これが他の女なら、俺だって(驚く以外の理由で)動揺しただろうが、妹に乗っかられても重いだけである。
どんなに見てくれがよかろうと、こいつは異性のうちに入らない。
妹を持つ兄なら、みんなそう言うはずだ。

まだ、この時点では、京介は本気でそう思っていたと思われます。「内心かわいいとは思っているが、異性としては意識していない」京介の桐乃に対する意識はこんな感じでしょうか?

P.48
妹の部屋は、俺の部屋のすぐとなりになる。一昨年の春、桐乃が中学に上がったので、親父があてがってやった部屋だ。

一昨年の春という描写は明らかにおかしくないですかね? 桐乃は現在14歳で中学2年生、時系列は6月なので、去年の春が正しいと思うのですが。

P.49
桐乃はベッドにちょこんと腰掛け、地べたを指差す。
「座って」
いたって自然に言うけどな。妹よ、それは奉行と罪人の立ち位置だぞ?
「……おい、せめて座布団をよこせよ」
「………………」
桐乃はすごく嫌そうに眉をひそめ、猫の座布団を投げてよこす。
俺はありがたく猫の顔面を尻に敷いて、あぐらをかいた。

これがこの時点での高坂兄妹の関係。
京介が桐乃の部屋に入る時の描写は、今後少しずつ変わっていくので注目。

P.50
「……人生相談が、あるの」

まさに運命の一言です。
この桐乃が勇気を出して発した言葉がなければ、高坂兄妹のその後の関係は大幅に変わっていたでしょう。京介が『星くず☆うぃっちメルル』のDVDを桐乃に返してから、二日経過しているのもポイント。

P.73
まあいいか、どうにかなんだろ。俺に例のブツを見付かってから今日までの二日間、ほんとに悩んで悩んで悩んだ上で、俺に相談してきたんだろうしさ、こいつ。

この京介の指摘通り、桐乃が二日間、相当に悩んで京介に人生相談を持ちかけたのは想像に難くないです。そして、それをいとも簡単に察する京介の兄力の高さも素晴らしい。

P.56
色々言いたいことはあるが、ここで台詞を間違えると世にも恐ろしいシチュエーションになりかねん。

この世にも恐ろしいシチュエーションについては二通りの解釈があります。
一つはうっかり約束を破って、桐乃の趣味をバカにしたような台詞を吐いてしまい、桐乃にボッコボコにされ、二度と口を聞いてくれなくなるというもの。
もう一つは、『妹と恋しよっ♪』というタイトルのごとく、桐乃が兄に恋をしているというもの。
この時点ではどちらか判断が難しいのですが、

P.63
実は、さっきからずっと、こいつに突っ込みたくて突っ込みたくて我慢していることがある。
下手に突っ込むと、とんでもない回答が返ってくる可能性があるので、できることなら突っ込まずに済ませたいと考えていたわけだが……もう我慢の限界だ。
(中略)
ようし……いまから突っ込むぞ? 突っ込むからな? 覚悟はいいか? もしも最悪の回答が返ってきたとき、慌てず騒がず落ち着いて対処する準備はOK?

P.64
「桐乃、話が前後しちまうが、ひとつおまえに聞いておきたいことがある」
「は? キモ、なに改まってんの?」
てめえ、それが大サービスでおまえの趣味を全肯定してやった兄への言い草かよ。
なんかこの分だと、どうやら最悪の展開はなさそうな気がしてきたな……。
ふぅ……。俺は一息ついて気を取り直してから、こう言った。
「なんでおまえ、妹もののエロいゲームばっか持ってんの?」
「…………………………………………」
お、おい……なぜそこで黙りこむんだ? な、なんとか言えよ……なあ?
「……なんで、だと……思う?」
「さ、さぁ……なんでなんだろうな?」
ま、待て。待て待て待て……なぜそこでうっとり頬を染める……!?
なぜ四つん這いで這い寄ってくる……!?
まさか、まさか……ちょっと、やめてくれよマジで……俺にそんな趣味はねえっての……!

P.73
……やれやれ、とにかく『最悪の展開』じゃなさそうでよかったぜ。
「ところでおまえ、あくまで『妹』が好きで『妹もののエロいゲーム』を買ってるんだよな? ……他意はないんだよな?」
「は? じゃなきゃなんだと思ったワケ?」
俺がさらなる安心を求めて呟いた台詞に、桐乃はきょとんと首を傾げる。
そして数秒後、俺が心配していた『最悪の展開』について思い至ったらしく、さっと眉をひそめた。
「……キモ。なわけないでしょ」

これらの描写から察するに、桐乃が自分のことを好きだというのが、京介の考える世にも恐ろしいシチュエーション(最悪の展開)だと思われます。

P.58
「どっからそんなカネがでてくんの!? 中学生だろおまえ! どうして十四歳にしてスデに金銭感覚麻痺してんだよ!」
言ったあとで、しまったと思った。
……やべ、これ、もしかしたら地雷かも分からん。答え聞くのがすごくイヤだ。

おそらく京介は、桐乃が援助交際でお金を稼いでいると想像したのでしょう。もちろん事実とは違うのですが、この時点での兄妹の関係を考えると、京介がそう誤解してもおかしくはないでしょう。

P.59-60
――へぇ。モデルみてーだとは思っちゃいたが、まさかホントにモデルやってたとはね。
こいつがどこで何をしてようがどうでもいいはずなのに、妙にイラッときたのは何でだろうな? 俺にもよく分からんのだが、つい考えなしに悪態をついてしまった。

イラッときた理由は、兄妹なのに妹がモデルをやってたことを知らなかった(教えてもらえなかった)ことと、平凡な自分と違い、中学生でモデルをやってるという妹に対する嫉妬が入り混じったものでしょう。

P.60
「……バカじゃん」
軽蔑の視線に、失望の色が混じったように見えたのは、気のせいだろう。
さっと目を伏せた妹を見ていると余計に気分が悪くなってくる。俺は取り繕うように言った。

この時点から、ちゃんと高坂兄妹の過去の伏線描写を張っていますね。
1巻時点で本当にそこまで考えて張った伏線なのかは疑問ですが。

P.60
「……まぁ……か、かわいいんじゃねえの」
妹相手に、なに言ってんだ俺は。……一応本音ではあるけどな。
「……つうか、これ結構有名な雑誌だろ? 俺が名前知ってるくらいなんだから。――おまえ、もしかして凄いんじゃないのか?」
「ふん、別に? たいしたことないよ、こんなの」
俺なんかの褒め言葉でも、それなりに嬉しいらしい。まんざらでもない様子だった。

兄に褒められて、まんざらでもない桐乃。
11巻の過去編での桐乃の努力と心境を知っていると、内心で桐乃がどれだけ嬉しかったことか……想像すると感慨深いものがありますね。
これで京介の桐乃かわいい描写3回目です。前2回はモノローグでしたが、今回は本人に直接言っています。

P.68-69
「だ、だが……どうしてだ?」
「え?」
「だからおまえ、どうして妹が好きなんだ? 悪いとは言わないが……おまえが集めているゲームって、普通男が買うもんだろ? ……しかも、その、18歳未満は買っちゃいけないやつじゃないのか? あまりにも、おまえのイメージからはかけ離れてるだろ。どうしてそんな――そういうのを、好きになったんだ? 何かきっかけとか、理由とか……あるのか?」
俺の問いを受けた桐乃は、明らかに狼狽した。冷水ぶっかけられたみたいに目をぱちくりして、きょときょとと視線をさまよわせている。言いにくい質問に戸惑っている……のとは、ちょっと様子が違う気がした。しばらくそのまま待っていると、
「分、分かんない!」
目をきつくつむって、顔を真っ赤に染めて、どこか子供っぽく桐乃は言った。
俺が「は?」と問い返すと、妹は胸に両手を持っていって、もじもじと恥じらい始める。
「……あのね……あのね……じ、自分でも……分かんないの」

妹が好きな理由を自分でも分からないと答える桐乃。
この言葉に嘘はないことは、12巻の描写でわかります。
桐乃が妹モノのエロゲーを好きな理由については12巻の考察で詳しく説明しますが、先に答えだけ書いておくと、

妹モノのエロゲーには、お兄ちゃんを好きになってもいい世界、お兄ちゃんが妹を好きになってくれる世界、お兄ちゃんと妹が結ばれる世界があった。そんな世界があることを知った桐乃はすっかり妹モノのエロゲーにハマってしまい、妹を大好きになった。そして妹モノのエロゲーに自分と兄が結ばれるためのヒントを求めた。

こういうことです。

P.69
……うお、なんだコイツいきなり……悪霊にでも憑依されたか?
普段の憎たらしいおまえはどこにいったのよ?
恥じらう仕草があんまり桐乃らしくなくて、(つまりかわいらしくて)俺は当惑してしまう。

妹かわいい描写4回目。

P.70-71
軽く突っ込んだら、桐乃は思いっきりしょんぼりしてしまった。
おいおい……だから誰なんだこいつは。こんなかわいい妹に、心当たりはねえぞ?
俺の前にぺたんと座り込んだ桐乃は、目に涙を溜めて、上目遣いで見上げてくる。
「……ねぇ、あたしさ、どうしたらいいと思う?」

妹かわいい描写5回目。
微妙に桐乃のキャラが違うような(笑)
1巻の時点では、まだ桐乃の性格やキャラは固まってなかったんですかね。

P.71
分かってるさ。こいつが相談相手に俺を選んだのは、頼れる兄貴だと慕ってくれているからじゃあない。俺がこいつにとってどうでもいい人間で、何を話しても無害だと判断したからだ。
ひとをなめた、ふざけた話さ。

この京介の認識は、明らかに間違っていますね。
桐乃が京介を相談相手に選んだ理由は、メルルのDVDについてやり取りした時の京介に、昔の頼れるお兄ちゃんの面影を垣間見たからでしょう。

P.73
――ふーん、こういう顔もできるじゃん、こいつ。
俺は意外な想いを抱きつつ、はにかむ妹の顔を見つめる。
懐かしい……何故だかやはり、そう思った。

ここも過去編の伏線ですね。
とりあえず意味深な伏線ばらまいておいて、機会があったら回収しようみたいな感じですが。

P.74
「キモ、っておまえな……おまえの好きなゲームだと、妹ってのは兄貴が大好きなんだろ? 自分で否定してどうすんだよ?」
「……ばかじゃん? 二次元と三次元を一緒にしないでよ。ゲームはゲーム、リアルはリアルなの。大体さー、現実に兄のことを好きな妹なんているわけないでしょ?」

「ばかじゃん?」の前の……が意味深。
桐乃はここで思いっきり嘘をついていますね。桐乃は小学生の頃、兄のことを(恋愛的な意味で)好きだったわけですから。ちなみにアニメ一期9話でりんこBADルート? を見た桐乃が同じ台詞を呟いています。

第二章

P.79-80
田村麻奈実。俺との関係は一言でいえば、幼馴染の腐れ縁。最近では、個人的に家庭教師の真似事などもしてもらっている。
眼鏡をかけているだけあって、こいつはなかなか優等生なのだ。
外見的には普通。わりとかわいい顔つきをしてはいるのだが、いかんせん地味で垢抜けない。
眼鏡を外したら超美人――ということも残念ながらない。眼鏡を外したこいつは、やっぱり地味で普通なツラであった。
成績は上の下。部活動には所属しておらず、趣味は料理と縫い物。人当たりがよく友達は多いが、放課後に遊ぶような親しい友だちとなると、ぐぐっと減ってほとんどいない。
ザ・脇役というか、なんというか、『普通』『平凡』『凡庸』という称号がこれ以上しっくりくるやつもそうはいないだろう。桐乃の対極に存在するような女である。

京介の麻奈実評。
この麻奈実が、最終巻の頃には魔王やらラスボスやらと言われて桐乃と掴み合いの喧嘩をすることになるとは、誰が想像したでしょうか?

P.80
「どうしたの? わたしの顔なんか、じろじろ見て」
「別に? なんでもねえよ。おまえってとことん普通だな、と思ってさ」
「そお? 照れちゃうな、あはは……」
「別に褒めてねえよ」
訂正。普通よりもちょっぴり天然入ってるかもしれない。
「でも、普通っていいことだよね」
などと言う天然地味眼鏡に、俺は「まあな」と答えた。
凡庸万歳。ビバ、普通の人生だ。
そういう主義の俺であるから、普通を絵に描いたような麻奈実との腐れ縁は、とても居心地のいいものだった。こいつのとなりにいると、安心できる――そんなところも妹とは逆だよな。

京介はすっかり「堕落」していますね。
麻奈実の策略はこの時点では、実に上手く言っています。

P.85
ちなみに俺が目指しているのは、麻奈実と同じ地元の大学である。
少々女々しいと思われるかもしれないが、俺が進路を決定した理由は、こいつと同じ大学に行きたかったからだ。別に惚れているから――とかではなくて、この心地いい腐れ縁を、なるべく長く続けていたかったから。それにミス・凡人たる麻奈実のとなりにいれば、自然と俺の目指す『普通』の人生を歩むことができるんじゃねえか――そう考えたのだ。

麻奈実フラグ。こんな時代もありましたね。
とりあえず色々なフラグをばら撒いておいて、読者の反応を見ながら今後の展開を考えていく。以前の俺妹の感想でも書きましたが、俺妹はそういう作り方をしている節がありますね。この頃の京介は、明らかに麻奈実に対して好意を持っています。

P.87
が、そこでタイミングよく――あるいは悪く――下校中の桐乃と遭遇した。
「げ」
俺は咄嗟に(丁字で言うと一番下部あたりで)足を止めた。
丁字路の右手から、制服姿のティーン誌モデル様が歩いてくる。同じ学校の女生徒たちと一緒のようだ。妹とお喋りしている女どもは、どいつもこいつも器量よしばかり。タイプは違うが、それぞれズバ抜けた華がある。
ほら、ローティーンばっかを集めた有名なアイドルグループがあるだろ? あいつらが、セーラー服着込んで、きゃらきゃら騒ぎながら歩いてくると思いねえ。
「………………」
俺たちは立ち止まったまま沈黙した。
脇役二人の前を、煌びやかなオーラを振りまいて、女子中学生たちが通り過ぎる。

麻奈実と下校中に桐乃たちと遭遇する京介。
同じ学校の女性徒たちというのはあやせや加奈子、ランちんあたりでしょうか?

P.88-89
それからさらに数日後。俺は、しばらくぶりに妹と言葉をかわすことになった。
日曜日。俺は午前中から麻奈実と一緒に図書館に出かけていた。で、夕方、麻奈実を家まで送っていったあと、帰宅した俺を、玄関で桐乃が待ち構えていたのである。
壁にもたれて腕を組んでやがる。険悪な流し目が胸に刺さる。
……えーと、なんかこいつに悪いことしたかな、俺?
「……ちょっと来て」
「な、なんで?」
内心ビビりながら問うと、桐乃は俺を流し見たまま、
「人生相談。続き」
単語ブツ切りで呟く。言いたいことは分かったが、なんでそんなに嫌悪感剥き出しなんだよ。
これから人にモノを相談しようって態度かそれが?

ここで桐乃が不機嫌で嫌悪感剥き出しな理由は、京介と麻奈実が仲良く下校する姿を見かけたからと思われます。桐乃から見た麻奈実は、大好きな兄への恋心を真っ向から否定され、京介を堕落させた敵ですからね。

P91
「……ゲームよ、ゲーム。これから一緒にプレイするの」
「はあ? ゲームって……俺とおまえが? 二人で?」
「……そ、そう」
視線を合わせずに答える桐乃。
微妙に言い辛そうにしているのは、こいつも自分がめちゃくちゃ言っているのをそれなりに自覚しているからだろう。
(中略)
「自分で言ったんじゃん。できる範囲で協力するとか、なんとか……」
「いや、親にバレねえよう協力するっつったんだぞ? 俺は。だいたい人生相談って話だったじゃねえか、どうしていきなりゲームやることになってんだよ」
「ひ、必要なことなの! いいから、はいコレ持って――」

P.112-113
ただ、桐乃が俺に妹ゲーをやらせたがる理由は、なんとなく分かるんだよなあ……。
「なあ……桐乃」
「なに? どしたの真剣な顔しちゃって?」
「おまえさ……学校で一緒にゲームやったり、ゲームの話するような友達、いんの?」
聞くと、桐乃はぽかんとした表情になって、それからさっと俯いた。
「…………どっちでもいいでしょ」
「そうか」この前、桐乃が同級生と一緒に歩いていたシーンを思い出す。……あの連中は子供向けアニメ見たり、妹ゲーやったりはせんだろう。
(中略)
そう、だからこいつは、俺に自分と同じ趣味を奨めてくる。一緒に話が、したいから。周囲全部に趣味を隠して一人で楽しんでるだけじゃ、寂しいから。
昨日、俺をこの部屋に連れ込むとき、桐乃は『人生相談の続き』だと言った。
単なる口実とばかり思っていたんだけどな……そうじゃなかったのかもしれん。

桐乃が京介に妹ゲーをプレイさせようとする理由ですが、表向きは自分の趣味について話せる友達が周りにいないから、周囲全部に趣味を隠して一人で楽しんでるだけじゃ、寂しいから……ということになってますけど、これはあくまで京介が勝手にそう思い込んでいるだけです(まったくの的外れというわけではなく、半分は合っているのでしょうが)。
本当の理由は京介に妹の良さ、妹の魅力を教えこんで、自分を恋愛対象として見てもらうためでしょう。急にそんなことを始めた理由は、兄に自分がオタクであることを知られたから開き直ってというのもありますが、麻奈実と京介が仲良く下校している姿を見かけて、危機感を覚えたからというのも大きいでしょう。

京介を堕落させて普通にさせようとする麻奈実VS妹ゲーによって、京介に妹の魅力を教え込み、自分を恋愛対象としてみてもらおうとする桐乃。改めて読み直してみると、1巻の時点でこういう構図がちゃんとできていることに驚きました。

P.91
無理矢理俺にマウスを握らせる桐乃。普段なら触れるのも嫌がるはずなのに、俺の手の甲に自分の掌を被せるようにしてマウスを操る。

焦っているからとはいえ、桐乃さん大胆ですね。
絵面を想像すると、なかなか萌える描写。

P.92-93
『いもーとめーかぁいーえっくす♪ ぼりゅーむふぉーっ!
――おかえりなさい、おにーちゃんっ。妹とぉ……恋しよっ♪』

「俺に何やらせるつもりだてめえ――!?」
キレていい。いま、俺は絶対キレていい。そもそもリビングのテレビじゃなくて、桐乃のパソコンでやるっつー時点で気付こうよ俺!? このクソアマ、どこの世界に妹と一緒に、妹を攻略するゲームをやる兄がいるんだっつうの!? 変態か俺は! ああん!?

桐乃に妹ゲーをプレイさせられそうになって、キレる京介。
うん、気持ちはわかる。さすがに妹と一緒に妹ゲーをプレイはないよね。

P.93
「あ、あたしは、そういうの……意識してやってなかったしっ……わけわかんないこと言わないでよねっ。その言い方だと、まるであたしが変みたいじゃない」

明らかな矛盾、その1。
アニメ一期第9話の伏見先生描き下ろしのオリジナル回では、桐乃は思いっきり意識して、わざわざシャワーを浴びてから、この手のシーンを見ていました。伏見先生もそこはちゃんとわかっているみたいで、アニメでは京介に、桐乃のこの時の台詞について「嘘じゃねぇか!」ってちゃんとツッコませてましたけど。

P.97
「でもな、その、いきなりこのゲームはハードル高いと思うんだ。ホラ、俺、まだ十七歳だしさ。バカにするつもりは全然ないけど、無理なんだって。……いや、分かるよ? たぶんメチャクチャ面白えんだろ、コレ? で、おすすめしてくれてんだよな? 分かる、それは十分分かるんだ。――その上であえて言うけど、勘弁してくれ。百歩譲って、一人でやるならまだしも、妹のとなりで18禁ゲームをやるクソ度胸はあいにくねえんだよ」
「………………いくじなし」
そんな侮蔑の言葉を、妹から投げかけられる俺。

慎重に言葉を選びながら、何とかゲームをプレイすることを拒否しようとする京介。
桐乃からすれば、最終目的は実の妹に手をだしてもらうことなわけですから、こんな初期段階(桐乃にとっては)で躊躇されるようでは困るわけです。「………………いくじなし」という桐乃の台詞には、そんな思いが込められていると思われます。

P.98
『――おにーいちゃんっ ぜぇーったい、またあそんでネ? ばいばーい♪』
「へーいへい。ばいばーい……」
おまえは偉いよ。
俺の妹なんか、そんなふうに呼んでくれたこと、一度たりともないもん。

明らかな矛盾、その2。
原作11巻の過去編で、子供の頃に桐乃は京介のことをおにいちゃんと呼んでくれてたはず。
まぁ、1巻の時点での細かい描写にいちいちツッコむのも野暮ってものですし、京介の記憶違い、京介は信頼出来ない語り部だから問題ないということで、躱すこともできますが。

P.103
「じゃ、スタート。まず名前を入力して……ちょっと、なにデフォルトの名前で始めようとしてんの? 本名入れなさいよ本名」
「ほん……みょう……だと……? ……それは、なに? 絶対入力しないとダメなの?」
「は? 当たり前でしょ? 妹たちが自分の名前を呼んでくれるところが、キモなんだから。ホラ、さっさと、はい」
「クソッ、やりゃあいんだろ……やりゃあ……」
ヤケクソになる俺。初めての妹ゲーで本名プレイとか……ハードル高えなあ。

本名プレイにこだわる桐乃。

さすがゲームの妹の名前を自分にするだけはありますね(笑)

P.111
正直に言うと、少なくともこのゲームは、俺には合わないと思う。面白いとか面白くない以前の問題なのだ。どだい本物の妹がいる人間に、仮想の妹を愛でるゲームを楽しめってのが酷な話なんだよな……。いくらこのしおりとやらが、かわいい顔して、かわいい台詞で俺を慕ってくれようと、俺には腹に一物抱えているようにしか見えんのよ。

京介の認識は甘いですね。世の中には、本物の妹がいても妹モノのゲームを楽しめる人間はたくさんいますよ? 2010年頃にうちでやったアンケート(問16参照)では、半数近くの人がリアル妹持ちでした。

P.121-122
「待たせたな桐乃。おまえのオタ友を作る方法、閃いたぜ」
さっそく用件を切り出すと、なぜか桐乃は不機嫌そうに舌打ちをし、さらに「ふんっ」と鼻で嗤いやがった。
「……うそばっか。どーせ電話で、地味子に泣きついたんでしょ?」

ここ数年、ほとんど接点が無かったはずの麻奈実のことをちゃんと覚えている桐乃。桐乃が麻奈実の事を意識(嫌悪)しているのは明らかですね。

P.122
はいは一回だこのやろう。せっかくおまえのために動いてやってるってのによ、なんだ、そのむかつく態度は。いきなり不機嫌になりやがって……さっき俺が部屋出たときは、別に普通だっただろうが。
……ん? あれ、もしかしてコイツ……。
「……ちょっと聞くけどよ、おまえ、麻奈実のこと嫌いなのか?」
「……別に? ってかよく知らないしぃ――」
だよな。そりゃ俺の幼馴染みなんだし、初対面ってことはないんだろうが、桐乃と麻奈実の間にほとんど接点なんてないはずだ。ごくたまーに、麻奈実がウチのそばまで来たときに擦れ違うくらいがせいぜいである。
実際、この間、桐乃が俺と麻奈実の前を通ったとき、麻奈実は桐乃に気付いていない様子だった。そんな程度の関係性しかないのに、桐乃が麻奈実を嫌う理由はねえだろう。
そもそも麻奈実は、人に嫌われるようなヤツじゃねえ。じゃあなんだ――?
「……なんか、デレデレしてんのが、気に食わなかっただけ」

明らかな矛盾、その3。
過去編とは明らかに三人の関係性が違いますね。
桐乃が麻奈実のことをよく知らないしぃ――と、とぼけてるのと、麻奈実が桐乃に気づいていない様子なのは、過去の二人の因縁の件からお互いわざとだったとしても、子供の頃に3人で一緒に遊んでいたはずの京介が、桐乃と麻奈実の間にほとんど接点が無いと言っているのは、明らかに不自然です。俺妹の原作を追いかけていた頃はこの手の矛盾に悩まされて、「京介は過去に交通事故にでもあって、記憶障害があるのでは?」と本気で疑ったぐらいです。

P.128-129
これで桐乃に、趣味を理解してくれる女友達ができれば――もう俺はお役御免ってわけだ。
俺がこの部屋を訪れるのも、もしかしたらこれで最後かもしれんな。こいつが俺を相談相手に選んだのは、もともとイレギュラーなもんだったわけだし。これ以上付き合ってられねえってのも、俺の、掛け値なしの本音である。
だから、これでいい。もしもこれで、また前みてーにドライな関係に戻っちまうんだとしても、それはそれで仕方のねーことなんだ。ふん……まあ……正直なところを言うと、ちっとばかし寂しい気はする。そう、ほんのちぃっとばかしはな。
俺たちはここ数日で、それこそ十年分くらい話をした。
そうして俺は、妹の意外な一面を知った。
それは『意外な趣味』だけじゃあない。何を考えてんのか分からねえと諦めていた妹の、隠されていた本音を垣間見た。俺が見ようともしていなかった心に、指先一本くらいは触れられたような気がする。だからなんだってわけじゃねえけどさ。なんだろな、やっぱ、嬉しいのかもな、俺。よく分かんねーけど。

明らかな矛盾、その4。
>俺たちはここ数日で、それこそ十年分くらい話をした。
いくら何でも十年分くらいはないでしょう。
桐乃が小6の頃に本格的な冷戦が始まったとして、それまではそれなりに仲が良かったのですから、せいぜい二年分、多く見積もっても三、四年分というところです。

恥ずかしいからか、よく分かんねーとごまかしていますが、京介の本音としては、やはり妹との冷戦状態を決して良いものとは思っていなくて、機会があれば仲直りしたいと思っていたのでしょう。だからメルルのDVDのことがきっかけで、妹に人生相談をされるようになった今の状態は、やはり兄として嬉しいし、それが終わることに若干の寂しさも感じているのでしょう。

P.129
なぁ、おまえさ。俺なんぞよりもずっと、一緒にいて楽しい、遠慮なしにだべってバカやれるような、そういう友達ができりゃあいいな。
ま、それまでのあとちょっとだけは、俺が代わりに付き合ってやんよ。

今の状態が終わるのは寂しいけど、それでも妹にオタク趣味を語り合える友達がいないことはちゃんと心配していて、友達ができればいいなと願うことができる。京介のこういうところは同じ兄として本当に偉いと思うし、好きな部分ですね。

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