『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の伏線を改めて読み解き、「完全なる桐乃エンド」を考察してみた(7巻編、下)

注意

この記事はライトノベル俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を全巻読んでいることを前提に書いています。
おもいっきりネタバレがありますので、未読の方はお気をつけください。

7巻の時系列

日付 出来事 原作
7月上旬(6巻ラストの続き) 桐乃に彼氏になってよ発言は彼氏のふりという意味だと言われる 第一章
夏休み開始初日 桐乃の彼氏のふりをして、美咲さんと会う 第一章
同日夕方 桐乃のお説教、美咲さんに二人の仲を見せつけるため、桐乃とデートをすることに 第一章
翌日 桐乃と偽デートをする 第一章
同日夕方 京介のデリカシーの無い発言に桐乃の怒りが爆発、本当の彼氏発言が飛び出す 第一章
数日後 あやせの家に呼び出され、桐乃の彼氏について質問する 第二章
翌日の朝 学校に行って、ゲー研の部活動に参加する 第二章
同日帰宅時 黒猫に桐乃の彼氏について質問する 第二章
同日夕方 沙織や赤城とメールのやり取り、桐乃本人に彼氏の有無について聞く 第二章
2日後 沙織と黒猫が家に来て、皆で夏コミの打ち合わせをする 第三章
8月14日(夏コミ2日目) ゲー研の一員としてサークル参加する 第三章
8月15日(夏コミ3日目 桐乃たちと夏コミに参加、会場で御鏡と出会う 第三、四章
8月16日 ゲー研のコミケの反省会に参加した後、『オタクっ娘集まれー』の打ち上げに参加 第四章
同日 桐乃が突然御鏡と付き合っていると言い出し、黒猫と京介が激怒、打ち上げがぶち壊しになる 第四章
8月17日 桐乃が御鏡を彼氏として家に連れてくる 第四章
同日夜 桐乃が黒猫に仲直りの電話をする 第四章
8月18日夕方 黒猫に告白される 第四章

第三章

P.140
桐乃がこの件について断るわけがない。絶対賛成に決まっている。そう確信していたにもかかわらず、俺は妹からの同意を得られたことに、何故か少し安心した。
なんでだ?
自分自身で分析してみると、すぐに答えが見つかった。
『彼氏と予定がある』とかなんとか言われたらどうしようかと思ってたんだな、俺。そしたらせっかく立てた計画が狂っちまうから――そんでイラついてたんだよ。
そうに違いない。
そうかそうか、納得したぜ。そういう理由があったからこそ、変な気分になってたんだ。
妹に彼氏がいたからって、基本どーってことないのである。

何とも自分にとって都合の良い自己分析。
どう見ても強がりですね。

P.144
「瑠璃ちゃんって何? 黒いののこと」
ああ、そういやこいつには、まだ言ってなかったんだっけ。
俺は黒猫に視線を向けて、『教えてもいいか?』とアイコンタクトで聞いてみた。
こくん、黒猫が頷く。俺は代わりに言ってやった。
「黒猫の本名がな、五更瑠璃っていうんだと」

京介と黒猫のアイコンタクト。
黒猫が桐乃と同じレベルで京介と通じあってきてますね。

P.145
「へーえ……なんであんたらだけ知ってんの? あたしはのけ者ってワケ?」
「べ、別に……そういうわけじゃ」
桐乃の嫌味っぽい発言に、黒猫は大いにうろたえた。さっそく沙織がフォローに入る。
「いやいや! きりりん氏! そんなはずがないではありませんか!」
「同じ学校の同じ部活に入ったんだから、そりゃ本名くらい知ってるだろ」
俺も宥めに入ったさ。こいつ黒猫のこと好きすぎだろ。友達や兄貴にまで嫉妬しやがって。
「あっそ! ふーん、そんで放課後は一緒に帰ったりしてるんだ。自分の部屋に上げて、二人きりになって、ベッドの上に寝ころばせて?」
「一緒にゲーム作ってただけだって!」
「だからそれがもう付き合ってるみたいじゃんっつってんの! あーキモ! キモキモ!」
だー! もーいい加減にしろよ! ていうか仮に俺と黒猫が付き合っていたとして、それでなんで妹に怒られなくちゃならんのだ! よっぽど友達取られるのがイヤなんだな!

さっそく黒猫に絡み始める桐乃。
フォローする沙織の献身ぶりが泣けます。

桐乃のこういう部分は、本当に面倒くさいですね。兄に対する独占欲や嫉妬だとは分かっていても、フォローしかねる部分があります。
京介も京介で、「桐乃の不機嫌の理由は黒猫を好きすぎで、友達を取られるのがイヤだから」などという、ズレた解釈をしてます。

P.146
「……ま、まぁ……あんたらがどうにかなるなんて、あるわけないか」
「…………」
俺と黒猫は、どちらからともなく視線を合わせ……そして、ふいとそらした。

こと恋愛に関しては、桐乃の鈍さも相当なものですね。
この辺はまだまだ子供っぽいところがあります。

P.149-150
「ふっふっふっふ……確かにその通りだ。しかし桐乃。その質問は予想していたぜ」
「キモ」
俺が薄笑みを向けるや、桐乃は青ざめて顔を遠ざけた。口直しのようにジュースをストローで吸い込み、軽蔑の流し目を送ってくる。

ここの桐乃のキモは言葉通りの意味でしょう。照れ隠しなどは一切無し。

P.154-155
「任せろ」
深々と頷く俺。その様子を何か言いたげな眼差しで眺めていた桐乃は、黒猫に視線を移して小さく舌打ちする。
「分かったわよ。……あんたらの好きにすれば?」
「……別に、私は……あなたのお兄さんがやりたいというから……仕方なくよ、仕方なく」

みんなで作る同人誌で、京介が担当する自分のコスプレ写真コーナーに黒猫が協力すると言い出したのに対し、桐乃が珍しく気を遣って譲歩する図。
黒猫は桐乃にとって親友ですし、桐乃も黒猫の京介に対する気持ちは薄々わかっているのでしょう。
ただ、さっきの桐乃の発言にもある通り、「この二人がどうにかなるなんて、あるわけない」と高をくくっている節があります。この甘い見立てが後の悲劇を招くことになるのですが……。

P.155-157
腕を組んで俺を睨む妹は、両肩を剥き出しにした大胆な夏ファッション。涼しげじゃああるが、目のやり場に困ってしまう。
(中略)
「おまえが今日着てる服ってさ……」
「えっ?」
「去年の夏コミで着てたのと、もしかして同じやつか?」
特に深い考えもなく口にした台詞だったのだが、意外にも桐乃は良好な反応を見せた。
きょとんと瞳をぱちくりさせて、
「へー、あんたにしては鋭いってゆーか……よく分かったね?」
「いや、その肩と鎖骨剥き出しなのが、見覚えあったからよ」
「は!?」
桐乃は両腕を交差させて、掌で両肩を隠した。でもって怒った犬のように吠える。
「ど、どこ見てんのっ! このスケベ!」

この巻で散々鈍い鈍いと言い続けてきた京介ですが、エロ関係だけはやけに鋭いですね。
桐乃の反応も過剰なぐらいウブ。エロゲを散々プレイしているわりに、なぜかエロ関係には耐性ないんですよね。

P.159
みんなでコスプレしたときといい、入学式のときといい、最近こいつにはイメチェンで驚かされてばかりだ。しかし、それにしても……これは……。
かわいい。暑さと相まって、くらっとしてしまうほどに。
いつもより少し幼く見えて、それが普段は気付かない魅力を引き出している、というか。

黒猫を手放しで褒める京介。
黒猫とのフラグがどんどん立ち始めていますね。

P.160-161
「そ、それっ、先週あたしが選んであげた服じゃん!」
「…………そうよ。あのときは、その……ありがとう」
服が白いと性格まで白くなってしまうのか、なんと黒猫は、素直に桐乃に礼を述べた。
意表を衝かれた桐乃は、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔できょとんとする。
「え? あ……ど、どういたしまして」
先にお礼を言われてしまって、怒るに怒れない桐乃だった。
まあ、そもそもなんでキレそうになってたのかさえ、俺にはよく分からないのだが。
(中略)
「こういう系統っつーと?」
「エロゲでよくあるファッション」
ああ……。
あるよね、白いワンピースに、帽子。
それほどプレイ本数をこなしていない俺でも、こういうイベントCG見たことあるわ。
「あ、あなた……恥を忍んで服の見立てを頼んだ友達に、エロゲヒロインの格好をさせたの?」
「うん」

P.162
「いやでも、似合うし、かわいいと思ったからさ。あたしのセンスに懸けて、それはマジ」
「…………それは感謝しているけど。……できればルーツは知らないでおきたかったわ」
「てか、その服……今日着るためのやつだったんだ……」
桐乃は複雑そうな表情で、腰に手を当て、目をすがめていた。
さっきからなんなのこいつ。自分が見立てた服を黒猫が着てきたのが、どうしてそんなに気に食わないんだ? そこはむしろ『おおっ! それ、あたしが見立てた服じゃん! えーなーにぃアンタ~、着てきたんだぁ~』って喜ぶところだろーよ。

桐乃が選んであげた服を夏コミに来てくる黒猫。
相変わらず京介はクソ鈍いので気づいていませんが、桐乃からすれば親友に好意で選んであげた服がまさか京介に見せるためだったとは知らなかったわけで、複雑な気分になるのは致し方ないでしょう。

黒猫も別に悪気があったわけではないのでしょうが、桐乃の京介に対する気持ちを知っていることを考えると、少々無神経な行為ではあります。まぁ、服の見立てを頼まれてエロゲヒロインの格好をさせる桐乃もアレですが……。

P.162
俺は桐乃から預かった荷物を肩に背負い直し、ビックサイトへ向けて歩みを進める。
「黒猫、おまえのカートも俺に貸しな」
「え? べ、別に……いいわ」
「いいよ、ついでだから」
手を差し出すと、黒猫は躊躇しながらもカートの持ち手を俺に握らせてくれた。

当たり前のように妹の荷物を持ってあげている京介の兄力の高さ(おそらく桐乃に無理矢理持たされたのでしょうが……)。
京介に他意はないのでしょうが、それを他の女の子にやると、変に気を持たせたりしちゃうので、やめた方がいいですよ。

P.164
そしてもう一点、変わったといえば……俺と黒猫の関係も、そうだ。
一年前は、たんに『妹の得難い友達』――としか、思ってなかったのに。
いまは――
「…………」
いまは、どうなんだろうなあ。よく、わかんねーや。

黒猫フラグ。
5巻辺りから、この手の描写が増え始めましたが、7巻の恋愛編に入ってからは更に増えましたね。

P.166
「では、お言葉に甘えて……きりりん氏、一緒に行かれますか?」
「んー、どうしよっかな。どーせあとで、みんな一緒に回るでしょ?」
「然様ですが、開場後ですと、確実に会えるかどうか分かりませんぞ」
いったん始まっちまえば、地獄だもんな。サークルの人たちも、俺たちも、忙しくなるし。
「行ってくりゃいいじゃねぇか。好きな作家さんと会える数少ない機会だぜ」
「……ふっ……そうね。大丈夫、ここは私と先輩とで、しっかり留守番しているわ」
俺に続いて、黒猫も桐乃を促す。だが桐乃は、逆に反抗的になってしまう。
「チッ……っさいなあ……勝手でしょ」
ばっかじゃねーの、なんで不機嫌になってんだよ。
「まあまあ、きりりん氏のお気持ちは分かっておりますよ。それでは、拙者が代表して一回りしてきますので、こちらは頼みますぞ」

桐乃からすれば、京介と黒猫を二人きりにはしたくないのですが、京介はそんな桐乃の気持ちにはまったく気づかず、行くことを勧めます。
おまけに黒猫まで一緒に勧めるのですから、二人きりになるために、自分と沙織を追い出そうとしてるように見えて不機嫌になっているのでしょう。
そんな桐乃の気持ちを察して、一人で挨拶回りに出掛ける沙織の気遣いが身に染みますね。

P.175
開場のアナウンスが流れた。わぁっと歓声が上がり、盛大な拍手が巻き起こる。
そうして一年ぶりに、俺と妹の夏コミが始まった。

沙織と黒猫の存在は無視ですか?(笑)

P.182
黒猫がお金を浮け取って、同人誌を両手で差し出しているところだった。

浮けの部分は誤字。合本版では修正されていました。

P.192
「あーっ、真壁せんぱいが五更さんを口説いてるー」
「ち、違いますよ!」
瀬菜に騒がれ、慌てふためく真壁くん。
「ダメじゃないですかー、部長というものがありながら」
「しかも怒ってる理由そっちですか!?」
真壁くん的には、瀬菜に嫉妬してもらいたかったんだろうな。

他人の恋愛ごとにはめざとい京介。
お願いですから、そのめざとさを桐乃方面に発揮してください。

P.195-196
「あ、そうだ。五更さん」
瀬菜は一冊の同人誌を差し出す。
「これ、先日頼まれたサークルの新刊です。壁サークルだったんですけど同じ東館だったんで、なんとか手に入りました。」
「……ありがとう」
黒猫の受け取った同人誌は、マスケラものではなく、メルルのものだった。
「意外です、五更さんって、こういう子供っぽいのは嫌いだと思ってました」
「……いえ、これは……私のものではなくて――」
黒猫は、ちょっと躊躇してから、こちらを見た。
「――友達にあげようと思って、頼んだものなの」
その台詞を聞いた瞬間、桐乃の目が大きく見開かれた。
(中略)
黒猫は瀬菜の失言にキレながらも、傲然と言い返し、
同人誌を桐乃に向けて、すっと差し出した。
「……あげるわ、これ」
(中略)
「……なによ、欲しいけど今回は並ぶ暇がないって嘆いていたじゃない。だから……学校の友達に頼んでおいたのよ。……いらなかったかしら? それともやはり、人語が通じないの?」
「べ、別に……さんきゅ」
小さくお礼を呟いて、桐乃はメルル同人誌を受け取った。

瀬菜に頼んで確保してもらったメルルの同人誌を桐乃に差し出す黒猫。
桐乃にとって良い友達なんですよね、黒猫は。桐乃だってそれがわかっているから、黒猫が京介に告白すると聞いた時も反対できなかったのでしょう。

P.197
「……へ、へえ~、高坂先輩の妹さんなんですか」
「ウソ、似てない! かわいい――っ!」
見た? こいつらのこの失礼な反応! まぁ、もう慣れっこだけどな。

高坂兄妹の容姿似てない描写。
昔はこれを義妹フラグではないかと疑ったこともありました。

P.204-205
「なんでだったの? って聞いてもいい?」
「うん――なんてことないんですけど、あたしがバカ兄と口喧嘩したときに、『彼氏ができた』――ってウソ吐いたのが、原因だったみたいで」
「――――」
聞いたよな。
瀬菜に彼氏がいるってのは――ウソだった。
「で、バカ兄ったら慌てちゃって――魔が差しちゃったらしいんです」
「へ、へぇ~……ち、ちなみに……せなちーは、なんでそんなこと言っちゃったわけ?」
「だってあんまり腹が立って――」
瀬菜は当時のこと(こいつの兄貴が妹そっくりのらぶドールカタログを所持していた件ね)
を回想しているのか、むすっと胸を強調するようにして腕を組んだ。
「彼氏がいるって言ったら、このバカ兄、どんな顔するかな……って」
イタズラ心が芽生えてしまったのだという。
それを聞いた桐乃は、うんうんと何度も頷き、
「分かる! 分かるなぁ~それ!」
「ほんとですか?」
「うん! あるよね! あるよねそういうこと! ついムカッときて、本心とぜんぜん違う台詞、言っちゃうとかさ!」
「そう! そうなんですよーっ! すっごい桐乃ちゃん――なんであたしの気持ち、そんなに分かっちゃうんですか!?」
「え~、なんでだろ。やっぱ『妹』だし、気が合うからかなぁ~」

ここはまんまですね。
桐乃が彼氏がいるなんて言った理由は、瀬名とほとんど一緒と考えて問題無いでしょう。
一つ補足しておくと、桐乃が瀬名の気持ちを分かるのは『妹』だからじゃなくて、二人とも『お兄ちゃん大好きな妹』だからでしょう。
瀬名の大好きと桐乃の大好きは兄妹愛と恋愛感情という意味で違いますが。

P.206-207
ふうん――。そっかそっか。
瀬名は兄貴と口論になって、そんでもって『彼氏がいる』なんてウソを吐いたのか。
『兄貴』に構って欲しくて、ついつい『妹』が言っちまった――台詞なんだろうな。
ふうん……。
そっかそっか。
そりゃ――――よかった。

最後のよかったに、京介の「妹に彼氏なんてできてほしくない」という本音が見え隠れしていますね。

P.209-210
「あったりまえですよう~。あなたたち兄妹のおかげで、わたしのサークルに人気が出たようなものなんですから~。あっ、これ新刊の近親相姦SM本なんですけどよかったら、」
「い、いやいやいや! 俺ら、急ぐんで、すみません!」
そんな危険物を受け取れるか!
俺はとある理由から、素早く退避しようとしたのだが、バカな妹がメイドの客引きに引っかかった。
「へへ! 妹ものと聞いて一部もらっちゃった! なんかこの表紙のカワイイ女の子、あたしに似てない?」
ご名答おまえがモデルです。
くそっ、あのエロメイド!
噂には聞いていたが、本当に俺らをモデルにしてエロ同人を描いてやがった!

高坂兄妹をモデルにした近親相姦SM本。
果たして桐乃がこれを読んでどう思ったのか非常に気になるところですが、それが描かれることはないのでした……残念。
わざわざこんな描写を入れるということは、桐乃がSで京介がMだというのは、作者公認とみていいんですかね?

第四章

P.224-227
「そうですね。桐乃さんとは、仕事関係の知り合いなんです」
「仕事関係の知り合い? それってどういう……」
さらに追求しようとしたときだ。
「ちょ、ちょ、ちょ……待って」
桐乃が小走りで駆け寄ってきて、俺を制止した。
(中略)
「そ、そうです! オタクです僕!」
言質が取れたところで、突き飛ばすようにして放してやる桐乃。
彼はケホケホと涙目で咳き込んで、文句を言った。
「な、なにするんですか、苦しいですよ」
「ちょ、ちょっと黙ってて……いま考えてるから」
(中略)
「僕は御鏡光輝といいます。年齢は十八歳で、高校に通いながらアクセサリーデザイナーをやっています。桐乃さんとは、」
「ストップ」
「――え?」
自己紹介を途中で止められて、戸惑う御鏡。
待て待て、すでに聞き捨てならない単語が幾つかあったぞおい。俺と同じ歳で、デザイナーやってるとか言ったかいま?
御鏡に向かって腕を突き出しストップをかけていた桐乃は、見得を切るかのように凛々しく髪をかき上げた。
「そこからはあたしが紹介する。この人――御鏡さんは、美咲さんのお抱えファッションモデル兼デザイナーで、エタナーの別ブランドを任されてるの。子供のころから賞を幾つも取ってる凄い人なんだって」

御鏡登場。
十八歳というのがポイントですね。京介と同じく三つ年上ということで、桐乃の好みの条件を満たしています。
更に桐乃と同じオタクでありながら、イケメンのファッションモデル兼デザイナーであり性格も良いと、京介の嫉妬を煽り、偽彼氏に仕立てあげるにはうってつけの人材です。
桐乃が自己紹介をストップさせて自分で紹介を始めたのは、御鏡を偽彼氏に仕立てようと思いついたからであり、御鏡本人に余計なことを言われたら困るからでしょう。

P.229
「今度はこっちの面子を紹介するから。――これ、あたしの兄貴と、友達」

この前の偽デートでは、京介を彼氏として呼び捨てにしていた桐乃ですが、ここでは普通に兄として紹介しています。
御鏡を偽彼氏に仕立てるに当たって、御鏡に余計な詮索をされたくないからでしょうか? まぁ、御鏡はあっさりと桐乃の本当の気持ちを察してしまうので、まったく意味がないのですが……。

P.230
「桐乃さんとは、美咲さんに紹介されて知り合ったんです。ほら、桐乃さんはモデルでしょう? ファッション雑誌で僕のアクセサリーを付けてもらうことになって――それで挨拶を」
桐乃も「そうそう」と言葉を継いだ。
「で、それから何度か、二人で会ったりしてて……」
ん!?

二人で会ったりというところに過剰反応する京介。
これは作者の仕掛けたミスリードでしょう。読者に御鏡が桐乃の彼氏だと思い込ませるための。

P.232
「ですから――ある意味、アニメが僕の人生を変えてくれたんです。あのアニメを観てなかったら、いまここにいなかったと思います。全然違う人生を送っていたかもしれません」
「……まあ、あるよね、そういうの」
うんうんと何度も頷く桐乃。

ここは桐乃の過去の伏線ですね。
妹モノのエロゲに出会わなかったら、今の桐乃はないでしょう。

P.238
夏コミで再会したことによって意気投合?した二人は、俺たちそっちのけで、しばしエロゲートークなどで盛り上がっていた。
ふぅ……。桐乃がビビっていたのを見た瞬間は、あやせに出くわしちまったあのときみたいになっちまうのか――なんて心配したけど。結果を見れば、新しいオタ友達ができただけ。
いや、もしかすると俺の妹にとって、俺の代わりになれるやつが現れたのかもしれない。
だとしたらいいことだ……って、安心すべきところなんだろうな、これは。
そう考えているはずの俺は、いま、どんな顔をしているだろう?

桐乃とアニメやエロゲの話で意気投合する御鏡。
桐乃にとっては、新しいオタ友達ができて良いことですし、兄としては歓迎すべきことでしょう、兄としては。

P.241-242
「これさっき御鏡さんにもらったんだけど、りんこりんとお揃いのペンダントなんだよ!? 世界に一つしかないんだって! 超凄くない?」
「……た、確かに……無駄に凝っているわね。才能のあるキモオタって、恐ろしいわ……」
そういう黒猫も、首に付けた逆十字のロザリオを触って、機嫌良くしていた。
そんな二人の様子が、何故か俺は面白くない。
ちっと舌打ちして、水を差すようなことを言ってしまう。
「はん、俺としちゃー、鼻につく野郎だったけどな。爽やかなやつかと思いきや、とんでもねーキモオタだったしよ」
「…………」
びくっと意表を衝かれたような表情で目を大きくし、固まる黒猫。
かたや桐乃は、振り向くなり毒を吐いてきた。
「……キモ、陰口とかサイテー。あんたと比べたら億倍マシだし。つーかぁ、あんたが御鏡さんに勝ってるところなんて、一つでもあったっけ?」
がッ……!! 言うか? 普通、言うか? 事実でもそういうことをよ……!

京介の嫉妬劇場開始。

P.243-244
「不景気な顔をしているわね」
俺のすぐとなりで囁いたのは、制服姿の黒猫だ。今日はコミケの反省会ということで、学校でゲー研の集まりがあった。いまはその帰り道ってわけ。
「んなことねーよ」
俺は歩きながら、すげない口調で否定する。
黒猫は俺の言葉に納得せず、確信を持った口調で言う。
「……あなたが何を考えているのか、当ててあげましょうか?」
(中略)
「『昨日コミケで会ったあいつが桐乃の彼氏だったら、俺はもう用済みだな』」
「…………」
「……どう? 当たっている?」
……こいつ。
俺は高坂家を目前にして、ぴたりと足を止めた。じりじりとした熱気のせいで、額から汗が一筋垂れて落ちる。
「……ふん。なんだ、それも例の『闇の力』ってやつか?」
内心を言い当てられて面白くなかったので、つい、嫌な言い方をしてしまった。

黒猫に内心を言い当てられて面白くない京介。
桐乃と御鏡のことを相当気にしているのがわかります。

P.245-246
「おまえ、俺のこと、好きなの?」
いつかと同じ問いを口にしていた。からかい混じりだったあのときとは、心境が違いすぎる。
答えを待っているたった数秒が、永遠のように感じられた。
「好きよ」
黒猫は、以前と同じ答えを――否。
「好きよ……あなたの妹が、あなたのことを好きな気持ちに、負けないくらい」
少しだけ違う答えを返した。
「……えっ、あ――」
かぁっと脳が沸騰する。麻薬を直接頭の中に流し込まれたような、陶然とした気分。情けないことに、俺は何かを言おうとして、噛んでしまう。ごくりとツバを飲んで、もう一度口を開いた。
「……じゃあ、あのとき、俺に……キスしてくれたのって……」
「……あれは、ね。……あれはっ……――」
問いへの答えは、返ってこなかった。


「――――あんたら何やってんの?」
いつの間にか玄関の前に、扉を開けた体勢で、桐乃が立っていたからだ。
桐乃は両目を見開き、凍結したように固まっていた。

黒猫の唐突な告白。
黒猫はなぜこのタイミングで京介に告白したのでしょうか?
場所は高坂家の前で、『オタクっ娘あつまれー』の打ち上げ直前。
僕にはわざと桐乃に聞かせるためとしか思えません。そうじゃないと、タイミングが不自然過ぎます。
「好きよ……あなたの妹が、あなたのことを好きな気持ちに、負けないくらい」というのは、黒猫から桐乃への宣戦布告でしょう。

P.246
「――――」
俺も(たぶん黒猫も)、心臓が止まりそうなほど驚いたが――よく考えて見れば、別に、だからどうだということもない。
俺と黒猫がどんな話をしていようと、それを聞かれようと、こいつにはあまり関係のないことだからだ。なのにどうしてか、俺は息を呑んで固まってしまう。
はっと正気に立ち返ったらしい桐乃は、蔑むような視線を寄越す。
「……んなとこで何やってんの? ……さっさと入れば?」
いつもの口調でそれだけ告げて、ぱたんと扉を閉めた。

桐乃に告白の場面を見られたはずなのに、黒猫がそれについて動揺するような素振りがまったく見当たりません。「俺も(たぶん黒猫も)、心臓が止まりそうなほど驚いたが――」の部分は京介の単なる主観です。
黒猫は既に覚悟を決めているので、桐乃に話を聞かれたのも計算のうちなのでしょう。

P.246-247
「……は、入るか、沙織ももう来るだろうし」
話を切り換えるようにそう言った。
だが、扉に向かって一歩を踏み出した俺のシャツのすそを、黒猫が引っ張った。
話は終わっていないわよ――そう主張するかのように。
「ねぇ……先輩」
「……なんだ」
「私は、あれからずっと、考えていたことがあるのよ」
「……考えていたこと?」
ゆっくりと振り向く。黒猫は俯いていて、その表情は窺えない。
「ええ。どうしていいか分からなくて――どちらを選んでも後悔する気がして。こんなに迷ったのは、生まれて初めてかもしれないわ」
どちらを選んでもとは、何と何のことだろう。俺には本当に、心当たりがなかった。
だから、大切な後輩に、何と言ってやればいいのかも、分からない。

黒猫が考えていたことというのは、京介と桐乃(好きな人と親友)のとちらを選べばいいのか? ということでしょう。

P.247
「それで……ね。結局私は、ある人を見習って、自分の欲求に素直になろうと決めたの。思い切り、欲張りになろうと決めた。……きっとあの女ならこんなとき、どちらかを諦めたりはしないでしょうから」

ある人とあの女というのはどちらも桐乃のことです。
実際の桐乃はこの後に京介のことを(一旦)諦めかけるので、黒猫は桐乃を買い被り過ぎているきらいがありますね。

P.247-248
「……すまん、俺には、おまえが何を話しているのか……」
「……構わないからそのまま聞いて」
少し震えた口調から、黒猫の必死さが伝わってくるようだった。
「私は――もはや遠慮はしない。私がちゃんと納得できるように、私にとってもっとも望ましい結果がもたらされるように、私なりの全力を尽くすわ」
――そうでなければ、きっと嘘でしょう?
迷彩された彼女の言葉は、やはり俺には理解りにくく、
それでも、胸の奥に確かに響いた。

黒猫の言いたいことを要約すると、黒猫は京介を好きになってしまったが、親友の桐乃も京介を好きなことを知っていて迷っていた。が、結局桐乃を見習って、自分の欲求に素直になり、思い切り欲張りになろうと決めた。そしてどちらも手に入れるために、自分がちゃんと納得できる、もっとも望ましい結果がもたらされるように自分なりの全力を尽くす。……と、こういうことですね。
黒猫の語るもっとも望ましい結果については、8巻の運命の記述(ディスティニーレコード)のところで考察します。

黒猫がいう嘘というのは、二人とも京介へ恋愛感情を持っていながら、お互いそれを隠してそんなものはないかのように仲良くしている今の桐乃との関係は嘘(偽物の友情)だと言っているのでしょう。
黒猫は桐乃と「お互い正直になって正々堂々と勝負すること」を望んでいます。

P.250-251
そうだよな……。沙織まで、事情が分からないながらもフォローしてくれているんだ。
こんな変な雰囲気のままで、いていいわきゃねーよ。
黒猫にアイコンタクトを送ると、彼女は、ほのかに赤い顔で頷いてくれた。
「……き、気を取り直して打ち上げを始めましょう」
「その前に、報告しておくことがあるんだケド」
仕切りなおそうとした途端、桐乃がおもむろに口を挟んできた。
「……え?」
「あんだよ、桐乃」
俺と黒猫が同時に桐乃を見る。と、妹は目を伏せて、
「――あたし、御鏡さんと付き合ってるから」
唐突にそんなことを口走った。あんまりいきなりだったものだから、俺を含めた皆の反応も、「は?」という当惑で統一された。
そんな俺たちに向かって、桐乃はさらに衝撃的な発言を突きつけてくる。
ちょうど俺を真っ直ぐ睨み付けるようにして、
「……もう、キスもしたし」
「はあ!?」
目を剥いて怒鳴ると――桐乃は俺の怒声を受け流すようにそっぽを向いてしまう。

打ち上げを始めようとする黒猫を遮り、御鏡と付き合ってることを唐突に報告する桐乃。
これは明らかに、先ほどの黒猫の京介に対する告白に対しての当て付けです。キスの話を持ち出したのも、京介が黒猫にキスされたときの話を、桐乃が聞いていたからでしょう。
それを聞いて桐乃は、京介と黒猫が自分の知らないうちにキスまでするような関係になっていたと誤解してしまった。信頼していた二人に裏切られて、桐乃の内心は怒りで一杯になり、こんな当て付けをしたのでしょう。

桐乃と御鏡が付き合っているというのが嘘だということは、桐乃が目を伏せて言ったところから、この時点で十分推察可能です。

P.251-252
「……あなた……」
呆然と呟く黒猫を、桐乃は挑発するように一瞥して、
「……なに? なんかあたしに言いたいことでもあんの? ねえ?」
「………………」
「ないよね? じゃ、打ち上げ始めよっか!」
嬉しそうな声を張り上げる桐乃。
しかし――楽しい打ち上げが始まることはなかった。
「――――」
桐乃の台詞を聞いた途端、どん、と音を立てて黒猫が席を立った。
両拳を握りしめ、無言で震えている。
「お、おい……黒猫……どうしたんだよ」
俺が顔を覗き込もうとすると、黒猫は嫌がるように首を振り、そのままスタスタと扉に向かって歩いて行ってしまう。扉の手前で振り返り、桐乃を睨む。
「……莫迦なお子様には付き合っていられないから、帰るわ。……勝手にやっていなさい」
低く怖い声だった。誰かが口を挟む間もなく、黒猫は再び俺たちに背を向け、扉を開けて姿を消した。
黒猫が桐乃に対し、これほどまでに嫌悪感を露わにしたのは、きっと初めてのことだ。
会ったばかりのころの険悪ないがみ合いでさえ、ここまで冷たいものではなかった。

黒猫からすると、告白のことはひとまず置いておいて、まずは沙織のために打ち上げを楽しもうと思っていたのに、桐乃が突然当て付けのような行為を始めたので、桐乃の余りの子供っぽさに失望し、怒りが押さえられなくなったのでしょう。打ち上げを放り出して帰ってしまいます。

桐乃も桐乃ですが、黒猫のこの行為もどうなんでしょう?
そもそも先に桐乃を怒らせる原因を作ったのは黒猫なわけで、いくら桐乃が想定外の行為をしてきたとはいえ、桐乃が言いたいことがあるなら聞くという姿勢を見せたにも関わらず、それを拒否してロクに話をしようともせず、感情のままにその場を放棄してさっさと帰ってしまうのはあまりに無責任に思えます。

ほんのさっき「私なりの全力を尽くす」と語った言葉は一体何だったのか?
何も悪くないのに巻き込まれた沙織が気の毒でなりません。

P.253
「……いまの……どういうことだよ……!」
「はあ?」
「だから! 付き合ってるとか、なんとか!」
本当は違うことを聞きたかったのに、微妙にずれた質問になってしまう。桐乃は俺を見くだすような瞳で見つめながら、しかし答えようとしない。

京介が本当に聞きたかったのは、御鏡とキスしたという部分についてでしょう。
しかし、それは口に出すのも嫌だし、桐乃に事実と肯定されるのが怖いので、微妙にずれた質問になってしまっています。
肝心なところでヘタレる京介さん、カッコ悪いです。

P.253
「いつからでござる?」
妙に冷静な声で、沙織が桐乃に聞いた。
「こっち帰ってきてからすぐ。美咲さんにスカウトされて、それを『モデルに復帰するかどうかも決めてない』っていったん断って――そのすぐあとかな。二回目のスカウトを受けたとき、美咲さんが彼を連れてきたの」

この桐乃の説明は、当然嘘ですね。
御鏡と出会ったのがこの時なのは本当でしょうが、桐乃が御鏡を偽彼氏に仕立てようと考えたのは、夏コミの時のはずですから。

P.253
『モデルに復帰するかどうかも決めてない』――確かに、帰国した直後、そんな内容の電話をしていた気がする。

さっきの桐乃の説明と、この京介のモノローグは、御鏡が桐乃の彼氏だと読者に思い込ませるためのミスリードでしょう。
嘘の中に少しの事実を混ぜるのは、嘘をさも本当に見せるためのテクニックの一つです。

P.253-254
「で? なんでそんなことを、『今』言ったんだ」
「ふん」
桐乃は鼻で嗤った。
「……なんでだと思う?」
「はあ? てめーのことだろうが。なんで俺に聞いてんだよ」
当然の台詞をぶつけてやると、桐乃は冷えきった視線をさらに細めて俺を一瞥した。
「あっそ、ま、そーだね」
そっぽを向いて、ふざけた声でほざく。

『今』言った理由については先程も説明しましたが、玄関で京介と黒猫の話を聞いたからですね。
桐乃としては自分がそんなことをする理由に気づいて欲しいのですが、頭に血が昇っている京介はまったく気づきません。
そんな京介の様子を見て、失望する桐乃。まるで、噛み合っていませんね。

P.254
「んだそりゃ……」
バカにしてんのか。
「だって、誰と付き合おうがあたしの勝手なんでしょ? あんたが言ったんじゃん」
「そうだけどよ……おまえ、ちゃんと考えたのか?」
「……は」
桐乃は、依然として嘲弄するような口調を改めない。
「考えるまでもなくない? あんないい人他にいないっての。誰かさんと違って顔はいいし? お金持ちだし? チョー才能はあるしぃ~」
イライライライライライライライライライライライラ。
場の雰囲気がマッハで悪くなっていく。
俺の仏頂面を、ゴミを見るような目で蔑みながら、桐乃は御鏡のいいところをあげつらう。
「それに話がすっごい合うし、趣味だって同じだし、もし付き合ったら……僕は絶対浮気しないって……誓ってくれたし」
そこで語気が荒くなった。
「おまけにちゃーんとあたしの話を聞いて、尊重してくれるしね! 誰かさんと、ち、が、っ、て!」
んべっ。
もんのすご――――――――――――――く腹立つ顔で、舌を出す桐乃。
脳の血管がブチ切れるかと思ったわ。

鈍感な京介に対し、更なる当て付けを始める桐乃。
ことさらに京介と御鏡を比べて煽りまくります。
ちなみに「僕は絶対浮気しないって……誓ってくれたし」の部分は言葉に詰まってることからもわかるように、桐乃の嘘でしょう。京介が黒猫と浮気してる(と思い込んでいる)ことに対しての当て付けですね(兄妹という関係で浮気も何もないんですが、桐乃にとっては浮気なんでしょう、理不尽過ぎる……)。

P.254
俺は妹を殴りたがる腕を、必死の想いで押しとどめ、
ばんっ! 代わりにテーブルブッ叩いて立ち上がった。
「ああそうかよ! そんなに言うなら勝手に――」
しやがれ! という叫びは言葉にならず、喉のあたりで停止した。ただし消えはせず、黒く濁った不快感は、胃の中へと流れ落ちて沈殿していく。
桐乃はソファに座ったまま、情けない兄貴を、一年前のような表情で見上げる。
「……なに? 続きは?」
「…………知るか」
「あっそ。じゃ、あたし部屋戻るから。――あとよろしくね!」

ここで桐乃を突き放してしまったら、兄妹の関係が冷戦の頃のように戻ってしまい、今の大切な日常が壊れてしまう。
京介は桐乃の真意がわからないながらも、そこについては本能的に察したのでしょう。ギリギリで踏みとどまります。

P.255-256
……なんだってんだ。
なんで俺が、こんなくだらねーことで! こんなくだらねー気分にならなくちゃいけねーんだよ! ああ……イライラする。イライラする。どうにもこうにもイライラして、まともにものを考えられない。俺は言葉にならない嫌な気分を飲み込んだまま、歯を食いしばった。
「……仕方ありません。片付けましょうか」
沙織がぽつりと呟いた。
その言葉を聞いて――とてつもない罪悪感がわき上がってくる。
「は――――――――っ」
くそ……くそ! なにやってんだ、俺は。
沙織に申し訳ねえよ。このお人好しの寂しがりやは、こんなものを見たくって、集まり(コミュニティ)を維持し続けて来たわけじゃない。
(中略)
「ごめんな」
謝罪の言葉が、自然と口を衝いて出てきた。
「ほんとにごめんな……沙織」

この巻の京介は本当にダメダメなのですが、ここで反省し、沙織にちゃんと謝罪できるのが京介の偉いところ。
感情のままに場を放り出して、さっさと出て行ってしまう桐乃と黒猫とは大違いです。
さすがに年上なだけあって、あの二人よりはずっと大人ですね。この後の沙織の対応は、それ以上に大人で凄いんですが。

P.261-262
「ほら、あんたも挨拶なさい。この人は、桐乃のカレで――」
「――そこ、俺の席なんだけど」
無造作に歩み寄りながら、険悪な口調で言ってやると、御鏡は慌てて立ち上がった。
「ご、ごめんなさい」
「京介! なに、その態度は!」
「…………」
うっせえな。なんか気分悪かったんだよ。
「御鏡さんに謝りなさい!」
お袋の怒りももっともだけどな。
イヤだよ。だってムカつくんだもん、こいつ。
我ながらガキ臭い態度である。しかし、こいつが現れたことがきっかけで、いま俺たちはゴタゴタしてしまっているのだ。穏やかでいられるはずもなかった。

この京介の態度は最悪ですね。
最大限好意的に解釈すれば、大事な妹である桐乃を御鏡に取られたヤキモチから来る態度であり、つい、こんな態度を取ってしまうぐらい京介にとって桐乃は大事な存在であると解釈できますが……。

P.263
「京介、いい加減に――」
お袋が席を立つのと同時に、別の場所からガタンという音がした。音がしたのは俺のすぐとなりからだ。横を見ると、桐乃が立ち上がり、無表情で俺を見下ろしていた。
ぱぁん!
「……!」
俺の頬に、強烈な平手打ちが炸裂する。
「な、なに……しやがる!」
口内に血の味を感じながら妹を睨み付けると、桐乃は短く呟いた。
「ウザいんだよ」
扉を真っ直ぐ指差し、
「出てけ、今すぐ」
憎悪のこもった一言だった。さすがのお袋も娘の迫力に息を呑んでいる。

京介に平手打ちを炸裂させる桐乃。
ここで桐乃が言う「ウザい」は、普段京介に言う「冗談交じりのウザい」とはまったく違う「そのままの意味のウザい」であり、京介に対し本気で怒っているのが窺えます。
ブラコンの桐乃は、こんなに格好悪いお兄ちゃんは見たくなかったのでしょう。

P.267-268
「京介、おまえ……あの馬の骨と面識があるのか?」
馬の骨ときたよ。
「会うのは今日で二度目だ」
「……どういう人間なんだ?」
どうやら親父、早々に逃げ出してきたせいで、御鏡のプロフィールをなんにも知らないらしい。しかし、娘が連れてきた男のことが、気になってしょうがない……ってわけか。
俺も他人のことは言えないが、めんどくせえ人だな。

桐乃の面倒くささは、父親似なんですかね?

P.269
「なんだ、京介。おまえは賛成なのか?」
「……………………」
それは、俺にとって、根本的な問いかけだった。
桐乃に彼氏がいることに――賛成なのか、反対なのか。
いみじくも、桐乃と口論になったのも、この話題がきっかけだったな。
「………………」
賛成、と言うべきなのだろう。反対する理由がない。確かに気に食わないっちゃ気に食わないが、この苛立ちを上手く言葉にできそうにないし、何より自分で口にしたことだ。
「是非もねーよ。桐乃が決めることだろ」

親父に賛成なのか? と問われ、言いも悪いもない、桐乃が決めることだと返す京介。
兄としては、優等生的でまったく問題ない答えですが……。

P.270-272
「俺は反対だ」
親父は、腕を組んでふんぞり返り、ハッキリと言い放った。
「いや……親父、そりゃ理不尽だろ。自分で決めさせてやれよ」
「イヤだ」
こ、このオッサン! すねた駄々っ子かよ!?
予想外の展開に俺が引いていると、親父はムスッと下唇を押し上げ、
「桐乃に恋人だと……? ぐぬぬ、想像しただけで腹が立つ……!」
俺も俺も。
でも! だからって! わがまま言うなよ!
「京介……おまえ、ちょっと行って別れさせて来い」
「いやいやいやいや!」
なに言ってんのアンタ!
「そ、それは……いくら何でも筋が通ってないんじゃないか?」
「知ったことか! 何事にも例外はあるのだ! ……くそ、やはり二、三発殴ってくる。話はそれからだ」
(中略)
みっともねえ……めちゃくちゃみっともねえぞ親父!
「……へっ」
ったく……親バカめ。どんだけ娘を溺愛してんだよ。
あーあ。はーああ……。なんか、力抜けちまったぜ。
俺は、さっぱりとした心持ちで、深い息を吐いた。
苦笑とともに言う。
分かった
(中略)
よく似た立場の親父と話して――分かったからだ。
「俺も親父と、同じ気持ちだからな」

そんな京介と違い、父親は駄々っ子のように反対します。
自分の感情に素直になる父親。その言動は京介が隠していた本音そのものであり、それを見せられた京介は自分の本当の気持ちに気づき、決意を固めます。

P.272-273
「さっきは悪かったぁ――――――――っ!」
俺は妹の目の前に立つや、いきなり土下座した。さっき俺がこいつらに取った態度、そしてこれから俺が言おうとしていることを考えれば、このくらいの誠意は見せて当然だった。
(中略)
「ふて腐れて、おまえの彼氏にあんな態度を取ってちまって本当にごめん!」(注:取ってちまっては誤字だと思いますが原文ママ。合本版でも修正されていません)
がつんと床に頭をたたきつける勢いで詫びる。
数秒の間があり――頭上から妹の声が降ってくる。
「も、もういい! つか……そんなことされたら余計にメーワクだし……出てってよ」
嫌う価値すらない。そんなニュアンスの込められた言葉に、胸が締め付けられる。

桐乃と御鏡に対して、さっきの態度を土下座して謝る京介。
桐乃の台詞を「嫌う価値すらない。そんなニュアンス」と京介は解釈していますが、桐乃は、単に格好悪いお兄ちゃんの姿をこれ以上見たくないだけでしょう。

P.273-274
「昨日おまえ、俺に聞いたよな。『どうして欲しい?』って……」
「――」
騒ぐ声が止まった。俺はそのまま先を続ける。
「あのときは『おまえが決めればいい』みたいなこと言ったけど、ありゃ――やっぱなしだ」
「なっ……なにを、」
「俺が、おまえにどうして欲しいかってんなら……男と付き合うのなんかやめて欲しい」
我ながらひでえ台詞だった。仮にも兄貴が、妹と、妹の彼氏の目の前で、何をバカなことを口走ってやがる。でも、それでもなお俺の口は、正直に動いたのだ。
「……なんで」
ほとんどこちらに届かない、妹の小さな声。俺は自分の気持ちをそのまま伝える。
きっと、大切なことだから。
「なんでだろうな、俺にもよく分かんねえ」

正直に桐乃に自分の気持ちを伝える京介。
ここは特にフィルターはかかっていない京介の本音以外あり得ませんから、素直に受け止めて問題ないでしょう(ここに嘘が混じっていたら、この感動的なシーンが台無しです)。
この時点では京介自身、自分の気持ちがよく分かっていないようです。

P.274-275
「でもな桐乃。兄貴が、妹に彼氏ができるのがイヤだなんて――言えないだろ。『妹の気持ちをなんだと思ってんだよ』って、自分のことじゃなかったら絶対そう思うし。逆に自分に彼女ができたとき、妹に反対されたら『なんだそりゃ、そんなの俺が決めることだろ』って怒ると思うし。……だから、あんなふうに言うしかなくて――」

ここは重要な伏線。
京介が黒猫と付き合うきっかけになる台詞で、この後、桐乃が電話で黒猫が京介に告白すると聞いた時に、桐乃が反対しなかった理由がここに書いてあります。
京介が桐乃に対してできなかったこと(妹が御鏡と付き合うのを反対せず妹の意思に任せること)を、桐乃はちゃんと京介にやってあげた(兄が黒猫と付き合うのを反対せず、京介の意思に任せること)んですね。
これについては8巻のP.267-268にも書いてあります。

P.275-276
「御鏡……おまえ、桐乃のこと、好きなのか?」
「はい、大好きです。尊敬してますよ」
緊迫した修羅場のような空気の中、穏やかな微笑みをたたえたまま淀みなく答える御鏡。
「それが――どうかしました?」

この御鏡の大好きと尊敬してますは、もちろん恋愛感情ではなく、モデル仲間やオタク友達としてという意味でしょう。
御鏡がどこまで狙ってやっているのか、単なる天然なのかはわかりませんが、偽彼氏役としては実に上手くやってくれています。

P.276-277
「おまえには桐乃はやらん」


――クソ喰らえだ。知ったことかよ。
気づけば俺は立ち上がり、御鏡に向かって心の底からの本音を言っていた。
言い訳をするようだが、これは何も特別な感情じゃない。俺と同じ状況に立った兄貴なら誰だって言ってやりたい台詞だろう。
まあな……『その感情』が、人によって、強いか弱いかの違いはあるだろうよ。

『その感情』というのは妹を取られたくないという『独占欲』のことでしょう。
これは京介の言う通り、妹を持つ兄なら多かれ少なかれ持つ感情でしょう。普通は、内心京介のように思っていても、みっともないので表に出したりはしませんが。

P.277-278
「桐乃と付き合いたいってんなら、てめえ! この俺に認めさせてみろ! 俺よりもおまえの方が、桐乃を大切にしてやれるってことをな!」


――めちゃくちゃ嫉妬深くて! 空気が読めなくて! 往生際が悪ぃんだよ!
文句あっか畜生!
(中略)
「だが残念だったな! おまえより俺の方が桐乃を大切にする! ぜってーだ! だからおまえには桐乃はやらん!」
「……自分が認めた男じゃなければ、妹は渡せないと?」
「そうだ! おまえがどんなに凄いやつだろうが……俺は妹が心配なんだよ! 心配で心配でしょうがねえんだよ! ――悔しかったら俺を安心させてみやがれ!」
再び部屋に沈黙が満ちた。
言っちまった。あー……言っちまったぜ。顔から火が出るほど恥ずかしい。
でも、スッキリしたな。言葉にしてみて改めて自覚した。
ああ、ああ、白状する。いまのが俺の本心だよ。
なんだかんだ言って俺は、妹がかわいくてかわいくてしょうがなく、そんな妹を他の男に取られるのが悔しくて、腹立たしくて、寂しくて。
そしてなにより心配だった。

ここも紛れも無い京介の本音でしょう。
桐乃に彼氏ができた(と思い込んでしまった)ことにより、ようやく曝け出された京介の本音です。
御鏡は桐乃の彼氏としては申し分ない存在ですし、京介が普通の兄なら、ここで彼氏の存在を嫌々ながらも認めるはずです。
なのに京介はハッキリと嫌だ、御鏡を彼氏として認めない、桐乃は渡さない、自分の方が桐乃を大切にすると言った。これは桐乃を普通の妹以上に見ているからに他なりません。じゃなきゃ、ここで認めないという理由がない。

まぁ、京介自身はまだそこまで気付いていませんし、この気持ちは兄としての感情で、シスコンだからとしか思ってはいませんが……。

P.278
相手はなかなかたいしたヤツだし、桐乃だってしっかりしてる。大丈夫だと頭で理解していてもなお、心配だった。心配で心配で、たまらなかった。ウソみたいだ。俺はいまだに桐乃のことが、大嫌いだってのに。相反する妹への想いが、矛盾することなくここにある。

ここは京介の桐乃への気持ちの本質をズバッと突いています。
桐乃のことが大嫌いだってのに、そんな妹のことがかわいくてしょうがなく、そんな妹を他の男に取られるのが悔しくて、腹立たしくて、寂しく、心配で心配でたまらない。
明らかに矛盾しているようで、矛盾していない。分かりにくいかもしれませんが、これが京介の桐乃に対する嘘偽りのない気持ちなのです。

京介にとって桐乃は自分と違い学校の成績もトップクラスで、陸上でもモデルでも小説でも友達付き合いでも何でも器用にこなす妹で、両親の愛情もそんな桐乃に向きがちという、兄である自分のコンプレックスを嫌になるぐらい刺激する人間です。
こちらが桐乃に対して何かしてやっても、ムカつく態度で返され、何を考えているのかよくわからずに、理不尽な目に遭わされたことは数知れず(もちろんそうじゃない時もありますし、(たまには)感謝もされていますが)

しかし、そんなムカつく妹でも、京介にとっては妹なのです。
秋葉原での赤城との会話(6巻 P.101~)でもありましたが、兄が妹の面倒を見るのは子供の頃からの習慣であり、京介にとっては当然の行為なのです。そこに好き嫌いは関係ない。
好きだろうが、嫌いだろうが、妹の心配をすることは兄として当然だし、大切な妹がポッと出の男に取られたらムカつくし、嫌だ。

これがこの時点での京介の本音です。

P.279-280
「自分はっ! 自分はっ! 地味子とかっ……あの黒いのとかといちゃついてるくせに! 勝手なこと言うな!」
ばんっ! 思いっきり頬を張られた。
「文句あるに……あるに! 決まってるでしょ……!」
(中略)
あのときは気持ち悪いみたいな顔したくせに! なんでいまさら! いまさら! そんなこと言うのよ!」
濁流のように溢れる想いと言葉が、俺の胸に流れ込んで来る。
だけど俺には、勢い任せに紡がれた言葉の意味まで、くみ取ってやることができない。

あのときと言うのは、この巻の冒頭(前巻のラスト)の桐乃の告白の時のことですね。
桐乃からすれば上手くいくと思って本気で告白したのに気持ち悪いみたいな顔をされ、偽デートの時は「お前の彼氏役なんざ、もう二度とごめんだね」と突き放され、麻奈実や黒猫といちゃついていたかと思えば、今度は唐突に「自分の方が桐乃を大切にする、桐乃はやらん!」などと言い出す。
ちぐはぐな京介の態度に、頭と気持ちが混乱しているのでしょう。

P.282
「僕が代わりにもう一度言いますけど……とりあえず、僕が桐乃さんと付き合っているというのは、嘘なんです」
「嘘だとぉ!?」
ようやくここで、こいつらが言わんとしていることの重大さに気づき、愕然とした。
「はい、キスどころか手も触れてませんよ。『彼氏のふり』をしてくれって頼まれたんです」
……『彼氏のふり』って……俺と、あのときと、同じ――。
え? え? じゃあ、なんだ? 俺はこいつらのドッキリに見事引っかかって……。
あんな、あんな……あ、あ、あああ、あんな台詞を!?
ぬがあああああああああああああああああああああ! なんだっ、なんだそりゃあ!

御鏡によるネタばらし。
見事引っかかった京介が哀れすぎる……でも、これがあったこそ自分の本当の気持ちに気づけたわけだし、結果オーライですね。

P.282-283
「どう……して」
俺の口からは、それしか出てこなかった。どうしてそんなことをしたのか。
(中略)
「――ええと……桐乃さんは、お兄さんに、気付いて欲しかったんですよね?」
「ち、違う!」
桐乃が勢い良く否定した。俺はたまらず口を挟む。
「じゃあ、何だよ?」
「それは……それは! っ……!」
喉まで言葉がでかかって、それでもなかなか言えなくて。
「あんたがっ……あんたがっ……!」
桐乃はとても苦しそうな表情で俺を見上げた。
「あんた……が……っ」
あー……くそ。ちくしょう。
ギブアップだ。もう、耐えられん。
『桐乃の彼氏騒動』がドッキリだろうが、でたらめだろうが……俺は妹を大切にする兄貴なのだ。そんな顔をさせておくわけにはいかなかった。

御鏡が桐乃に言う気づいて欲しかったというのは、京介に桐乃の気持ちに気づいて欲しかったという意味でしょう。
桐乃は勢い良く否定しますが、これはもちろん嘘です。ここで桐乃が言おうとして言えなかったことについては、8巻のP.267で桐乃の口から語られるので、そこで説明します。

P.283-285
いいよ
「え……?」
「無理に言わなくていいっつーの」
ぽん、と、妹の頭に手を置いて、撫でてやった。
「あ、あんた……な、なに……」
「なに……って兄貴の義務を果たしてんだよ」
こいつはイヤがって怒るかもしれないが、こんな顔をされているよりはずっといい。
「……ぅ……ぅっ……」
「な、泣くなよ。……なんだってんだ……」
本当に俺はバカ野朗だ。やることなすこと裏目に出る。
俺は泣きべそをかく妹の前で、無様にあわてふためくしかなかった。

苦しそうな表情をする妹をどうにかしようと、妹の頭にぽんと手を置くいつもの仕草をして「兄貴の義務」を果たしてるという京介。
一見問題ない行為に思えますが、これらは桐乃にとっては「最悪の答え」です。
この後で桐乃が泣いているのは、嬉しくて泣いているわけではありません。

京介が自分を妹扱いしかしてくれない、兄妹という壁をどうしても越えることができない、自分は妹だから(黒猫とは違い)京介の彼女にはなれない。それが悔しくて、悲しくて、泣いているのです。

そして、京介はそんな桐乃の気持ちに全然気づかず無様にあわてふためいているだけです……ダメすぎる。
やることなすこと裏目に出るというのは、まさにこの巻の京介のことですね。

P.286
そこでお袋は、はっと恐るべき事実に勘づいてしまったような顔になった。
「ま、まさか、まさかあんた――」


「ついに妹に手をだしたのね!?」


「ええ――ッ!?」
ちょ! お袋! なんでそうなるんだよ!?
「とぼけるんじゃないわよこの鬼畜……! お隣の奥様から聞いて知ってるのよ? あんたたちこの前二人仲良く腕を組んで駅前を歩いてたでしょう……!?」
世間せめーよ! そんなところまでご近所の目が……!
「まさか兄妹で三角関係だなんて……ダメよ! お母さん絶対許しませんからね!」
「違う! 誤解だって!」
「じゃあなんで桐乃泣いてるの! あんたが泣かしたんでしょ!」
「そうだけどさ! 違うんだって!」
ああもうめんどくせえ――!

桐乃、父親に続いて、今度は面倒くさい母親が……。
この面倒くささは高坂家共通のものなんでしょうか? 京介の苦労が忍ばれます。

「まさか兄妹で三角関係だなんて……ダメよ! お母さん絶対許しませんからね!」というのは伏線です。
これに関してはまた後で考察します。

P.286-287
ダメだこりゃ……。
結局俺には、すべてを上手く片付けることなんてできない。世間体とか、プライドとか、色んなものをぐちゃぐちゃにしたまま、勢いだけでその場をどうにかしのいできたけれど。
そんなやり方は、そのうち破綻するんだろうな。
そのときはそのときだ。

未来を示唆するようなモノローグ。
いろいろなことを先延ばしにした結果、最終巻では結局麻奈実やあやせとの関係は破綻したまま終わってしまいましたからね。

P.287-288
「――初めは美咲さんに、桐乃さんの説得を頼まれていたんです」
海外に行くつもりのない桐乃を心変わりさせるため、美咲さんは、もっと良質の彼氏をあてがおうとしたわけだ。ところが御鏡も桐乃も、それにのってやるほど単純なやつじゃなかった。
「桐乃さんはとても素敵な人ですけど、僕には荷が重い相手ですよ。友達としてならともかく、桐乃さんの恋人なんて、僕には無理です。到底つとまりません」
分かるでしょう? という自嘲混じりのアイコンタクト。
「ですから京介くんの心配は的を射ていたわけですね。あなたは妹さんを護るために、正しい行動を選択していた。ばかなことをした――そう思っているのかもしれませんが、胸を張っていいと思いますよ」

御鏡のネタばらし。
ここはそのままなので、説明の必要はないでしょう。

P.289
残された問題、桐乃と黒猫の仲直りについても、俺が何かをするまでもなく解決した。
騒動のあった夜のリビング。ご機嫌で酒を飲む親父をよそに、桐乃は黒猫に電話をかけて、長々と話していたようだった。――もちろん、その内容は知るよしもない。
ただし、電話を切ったあと、妹は妙にサッパリとした顔で言ったものだ。
「――明後日、打ち上げのやり直し、するから」

ここでの電話の内容は8巻のP.268で明かされますが、黒猫はこの電話で、桐乃にお兄さんに告白してもいいかと桐乃に承諾を求めています。そして桐乃は『いい』と言った。
この時点で桐乃は京介に対する恋愛感情を一旦諦めて、妹として京介に接しようと決めています。
詳しい内容は8巻の考察で。

P.290
「ところでおまえが持ってたプリクラは、どっから持ってきたものだったんだ? 俺自身のぶんはきちんとしまってあるし、桐乃のぶんはあいつと喧嘩したとき、俺に投げてきやがったんだけど」
『……お兄さん、桐乃が投げてきたプリクラ、ちゃんと確認しました?』
「え? してないけど」
『ならいいです。なんでもありませんから、気にしないでください』

―――気になったのがあやせのプリクラシールなんですが、なぜ彼女はあれを持っていたんでしょうか?


伏見 :ある日の深夜、京介の部屋に窓からそっと忍び込んで持って行ったんですよ。
blog.livedoor.jp

上の伏見先生のが冗談だと考えた場合ですが、桐乃が投げつけたプリクラは、既に何枚か自分用に切り取った後だったのでしょう。
そして、その切り取ったプリクラを何らかの手段であやせは手に入れた。
その入手経緯は謎ですが、桐乃があやせに(のろけながら)プリクラを見せた際にうっかり忘れていったか、桐乃がうっかり落としたのをたまたまあやせが拾ったのか、そんなところでしょう。

P.294
「呪いは――解けないわ」
「は?」
「い、一度かかってしまった呪いは……もう二度と“解呪”することが叶わないの」
おい。
「話が違うじゃねえか。確かおまえの『願い』を叶えれば、呪いは解けるんじゃなかったか?」
「そうね。確かに……『私の願い』が叶えば、呪いは解ける。ただ、それはあなたにかかった呪いがなくなるという意味ではないのよ」
言ってる意味が分からない。黒猫のやつ、完全に電波入ってるが――しかし彼女の余裕のない必死な表情を見ると、『いい加減にしろ』なんて言えるわけもなかった。
「じゃあ……“解呪”ってのは?」
「もっと強力な呪いで、いままでの呪いを上書きすることよ」
そうして黒猫は、世界でもっとも強く、古く、恐ろしい呪いを口にする。


「私と付き合ってください」

ここで黒猫が言う呪いというのは、5巻の第四章で言ってた「あなたがへたれたら死ぬ呪い」と「黒猫の京介に対する恋愛感情」と2つの意味があります。
『私の願い』というのは高坂兄妹が(この時点では兄妹的な意味で)仲良くなること。もっと強力な呪いというのは黒猫と付き合うことです。
5巻の下の考察でも書きましたが、この呪いの意味は時間の経過や状況の変化によって内容が変わります。

>「呪いは――解けないわ」
>「い、一度かかってしまった呪いは……もう二度と“解呪”することが叶わないの」
ここでの呪いは「黒猫の京介に対する恋愛感情」という意味ですね。
要するに、好きになってしまったらもう止められないという意味です。

>「そうね。確かに……『私の願い』が叶えば、呪いは解ける。ただ、それはあなたにかかった呪いがなくなるという意味ではないのよ」
高坂兄妹が(この時点では兄妹的な意味で)仲良くなれば、(以前かけた)「あなたがへたれたら死ぬ呪い」は解ける。
しかし、それで自分の京介に対する恋愛感情が消えるというわけではないという意味になります。

「じゃあ……“解呪”ってのは?」
>「もっと強力な呪いで、いままでの呪いを上書きすることよ」
要するに、「以前にかけた呪いは解いてあげるから、私と付き合え」と言ってるわけですね。
黒猫らしい告白の仕方です。

7巻のまとめ

7巻のポイントは、

桐乃の告白を京介が(知らず知らずのうちに)断ったこと。
京介と桐乃の偽デートで、ツーショットプリクラを撮ったこと。
京介が桐乃に、彼氏ができるのは嫌だと正直に告げたこと。
黒猫が京介に対し恋愛感情を抱き、告白したこと。

この4つです。
特に京介が桐乃に、彼氏ができるのは嫌だと言ったのは大きいですね。まだ京介自身は気付いていませんが、桐乃に対し妹以上の感情を抱き始めていて、この気持ちは8巻で更に大きくなります。

次の記事

jitsumai.hatenablog.com