注意
この記事はライトノベル『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を全巻読んでいることを前提に書いています。
おもいっきりネタバレがありますので、未読の方はお気をつけください。
6巻の時系列
日付 | 出来事 | 原作 |
---|---|---|
6月(桐乃が帰国した翌日) | 桐乃がリビングでいろいろなところに電話をかけている場面に遭遇 | 第一章 |
翌日の放課後 | ゲー研の部室で黒猫に呪いのキスの件について聞こうとするがうやむやに | 第一章 |
同日帰宅時 | 桐乃とあやせの再会の場面に遭遇 | 第一章 |
後日 | あやせに加奈子のマネージャーとしてメルルのイベントに参加するよう頼まれる | 第一章 |
上記の週末 | 秋葉原のイベントに参加、桐乃と黒猫を見かける | 第一章 |
イベント後の夜 | あやせからのサプライズプレゼントについて聞く | 第二章 |
翌日の朝 | あやせのサプライズプレゼントに気づかず、麻奈実を怒らせる | 第二章 |
同日休み時間 | 麻奈実に桐乃の帰国後の態度について相談する | 第二章 |
上記の次の日曜日 | 赤城と秋葉原に買い物に出かける | 第二章 |
とある日の休日 | 『桐乃の帰国記念パーティ』が中止になり、高坂家で桐乃と黒猫と遊ぶことになる | 第三章 |
翌日の放課後 | 黒猫と下校、元気がない沙織の件について相談する | 第三章 |
上記の次の休日 | 桐乃と黒猫と一緒に沙織の家に遊びに行き、沙織の素顔と過去を知る | 第三章 |
同日夜 | 夕食後に桐乃が家族にリアのホームステイの話を持ち出す | 第四章 |
数日後の帰宅時 | 玄関前で裸のリアと桐乃に遭遇する | 第四章 |
7月上旬(上記の翌日) | 桐乃とリアと一緒に秋葉原に出かける | 第四章 |
同日夕方 | 中学校の校庭で桐乃とリアが陸上の勝負をする | 第四章 |
翌日 | リアが帰国、桐乃に彼氏になってよと言われる | 第四章 |
第三章
P.117
階段を上っていくと、二階で桐乃が腕を組んで待ちかまえていた。
「ちっ、遅いっての」
壁にもたれて偉そうにしちゃあいるものの、こいつは友達が遊びに来てくれて、嬉しくってしょうがないのである。よく見りゃ、頬がいまにも緩みそうになっていた。
数カ月ぶりに友達と遊べるということで嬉しそうな桐乃、それをしっかりと察する京介。ここだけ見ると実に微笑ましい光景なんですが……。
P.117
「ほら……入んなさいよ」
桐乃はあごをしゃくって自分の部屋を示し、黒猫を促す。
「ええ、そうね。そうするわ」
淡々と返した黒猫は、俺と桐乃のわきを、すぅっと通り抜けて――
「えっ?」
桐乃の部屋ではなく、いつものように、俺の部屋へと入っていった。
「ちょ、ちょっ……!」
ギョッと目を剥く桐乃。慌てて壁から身体を起こし、勢いよく俺の方に振り向く。
その眼差しが、雄弁とこう語っていた。
『ちょっとアンタ! これ、どういうこと!?』
黒猫の煽り開始。
桐乃はちゃんと自分の部屋を示したのですから、京介の部屋へ入っていったのは明らかにわざとでしょう。そして、目で通じ合う高坂兄妹。たとえ数ヶ月離れていても、この辺のやり取りはいつもと変わらないようです。
P.118
俺は『背後から発せられる殺気』がびりびりと強まっていくのを感じながら、
「あー……その、さ。……きょ、今日は桐乃の部屋で遊ぶんだろ?」
「はァ? 今日は? ……ナニソレ?」
背後から聞こえてくる呟きが、ただひたすら恐ろしい。
しかも黒猫は、くすくすと微笑みながら、火に油を注ぎ始めた。
「あら? そうだったわね? 最近は、いつもこの部屋に来ていたものだから、つい間違えてしまったわ」
げしっ! この台詞に対する桐乃のリアクションは『兄貴のシリを蹴っ飛ばす』だった。
更に煽る黒猫。
桐乃もヤキモチ全開です。
P.118-119
「どういうコトなのか、聞かせてもらうから。なにあんた、あたしがいない間、妹の友達を自分の部屋に連れ込んでたわけ? だとしたら許さないけど」
――か、完全に変な誤解をしていやがるこいつ……ッ。
なんすかこの修羅場っぽい雰囲気!? まるで俺が兄貴という立場を利用して妹の友達を手込めにしたみたいじゃん! 違うのに!
――なんとかしろよ黒猫ォ!
涙目で黒猫にアイコンタクトを投げた。だが、とうの黒猫は、俺の醜態と怒れる桐乃の様子を眺めて、くすくすと嬉しそうに笑みを浮かべていやがる。
桐乃の問い詰め開始。
京介が黒猫にアイコンタクトを送るも、黒猫はわかっていながらスルー。
P.119
彼女は黒髪を指で弄りながら、意味深な流し目を俺たちに送った。
「……どういうコト、と、言われても、ね。……っふ……ねぇ、“きょうちゃん”? 私たちの関係を、“桐乃ちゃん”にどう説明してあげればいいのかしら」
「ただならない関係っぽく言ってんじゃねえよ!」
“桐乃ちゃん”だの“きょうちゃん”だの、俺と二人で喋るときはあんなに冷たいくせに、桐乃の前だとなんで付き合ってる同士みたいな態度なんだよ!?
「…………“きょうちゃん”だって。……キモ」
桐乃はこめかみに青筋を浮かべている。黒猫の言動がよっぽど気に食わない――というか、この状態のこいつには、見覚えがあった。
そう、俺の幼馴染みが家に来たとき、ちょうどこんな感じだったな。
桐乃が最も嫌いな麻奈実の真似をして煽りまくる黒猫。
桐乃もブチ切れ寸前です。
P.120
「どうしたの? 顔が赤くなっているわ?」
「……ぐ……」
女というのは本当に分からない生き物だ。この態度だけを見れば『おっしゃァ! 絶対こいつ俺に気があんだろ!』と勘違いしてしまいそうになるのだが……。
だからといって調子に乗って近づけば、冷たい罵倒でバッサリだ。
いったい俺はどうすりゃいいんだよ……誰かおしえてくれよ……。
黒猫に翻弄される京介。
冷たい罵倒でバッサリなのは、あの時のキスに対する照れ隠しでしょう。桐乃と同じく、いつもの態度を取ることで、恥ずかしさを覆い隠そうとしているのだと思われます。
P.121
「……あんた……。マジであたしがいない間……自分の部屋に女子高生二人も連れ込んで遊んでたわけ? サイッテー」
今度は違うベクトルの怒りがわきあがってきたらしい。
桐乃は拳をぎゅっと握りしめ、ぷるぷると声と肩を震わせている。
桐乃の怒りは一見理不尽なもののように見えますが、自分がアメリカで陸上を必死に頑張って苦しんでいる間に日本では大好きな兄が、わざわざアメリカに連れ戻しに来てくれてお前がいないと寂しいとまで言ってくれた兄が、ひょっとしたら自分にも脈があるのではないかと思っていた兄が、実は自分の友達二人を部屋に連れ込んで楽しく遊んでいたと知ってしまったと考えると、この桐乃の怒りもそこまで理不尽ではないように思えます。
P.122
「『眠くなってしまうわ』――じゃない!」
桐乃は寝ころんでいる友達の背中に、フライングニードロップを叩き込んだ。
うつぶせになっていた黒猫が、「かはっ……」と悲鳴を漏らしてしまうほどのマジ攻撃である。リラックスしている相手に、なんてかわいそうなことを……。
だからといってこれはさすがにやり過ぎだと思いますが(笑)
P.123
「な……なにアンタ、当たり前のよーな顔して人のベッドに寝ころんでんのよ!」
「あなたのベッドじゃないでしょう。どうしてあなたが怒っているの?」
「なっ……。そ、それは……」
「フッ、それは?」
「う、うるさい! あたしがこうして帰って来たんだから、あたしの部屋に集まって遊べばいいでしょ! なのにあんたらがいちいちいちいちアタシをイラツカせるから!」
さっきから桐乃を煽りまくっている黒猫ですが、黒猫からしてみれば、せっかく京介に告白しようとしていたところ(5巻第四章)を、桐乃に実にタイミング悪く邪魔を入れられたわけで、意地悪の一つでもしなければ気が済まないのでしょう。
P.123
『あたしがこうして帰って来たんだから、あたしの部屋に集まって遊べばいいでしょ!』
桐乃にしてみりゃ――帰国したら自分の友達と兄貴とが、ぐぐっと仲良くなっちまってたわけだからな。のけ者にされたみたいで気に食わないんだろう。
いつものごとく恋愛方面では微妙にずれている京介。
京介からしてみれば、まさか桐乃が自分と黒猫のことでヤキモチを妬いているとはまったく思っていないから仕方ないのですが。
P.125-126
「なあ桐乃、そのアルバムって、何が入ってるんだ?」
「えっ?」
意表を衝かれたような表情で、妹は俺の顔を見た。
「いや、だから、その……アルバムだよ。この前、俺に見せようとしてただろ? また今度見てやるよっつったじゃねえか」
妹の返答は――
「あんたには、もう、絶対見せない」
「……そっか」
人生ってのは、セーブデータの一つしかないエロゲーに似ている。
一度決めた選択肢は、遡ってやり直すことはできないらしい。
アルバムを見たがる京介ですが、桐乃の返事は絶対見せないとのこと。このタイミングは、はっきりいって最悪です。さっき、黒猫の件で桐乃を怒らせてしまったばかりなうえに、その当事者の黒猫がいる前でこんなデリカシーの無いことを言ってしまったら、桐乃のこの反応は当然。まぁ、結局最終巻で見せてもらうことにはなるのですが、それまではお預け決定です。
P.128-129
「空港にも迎えに行けず……薄情なことをしてしまいました。申し訳ない」
「そ、そんなことないって。別に気にしてないし。つーかさ、ばっかじゃないの? 謝るのはこっちの方だっつーの!」
桐乃は視線をそらしながら、怒ったような声で、しかし殊勝な台詞を口にした。
「……ごめんね! あ、あんたらに何も言わずに、留学しちゃってさ!」
やれやれ、素直じゃねーやつだ。いまの『あんたら』ってのは、俺も含まれてんだろうなあ?
黙って留学したことをきちんと謝る桐乃。
桐乃はこの辺の筋をキッチリ通すところに好感が持てます。残念ながら、それ以上にマイナスな言動も多く、誤解を受けやすいですけど……。
P.131
「麻奈実ー、帰ろうぜー」
「あ、ごめん、きょうちゃん。今日はちょっと……用事があるんだっ」
「あれ? またかよ……どうしたんだ? 最近忙しいみたいじゃねえか」
「……きょうちゃんのせいなんだけどなあ」
「?」
なんのこっちゃ。
麻奈実がいう「きょうちゃんのせい」とは、P.70-72での麻奈実の髪型変更というサプライズプレゼントに京介が気づかなかったことと思われます。麻奈実はリベンジのために、あやせ辺りと相談してオシャレの勉強でもしているのでしょう。
P.133
「その件て。なんだよそのそっけない態度は、友達のことだろ?」
「……ふっ……いえね、その件については、昨夜あなたの妹とさんざん話したばかりだったのよ」
「桐乃と?」
「ええ。それはそれは心配そうな様子だったわ。ちょうどいまのあなたのように」
「そうだったのか……」
「よく似た兄妹ね?」
「うっせ。……で? 結局どういう結論になったんだ?」
高坂兄妹の似たもの描写。
P.140
襲撃者は、やおらライフル銃を肩に載せて構え、桐乃に狙いを定める。
「そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる!」
「きゃっ!」
照準を向けられ、ひるむ桐乃。とっさに俺は妹をかばうように飛び出していた。
「やめろっ!」
まゆたん! じゃなくて、妹の危機に対し、とっさにかばう姿勢を見せる京介△(サンカッケー)
P.142
「いやはや、美しい兄妹愛を見せてもらった。有り難う」
「ぐっ……」
いまさらながら、両腕を広げて妹の前に立ちふさがっているという、いまのポーズに思い至る。いかん、これは恥ずかしい……。
いやでも、だってさ。こんな高級住宅街に兵隊が現れたら、びっくりしてまともな判断力を失っちまうよ。しかしまあ、どこにでも変人ってのはいるもんなんだな。
まともな判断力を失った時に、とっさに出る反応が妹をかばうなのだから、京介の兄力はかなりのものですね。
P.143
「えーと」
俺は他の二人と、顔を見合わせた。桐乃と黒猫は同時にこくりとうなずく。
おまえが説明しろという意味だ。へいへい、分かったよ。
アイコンタクトを多用するのは伏見先生の癖なんですかね?
さっきから、桐乃と黒猫両方に通じているということは、ヒロイン的に黒猫が桐乃と対等になりつつあると解釈していいんでしょうか? 黒猫は5巻でヒロインレースを一気に追い上げてきましたからね。
P.144
「申し遅れた。わたしは槙島香織という。きみたちの友人の『沙織』は、わたしの妹だ」
「「え、ええ……!」」
俺と桐乃が同時に声を上げた。黒猫は黒猫で、目を見張って驚いている。
高坂兄妹の似たもの描写。仲良いですね。
―――今回は沙織メインの話ということで、満を持して正体が明らかになりましたが、普通気づきませんかね……?
伏見:ネタバレになりますが――黒猫は気づいてました。分かっていて、あえてそういうセリフを言ってます。桐乃はどっちにも読めるようになっていますが、京介は気づいてませんでした。正体に気づいているキャラもいるということに注意して、もう一度読んでみると面白いと思いますよ。
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(6)発売記念 伏見つかさインタビュー : アキバBlog
ちなみに黒猫はこの時点で、これが沙織だと気づいていて、高坂兄妹とは驚くポイントが違っています。
P.145
「はははッ、いやいや、気にするな京介氏! これでも毒舌には慣れっこなのだ。なにぶん普段連んでいる友達が、口の悪い連中ばかりでなあ」
と、桐乃と黒猫の顔を見る。桐乃と黒猫はきょとんとした表情。俺は苦笑して、
「こんな連中が他にもいるのかよ。信じられねえ話だな。で? 『だからもっと罵ってくれても構いませんぞ』――ってか?」
香織(沙織)が言っている、普段連んでいる友達で口の悪い連中というのは桐乃と黒猫のことです。
P.146
「いや、沙織に続いてあんたまで年下だったらどうしようかと思っていたんだが……。なるほど、大学生か」
俺は香織の全身を眺め、うんうん頷く。
「納得だ。そんなもんだよな、どう見ても」
「ほ、ほっほう」
びきっ。なぜか香織のこめかみに、血管が浮かび上がった。
実際は京介より年下の沙織が、大学生と偽って納得されてしまったら(老けてると見られたら)そりゃ怒りますよね。
P.147
「ふぅん……あなた、妹と二人暮らしなの」
「ああ、学校に通うためという名目で、親元から離れている」
いきなりタメ口で、黒猫と香織が話している。人見知りの黒猫が普通に会話できているのは、香織から、よく見知ったあいつの“におい”を感じ取っているからだろうか。
ここも伏線。
黒猫は香織が沙織の変装と見抜いていて、わざと話を合わせています。
P.150
「へえ……」
黒猫は何気ない口調で、
「『わたしのコレクション』と言っていたけれど、沙織のものは混じっていないのかしら? てっきりあのふざけたハンドルネームの由来が、ここにあるのかと思ったのだけど」
「ん? あ、いや、もちろん混じっているとも! そうだな、言い方が正確ではなかった。ここにあるのは『わたしたちのコレクション』だ」
「……フッ、そう」
ガラスケースの表面には、黒猫の意味心な薄笑みが映り込んでいた。
香織の正体を分かってて、わざと沙織に揺さぶりをかける黒猫。性格悪いですねぇ……。
ここの「意味心」は「意味深」の誤字だったようで、合本版では修正されていました。
P.164
「ふわぁ……メルルたちがついに動き出した……あたしの願いが、天に届いたの……?」
「地震だバカ! メルヘン世界から帰って来い! 脳内麻薬でトリップしてんじゃねえ!」
慌てて突っ込みながら、俺は妹の肩をつかんで抱き寄せ、一緒になって地震に耐える。
「でかいぞこりゃあ!」
「……が、ガラスケースが倒れたら、危ないわ……っ」
危険を訴えたのは、黒猫だった。その場でしゃがみ込んで頭を抱え、青い顔で俺を見上げる。
地震の時に、迷いなく妹を優先して保護する京介。
黒猫や香織(沙織)には申し訳ないですが、京介のこういう見事な兄ぶりを見ると安心します。
P.165
「出るぞ!」「ひゃっ……」
俺は、ぎゅっと桐乃の手をつかんで出口に向かって駈け出した。そのあとを、黒猫と香織が続く。部屋からまろび出て、通路の手すりをつかむ。激しい揺れに耐える――…………。
ここもね。迷う素振りすらないのが素晴らしい。
二章で赤城と話していた時の兄論(P.105-106)を京介はちゃんと実践しているんですよね、偉い!
P.180
ちなみに口には出さないが、俺の『夜魔の女王(クイーン・オブ・ナイトメア)のコスプレをした桐乃』への感想は――
『異様に似合わないけど凄く可愛い』である。モデルだけあって何を着ても似合うとばかり思っていたのだが、まさかゴスロリがこれほどまでに似合わないとは……。
いままではせいぜい「可愛い」止まりだった京介の妹への感想が「凄く可愛い」に進化しています。京介も段々とシスコンを隠さなくなってきていますね。
P.182-183
「おい桐乃」
「なに?」
「どうよ俺のコスプレは? 超カッコよくね? お兄様って呼んでもいいよ?」
コスプレをして気が大きくなっているもんだから、普段は言えないような台詞を口にする俺。
「はいはい似合う似合う」
ところが桐乃の反応は、超おざなりだった。
「おーい、ろくに見もしねーでなんだそりゃ? ちゃんと見ろってホラあ」
黒猫ばっかちやほやしてないで、俺のことも褒めてくれよ。
「あーもォ……うざいレイヤーの典型なんだケド。はぁ……地味面のくせにナルシストとか、救いようがないよね」
「……………………」
おまえにだけは、ナルシストなんて言われたくなかったよ。
妹に褒められたくて、必死に感想を求める京介。
桐乃じゃないですが、これは確かにウザい(笑)
P.192
「不思議そうな顔してんじゃねえよ。友達が元気なかったら、そりゃ心配すんだろうが。桐乃がいなくなって、おれが凹んでたときだって、おまえ、遠くからわざわざ慰めに来てくれたじゃねえか」
「へえ、あんたあたしがいなくなって凹んでたんだ?」
あっ俺のバカ! 本人いるじゃん!
「うっせ! いま大事な話してんだから割り込んでくんな!」
ニヤニヤしやがって! バカにしてんじゃねぇぞ!
桐乃本人を前にしての、京介の失言。
桐乃がニヤニヤしているのはバカにしてるんじゃなくて、嬉しいからでしょう。
P.193
「……京介さん」
胸の前で手を組み、透き通るような瞳を潤ませる沙織。
だからそういう仕草は……マジやばいって! おまえに抱いていたイメージが……!
ただでさえ、俺のおまえへの好感度はMAXを突破しているというのに……!
「痛い!?」
妹に耳を引っ張られた。さらに黒猫に、後ろからスネを蹴っ飛ばされた。
「な――なにすんだおまえら!?」
「デレデレすんなってのっ! キモ! キモキモキモっ!」
「沙織の素顔が予想外だったからって、いきなり目の色を変えるなんて、いやらしいオスね」
なにキレてんだこいつら……。
素顔の沙織に動揺する京介とそれにヤキモチを妬く桐乃と黒猫。
俺妹も、だんだんと鈍感系主人公のハーレムラノベっぽくなってきましたねぇ……。
第四章
P.207-208
「リア! あんたバカじゃないの! 服来てから出ろっていつも言ってるでしょ! ハダカでそんなところにいて、誰か帰って来たら!」
怒れる妹の声に反応し、無意識のうちに目隠しを外してしまう。そこにあったのは、桐乃がバスタオルを巻いただけのあられもない姿で、脱衣所から出てきたという場面だった。
「げぇ……っ!」「ぇ……え……っ!?」
目が合い、お互いに硬直。思考が凍結し、見えているものが認識できない。
そして――
そのとき、ハラリとバスタオルの合わせ目がほどけ、
「きゃ、きゃあああああああああ――――ッ!」
妹が放つ羞恥の絶叫が、家中に響き渡った。
ここのポイントは妹の声に反応し、無意識に目隠しを外してしまう京介。後述しますが、本音ではやはり妹のハダカに興味があるのでしょう。
P.209
でもってこの突然の提案に対し、俺としては、若干の懸念がないでもなかった。
『向こうでお世話になった友達』ってことは、桐乃が敵わなかった連中のうちの誰かってことだろ? そんなやつらと再会して、苦しくないのかなって思うんだ。
ごく自然に妹の心配をする京介。
妹想いというか、心配性というか、シスコンっていうか……この巻の京介は特に兄力高いです。
P.210
トラックの妖精・リア・ハグリィちゃん(十二歳)……だってよ。
ランニングパンツ姿の女の子が、柔軟体操をしている写真だ。健康的な褐色肌に、ポニーテール。長く引き締まった脚。良血のサラブレッドを人間の女の子にしたら、きっとこんな感じになるだろう。
リアは十二歳というのを、とりあえず覚えておいてください。
後の考察にちらっと出てくるので。
P.211-212
「出てって!」
「お、おい……いまのは不可抗力……」
「いいから出てけ変態っ! この家から今すぐッ!」
――『桐乃の妹』のマッパを目撃し、こんな目に遭っちまってるわけですよ、俺は。
なんてこったい。桐乃は俺に蹴りの連打を喰らわせたあと、全裸のリアを引っ張っていったん脱衣所に逃げ帰り、速攻で服を来て玄関に戻ってきた。でもって、
「もう二度と帰ってくんなッ!」
涙目で突き飛ばしてくる。ちなみに依然として俺は玄関に立ちつくしたままで、靴を脱いでもいない。
「待て! 待ってくれって桐乃――」
わけが分からん。帰宅早々、なんで我が家から永久追放されそうになってんだよ。
さっきの説明で大体の事情は察してもらえたと思うけど、別に俺、何も悪いことしてねーっつーのな。悪いのはバスタオルきっちり巻いてこなかった桐乃と、あとマッパで脱衣所から出てきやがったあのガキ――リアのせいだろ?
京介の言うとおり何にも悪いことしてないのに、この仕打ち……酷い。
P.214-215
「悪かったって桐乃――許してくれよ」
「……あれ? まだいたの? 出て行けって言ったはずだケド? 早く消えてくんなーい?」
ぐあーっ。もういい加減にしろよこいつ。
あまりにも理不尽すぎて、腹が立ってきたぞ。
「だから何度も謝ってるだろうが! 事故だったって説明もしただろ! こんなくだらねーことでいちいち出て行ってられっか」
「なッ――い、言うにことかいて……くだらないって……なにそれ! は、はああ!? あ、あんたいま自分がこのあたしに何をしてくれたか――分かってんの!?」
「全ッ然分かんねーな。いまさらおまえのハダカなんざ見たって、なんとも思わねーよ。兄妹なんだからさ。自意識過剰なんだっつうの」
理は京介にあります。100%桐乃が悪い。
京介が桐乃のハダカにまったく興味ないような反応を示すのは「妹」というフィルターがあるからでしょう。二章の赤城との会話(P.105-106)によってこの時点の京介は桐乃に対して「妹」という意識が強くなっています。前の章からやけに京介の兄力が高いのもその一環。「いまさらおまえのハダカなんざ見たって、なんとも思わねーよ」という京介の言葉に嘘は無いと思われます。(前述したように無意識の本音は違うのでしょうが)
P.215
「うっぎぎぎぎ……あ、く、ぐ……ッ」
桐乃はワナワナ全身を震わせて、大爆発のタメを作り始めた。どうやら俺の発言が、見事にブチギレポイントを直撃してしまったらしい。
そんな京介に対する桐乃は怒り心頭です。
何度も書いていますが、京介に恋愛感情を抱いている桐乃は、京介に妹扱いされるのを極端に嫌います。自分の裸を見てもまったく反応しないどころか、くだらないこと呼ばわりされてブチギレ寸前。
P.216-217
「ほいっ」
と、桐乃のスカートを思い切りめくり上げた。
「んな――――――Σ(゚Д゚;)」と硬直する桐乃。
一拍おいて、
「きゃあっ!」
と大声を上げてスカートを押さえる。
桐乃が勢いよく背後を振り向くと、
そこにあったのは「ひひっ」というリアの『してやったり』の表情。
「あ、あ、あああ……」
カァ、と、怒りと羞恥で真っ赤になり、今度は俺に向き直り睨む。
「見た!?」
「み、見てねえよ!」
手を振って否定した。しかしもちろん桐乃が信じてくれるわけもない。
「ウソ! 絶対見たでしょ!」
……な、なんで妹とこんなやり取りをしなくちゃならんのだ。もういい加減にしてくれよ。見たくもないもん何度も見せられて、こっちも迷惑だぜ。
見たくもないもん何度も見せられてということは、見たということですね。
興味なさそうな京介とは対照的な桐乃の狼狽ぶりですが、5巻の四章の京介の告白によって、京介のことをかなり意識しているのは間違いないでしょう。これが6巻ラストの告白に繋がってくるわけですし。
P.219
心底どうでもいいが、俺の位置からだと妹のパンツが丸見えである。さっきはあんなに嫌がっていたのに、無防備すぎだろ。
妹がいる人はわかると思いますが、実際こういう状況で妹のパンツを見せられても「だらしねぇなぁ」とか「もうちょっと恥じらえよ」ぐらいにしか思わないでしょう。この京介の反応は極めてリアルだと思います。
P.223
「えーっとぉ……あんたが“キリノのおにいちゃん”、なんだよね?」
「ああ、そうだよ」
こいつの日本語、上手いけど、すげえ崩れているな。誰に教わったんだ?
P.226
ちなみにリアの日本語は、桐乃から教わったものらしい。
「もっともリアは、最初からある程度喋れたみたいだけどね」
「でもやっぱねいちぶの人と喋らないと、ちゃんと会話できるようにはならないよ! キリノと同じルームになってから、リアの日本語ちょー上達したもん!」
「そうなの? なら、よかったけどさ」
なるほど。リアの日本語が妙にコギャルくせえのは、桐乃が教えたからなんだな。
リアの日本語は桐乃から教わったものなのに、リアが京介のことを「おにいちゃん」と呼ぶのはなぜでしょうか? 桐乃から教わったなら「アニキ」のはずですが……ひょっとして、リアの前では京介のことをおにいちゃんと呼んでいたんでしょうか?
P.223
「んー? リア、会いたかったんだよね“キリノのおにいちゃん”に。キョウスケおにいちゃんって呼んでもいーい?」
「勝手にしろ。っておいおい、俺に会いたかったって?」
「うんっ! きっと素敵な人なんだろーなって、思ってたんだ!」
「は~ん。想像と違ってて、がっかりしたか?」
「んーんっ、想像してたとおりの人だったよ!」
リアが“キリノのおにいちゃん”に会いたかった理由は後に明かされるので後述。
ここでリアが京介のことを素敵な人で、想像してたとおりの人だったという理由ですが、
超カッコ良い人だよ 背が高くて、優しくて、頭良くて、足が速くて、
クラスの人気者でね、あたしのことが超ー好きなの。
あたしがピンチのときはいつも助けてくれたり、庇ってくれたり、なぐさめてくれたりすんの♪
えーよくないってよくないってうざいだけだもん♪
あたしあいつのことなんかぜんぜん好きじゃないしむしろ嫌いだしでもしょうがないんだよ♪
あいつってばマジシスコンなんだから 妹を愛しちゃってるんだから
あーやれやれほんとこまっちゃうんだよね へっへっへっへっへっ
2chにある桐乃キャラスレのテンプレにある桐乃AAの台詞からの引用。
アメリカ留学時に桐乃がリアに対し、こんな風にのろけまくっていたからのようです。
ちなみに上記の台詞はアニメ俺妹二期のBlue-ray第3巻に収録されている特典のオーディオドラマ『俺のあやせがお泊まりしにくるわけがない』(脚本:伏見つかさ)に出てくる内容だそうです。(自分では未確認)
P.224
しかも彼女は、そこでいきなり俺に抱きついてきた。
「おにいちゃん、超好きっ!」
「うおっ!」
な、なんでいまの流れでそうなる!?
「ほーら、ウソじゃないでしょっ?」
この懐きよう……桐乃は一体リアにどれだけおにいちゃんの良さを吹き込んだんですかね?(笑)
P.225
……つか、なんなんだろうな。
こいつを見ていると、なんとなく……胸の奥にちくちくとしたものを感じる。
この気持ちは……いったい。
「これからよろしくねっ、キョウスケおにいちゃんっ!」
……ロリコンに目覚めちゃったわけではなかろうな。
京介は気づいていませんが、子供の頃のお兄ちゃん大好きだった頃の桐乃とリアが重なるのでしょう。ロリコンに目覚めた云々はミスリードです。
P.228-229
リア・ハグリィ。彼女は桐乃にとって――
毎日同じ部屋で暮らしている、かわいいかわいい妹で。寂しい外国での心の支えで。
トラックでは、とても敵いそうにない、強力なライバルで。
才能の違いをまざまざと見せつけられる、コンプレックスの発生源だったわけだ。
「……どっかで聞いたような話じゃねぇか」
桐乃はどんな気持ちだったんだろうな。自分とは比較にならないくらい優秀な“妹”がいる気分ってのを、味わったんだろうか。誰かさんのように。
だとしたら、なんであいつは、リアのことを、あんなふうにかわいがっていられるんだろう。
心が弱いやつだったら、きっと妹の顔なんて見たくもないってなっちまうだろうによ。
「……たいしたもんだ」
俺の妹は、俺にはできなかったことを、正しく、捻くれず、やっている。
それが誇らしかった。誇らしく思えることも誇らしかった。
……あいつ、なんで妹もののエロゲーなんて好きになったんだろうな。
ふいにそんな疑問が浮かんだ。どうしてこの思考の流れで、こんな疑問がごく自然に出てくるのか自分でも分からない。
桐乃とリアの関係を自分と桐乃に置き換えて考える京介。
桐乃が妹もののエロゲーを好きになった理由は俺妹二期第13話の感想で書きましたが、兄を好きな自分の気持ちを肯定してくれるからでしょう。妹が兄を好きになってもいい、そういう世界や考え方があるということを教えてくれたから。
桐乃がリアをかわいがっている理由ですが、おそらく自分がして欲しかったことをリアにやってあげているのでしょう。桐乃がリアにしてあげていることは、本当は桐乃が京介にしてもらいたかったことで、桐乃はリアを昔の自分と重ねているのだと思います。
桐乃が妹もののエロゲーを好きな理由もそれと同じ部分があって、エロゲーの妹を自分に重ねあわせているのでしょう。それを京介が無意識のうちに感じ取ったことが、「なんで妹もののエロゲーなんて好きになったんだろうな」という疑問に繋がったのだと思われます。
P.230
「いいから早く出てけっ! なんだっておまえはそう、俺にマッパを見せたがるんだよ!」
「だからー、キョウスケおにいちゃんのことが超好きだから!」
「せめてあと三年経ってから来てくれ!」
リアは十二歳(P.210参照)、桐乃は中三で十五歳。
あと三年経ってから来てくれとは、つまりそういうことです。口ではなんだかんだ言っていても、とっさになると本音が出るシスコンの京介お兄ちゃん。
P.231
「なんなんだ? いったいなんなんだあのガキは……」
さすがに当惑してしまう。
ふ、普通だったらもっと人見知りするところだろう!
そもそも俺たちは初対面じゃねえか。なんで好感度MAXからスタートすんだよ。
黒猫が初対面でいきなり麻奈実を嫌っていたときとは逆の感想を抱く。
あれはきっと桐乃が黒猫に、麻奈実の悪口を吹き込んでいたからなのだろうが……。
ここはわかりやすいですね。
黒猫が初対面でいきなり麻奈実を嫌っていたのは、桐乃が黒猫に麻奈実の悪口を吹き込んでいたから。その逆ということは、桐乃がリアに京介の良いところ、格好いいところを散々吹き込んでいたからでしょう。(内容についてはさきほどの桐乃スレからの引用を参照)
それに加えて、
P.274
「やっぱそっかー。じゃあ、あたしもおにいちゃんのこと超好きになれば、足速くなるよねっ?」
「なるわけねーだろ!」
やっと分かった! 初対面から好感度MAXだったのはそういうロジックからかよ!?
リアは京介のことを超好きになれば、足が速くなると思い込んでいたから。
この2つが、リアが初対面からキョウスケおにいちゃんに対して好感度MAXな理由です。
P.236
ふん、分かってるっつの。この町には他にも色々売ってるよな。
らぶドールとか、SMグッズとか、エロDVDとかさ。
そのくらい知ってるって。
「あんたが何を想像してるのか知らないけど、あたしが言わんとしているのは、そういうことじゃないから。普通にフィギュアとか、ガシャポンとか、漫画とかのことだから」
俺の心を読んだかのように的確な台詞を口にする桐乃。軽蔑の視線をやめろって。
こんなところだけは鋭い桐乃。
この鋭さをもっと他の部分に向けてください。
P.238
「で、桐乃、今日はどっから回る?」
「んー、アニメのブルーレイとか見たいかな。リアとも約束してたし」
「なら、アニメイトからとらのあなに行くコースにすっか?」
「そだね」
妹とこの町に来るのは、もう何度目か分からないくらいなので、幾つか巡回コースというのができてしまっていた。
打ち合わせも手慣れたもんである。まるで麻奈実と遊びに行くときのようだ。
桐乃のせいで、どんどん俺のオタク化が進行していく……もう手遅れかもしれんな。
桐乃との仲は、既に幼馴染みである麻奈実レベルに達していることがわかる描写。
1巻の最初の頃とは雲泥の差ですね。
P.238-239
そんな俺たちのやり取りを眺めていたリアが、にひっと嬉しそうに笑った。
「仲良いねっ!」
「う、うっさい」
「あいッた!? ま、また髪引っ張るし!? ぎゃくたい!? ぎゃくたいっていうんだよねこれ!?」
「あ、あんたがキモいこと言うからじゃん……」
相変わらず、俺と仲良く見られるのが嫌らしい。麻奈実は『これからきっと仲良くなれる』なんて言うが、果たしてそんな日がくるのだろうか。
いや……違うよな。分かってるよ。
以前と比べれば、確実に俺たちの距離は縮まっているんだろう。
電車に乗って一緒に出かけていって、さてどこから回ろうか――なんて、そんな会話ができる程度には。
桐乃のリアに対するこれは、もちろん照れ隠しです。
京介と仲が良いことは否定しないんですね(笑)
P.239
「おいおい、アニメイトから回るんじゃねーのかよ」
「やっぱり気が変わったの! ほら、さっさと来る!」
「はぁ……へいへい」
渋々と“お姫様”の後を追いかける。
桐乃を“お姫様”と形容する京介。
わがままという意味なんでしょうが、それだけではないでしょう。可愛くない人間にお姫様なんて形容はしないですもんね、シスコンですもんね。
P.241
「……とにかく、探さなくちゃな」
「そだね。あたしらとはぐれて、心細くなってるかもしれないし」
「あいつがそんなたまかあ? いざとなったら、平気なツラして家まで走って帰るんじゃねえか?」
「……あんたって本当にバカだね」
軽蔑混じりの妹の台詞は、いつもの罵倒とは違って聞こえて、俺は少したじろいでしまう。
真意を説明せず、桐乃は焦りの含まれた口調で改めて言う。
「早く探してあげないと」
過去編の伏線。
桐乃は、昔(俺妹二期第13話の感想参照)、自分が京介に置いていかれた時のことを思い出しているのでしょう。
P.244
………………ん?
「なあ、桐乃」
『は? まだなにかあるわけ?』
「前にもさ、似たようなこと、なかったっけ?」
『……………………さあね』
ピッ、と無機質な音が鳴って、電話が切れる。
昔のことを思い出しかける京介。
桐乃が教えてくれないのは、桐乃なりに思うところがあるのでしょう。
P.248
はあ、はあ……思い出せ俺、こういうときって、どうすりゃいいんだっけ……?
俺はリアの頭に、ぽん、と優しく手をのせた。そのまま、なでなでとさすってやる。
「ん……ふぁ」
気持ちよさそうに目を細めるリア。
「……ぐすっ……おにいちゃん、ありがと……」
ほっ……うまくいきそうだな。
幸いこいつは俺に懐いているようだから、こうすれば泣きやんでくれるかもと思ったのだ。
昔取った杵柄、ってやつだよ。
苦手なりに、小さな女の子の扱いは心得ている。
今まで何度も桐乃にやったお得意の仕草で、リアを泣きやませる京介。
この描写を見るかぎり、この時点で京介は昔の桐乃のことを既に思い出し始めているんじゃないですかね? じゃないと「昔取った杵柄」なんて言葉は出てこないはずですし。
P.249
「ぬあっ!?」
背後から強烈な跳び蹴りが突き刺さった。たまらず俺は、逆海老ぞりになってスッ転ぶ。
こんな判別の仕方ができる自分がかわいそうでしょうがないが――
この蹴りは桐乃だ!
本当にかわいそうで笑えます(笑)
P.254
自分が負かしてきた相手への責任を人一倍感じ、断固たる決意を固め、一生懸命に練習に励んでいた桐乃。
モデル仕事や勉強、趣味、友達との時間……すべてを大切にし、均等に扱ってきた桐乃。
桐乃のやりようは、考え方は、誇っていいものだ。たいしたもんだと心から思う。
しかしそれは、限られた力を、時間を、才能を、複数の事柄に割り振っているということだ。
すべての才能と時間を一点集中しているやつ。
走ることが人生とイコールになっているようなやつには、敵わない。
それでも勝とうと思うなら、いままで大切にしていたものを、切り捨てるしかない。
同じ条件で、戦うしかない。
「…………」
桐乃があんなメールを送るにいたった心境が、少しだけ分かった気がする。
5巻の桐乃の心境の補足。
ここはそのままなので、特に説明は不要かと思います。
P.255-256
「だからこそあたしは、あんたをここに連れてきたかったんだよね。リアにあたしの好きなものを見せたかった。上手くいえないけどさ、別にあんたのためじゃなくて……あたしがそうしたかったわけ」
「そっか」
リアは、にぱっとはにかむ。それからゆっくりと周囲を見回した。
そこにあるのは、桐乃が大好きな秋葉原の町並みだ。
(中略)
日本のサブカルチャーのすべてが、この町にはあった。
俺たち兄妹の想い出を育んでくれた場所。
新しい友達と、出会った場所。
桐乃が帰ってきたかった場所が、いま、リアの瞳に映っている。
そして――
リアは、なぜか俺を真っ直ぐに見つめた。
「よく分かったよ、キリノ」
桐乃が言うあたしの好きなものには当然、兄である京介も含まれています。
リアが京介を真っ直ぐに見つめたのは、リアがそこを含めてちゃんと理解しているからですね。
P.261-262
「あのときのキリノは、リアよりも速かった。その一日前までは、ぜんぜん話にならなかったのにね。だから知りたかった。たった一日の間に、何があったのか。どんな手品を使っていきなり脚を速くしたのか。リアに勝ったっていうのに、なんで帰っちゃったのか」
「リア――」
「今日、キリノが見せてくれたものが答えなんでしょ?」
「うん」
桐乃は静かに頷いた。
刺し貫くような視線を真っ直ぐ向けているリアとは対照的な、穏やかな表情だった。
「これがあたし。やっと分かったんだ。向こうにいたときのあたしは――あたしじゃなかった。だからここに帰ってきたの。本当のあたしで、いられるところに」
それは俺に向けられた台詞ではなかったが、身に染みるほど嬉しい言葉だった。
……そっか。おまえ……そんなふうに、思っていてくれたんだな。
ここで京介が身に染みるほど嬉しいと感じたのは、
P.75
「そいつももう台無しになっちまったかもな。俺はあいつの意思にそぐわない形で、無理矢理こっちに連れ帰ってきたんだから、恨まれてても、しょうがない」
桐乃は俺に、絶対に恨み言は言わないだろう。
それでも、俺があいつの足を引っ張って、挫折させたという事実は変わらない、あいつが俺に対して、含むところがないわけはない。そんなことは初めから承知の上で、それでも俺は、妹を日本に連れ帰ってきた。
こういう風に京介は考えていて、桐乃に対し負い目を感じていたのに、桐乃がそうは思っていないことが分かったからですね。
P.262
「リアには、陸上舐めてるって言われても仕方ない。けど……やっぱりあたしは、好きなものを捨てられない。部活も、友達も、家族も、趣味も――全部があって、初めてあたしだから」
それが帰国してから得た、桐乃の結論なのだろう。
悩んで悩んで悩んで――その末に出した答え。誰にも、口を挟む余地はない。
この全部には、もちろん京介のことも含まれているのでしょう。
そして、その好きは兄妹愛を含めた恋愛的な意味での好きですね。
P.265-266
他人事じゃなかった。
桐乃はかつての俺のように、自分よりも数段優れた妹に、追い詰められている。
追いつめられていながら、俺みたいに逃げたりせず、ああやって立ち向かっている。応援せずにはいられなかった。
「桐乃……負けるな――ッ!」
あそこで走っているのは、俺だからだ。
あらゆることで妹に負かされて、打ちのめされていたころの、俺だからだ。
まっすぐ妹と向き合って、腐らず足掻き続けている、『if(もしも)の世界』の俺だからだ。
1巻より前、桐乃との冷戦が始まり、無気力だった頃の京介。その頃の自分と桐乃を重ねあわせている京介は、先程も書いたように既に過去をいくらか思い出していると思われます。ただ、それを読者に教えないだけで。
P.266-268
人生ってのは、セーブデータ一つしかないエロゲーみてえなもんだ。
一度選んだ選択肢を、遡って変えることはできない。
失敗したら取り返しが付かないし、そうそう都合よく奇跡なんておきやしない。
無理なものは無理で、どうしようもないことは、絶対にどうしようもない。
だけどそんなもん、誰が決めんだよ! 無理とか無駄とか、やってみなくちゃ分からねえだろうが! 神さまじゃねえんだ、未来なんざ知ったことか!
だから遠慮なくやっちまえ! やっちまえよ、桐乃! 道理なんざひっくり返して――
「ぶち抜け……!!」
この京介の考え方は、最終巻の決断にも大いに関係しているように思えますね。
詳しくは最終巻の考察で。
P.268
こんなに俺が桐乃ばかり応援してたら、リアからしたら面白くないかもしれない。
でも悪いなリア、確かにおまえは、俺のことが超好きなかわいいやつだが。
こんなもんは言ってみりゃ習慣なんだよ。そう妹を持つ、兄貴の習慣。
妹をひいきして、応援するのは、当然だろうが。そう、言っておくがな――
「俺はロリコンじゃねえっ! シスコンだぁぁ――――――ッ! 勝てぇぇぇえぇッ! 桐乃ぉぉおぉぉぉォォォォォッ!」
我ながら意味不明だ。自分でもなに言ってんだか分からねえ。
とにかく何でもいいから妹に、魂入ったエールを送ってやりたかった。
俺の声援に呼応して、桐乃が、そこからさらに、ぐん、と加速した。
京介が桐乃に対してハッキリとシスコンと認めた瞬間。この叫びが桐乃にとある誤解を与えてしまうのですが、それについては後述。
ここで大事なのは京介の応援を受けて加速した桐乃ですね。京介はシスコンですが、兄の声援を受けて加速する桐乃も、また立派なブラコンです。ここで京介は桐乃に対し「妹」に加えて「シスコンだから」という新たなフィルターを手に入れます。このフィルターのせいで、またいろいろと面倒くさいことになるわけですが……。
あと、ここで京介は兄貴の習慣という言葉を使っていますが、これはP.105-106の秋葉原での赤城との会話に出てきた単語ですね。赤城との会話が京介に影響を与えたことが示唆されています。
P.272
「リアはね、あのときなんでキリノに負けたのか、知りたかったんだよ。あのときキリノを加速させたものがなんだったのか、確かめに来たんだよ。それがリアの本当の目的。向こうでみんなに話を聞いて、だいたい予想は付いてたんだけど――自分の目で見ないとって思った」
桐乃を加速させたものは兄である京介なわけですが、向こうで「みんなに話を聞いて」だいたい予想は付いてたということは……つまり桐乃はリアだけじゃなくて、他のみんなにも京介のことを吹き込んでいて、桐乃が京介のことを大好きなことは周りにバレバレだったってことですよね? ブラコンすぎっぞ!
P.272
『リアにあたしの好きなものを見せたかった』
『よく分かったよ、キリノ』
リアが秋葉原の町並みを見て納得していたのは、そういうことか。
つまり……桐乃がリアに一度だけ勝ったというのは、俺がロスに行ったあのときだったのだ。
『……あたし、いまからちょっと行くトコあるから』そう言って出かけていった、あのとき。
久しぶりにエロゲーをやって、元気を取り戻して……そうしてリアに勝負を挑んだ。
「桐乃は、自分の好きなものがない外国で、調子を崩してた。おまえが向こうでさんざん負かしていたのは、本来の桐乃じゃなかったわけだ。それがいきなり本調子に戻ったら、そりゃあ面食らうだろうよ」
5巻の補足。
久しぶりにエロゲーをやって、元気を取り戻して……という京介の認識が微妙に間違っている以外はそのままなので、特に書くことはないですね。
P.272-273
「あれ? 分かってるんじゃん」
「バカにすんじゃねえよ、がきんちょ。俺を誰だと思ってやがる」
「キリノの超好きなおにいちゃんでしょ?」
「な、なんでそうなる!?」
「だって、キリノがボロボロになってたのは、超好きなおにいちゃんに会えなかったからで――キリノがいきなり速くなったのは、おにいちゃんがロスに来たからじゃん。違うの?」
こ、こいつ……ッ。なんて勘違いをしていやがる……!
桐乃が調子崩してたのは、俺に会えなかったからじゃなくて――
おまえが同じ部屋にいたせいでエロゲーやれなかったからだよ!
あと黒猫とかあやせとか、親しい友達に会えなくなっちまってたからだ!
桐乃がいきなり復活したのだって、俺がエロゲーやらせたからだろうが!
証拠にあいつ、自分で言ってたし! 『思いっきり好きなことができて嬉しい』、『エロゲーやってたら、元気出てきた』ってさ!
京介はリアの言ってることを勘違いだと思っていますが、リアの認識の方が正しいですね。実際にさきほどの勝負で桐乃は京介の声援を受けて加速したわけですし。
京介が出した証拠の『思いっきり好きなことができて嬉しい』については5巻の考察でも書きましたが、好きなこととは兄と一緒にいること、兄と他愛もない話をすること、兄とエロゲーを一緒にプレイすることであり、『(兄と一緒に)エロゲーやってたら、元気出てきた』というのが真実であって、京介はそこのところを誤解しています。
P.273-274
落ち着いて考えてみりゃあ、なんっつー、ひどい復活の理由なんだ!
『おまえをぶち抜いたのはエロゲーパワーなんですよ』だなんて、とても純真なお子様には説明できん!
し、仕方ないっ……これはもう、勘違いさせたままにしておくほかねーな。
「リア、確かにおまえの言うとおりだ。桐乃は超好きな俺と再会できたおかげで復活したのサ」
「おおっ、愛の力だねっ!」
「ふっ、んまー、そういうこったな」
ああ気持ち悪い。うげーっ、ぺっぺっ。
「やっぱそっかー。じゃあ、あたしもおにいちゃんのこと超好きになれば、足速くなるよねっ?」
「なるわけねーだろ!」
やっと分かった! 初対面から好感度MAXだったのはそういうロジックからかよ!?
「くっついてくるんじゃねえ暑苦しい! 何月だと思ってんだ!」
「キョウスケおにいちゃん、超好きっ! んー、ちゅっちゅっ♡」
ガラッ! リビングの扉が開いた。
「ま、またあんたらは! 何度同じこと言わせんの! このロリコン! クズ!」
ぎゃーっ!
桐乃、そういうおまえはなんで毎回毎回、扉の裏でスタンバイしてたかのよーなタイミングで出てくるんだよ!?
くそう……も、もういっそロリコンになりたいぜ!
ここは伏線。
桐乃は扉の裏にいて京介とリアの会話を聞いていたのですが、リアのちゅっちゅっ♡発言を聞いてたまらず飛び出してきたということが示唆されています。
桐乃は先の勝負の時の京介のシスコン発言と、扉の裏で京介とリアの会話を聞いていたことによって、「京介はシスコンで、自分の京介への気持ちにも気づいている」と思い込んでしまいます。それが、この後の桐乃の「――あんた、あたしの彼氏になってよ」という台詞に繋がるのですが、これについては7巻の考察で詳しく解説します。
P.275
「させないよーだ。キリノみたいに、フジュンな理由で陸上やってるよーなやつには、負けらんないってば。一生リアの後ろを走ってればいいよ」
「ふん、言ってくれんじゃん。確かにあたしは、あんたほど単純に、走るのが好きで陸上始めたわけじゃないけど、負けっ放しで平気な顔してられるほど、大人しい性格してないんだよね」
「できるかなー? もう当初の目的は果たしちゃってるんでしょ?」
「それでも、いまでは大事なあたしの一部なの。他のすべてと同じように、絶対に陸上は捨てられない」
リアのいうフジュンな理由と当初の目的については、11巻でハッキリと説明されています。
11巻 P.62
「違ったらそう言ってくれ。おまえが陸上始めたのって……」
「あんたより、足が速くなりたかったから」
「そっか」
「いつか、あたしと同じ思いを味わわせてやるんだって、決めたから」
「そっか」
どうしていままで、気付かなかったんだろう。
とっくの昔に、リアのやつが、答えを教えてくれていたってのに。
桐乃はもう――当初の目的を果たしているって。
妹がアメリカに渡る前、俺はこいつに言ったのだ。
『いま、おまえと足で勝負したら、もう勝てねえな』
そしたらこいつ、誇らしそうにしていたっけ。
『なんか、すっきりした』
満足そうに笑って、俺の下(もと)から去って行った。当時は意味がわからなかったけれど。
そういうこと、だったのか。
ここですね。
リアがそれを知っているということは、桐乃はそこまでリアに話しているということですね。人に話さずにいられないほど、嬉しかったのでしょう(笑)
P.278
いやはや、おかしな話だぜ。最初の人生相談を受けたときは――ガラじゃねえってうんざりしていたはずなのに。いまではこんなに――――いや、まあ、いまでもキライだけどな。
この期に及んでまだこんなことを言っている京介。
シスコン発言までしておいて、往生際が悪いですねぇ……。
P.279
「――あんた、あたしの彼氏になってよ」
桐乃の爆弾発言。これについては7巻の考察で。
6巻のまとめ
6巻でのポイントは、
着々と積み上がる黒猫フラグ。
京介が秋葉原での赤城との会話で、桐乃は妹だと強く認識したこと。
京介が自分をシスコンだと認めたこと。
桐乃が「京介はシスコンで、自分の京介への気持ちにも気づいている」と思い込んだこと。
この4つですね。
京介のオタク化とシスコン化は順調に進んでいます。