『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の伏線を改めて読み解き、「完全なる桐乃エンド」を考察してみた(5巻編、上)

注意

この記事はライトノベル俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を全巻読んでいることを前提に書いています。
おもいっきりネタバレがありますので、未読の方はお気をつけください。

5巻の時系列

日付 出来事 原作
入学式当日の放課後 黒猫と沙織が京介の部屋に遊びに来る 第一章
翌日の放課後 黒猫と麻奈実を引き合わせて紹介し、一緒に下校することに 第一章
上記後の下校時 ゲー研の勧誘スペースで、真壁くんに出会う 第一章
5月のある日の放課後 黒猫と沙織が京介の部屋に遊びに来て、友達ができない黒猫について話し合う 第二章
後日 黒猫とゲー研の部活見学に行き三浦部長と再会、黒猫が入部することに 第二章
後日の放課後 麻奈実と一緒に黒猫の階段掃除を勝手に手伝い、黒猫を怒らせる 第二章
土曜日 黒猫とゲー研の新歓会に参加、瀬菜と出会う 第二章
新歓会の翌日 三浦部長の命令で黒猫と瀬菜が一緒にゲームをつくることに 第三章
同日放課後 フェイトさんと会い、ゲーム制作のアドバイスをもらう 第三章
翌日の放課後 瀬菜と黒猫にエロゲー制作を提案する 第三章
プレゼン当日 プレゼン対決で黒猫の企画が採用される 第三章
数日後の土曜日 京介の部屋で黒猫と二人でデバッグ作業をする 第三章
後日 黒猫のゲームで大きなバグが見つかる 第三章
後日の昼休み バグを直すため、黒猫が瀬菜に協力をお願いする 第三章
2日後 瀬菜がバグの修正を終わらせる 第三章
後日 ゲームが完成する 第三章
6月(上記の半月後?) 黒猫と瀬菜が作ったゲームがネットで批判されて、瀬菜がブチ切れる 第三章
後日の放課後 黒猫と桐乃からメール、校舎裏で黒猫に呪いをかけられる 第四章
数時間後 桐乃に会いに行くためにアメリカへ向かう 第四章
?時間後 桐乃と再会し、しすしすをプレイ後、日本に戻ってくるように頼み込む 第四章
数日後 桐乃とともに日本に帰ってくる 第四章

第一章

P.12
――っつか、本心から言うがな。
妙な騒動に巻き込まれなくなって、せいせいしたってのが本音なんだよ。
むしろいいことだらけだぜ。もうリビング占領されることもねーし、友達呼ばれて追い出されることもねーし、自分の部屋にいるときだって、となりの部屋に気を遣って、でかい音立てないようにしなくてもよくなったしな。

冒頭からやけに強気な京介お兄ちゃん。
見事なフラグですね(笑)

P.12
へっ、そりゃ、マジで最後の人生相談だったってのは、拍子抜けしたし……まあ、最後の最後で、ちょっとは可愛いところもあるかな~なぁんて思ったりもしたけどよ。

京介の妹可愛い発言。

P.15
囁くような声で会釈し、つん、と前に向き直り、そのままさっさと早足で歩いていってしまう。莫迦じゃないの……という捨て台詞が、幽かに漏れ聞こえた。
なーんだあいつ、急に不機嫌になりやがって。黒猫の、無表情に隠された感情の機微を多少は読み取れるようになってきた俺であるが、いまのはちょっと分からなかった。

ここの黒猫の不機嫌の理由は

P.14
「……勝手でしょう、そんなの。私が同じ学校に入学したからといって、あなたに何の関係があるというの?」
「いやあそりゃ……やっぱ嬉しいじゃんか」
「――――」
むぐ、と口をつぐむ黒猫。意表を衝かれたように目を大きくした彼女は、すぐさま取り繕うように無表情へと戻る。

というやり取りに対する、黒猫の照れ隠しでしょう。

P.28-29
「わ――拙者は、きりりん氏のことを友達だと思っておりましたし、きりりん氏もそう思ってくださっているだろうと信じておりました。
(中略)
「その上メールも電話もいただけないし、日記はずっと更新されないし、メッセにもtwitterにも現れないし……段々と腹が立ってきまして。……誰も彼も、自分勝手にいなくなってしまうのですから、そのくらいの無礼は許してくれてもいいと思いませんか?」

いつものオタク口調ではなく、お嬢様口調が出てしまう沙織。
この彼女の憤りは、沙織の過去の伏線ですね。

P.30
やれやれ。兄貴はともかく、こんなにいい友達を放っぽって、俺の妹は本当に何をやってやがんだか。知り合いと一切連絡を取らないって、そんだけの理由があるんだろうなあ?
俺は心の中だけで、深い深いため息を吐くのであった。

桐乃が知り合いと一切連絡を取らない理由は第四章で明かされるので後述。

P.30-31
いま俺の前に広がっている新しい景色も、いずれ当たり前にそこにある、ごく普通の日常へと変わっていくのだろう。そして――そうなっていく過程の日々は、これまでと同じように、もしかしたらこれまで以上にきっと楽しいものに違いないのだ。
「ざまあみやがれ」
誰にともなくそう吐き捨てた。

誰にともなくと言っていますが、もちろんこれは桐乃に向けてですね。
お前がいなくなっても、俺は全然寂しくなんかないぞと強がる京介お兄ちゃん。可愛いものですね。

P.32
「ああ。俺は別にどうでもいいんだけどよ。あいつの友達が心配してっからさ。――で、昨夜電話してみたんだけど、ヤッパ出ねえ。メールも一通だけ出してみたけど、いまだに返事が来やしねえ」

俺は別にどうでもいいとわざわざ前置きする京介お兄ちゃん。可愛い強がりですね。

P.34-35
「……先輩、こちらは?」
「お、おう。実はこいつを、お前に紹介しようと思ってな」
「田村麻奈実です。よろしくね――えっと、黒猫さん。それとも五更さんって呼んだほうがいい?」
麻奈実がこれ以上ないほど友好的に自己紹介をした。ふにゃっと柔らかな微笑みだ。
対して黒猫は、まさに魔王とでも遭遇してしまったかのような感じに、戦慄の表情を浮かべている。
「クッ、出たわね……ベルフェゴール」

黒猫と麻奈実の初邂逅。

P.35
黒猫の描いた漫画といえば――
麻奈実と会ったこともない黒猫が、なぜに麻奈実のパーソナリティを知っていたのだろう。
そういや聞いてなかったな。まあいい、とりあえず現状をどうにかしよう。

黒猫が麻奈実のことを知っていた理由ですが、

P.40
「えっと、もしかしておまえ……まさかとは思うけど…………麻奈実のこと嫌いなの?」
「……………………………………………………別に」
なにこれどういうこと? おまえと麻奈実の間に、接点なんてなんもねーじゃねーか。
そもそもおまえらは初対面だろうが。なんで好感度マイナスからスタートすんだよ。
「……ははあ、さては桐乃か? 桐乃になんか言われたんだろ、麻奈実のこと。だから漫画にも登場させられたわけだ」
黒猫の返答は、「……ふん」だった。否定しないってことは、そうなんだな?
そうだとみなす。

この京介の推測がそのまま答えでしょう。

P.41
でも、分っかんねーな。
黒猫が桐乃に何を言い含められていたんだとしても、さっきの麻奈実の友好的な態度を目の当たりにすれば、それが間違いだってすぐに分かりそうなもんなのに。
なんでいまだにこいつは、麻奈実に対して壁を作っているのだろう。

黒猫が、初対面にも関わらず麻奈実に対して壁を作っている理由は、

桐乃から麻奈実が京介を堕落させたということを聞いていて、最初から反感を持っている。
桐乃が京介に好意を持っていることに気づいているし、桐乃のことを友達と思っているので、桐乃に共感して麻奈実の存在を疎ましく思っている。
黒猫自身が少なからず京介に好意を持っているので、幼馴染みで京介と仲が良い麻奈実の存在が気に入らない。

おおよそ、こんなところでしょう。

P.48-49
「やだ、も~。赤城くんったら……。ねぇきょうちゃん聞いた? かわいい女の子を連れててずるいって~。わ、わたしも入ってるってことだよね?」
「はん、知らネーよ」
俺は鼻で嗤ってやった。口元をイヤそ~に歪め、じろりと赤城を睨んでやる。
「おいこら、サボってんじゃねーぞサッカー部。さっさと勧誘に戻りやがれ。トロトロしてっとこの前買ってたゲームのタイトルばらすかんな」
「一瞬にして不機嫌になりやがって。……分かりやすいヤツだなあ」

赤城が麻奈実に対して馴れ馴れしく声をかけるので、不機嫌になる京介。
この時点では、まだ麻奈実フラグは生きてますね。

P.49
相当険悪な口調で言ったのだが……しかし赤城、意外にもこれをスルー。

ここはカイジで有名な福本伸行作品のパロディですね。
赤城は福本作品に登場するアカギと同姓なので、それ繋がりでしょう。

P.50
ハァ。やれやれ、シスコンってのはつくづく病気だな――。
なんて恥ずかしいやつなんだ。妹がいるくせに妹が好きとか、気持ち悪いにもほどがある。
信じられねえぜ。全身がかゆくって、これ以上話してられん。

今はこんなことを言っている京介ですが、巻が進むと……。

P.51
ケッ。
おまえの妹なんぞより、外見だけなら俺の妹の方がかわいいっつーの。

京介の妹かわいい発言。
赤城に妹自慢をされて不機嫌になる京介は、9巻の『俺の妹はこんなに可愛い』での、うちの妹の方が可愛い対決の伏線でもありますね。

P.52
「どうぞ、よかったらワンプレイやっていってください」
俺たちがジロジロ眺めていたからだろう、ゲー研の部員だろう男子生徒が声をかけてきた。
黒髪童顔の――見覚えがないので、二年生だろうか。

ゲー研部員である真壁くんの初登場シーン。

第二章

P.63
俺がジッと見ていたのは、体操服姿でへそをチラチラ露出しながら体操をしている黒猫の姿なんだ。勘違いされてしまいそうなので言っておくが、べつによこしまな気持ちのみで眺めていたわけじゃないんだぞ。

つまりよこしまな気持ちはあると。
妹がいなくなったら、今度は妹の友達に色目を使いはじめる困ったお兄ちゃんです。

P.67
「……やれやれ。押しつけがましい話よね。『おまえ友達いないんだろ? 俺がなんとかしてやるよ』だなんて。余計なお世話という言葉を、あなたは学ぶべきだわ」
「むう……」
心中を言い当てられてしまった。
確かに余計なお世話っちゃ、余計なお世話だよな。本人が強がりにせよ『これでいい』って言っているもんを『駄目だ直せ』ってのは独善的に過ぎる。

黒猫の世話を焼こうとし始める京介。
これについてはのちに黒猫にハッキリ指摘されますが、先に言っておくと、今まで世話をしていた妹の代わりに黒猫の世話を焼こうとしています。

P.68
「はいはいはいはい――認めりゃいいんだろ? 認めりゃあさ。下心、ちょっとはありました! 先輩とか呼ばれて、嬉しくってさ。なんかこう、ここで悩みの一つでも解決してやって――もうちっと仲良くなれたらいいよなぁ~って、正直、そういう計算がなかったとは言わないよ。でも、心配だったのも、なんとかしてやりてーって思ったのも本当で、それはウソじゃないんだぜ?」

とはいえ、京介のこういった気持ちにウソが無いのも事実でしょう。
過去編の京介を見ればわかりますが、基本的にお節介ですから。

P.69-70
実際黒猫はかなり露骨に嫌そうな顔をしていた。下心があるなんて言ったが、これじゃあ問題を解決してやったところで、好感度が上がったりはせんだろう。そしてそれで構わないのだ。これは俺の独善でやろうとしていることなんだから。
嫌がられているぐらいでちょうどいい。

まるで桐乃の人生相談を解決しようとするときのようなモノローグ。
黒猫を妹の代わりにしているという事実の伏線ですね。

P.75
『友達というのは、永遠にそばにいてくれるものではありません。卒業、留学、喧嘩、事故、転校、病気、誤解、甘え、楽観……ちょっとしたきっかけで、いなくなってしまうものです。
それを、わたしはよく知っています。だからなのでしょうね。こんなにも不安で、怖いのは』

ここは沙織の過去、『カメレオンドーター』の伏線ですね。

P.102
「……これは言わないでおいてあげようと思っていたのだけれど、たびたびこんなことがあると迷惑だから、この際教えてあげるわ」
階段の上から、俺を傲然と見下して、真っ直ぐに指を指す。
「あなたが私に構うのは、いままで世話を焼いていた妹がいなくなってしまったからよ。私が年下で、女で、悩みを抱えていそうだから。自分を頼ってくれそうだから、気になっている。ただそれだけ』
黒猫は、そこでくるりと踵を返し――
「私はあなたの妹の代用品ではないわ。莫迦にしないで頂戴」
そう言い捨てて去っていった。

たびたびお節介を焼いてくる京介に対し、自分は妹の代用品ではないと言い捨てる黒猫。

P.103-104
だからこそ俺は、かわいい後輩の身を案じていたのだ。嘘偽りなく本心から。
しかしそれだけか? 本当にそれだけか?
違うだろうな。
俺がこんなにも黒猫にお節介を焼きたくてたまらないのは――
本人が望んでもいないってのに、『どうにかしてやりたい』と思ってしまうのは――
たぶん。
一人でぽつんと寂しそうにしている黒猫の姿が、いつかの誰かとだぶったからだ。
いまはいないそいつのことを、あのときどうにかしてやれたことが……
いまも心に残っている。頼られて嬉しくて、でもいまはそんなこともなくなって。
だから。……だとしたら。

黒猫に言われたことを内心で検証する京介。
「いつかの誰か」や「いまはいないそいつ」とは説明するまでもなく桐乃のことですね。(「いつかの誰か」のいつかは1巻の時のオフ会)

P.108-109
きょろきょろとあたりを見回すと、それらしい眼鏡の女の子がいた。
背はやや高め。細身なのにやたらと胸が大きくて、大人っぽい色気を醸し出している。
ヘアスタイル自体は学生らしいフォーマルなものなのだが、赤みがかった髪色をしているため、ずいぶんとカジュアルな印象を受ける。染めているわけではなく、たぶん地毛だろう。
眼鏡のデザインもなんというか今風だ。率直に言って、かなり垢抜けている娘だった。
ただしムスッと口をつぐんでおり、『あたし不機嫌です』と顔に太字で書いてある。

瀬菜の初登場シーン。

P.116
とりあえず――いまの失言は覚えておこう

ここの失言というのは、
P.116の

「そうでもないですって。『なんでゲー研に入ったの?』って聞かれたら、プログラミングの勉強がしたいからってちゃんと言えば分かってもらえますし」

の部分ですね。なぜこれが失言なのかは後述。

P.122
「はい。赤城さんの先読みも凄かったですけど、五更さんの反応速度も、そりゃもう『松戸ブラックキャット』バリの神業で……』

『松戸ブラックキャット』というのは、黒猫がシスカリのゲーム大会に参加したときの別名ですね。
3巻のP.214で既出です。

P.125
「うーん……一応、試してみたい策はあるっちゃあるんだよな」
そう上手くいくとは思えないが、どうせこのままでは埒があかないのだ。
やるだけやってみるとしようか。
さて。……なんかドキドキするな。あのときを――思い出しちまう。

あのときとは1巻の第一章でメルルのDVDを拾った京介が、持ち主が誰かを見つけようとした時のことですね。

P.126
「なあ……おまえってさ」
「なんですか?」
「さっきはプログラミングの勉強をするためにゲー研に入ったって言ってたけど、ゲームをするのは好きじゃないのか?」
「そんなことはありませんけど……好きですよ? 普通に」
「だよな。好きじゃなかったら、そんなにゲームが上手いわけがないもんな」
「む、まわりくどいですね。何が言いたいんです?」
さすがに気付いたか。俺は後頭部をかき、視線を微妙に瀬菜から外しつつ言う。

ということで京介の引っ掛け作戦開始。

P.126-127
「おまえさっき、友達に『なんでゲー研に入ったの?』って聞かれたら、プログラミングの勉強をするためって答えるって言ってたよな?」
「ええ、それがどうかしました?」
「なんとなくその文脈だと、プログラミングの勉強云々ってのが建前っぽく聞こえてさ」
ちら、と目を覗き込む。
「違うか?」
瀬菜は下唇をちょっと噛み、しばし考え込んでいる様子だったが、やがて「はあっ」とため息を吐いた。
「あーあ、失言しちゃったみたいですね、あたし、まあいいです。言い辛かっただけで、特に隠すことでもないですし。白状しますよ……確かにそれ、半分は建前です」

P.116の失言の伏線回収。

P.127
「そっか。じゃあ……ハハ、ゲームが好きってのも『普通に』、じゃねえよな」
「そーですね。認めます、ゲーム大好きです。やるのも、作るのも」
何を言わせるんですか、と照れてしまう。その仕草はとてもかわいらしいものだった。
俺は次にこう聞いた。
「ホモゲ部ってやったことある?」
「あれ神ゲーですよね!!」

フィーッシュ!! 瀬菜の腐女子発言を引き出す作戦成功。
まるで刑事コロンボのような見事な手並みですね。

P.128
初登場以来、初めて動揺するところを見せた瀬菜。いちおう説明しておくと、いまの台詞は、俺の級友である赤城浩平が以前言っていた『妹が腐女子』『妹が一年生にいて、眼鏡をかけている』という情報から推測したものだ。顔立ちも兄貴と似ているし、髪の色も同じだし、そうだろうなと思っちゃいたんだが……。どうやらビンゴらしい。

ここも伏線回収。
赤城兄妹は、顔立ちが似ていて髪の色が同じなんですね。

P.130-131
「マスケラならルシ真の健気攻め×ツンデレ受けが鉄板でしょうが! よりにもよってそのカップリングを逆にする? ――はっ、有り得ませんね。そんなことをしたらキャラがゆがんでしまいます。知ったような口を叩いておいて、なんにも分かっていないんですね。即刻地獄に堕ちるべきです。この――にわかが!」
(中略)
「もちろん分かっているわ。そのカップリングに限っては、左右を逆にするなど有り得ないと。ただ――マヌケは見つかったようね?」
「……っ!?」
ハッと口元を押さえる瀬菜。
「フッ」
不適な笑みで瀬菜を見据える黒猫は、『語るに落ちたな』とでも言いたげな表情であるが、俺にはこいつらが何を喋っているのかサッパリ分からない。
桐乃と黒猫のアニオタトークよりもさらに意味不明である。

このシーンはジョジョ3部の承太郎の台詞パロです。

P.137
瀬菜は、しゃくり上げながら、兄に事情を説明しているようだ。その声は、相手を完全に信頼しきっていて――――何故か、ずきりと心が痛んだ。こいつにとって兄貴は、しっかり者の仮面を脱ぎ捨てて、子供っぽい自分をさらけ出して甘えることのできる相手……なんだろうよ。

京介の心がずきりと痛んだ理由は、自分たち兄妹は赤城兄妹ほどに、信頼関係を築けていないと思っているからでしょう。アメリカに留学した桐乃から連絡が一度も来てないこともそれに拍車を掛けていると思われます。

P.140
俺にとって黒猫が妹の代わりにならないのと同様、黒猫にとって瀬菜はいなくなった親友の代わりにはなりえないのだ。そこを勘違いしちゃいけない。そこをはき違えてしまうと、相手に対してとても失礼なことになる。先日、黒猫が俺に対して怒ったように。
誰も“誰かの代わり”になどなれはしないのだ。
俺はとなりを歩く黒猫に、そっと囁いた。
「……悪かったな」
「……なんのことかしら」
黒猫の反応はひどくそっけない。こうしてとなりにいてくれはするものの、やはり、許してくれたわけではないのだろう。

黒猫を妹の代わりにしていた件について反省し、謝罪する京介。

P.140
俺は素直に認めることにした。あいにく口べたで上手く言えないが――なるべく率直に、誠意を込めて、言葉を紡ぐ。
「認める。妹がいなくなって、俺は寂しかったらしい」
「そう」
いまなら分かる。口では強がっていても、自分では気付いていなくても、内心は寂しくてたまらなかったのだろう。だからかつて“兄さん”と呼んでくれた、妹のような友達を代わりに据えた。黒猫を妹に見立て、色々と世話を焼いてやって、そうやって寂しさを紛らわせて――。

妹がいなくて寂しいと素直に認める京介。
強がりは結局二章も持ちませんでした(笑)京介お兄ちゃんはシスコンだもんね、しょうがないね。

P.140-141
情けない話だよ。妹が大嫌い――その気持ちはいまも変わらない。
だけどどんなに嫌いでも……いや、嫌いだったからこそ、かな。
いざいなくなられてしまったときの衝撃は大きかった……んだろうな。

いまだに妹が嫌いと言い張る京介。
「俺は妹が嫌いだ」フィルターはもう無理があるし、既にボロボロだと思うんですけどねぇ……。

P.141-142
「ひとつ聞くけど“兄さん”って呼ぶのをやめたのは、桐乃の代わりに見られるのがイヤだったからか?」
「違うわ。そもそも、そう呼ぶのをやめると予告したとき、あなたの妹はまだ日本にいたでしょう」
そういえばそうだった。
「じゃあどうして呼び方を変えたんだ?」
「意味なんてないわ。強いていえば……」
「強いていえば?」
「気が変わったからよ」
黒猫はそれ以上何も言わなかった。

「気(持ち)が変わったからよ」ということでしょう。
どう変わったかについてですが、京介へ好意を持ち始めたので、ふざけた妹ごっこは止めて、ちゃんと向き合うことにした。そんな感じでしょうか? 要するに黒猫が京介に対し、本気になり始めたということです。

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