『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の伏線を改めて読み解き、「完全なる桐乃エンド」を考察してみた(9巻編)

注意

この記事はライトノベル俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を全巻読んでいることを前提に書いています。
おもいっきりネタバレがありますので、未読の方はお気をつけください。

9巻の時系列

日付 出来事 原作
9月2日の日曜日深夜 温泉宿で黒猫の父親に黒猫のことを説明する 真夜中のガールズトーク
9月の下校時 赤城と下校中に妹の自慢話を聞かされる 俺の妹はこんなに可愛い
翌日の休み時間 教室で赤城と、どちらの妹が可愛いか決闘する 俺の妹はこんなに可愛い
同日放課後 下校時に赤城と決闘の続きをする 俺の妹はこんなに可愛い
黒猫の引っ越し騒動のあと 秋葉原で沙織をハブったことを愚痴られ、姉の香織に出会う カメレオンドーター
とある日の放課後 瀬菜と桐乃が二人で乙女ロードに遊びに行き、どちらの兄の方がシスコンか勝負をする 突撃・乙女ロード
とある日曜日 加奈子のマネージャーとして『メルフェス』に行き、あやせと仲直りする あやまちのダークエンジェル
同日夕方 桐乃を迎えに行き、二人で自転車に乗って『メルフェス』会場に向かう 妹のウエディングドレス

プロローグ

P.11
激動の半年を語り始める前に、ひとつ断っておかなくてはならない。
妹の秘密を偶然知ってしまったところから、こうして長々と綴ってきた物語はすべて、あくまで俺の主観で見聞きしたものでしかないということだ。
当たり前の話で、しかし重要なこと。
語り部が変われば視点も変わり、俺が見てきた物語は、その様相を大きく変えてしまうのかもしれない。そして残念ながら、俺はそれらを見ることはできない。

この物語が京介の主観で綴られていることが明かされるシーン。
このことについては、アキバBlogのインタビューで作者が語っていましたが、小説の中で明示されたのはここが初めてです。
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(3) 発売記念インタビュー -前編- : アキバBlog

『あたしの姉が電波で乙女で聖なる天使』

P.25
「それに……彼のことを好きな人は、私以外にもいるし……」
(中略)
「私が告白することで、傷つく人がいるわ」
「じゃあ……告白しないってこと? 好きなのに」
「……………………」
姉が浮かべた表情はあまりにも真剣で、とても茶化すことはできなかった。

8巻の補完。
ここで黒猫が言う彼(京介)のことを好きな人は、間違いなく桐乃のことですね。
京介に告白することで親友の桐乃が傷つくことは、当然黒猫もわかってはいたのでしょうが、それがわかってても告白せずにはいられなかった、ということですね。

P.27
帰ってきた姉は、あたしが聞くまでもなく”熾天使ウリエル)“だの”巨神(アトラス)“だのとわけの分からない話を得意げに喋り倒したのだが――

1巻のオフ会から帰ってきた時の黒猫の様子。
熾天使ウリエル)“は桐乃のことで”巨神(アトラス)“は沙織のことでしょう。

P.66
「よくない! こほん、えと、その……あたしのことは、『桐乃お兄ちゃん』って呼んで」
「え? なんでお兄ちゃん?」
あたしが首をかしげると、高坂くんが桐乃さんに無言で突っ込みを入れていた。
桐乃さんは『おっと失敗しちゃったぜ』みたいな感じで、後頭部をかく。

無言で突っ込みを入れる京介に対し、怒ったりすることもなく、素直に受け入れる桐乃。
何気ないやり取りですが、兄妹の仲の良さを感じさせます。周りからは、高坂兄妹はこんな風に見えているんですね。

『真夜中のガールズトーク

P.73-74
あたしと京介も同じ旅館に別の部屋を取ったのだが、部屋割りは五更家も含めてシャッフルしちゃっていいはず。じゃないと……ほら、ね? あたしがシスコン京介に襲われちゃうかもしんないでしょ?

いくらお互い年頃とはいえ、兄妹なんだから別に同じ部屋でもいい気がしますが、わざわざ別の部屋を取るあたり意識し過ぎですね。この辺に桐乃のガチ臭が漂っています。

P.75
きっと黒猫が家で落ち込んでいるところは見てきたんだろうし、その原因が京介にあるってところまでは、幾つかの勘違いがありつつも察しているって感じなのかな……。
だとしたら京介、いまごろ黒猫のお父さんにフルボッコされているんじゃ……。
っあぁ~~~~~~~~~~~~もう! なんかやだなあ! それ!

兄を心配する桐乃。京介の主観が入っていないだけあって、非常に素直です。
京介の主観が、いかに脚色入っているかがわかりますね。

P.76
人生丸ごと投げ出すような、真っ直ぐで捨て身の恋愛。
自分はここまで恋愛に必死になれるだろうか――焦燥と尊敬と心配と感謝と恐怖と怒りが混ざり合って、あたしの胸を騒がせる。

自分は黒猫ほど京介との恋愛に必死になれるだろうかという焦燥。
そんな黒猫に対する尊敬。
兄妹で恋愛するということについての心配。
捨て身になって、自分の本音を引き出してくれた黒猫への感謝。
自分の気持ちを京介が知った時の反応への恐怖。
感謝はしつつも、色々と無茶な黒猫のやり方に対しての怒り。

……という感じでしょうか?

P.76
「あたしのためっていうか、まあ自分のためでもあるんだろうけど……気持ちは分かるってか、超感謝してるとこも、まあ、あるっちゃあるんだけど……」
うう、上手く言えないなあ。あたしっていつもそうだ。大事なことほど、なかなか相手に伝えられない。

この描写から、桐乃は今回の黒猫の行動や気持ちをちゃんと理解していることが窺えます。
2行目については、本当にその通り。京介に対して、桐乃の真意や気持ちとか全然伝わってないですよね。

P.76-77
「あんたにいきなり別れるって言われて、いきなりいなくなられちゃって――相手がどれだけ傷つくかとか、考えなかったわけ? 今回は結果オーライだったのかもしんないけど、あんたの言う”儀式“って、自分勝手で理不尽な厨二妄想でしかないよね。厨二妄想に救われたあたしがあえて言うけど、失敗する可能性だってあったし、そしたら相手が、超かわいそうじゃん」
「……ごめんなさい」
やば、こいつ泣きそう。でも、いまさら止められなかった。
「こっちこそごめん。助けてくれてありがとう。でも――ふざけんな」

桐乃の超正論に、泣きそうな黒猫。
最後の台詞に、桐乃の今回の事件に対する複雑な気持ちが表れていますね。

P.77-78
最近、つくづく思い知ったことがある。
あたしの兄貴は、無敵のスーパーヒーローなんかじゃない。
人並みのことしかできない、普通の高校生なんだって。
あたしもようやく、認められるようになってきた。
そんな人はいないよ
(中略)
ずっと前に指摘されて、認められず、いなくなったと思いこんで――
バカな日々を過ごしてきた。遠回りして、すれ違い続けてきた。
本当は、ずっと側にいてくれていたのに。

これは過去編の伏線ですね。
小学生の頃に兄のことを麻奈実に指摘されて、それを認められなかった過去の自分について悔やんでいる。そういう描写です。

P.78
悔しいなあ……。本当に悔しい。あたしは今回、ちっともいい妹じゃなかったし、いい友達じゃなかった。あの人の足元にも及ばなかった。

桐乃が言うあの人というのは麻奈実のことですね。
桐乃は今回の自分についてずいぶん卑下していますが、後半の京介を慰めるところからの桐乃は十分頑張っていたと思いますし、格好良かったと思います。

P.78-79
高坂くん超かっけえ!
寝巻き姿の日向ちゃんだった。はあはあ大興奮で息を切らしている。
「ルリ姉! キリ姉! こ、高坂くんがさ! 『超だっせー死ねよこいつ』と思いきや、超カッコイイんだけど! 何あの人! あたしを惚れさせる気なの!?」

ここで日向ちゃんが興奮している理由が、京介と黒猫の父親との会話にあるのはわかるのですが、肝心の内容が、ここでは詳しく明かされません。おぼろげに明かされるのは12巻にて。

12巻 P.172
それは黒猫の親父さんにも、約束したことだ。俺は妹の気持ちを裏切れないシスコン野郎であり、すべては馬鹿な俺が悪いのであり、瑠璃は俺たち兄妹を救ってくれた恩人で――だから彼女を責めるのはやめて欲しい。彼女の思い遣りを、勝手なレッテルで決めつけないでくれ。
……実際はこの十倍以上恥ずかしい台詞を叫んだ気がするが、おおむねそんな感じのことを、あの日の温泉宿で、黒猫のお父さんと話した。最終的に何故かメル友にもなった。
『妹とのことに決着を付けたら、瑠璃に、俺の気持ちを伝えに来ます』

>だから彼女を責めるのはやめて欲しい。彼女の思い遣りを、勝手なレッテルで決めつけないでくれ。
これは読者に対するメッセージですかね? まぁ、あの頃は桐乃派と黒猫派で、論争が激しかったですからねぇ……。

『俺の妹はこんなに可愛い』

P.83
いやあ、その前に、いつもの捻くれた語り口で、気になって仕方がない妹さんの自慢話を始めるかもな。

赤城から見る京介はこんな風に見えるらしいです。シスコンですね。

P.83-84
あいつは『普通』って言葉を何に付けても好んで使うけれども。
普通の兄妹ってなにさ。
俺はね、俺たち兄妹を、よく分からない『普通の兄妹』なんてものと比較しても、意味がないと思う。
俺の可愛い妹は、世界に一人しかいないのだから。
俺と妹の関係もまた、世界で一つしかないもののはずだ。
目の前に高坂がいたら、きっとイヤな顔でツッコミを入れてくるんだろうけど、俺はそう思うんだよ。

なにげに深い赤城の言葉。

P.88
「そういうわけじゃないけど……うへへ」
「?」
妹の含み笑いの意味に、このときの俺は気付けなかった。

P.89-90
俺が台詞を途中で止めたのは、話している途中で妹の顔がさっと青くなったからだ。
「し、信じらんない! あたしの荷物勝手に開けないでよ!」
(中略)
にっこりと頷いた。瀬菜ちゃんの『家族にも見られたくない宅配物』については、もちろん気になったけど、つとめて忘れるようにしようと思った。妹が嫌がる。理由なんてそれだけで十分。

ここは瀬菜が腐女子であることが、赤城にバレる伏線ですね。

P.103
俺は人知れずそんな葛藤と、崇高なる決意をしていたのだが、その間の沈黙がはからずも瀬菜ちゃんに不安を抱かせてしまったらしい。消沈した表情で、おずおずと問うてきた。
「あの……やっぱ、こういうの……おかしいかな?」

ここは明らかに、1巻で桐乃が京介に自分がオタクであることを告白した時とシンクロさせてますね。

P.107
さらには田村さんにまで冷たくされていたので、今日は久しぶりに俺が一緒に帰って慰めてやっている――という場面。
いつの間にか瀬菜ちゃんの自慢話に変わっていたが、『妹の話題』というのは最近高坂と盛り上がりやすいテーマなのだ。

麻奈実は、京介が自分を頼ってくれなかったことで、やはり怒っているようです。
そして、妹の話題で盛り上がるシスコン兄二人。
京介は赤城とよく妹の話題で盛り上がっていることが判明する描写。

P.108
「どちらにしろ、高坂、おまえが言うなって話だよ。おまえや田村さんから聞く、妹関連のエピソードを鑑みるに――おまえの方がすべてにおいて俺を上回っているぞ。はっきり言ってやろう――高坂、おまえやばいよ」
「俺もおまえだけには言われたくねえ!」

まぁ、正直どっちもどっちだと思いますが、最終的に実妹ガチ恋愛しちゃう京介の方が、シスコン度でいえば、やっぱりやばいでしょう。

P.110-111
「当然だ。なにせ俺の妹は世界で一番可愛いからな」
胸を張って答えると、高坂は何故かピクッとこめかみに血管を浮かべた。
「世界で一番……だと?」
「おう。だから『妹モノのエロゲーが好き』なんてやつの気持ちはさっぱり理解できねーな。何故なら瀬菜ちゃんと比べたら、他の妹などすべて大根みたいなものだからだ」
「あ? んだとコラ」
「……おい、何故突然キレた?」
「はあ? 別にキレてねえし」
いや、完全にキレてるだろ。どこのヤンキーだよ。訝る眼差しを向けると、不機嫌顔の高坂は再び「キレてねえって」と繰り返し、低い声でこう続けた。
「たださあ、おまえの発言はちょっと正しくないよなって思っただけだ」
(中略)
「俺の妹の方が、おまえの妹よりずっと可愛いっつーの」

「俺の妹の方が、おまえの妹よりずっと可愛いっつーの」
今までの京介主観では絶対にありえなかった京介の台詞。
5巻でも似たような台詞はありましたが、あれは「外見だけなら」という予防線が張ってありました。しかし、今回はそうじゃなく普通に赤城と張り合っているうえに、キレてすらいます。

P.112
「おまえの妹より俺の妹の方が百倍可愛いね!」
「いいや! 瀬菜ちゃんの方が可愛い!」

これが京介主観のない真の京介の姿。
どう見てもシスコンです、本当にありがとうございました。

P.116
「この娘は、あやせってんだ。桐乃を除けばたぶん世界最高の美少女だな」
律儀に妹を除外してやがる……! ほんとにこいつ、妹のこと嫌いなのかよ? 実は大好きなんじゃないの? まあ俺としても、瀬菜ちゃんがこのあやせちゃんとやらに負けているとはまったく思わないが。思わないけれども……

言外に、桐乃のことを世界最高の美少女だと評する京介。
京介の中で、桐乃の容姿はどれだけ評価が高いのか……。

P.116
「あやせちゃんか……結婚したいなあ」
「俺も俺も」

ここは男同士の冗談なので、あまり気にしなくていいでしょう。
相変わらず京介はあやせのことになるとおかしくなりますね(笑)
まぁ、あやせは、京介のドM心を満たしてくれる貴重な存在ですからね、しょうがないね。

P.118
「そ、そうだな。よし、なあ麻奈実――おまえいまの俺たちのやり取り見てたろ? どっちの勝ちだと思う?」


「どっちも気持ち悪いと思うよ~。あ、わたし先に行くね?」


ガラガラ――バタン。
田村さんはほんわかした声でそれだけ言い捨て、去っていった。
「……おい、高坂。早く田村さんと仲直りしろよ」
「……喧嘩してるわけじゃない、と、思うんだが……」

毒舌な麻奈実。
前巻のラストで忠告したにも関わらず、相変わらずシスコンな京介のことをよく思っていないのでしょう。

P.120
『いま友達と、どっちの妹が世界一可愛いか勝負してるとこだから、おまえの可愛い写真ソッコー送ってくれ』
ピッ、メール送信。
一分後――
「お、返信きたきた」
高坂の妹からは、こんな返信が戻ってきた。


『マジキモイ死ね』

京介からのメールに、一分で返事を返す桐乃。
以前、京介が桐乃に携帯から電話した時(6巻 P.25参照)もそうですが、桐乃は京介からの電話やメールに即、返事を返していますね。つまりそういうことです。表面上の言葉や態度に騙されてはダメですよ。

P.120-121
「…………」
「……高坂、おまえほんとに妹から嫌われてんだなあ」
「ま、待て待て! よく見たら添付ファイルがある……!」
高坂は慌てた様子で携帯をいじり、俺から見えないように添付ファイルを確認する。
「おお~~! なんだよあいつ~! クソムカツク返信してきたくせによ~、超気合入った写メ送ってきてんじゃねーか。フフフ……なあおい赤城、この勝負もらったぜ? 死ぬほど可愛い写真が手に入った」
写メを眺めてにやにやしている高坂。
……ったく、この兄妹は……よく分からんな。
(中略)
「なあ赤城、見ろよこの可愛さ。もう再勝負するまでもないだろ」
半ば無理矢理俺に写メを見せつけてくる。どうやら高坂の妹が自分撮りしたもので――制服姿の美少女が、笑顔でウインクしているという、きわめてあざとい写真だった。……すげえ、完全に自分がどうやったら可愛く映るのかを知り尽くしている。
高坂のやつがめろめろになるのも無理はない。
というか、あんなキツいメールを返信してくる女と同一人物だということが信じられない。

この、桐乃に対する京介のめろめろぶり(笑)
周りから見た本当の京介は、赤城にも負けないガチシスコンじゃないですか。京介主観の時とあまりに違いすぎて、笑えてくるのですが。

P.122
「おまえが出してくる妹の写真には、おまえが映っていない。妹ってのはな、兄貴と一緒にいるときにこそ、最高の魅力を発揮するんだよ! 妹とのツーショット写真なくして、世界一の可愛さなど表現できはしない……!」
「た、確かに……!」
高坂、キサマなんて真理を……! い、いったいいつの間に、妹についてこんなに弁が立つようになったんだこいつ。まるでどこぞの妹モノエロゲの名言をそのまま言っているかのようじゃないか!

京介が、いつの間にか妹についてやたら熱く語るようになっている件。
これも桐乃による、妹モノエロゲ調教教育のおかげでしょうか?

P.123
「刮目せよ! これで終わりだ――ッ!」
携帯の裏側を見せつけてきた。そこには一枚のプリクラが貼られており――
「バカな……! 妹とのらぶらぶツーショット写真だとぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~ッ!」
羨ましすぎるぞこの野郎! なんて言って騙したんだ!
「フハハハハハハハ! ハ――ハハハハハ!」
勝ち誇った高笑いをする高坂。

妹とのらぶらぶツーショット写真を見せつける京介。まだ貼ってたんですね(笑)
それにしても、この兄たちノリノリである

P.124
「……家に帰るんだな。おまえにも妹がいるのだろう」

2巻 P.13にもあった、ストIIのガイルの台詞のパロ。
あの時はおにぃちゃんでしたが、こっちは妹に改変されています。

P.127-128
「ただいまー」
「……勝った?」
「え?」
「勝ったのか、つってんの」
「ああ。……ごめん、勝てなかったわ」
「はあ!? なんで!? 写メ送ったでしょ!?」
「それがな……見てくれよこの写メ。赤城兄妹の『ホッペにチュー』写真」
「ええっ! せ、せなちー……うっそ……マジひく……」
「な? やばいだろ? いや、俺も負けを認めたわけじゃないけど、あんなの見せられたら、さすがに勝ったとは言えないつーか」
「うー……」
「…………………………」
「ちょ、なにチラチラ見てんの!? し、しないかんね!」

京介が家に帰るなり、結果を尋ねる桐乃。
メールではあんな態度を取っておきながら、本音はこれだから桐乃は……。
赤城兄妹の『ホッペにチュー』写真にドン引きの高坂兄妹と思いきや、京介の視線が……。桐乃にチューしてもらいたいんですね、わかります(笑)

『カメレオンドーター』

P.137
きりりん氏も京介氏も、いつもいつも繰り返し繰り返し、お互いに仲が悪い――昔はもっともっと仲が悪かった――などと言っていますが、私と香織姉さんの関係と比べれば、なんとまともな兄妹関係であることでしょう。
……まあ、もっとも。お二人の微笑ましいいがみ合いを眺めていると、そもそも仲が悪いという事実自体、勘違いと照れ隠しで擦れ違っているだけのような気もするのですが。

沙織からみた高坂兄妹。
二人の関係を的確に理解しているようです。

P.147
指の隙間から覗き見れば、彼は、まるで女性のように端正な顔つきをしていらっしゃいます。
妙な色気さえあるエキゾチックな黒髪、痩せ形で、色白で――
『今の私』なら、きわめて適切な例えで彼を紹介することができるのですが……
あまりにも”まんま“過ぎるので、やめておきましょう。
ただ、そのアニメキャラと比べると、ずいぶんと情けないというか、生気に欠ける感じではありました。退屈な日々に埋没した現代人を象徴するかのような、死んだ目をしています。

真田真也の描写。
沙織が”まんま“過ぎるといっているのは、彼をモデルにしたマスケラのキャラ、漆黒のことです。

P.156
「あ、じゃあ……さっき、真田さんがおっしゃっていた……彼方さんというのは……」
「本名だよ。そいつの」
真田さんが春日さんを指差して言いました。

彼方という名前だけを出して、来栖という苗字を意図的に伏せています。
苗字を出すと加奈子の姉だというのが読者に判ってしまうからですね。この後も、上手く苗字が出ないようにしています。

P.156-157
……私は何故か昔から、こういった人間関係の機微を推察することが得意でした。
人見知りで臆病で恥ずかしがり屋で引っ込み思案で――だからこそ、他人との軋轢から身を守るため、身についた技能……なのでしょう。

沙織の特技。
そんな沙織が初対面で高坂兄妹を恋人同士と勘違いしたということは……まぁ、1巻の時点で作者がそこまで考えていたかどうかはわかりませんし、後付けかもしれませんが。

P.158-159
彼方さんは、薄桃色の唇に人差し指を当て、しばし沈思し――
にひっと悪戯っぽい笑みで片目を瞑る。


「あたしのことはぁ、『かなかなちゃん』って呼んでちょーだい♪」

彼方が加奈子の姉であることを読者に示すヒント。

P.161
「ほっしー頼む」
『ほっしー』さんというのは、とても美味しいプロ顔負けの紅茶を入れてくれる方なのですが、あいにくこの場にはいらっしゃいません。
彼方さんがペンを止めずに言いました。
「ほっしー氏は先ほど帰られましたぞ。妹さんとカラオケに行くとか」
(中略)
「ちなみに拙者にも妹がおりまして――」

ほっしーというのは星野きららさんのこと。
秋葉原メイド喫茶で働いているメイドさんです。
彼方さんがいう妹は加奈子のこと。これも読者に対するヒントですね。

P.164
「――彼方、おまえ、この前から何を描いてるんだ?」
「え? あー、えへへ……気になります?」
頬を紅潮させて照れる彼方さん。
「実は新作の設定を練っているところなんですよぉ。へへ、見てください見てください」
(中略)
黒髪色白超美形の男性が、黒い衣装に身を包んでいて――
「お、おいこのキャラ……」
それを見た真田さんが戦慄の表情で言いました。
「なんか俺に似てねえか……!?」
「あ、気付きました!? 実は実は! 中学生時代のシンヤ先輩がモデルなんですよぉ~! まさしく”闇の皇子“的な設定で! 歳はまあ高校生に上げますけど、口調とかはマジそのままで使おうかなって!」

数年後にアニメ化されて黒猫がハマるマスケラの原作者が来栖彼方こと、月見里がんま先生。
そしてシンヤ先輩をモデルにしたキャラが漆黒です。

P.190
「また今度ね、大尉、おにぃ~ちゃん♪」
「ばいばぁ~い、さおりん氏、あ~んど、きりりん氏、あたしの本、また買いに来てよぉ。今度はそっちの可愛いナイトメアちゃんも一緒にね♡」
(中略)
「うげっ……なんであのひとがここに……」
「……え? 『あたしの本、また買いに来てよ』って……どっかで会ったかな?」
「『ナイトメアちゃん』ですって? 我が『夜魔の女王』の衣装をそんな風に呼ぶなんて……不遜な女ね」

1つ目の台詞が、秋葉原メイドさんで星野きららさん。
2つ目の台詞が、マスケラの原作者の彼方(がんま)さん。
どっかで会ったかな? というのは桐乃が夏コミで沙織と一緒に挨拶回りに行った時のこと(2巻 P.220-221)ですね。

槇島 香織

沙織の7つ年上の姉。サークル『小さな楽園(プリティガーデン』の創始者
運動神経抜群、頭脳明晰、容姿端麗とスペックが非常に高い。
多趣味でアウトドアからインドアまで何でもこなす。
既婚者で、今の職業はゲーマーらしい。

真田 真也

マスケラの漆黒のモデル。
見た目は京介に似ている。
かつて厨二だったのをサークルメンバーにからかわれている。

来栖 彼方

黒猫が好きな作品であるマスケラの原作者で漫画家。
ペンネームは月見里がんま、春日春香など7種類を使い分けている。
加奈子の姉。

星野 きらら

あだ名はほっしー。
紅茶をいれるのが得意。
アキバのメイド喫茶「プリティ・ガーデン」でメイドのバイトをしている。
妹がたくさんいる。

『突撃・乙女ロード!』

P.193
あたしの名前は高坂桐乃、超シスコンの兄貴を持つ、あまりにも可愛すぎる妹である。

桐乃視点。
桐乃は、京介がシスコンであることをちゃんと理解しているのがポイント。

P.196
せなちーは友達だから許すけど、どーしてこーオタクってのは一方的に喋り倒すかなあ。
もうちょっと空気読んでくれればいいのにね。あたしみたいにさ。

>あたしみたいにさ。
お、おう……。
これがツッコミ待ちのボケではなく素で言ってるから困る。

P.198-199
「だ、だって……あいつ、普通に女の子と付き合ってたし」
まあいまは別れたっていうか……名目上付き合ってないみたいな感じだけどさ。
それにあいつ言ったもん。『おまえに彼氏ができるまで彼女を作らない』って。
だ、だから――
「お、男同士で付き合ってるわけないじゃん!」

京介と赤城が付き合っていると瀬菜から聞いて動揺する桐乃。
しかし、よくよく考えてみると彼女じゃなくて「彼氏」を作るなら、京介が言ってることと矛盾しないし、セーフな気がします(笑)

P.201
ね、念のためにあとで京介に『あんた、せなちーのお兄さんと付き合ってるってマジ!?』って聞いておくとして――

やめてあげて!

P.202-203
「……お兄ちゃんとキスしちゃった」
「ぶっ」
噴いた。
「んなっ、……な、ななな……いま……なんて?」
「ほ、ほっぺ! ほっぺだからっ!」
「な、なんだホッペ? ホッペってアレか……! 写メの!」
「そうそれ」
その件なら知ってる。京介が羨ましそうにしてたし。
「び、びっくりしたあ。口と口でちゅーってしちゃったんだとばかり……!」
「そ、そんなわけないでしょ! き、キモいですって!」
ぶんぶんとかぶりを振るせなちー。あたしはぼそりと呟いた。
「……ほっぺにチューも十分キモいと思うけど」

瀬菜が瀬菜の兄とキスしたと聞いて、超動揺する桐乃。
桐乃って、妹モノのエロゲが好きなわりに、この辺の考え方は常識人なんですよね。二次元とリアルはキッチリ分けるタイプです。妹モノによくいる「兄妹でほっぺにチューぐらい普通でしょ?」みたいなブラコンキャラとは明らかに違いますね。

P.203-204
「へーそぉ? じゃあなんで今も携帯にツーショットプリクラ貼ったままなんです?」
「うぐ……! そ、それはぁ」
あたしが引きつり笑いで言い訳をしようとすると、せなちーが愕然と目を見開いた。
「え゛……もしかしてマジで貼ってるんですか?」
…………。
「か、鎌を掛けたなァ!」
「こ、高坂せんぱいが携帯にツーショットプリクラ貼ってるっていうから、もしかしたらと思って……うわぁ……ドン引きです」

京介だけでなく、桐乃もいまだに携帯にあのらぶらぶツーショットプリクラを貼ってることが判明。桐乃も相当なブラコンですよね(笑)

P.204
「うるさい! 違うって言ってんでしょ!」
「えー! 何が違うんですかー?」
「あれはね? あいつがいかにキモいシスコンかを思い知らせるためにやっただけだから。だからキモいのはあいつであって、あたしじゃないわけ。逆にせなちーは、自分からチューしたわけだから、せなちー自身がキモいわけ。OK?」
「なんですかその無茶苦茶な理屈は! 確かにあたしはキモいかもしれませんけど、桐乃ちゃんにだけは言われたくないです! ていうか高坂せんぱいなんて、ウチのお兄ちゃんと比べたらそんなにシスコンじゃないですし」
「はあ!? ――――なに言っちゃってんの? んなことないし。せなちーのお兄さんより、あいつの方が超シスコンだっての」

瀬菜に京介が赤城よりシスコンじゃないと言われてキレる桐乃。
この辺の反応が京介そっくりで笑えます。似たもの兄妹ですね。

P.204-205
「そんなの有り得ませんってば! だってウチのお兄ちゃんなんて、深夜販売に並んでガチホモゲーを買ってきてくれるくらいあたしのこと好きなんですよ?」
「そ、そんなのあたしだってエロゲー買ってきてもらったもん! しかも終電に間に合わなくて、でも朝まで待てなくて、あいつ親切な人に痛チャリ借りて、アキバから千葉まで走って帰ってきたんだよ? ――チョー大好きなあたしのために! 凄くない? 超シスコンじゃない?」

この桐乃のシスコン自慢からわかるのは、京介は自分のことが大好きなことを、桐乃はちゃんとわかっているのと、京介が超シスコンであることを、桐乃は決して悪く思ってないということですね。

P.205-206
「へ、変態って! 人のお兄ちゃんになんてこと言うんですか! 桐乃ちゃんのお兄さんだって人のこと言えませんー。だってあたしと会うたびにおっぱい揉もうとするんですよ?」
「つ、作ってるでしょそれぇっ」
「作ってませんて。ほんとほんと。あの人学校では『セクハラ先輩』の二つ名で呼ばれていて、この前なんかあたしに向かって『おっぱい揉むぞこの雌豚』って……」
「ふーん」
ほんとだったらアイツ殺す。

京介のセクハラ疑惑。
『おっぱい揉むぞこの雌豚』って台詞は8巻のP.83で確かに言ってるので事実として、問題は瀬菜と会うたびにおっぱい揉もうとしてるのと『セクハラ先輩』の二つ名で呼ばれているかどうかですね。普段の京介の瀬菜に対する態度やモノローグからして、限りなく事実に近いと思われますが……。

P.207-208
タメに入ったせなちーに向かって、あたしはしれっと言った。
「ふーん。ちなみにあたしがヤダって言ったら、あいつ彼女と別れちゃった」
「はあ!?」
目が飛び出そうなくらい驚くせなちー。
「彼女って……五更さんのこと?」
「うん」
「有り得ない! 絶対嘘だと思うけどもしもホントだったら超有り得ない!」
「あとこの前、夜這いされかけた」
「ほええぇっ!?」
「あたしが留学したときなんかぁ、わざわざアメリカまで飛んできてぇ、泣きながら『おまえがいないと死ぬ』って……」
「………………………………」
せなちーは黙った。
あたしは数秒の間を開けてから、ぼそぼそっと問う。
「ねぇ……どう思う?」
「お……ッ」
「お兄ちゃんに言いつけてやるんだからああああああああ――ッ!」


せなちーは全力で逆ギレして逃げていった。

怒涛のシスコン自慢ラッシュ。これが全部事実だから困る(笑)
『俺の妹はこんなに可愛い』のシスコン対決では、ほぼ負けに近い結果でしたが、今回のシスコン対決は高坂兄妹の勝ちですね。兄の負け分を妹が取り返すというのが、実に高坂兄妹らしいです。

P.208
あたしはその様子を呆然と見送り、
「……い、言いつけて、どうするつもりなんだろ……。はっ! ま、まさかそれ以上のことをしてもらうつもりでは……!」
赤城家のエロゲーみたいな展開を妄想するのであった。

駄目だこいつ…早くなんとかしないと…。
桐乃も十分エロゲ脳してますね(笑)

P.210
「『しちゃうのです』じゃない! ど、どうしてこうなった!」
『先日延々とノロケ話を聞かされたせいで、なんか閃いちゃいまして! 桐乃ちゃんを男体化した上での桐京! ヒュゥ、この手があったか!』

この前の桐乃のシスコン自慢は、瀬菜からするとノロケ話に聞こえたようです。そりゃそうだ。

『過ちのダークエンジェル』

P.218
「……今日は、いきなりセクハラをしてこないんですね?」
『もうしないって言っただろ?』
優しい声で言うお兄さん。
『――色々あってな。ちゃんとしねえとって……まあ、そんな感じなんだよ』

8巻での黒猫と別れた件で、いろいろと反省した模様の京介。
あれほど大好きだったあやせへのセクハラを我慢しているあたりに、京介の本気ぶりが窺えます。

P.223
「『大好き』とか『結婚してくれ』とか言っておいて彼女ができたなんて言ったら、そりゃ、むかつくよな」
お、お兄さん! や、やっぱりわたしのこと――
「――冗談だと分かっててもさ、ほんとごめんな」
ぶち殺しますよ。

あやせに今までの自分の態度を謝罪する京介。
当然ですが、あのセクハラは冗談だったようです。

P.227
「い、いえ……わたし、マネージャーさんを怖がってるわけではないです……」
ブリジットちゃんは、相変わらずの流暢な日本語で、おずおずと否定した。
「え? じゃあ……どうしたの?」
「な、なんでもないです。たぶんわたしの勘違いだと思いますから……」
? なんのことやら。『どういう意味か分かりますか?』という意味でアイコンタクトを送ると、つい、と視線をそらされてしまった。怪しいです。

ブリジットちゃんが怖がっているのは京介じゃなくてあやせです。
ブリジットちゃんの勘違いというのは、「マネージャーさんが、7巻での桐乃との偽デートの時に会った桐乃の彼氏さんに似てる」ということですね。京介が視線を逸らしたのは、それがバレるといろいろと面倒なことになるからだと思われます。

10巻 P.111
「でもって、おまえら、同じ名字だしよ。ブリジットの様子がおかしいから問い詰めてみたら、この前桐乃と一緒にいた彼氏が、おまえと同じ顔だったってゆーしよ。これってどー考えてもそーゆーことだべ?」

まぁ、加奈子には結局バレるんですけど(笑)

P.229
ただこのやり取りで分からないことが一つ。どうしてブリジットちゃんは、さっきからずっと意味深な眼差しをお兄さんに送っているのでしょう?
まさかお兄さんのことを好きになってしまった――なんてそれはないか。

ブリジットちゃんが京介に意味深な眼差しを送っている理由は、さっき説明したとおり、あの時の彼氏さんと同一人物じゃないかと疑っているからです。あやせは麻奈実から聞いて偽デートの件は知っていますが、そのデートで加奈子とブリジットちゃんに会ったことまでは知らないから、そこまで理解が及ばないのでしょう。

P.243
「それにしても……今日のお兄さん、いつもと少し違いますね?」
「そうか?」
どの辺が違うんだ? と目で問われたので、思い浮かんだとおりに答える。
「ええ……なんだか余裕が感じられます。何かありましたか?」
「それはもう、色々とな」
苦笑するお兄さん。どうやらわたしが麻奈実さんから聞いたものよりも、深い物語がそこにはあるようだった。優しく話しかけやすい空気はそのままに、かつてあったいい加減な雰囲気が、すっかり消え失せている。

8巻で黒猫と付き合って別れたという経験を経て、京介なりに成長し、女の子との接し方にも余裕ができたのと、その件で反省して「もっとちゃんとしないといけない」という決意の表れが、態度や雰囲気に出ているのでしょう。

P.244
実は……さっきから何度か(あくまで本当にもうセクハラをしてこないのかなっ? ってことを確認するというだけの意味で他意はなく!)大胆に顔を近づけてみたり、微笑みかけてみたりしてみたのだが、これがちっとも効果がない。
いままでのお兄さんなら目の色を変えて大はしゃぎしていたはずなのに。
(中略)
もやもやしているわたしの側で、お兄さんは、どういう意味なのか、
「……余裕なんかねえよ。ぜんぜんダメだ」
なんて自嘲めいた呟きを漏らしていた。

一見、成長したように見えても、内心はあやせの誘いに乗ってセクハラしたくて仕方がないのでしょう。その本音がポロッと零れたのが、この台詞だと思われます。

P.251
携帯の着信音だ。音がした方を見れば、お兄さんがフラフラのまま辛うじて顔を上げ、携帯の液晶を見詰めていた。どうやらいま送られてきたメールを読んでいるらしい。
数秒の間があってから、お兄さんは、がば! とソファーから起きあがる。
「痛っててて……」
「ちょ、お、お兄さん……!? なにいきなり立ち上がろうとしてるんですかっ!」
「ちょっとな、急用ができた」
「急用って……大丈夫なんですか?」
「怪我してんだから大人しくしてろって。つーか加奈子のライブ観てくんじゃねーのかよ?」
「ワリ、ライブが始まる前には戻ってくるから」
どうやら止めても無駄らしい。彼は、スーツのジャケットを羽織り直し、
「行ってくる!」
少し前まで蹴り飛ばされてダウンしていた人とは思えない元気さで、飛び出していった。

このメールは桐乃からのものなんですが、それを見た途端、いきなり元気になって飛び出していく京介。妹のためなら、他の用事をすっ飛ばしてでも妹のところに駆けつける。京介のこういうところは本当に格好いいですし、素晴らしい兄ぶりだと思います。基本的に、京介の中では桐乃>その他なんですよね。

『妹のウエディングドレス』

P.254
――今日のライブ、行けそうにない。


「……ふぅ」
メールの送信ボタンを押し込み、憂鬱を吐き出す。
「ちぇ、楽しみにしていたんだけどな」
台詞とは裏腹に、迷いなく踵を返す。
向かう先は、ライトアップされた撮影現場だ。
撮影の合間、自分の出番に区切りがついたのを見はからってメールを送りに来ただけなのだから、すみやかに気持ちを切り替えて仕事に戻らないと。
もちろん数日前から超楽しみにしていたライブだ。そう簡単に割り切れるはずもない。だけど少なくともいまだけは、ざわめく無念をシャットアウトして、顔や仕草に出すわけにはいかなかった。
だってこれは、あたしが引き受けた仕事なんだから。
ちゃんとやり遂げなくちゃ、あたしがあたしに合わせる顔がなくなってしまう。

この中学生離れした、桐乃の仕事への責任感と自分への厳しさは何なのか?
おそらく堅物な父親の影響だと思われますが、この切り替えの速さは凄い。

P.259-260
――あたしの兄です。


なんて言えるわけあるか――っ!
あ、あああ、あいつ何やってんの!?
(中略)
違う。変な人が兄だったのだ。
ど、どど、どうしよう……正直見なかったことにしたいんですけど。
でもあいつ、このままほっといたらマズイよね……? う、ううう~ッ!
ちらと見れば、捕まったバカが必死で言い訳をしている。


「だ、だから! い、妹がここで撮影してるんですって! モデルやってて……!」
「0.1秒で見破られる嘘を吐くんじゃない! どこからどう見ても怪しいだろうが! いま警備員を呼んだから大人しくしろっ!」
やばっ!
「ま、待ってください!」
あたしは咄嗟に助け舟を出していた。
もうっ、このばか! このばかっ! なにしてんのよ――っ!

桐乃からのメールを読んで迷わず迎えに来た京介に対し、京介を助けるのを躊躇する桐乃。……こういうところが、桐乃の人気がイマイチ出ない理由な気がします。結局助けるとはいえ、そこは迷わず助けようよ。

P.261-262
「ちょッ、き、桐乃おまえ……」
京介は、あたしの姿を認めるや――固まったのだ。
凝然と目を剥いて、顎をかくんと落っことして――それから。
数瞬の間をおいて、かあ、と顔を赤く染めた。
「……その格好、どうしたんだよ!?」
(中略)
「お、おい……引っ張るなって」
京介は、ぼーっと夢見るような状態のまま、痛チャリを引いて付いてくる。
「ふ、ふん」
ま、こいつが見とれちゃうのも当然っちゃ当然か。
だってあたしは、いま純白のウエディングドレスを着ているのだから。

桐乃のウエディングドレス姿に対する京介の、この反応。
もう、ベタぼれじゃないですか(笑)京介が桐乃を異性として意識しているのは、確定的に明らか。

P.264
あたしはどう答えていいか分からなくて、一瞬躊躇してしまった。
そう。もともとこのライブは、京介から誘われたものだったのだ。『おまえメルル好きだろ? いい席のチケットが手に入りそうだから、一緒に行かないか――』と。
まああたしとしては、こいつと二人きりでライブなんて? 超勘弁って感じだったんだけどさ。こいつどうしてもあたしと一緒にライブ行きたいっていうし、ライブ自体には興味あったし、撮影も二時には終わると思ってたから――トクベツにOKしてあげたってわけ。

京介のライブのお誘いに対しての、この桐乃の反応は、どうも嘘というか、読者に対しての見栄が入っているように思われます。京介にメルルのライブに誘われて、桐乃が嬉しくないはずがないですし。

P.265
「……そっか、あたしを迎えに来たんだ、あんた」
「おう」
京介は腕時計をちらりと確認して、
「だから早く着替えて来いよ」
「ふーん」
あたしは京介と何故か目を合わせていられなくなって、
「でも、いまからじゃ」

>あたしは京介と何故か目を合わせていられなくなって、
どう見ても照れてますね(笑)

P.268-269
「ちょ……揺らさないでよ!」
「危ねーから、もっとしっかり掴まってろ!」
「は、はあっ? そ、そんなことしたら胸が当たっちゃうじゃん! このエロ! シスコン!」
京介の背中をどんどん叩くあたし。
(中略)
「あんたが妹にエッチなことするからでしょ! 妹モノのエロゲーのやりすぎじゃないの?」
「俺がエロゲーやってんのは全部おまえのせいだろうが! だいたい二人乗りすんのに身体密着させるくらいエッチでもなんでもないだろ。兄妹なんだから」
「最近あんたがよく口にする『兄妹だから』って、あたしにセクハラするための言い訳にしか聞こえないんですケド!」
「気のせいだっつーの! おまえな、間違ってもそういう言いがかりを、あやせあたりにチクるなよ?」

京介のことを過剰に意識する桐乃。

P.271-272
兄は汗まみれのスーツ姿で、妹は足下が破れたウエディングドレス姿で。
恥ずかしい痛チャリに乗って。
傍から見たら、どれだけキモい光景だろう。
「あーあ、初めての二人乗りがこんなのだなんて、そんな兄妹絶対あたしたちだけだって」
「おう……ほんとう、嫌になっちまうよな。涙が出てくる」
お互いにぼやきながら、苦笑を漏らす。
たぶんこいつも同じことを考えているのだ。
マジで有り得ないし、認めたくはないけれど――
こういうのが、あたしたちらしいのかもってさ。

ここは非常に良いシーンですね。
言葉にしなくても伝わる兄妹という描写もそうですが、この有り得なさが自分たちらしいと認める部分。
これは12巻で告白が終わった後にも出てきますね。

P.272
「――着いたぞ」
ライブ会場のすぐ前で自転車は停まった。
「急げ!」
「う、うんっ」
兄はあたしの手を引いて。
二人一緒に走っていく。
人とすれ違う度に愕然とされるので、恥ずかしくてしょうがない。
歌声が聞こえてくる。
望む未来を掴みとるという誓いと、希望を胸に歩き出す二人を歌った曲。

ここも同じく非常に良いシーン。
自然と手を繋ぐ兄妹という描写もそうですが、

>望む未来を掴みとるという誓いと、希望を胸に歩き出す二人を歌った曲。
もっと大事なのはここ。
まるで、最終巻後の二人の未来を暗示するような内容だと思いませんか?

P.274
まったく……兄妹の関係は相変わらずだ。
大きな騒動を経たばかりだというのに、何の進展もしていない。
何の進展もしていないが、誓ったことが一つだけ。
「あのさ」
「あん?」
「…………」
「なんだよ」
意味わからんやっちゃな、と、苦笑する京介。
やれやれ、どうやらあたしの台詞は、喧騒にかき消されて届かなかったらしい。
もう一度言えばいいだけのことなんだけど、気持ちを伝えるというのは、あたしにとって凄く難易度の高いことなのだ。連発できる台詞じゃない。

喧騒にかき消された言葉についてはアニメ二期第10話で「ありがと……」だったことが明かされています。誓ったことというのは、この感謝の言葉からして「京介に対して、もっと素直になること」ですかね? 10巻以降の桐乃の態度を見ると、確かに、以前よりは素直になった感じがしますが……。

あとがき

P.281
『妹のウエディングドレス』
桐乃にウエディングドレスを着せたいんです! 白状してしまうと、その願いを叶えるためだけに作ったお話です。まだ見ていないのですが、きっとかんざきひろさんが、すっごい表紙イラストを描いてくれていることでしょう! ぜひ、もう一度着せたい衣装です。

>ぜひ、もう一度着せたい衣装です。
当時読んだ時はリップサービスぐらいにしか考えていませんでしたが、12巻の結婚式で本当に桐乃に着せた時はびっくりしましたね。疑ってすみませんでした、orz(土下座)。

9巻のまとめ

9巻のポイントは、

俺妹という物語が京介の主観で綴られていることが明かされたこと。
京介主観のない、本当の京介のシスコンぶりが明かされたこと。

これぐらいですかね。
この巻で他のキャラの視点が登場したことによって、京介主観の疑わしさが露わになります。
他にも伏線らしきものがいくつか貼ってありますが、9巻はあくまで番外編ですし、重要なものは少ないです。

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