注意
この記事はライトノベル『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を全巻読んでいることを前提に書いています。
おもいっきりネタバレがありますので、未読の方はお気をつけください。
10~12巻の出来事と時間軸
10~12巻の時系列はバラバラで理解しづらいので、3巻分をまとめています。
日付 | 出来事 | 原作 |
---|---|---|
10月上旬のある日 | 両親に桐乃との仲を疑われ、一人暮らしをすることになる | 10巻、第一章 |
翌日の放課後 | 御鏡と赤城に一人暮らしについて話す | 10巻、第一章 |
上記の2日後 | 京介のアパートに桐乃がやってきて、冷蔵庫と『押しかけ妹妻』をもらい、賭けをする | 10巻、第二章 |
上記の翌日の放課後 | 加奈子がアパートにやってきて、桐乃と兄妹ということがバレる | 10巻、第二章 |
上記の翌朝 | あやせと黒猫がアパートにやってきて、黒猫に自分の決断を伝える | 10巻、第二章 |
同日放課後 | 親父がアパートにやってきて、『押しかけ妹妻』を持ってるのがバレる | 10巻、第二章 |
上記後の休日 | 京介のアパートで引越し祝いパーティ、あやせが京介のお世話をすることに | 10巻、第三章 |
上記の翌日の放課後 | あやせに桐乃がフィギュアや妹エロゲーを好きな理由について聞かれる | 10巻、第三章 |
上記の後日の放課後 | 雨の日に、日向ちゃんが様子を見にやってくる | 10巻、第三章 |
上記の後日の深夜 | あやせのファンブログに異変が起こる | 10巻、第三章 |
同日 | ブログの異変について赤城や御鏡に相談 | 10巻、第四章 |
上記の翌日の放課後 | 女装した御鏡に遭遇 | 10巻、第四章 |
上記の後日の放課後 | あやせにエッチな本を隠していたのがバレる | 12巻、第二章 |
上記の後日の土曜日 | あやせに『おしかけ妹妻』を隠していたのがバレる | 12巻、第二章 |
上記の翌日の日曜日 | アパートに加奈子が差し入れに来て、あやせとの仲を誤解されそうになる | 12巻、第二章 |
上記の翌日の放課後 | あやせと買い物に出かけ、フェイトさんから赤ちゃんを預かる | 12巻、第二章 |
11月1日 | アパートであやせに踏まれている黒猫を目撃する | 10巻、第四章 |
11月3日 | 模試当日、あやせのストーカー問題解決 | 10巻、第四章 |
同日試験終了後 | 桐乃と一緒に病院に行く | 10巻、第四章 |
11月のある日 | 麻奈実と加奈子の話し合い | 11巻、エピローグ |
上記以降のある日 | 桐乃が黒猫と沙織に、卒業したら海外に行くことを告げる | 11巻、俺の妹がこんなに可愛いわけがない12 プロローグ |
上記の翌日 | 桐乃、黒猫、あやせの話し合い | 11巻、俺の妹がこんなに可愛いわけがない12 プロローグ |
12月の初め | 模試結果発表、京介がA判定を取って実家に戻れることに | 10巻、第四章 |
上記後の休日 | 京介が一人暮らしを終えて帰宅、部屋が桐乃の私物だらけになっている | 10巻、第四章 |
12月上旬 | 田村家で麻奈実、京介、桐乃の話し合い、冷戦の真相が明かされる | 11巻、第一~四章 |
上記の後日 | 京介が櫻井と再会、好きなやつがいると櫻井の告白を断り、自分から告白すると決心する | 11巻、第四章 |
12月のある日(上記のすぐ後) | 桐乃をクリスマスデートに誘う | 12巻、第一章 |
上記の後日 | アパートの前で、あやせに告白されて断る | 10巻、第四章と12巻、第二章 |
12月20日 | 京介が黒猫に正式に自分の気持ちを伝え、黒猫を振る | 12巻、第三章 |
12月24日 | 京介がクリスマスデートで桐乃に告白、高坂兄妹が恋人同士になる | 12巻、第一、三、四章 |
12月25日 | 黒猫と沙織に兄妹で付き合うことになったと話す、ゲーセンで櫻井に会う | 12巻、第四章 |
とある休日の日の朝 | 起きたら桐乃が隣で寝ていて、びっくりする | 12巻、第五章 |
正月を過ぎた頃 | UDXのライブで加奈子に告白されて、断る | 12巻、第四章 |
とある休日の日の午前中 | 桐乃と『恋人の儀式』をする | 12巻、第五章 |
卒業式の日 | 麻奈実と対決、桐乃と結婚式を挙げ、約束通り兄妹に戻る | 12巻、第五章 |
春休み | 桐乃と秋葉原に行き、指輪を買ってあげたあとにキスをする | 12巻、最終章 |
第三章
P.168
「おう、来たな」
「……あんたが来いっつったんでしょ」
「うん。ちゃんと来てくれてサンキュー」
「………………」
俺が珍しく素直に礼を言ったのに、視線をそらしやがった。
まあいいや。
P.171
「……い、いいぞ? お安いご用だぜ……」
「マジで? サンキュー!」
こういうときだけ素直に礼を言ってきやがって……!
「……」
俺はなんだか照れくさくなってしまって、ついつい視線をそらしてしまうのだった。
素直にお礼を言われると、照れくさくなって視線をそらしてしまう高坂兄妹。
伏見先生はこういう兄妹描写が本当に上手いですね。
P.170
「へぇ~っ、あんたいい友達持って幸せだよね」
「まったくだ。ありがたくて涙が出るぜ」
やつは絶対に殺す。
「いいなー、これ。あたしも欲しかったんだよね~」
飾られている妹フィギュアを、じっと見詰める桐乃の顔は、まるで我が子を愛でるように火照っていて……幸せそうだった。よだれも垂れていた。
「……へっ」
御鏡への刑罰は、死刑じゃなくてケツバット三十回くらいで許してやるか。
さっきまで妹フィギュアを送りつけてきた御鏡のことを殺すって思ってたのに、妹がそのフィギュアを見て幸せそうな顔をしているのを見て、ケツバット三十回に変更する京介。毎度毎度のシスコンぶりには頭が下がります。
P.176
「わたしね、桐乃ちゃんと、お話がしたいんだ。昔みたいに仲良くできるようになるかは、まだ分からないけど……まずは、ちゃんとお話がしたい」
(中略)
「いいよ。話、しても」
「ほんとっ?」
「うん、でも、また今度ね」
麻奈実の話し合いの提案を受ける桐乃。
桐乃が受けた理由は、8巻と9巻で(昔、麻奈実に言われた通り)「凄いお兄ちゃん」なんて存在しないことに気づき、このことについて麻奈実と一度話し合う必要があると感じたからでしょう。
P.177-178
「おい、桐乃――」
そうやって、うやむやにしようとしてんじゃあるまいな。
「ちょっと、変な誤解すんなっつーの。ちゃんと理由あんだから」
(中略)
「麻奈実……さんと、話をする場には、あんたにもいてもらうことになるじゃん?」
「まあ、当然そうなるわな」
話がこじれて喧嘩になったとき、止める役がいる。
「そーじゃなくて、あんたにも関係ある話なの」
「俺に?」
「そう。そんで、話の流れによっては後を引くっていうか、あんたにも色々考えてもらわなくちゃみたいなことになるから、その――こ、今度なわけ!」
(中略)
「お兄ちゃん想いなんだね」
「は? そんなんじゃないっての」
「そっか」
……。麻奈実は一拍をおいてから、こほんと小さく咳払いをした。
「じゃあ……今度、ちゃんと話そうね。模試が終わって、きょうちゃんが家に帰ってから」
「うん、分かった」
……桐乃と麻奈実の仲直りは、ひとまず保留ってことになるのだろうか?
「二人を仲良くさせたかったら、しっかりと勉強しなくてはね。先輩?」
「そうだな」
くすりと笑う黒猫に、深く頷く俺であった。
話の流れによっては、桐乃の京介への気持ちがバレる可能性があります。そうすると模試に影響するかもしれないから、桐乃はまた今度にしようと言い、麻奈実も了承します。
P.179
「俺にも立ち会わせるから、模試が終わってからじゃないとダメ、とかなんとか」
「ああ、そういうことですか、お二人らしいですね」
「どういう意味か分かる?」
「模試を控えているお兄さんに、余計な心配をかけたくないという意味としか取れませんが、わざわざわたしに聞くということはもしかして分からなかったんですか?」
「……お、おう」
これについては話の流れが理解できなかった京介に、あやせが補足をしてくれています。
P.190
それにしても赤城のやつめ、おまえのせいで女だらけの中に俺一人だけ男という超気まずいパーティになってしまったぞ。まあ妹のためなら仕方ないが。
ごく自然に妹を優先する京介。
京介も初期の頃に比べると、かなり素直になりましたね。
P.209
「いい加減にしろ――――――っ!」
全員を強制的に黙らせる大音声が轟いた。
声のした方に振り向くと――ずっと騒動に割り込まず様子をうかがっていた桐乃が、傲然と立ち上がり、皆を睨みつけていた。俺の妹は、バン! とテーブルをぶっ叩いて、
「京介の邪魔すんなぁっ!」
……いま、なんてった、こいつ……。
桐乃が――俺の邪魔をするな……って。
「来月の模試はね……こいつにとって、家に戻れるかどうかの大切な試験なの! 引っ越してきたのはあくまで勉強に集中するためで――あんたたちに引っ掻き回されるためじゃない!」
P.213-214
「なんか、勉強の進捗とか書いてあるからチェックしてみたんだけどさ――なにコレ? 全然やってないじゃん」
「いや! やってるだろ!」
人生最高に勉強してると思うよ? 最近の俺!
「あんたにしてはやってんのかもしんないけど、足りないっつってんの。――頑張るって約束したでしょ!」
「…………」
俺としては頑張っていたつもりだったのだが……超努力家の桐乃から見ると、まだまだってことか。こいつって自分を徹底的に追い込むタイプだしな。
「結局あんたにはまだ甘えが残ってるってことなんだよね」
しん、と静まりかえった場で、桐乃はファイルを俺に突き出し、厳しい声でこう言った。
「家に帰りたいって思うなら、ちゃんと本気出しなさいよ」
本気か――。本気……の、つもりだったんだがな。
「それともなに? ――そんなにあたしのドレイになりたいわけ?」
「くっ……!」
ムカつく。ごくごく希に可愛いときもあるけど――やっぱこいつはムカつく!
「やってやるよ! 見てろよクソ!」
京介を巡って争いをする黒猫や麻奈実たちを一喝し、京介を叱責して、本気を出すよう焚きつける桐乃。他のサブヒロインとは違うメインヒロインの雰囲気を醸しだしています。
P.216
俺の妹は何を考えているのだろう、と、思う。
(中略)
俺がA判定取ったら、一個、何でも言うこと聞かなくちゃいけないってのに。
なんで俺のことを応援するんだよ。
――『京介の邪魔すんなぁっ!』
なんであんなに、怒ってたんだよ。
模試の後に行なわれる麻奈実と京介を交えた3人の『話し合い』をちゃんとするためには、京介がA判定を取ることが必須条件です。この『話し合い』が今後の兄妹の関係にとって大事だと理解している桐乃は、賭けのことを持ち出して京介を焚きつけ、勉強の邪魔をする他の子たちに怒ったわけですね。もちろん、それ以外にも大好きなお兄ちゃんにA判定を取って家に帰ってきてもらいたいという気持ちもあるでしょうが(笑)。
P.222
「だけど、その前に少しだけ話をしておきたいんだが」
ちらっと控えめに顔をうかがうと、ゾクゾクするよーな軽蔑の流し目が返ってきた。
P.228
というか毎回殴られたり通報されそうになったり――俺はさんざんな目に遭っている。……なのに……結局悪態を吐きながらも、あやせへの好感度が下がっていない自分に驚きである。ドMじゃないよ?
(中略)
誤解を解くわけにはいかない事情があって、それでずっと悔しく思っていたのだが……。
変態だと勘違いされているのも、悪くはない――っと、さすがにこれは言いすぎか。
京介のドM描写。筋金入りですね。
P.231-232
「どうして桐乃は――こういうエッチな人形とか、ゲームとかが……好きなんでしょう?」
それは根本的な問いかけだった。
桐乃が、妹や、エロゲーや、オタク趣味が好きな理由。
(中略)
――『しょうがないじゃん……ホントに分からないんだから……。いつの間にか、好きになってたんだもん……』
……桐乃のやつ、そんなこと言ってやがったんだよな。
妹が妹エロゲーを好きになった理由。実は俺にも、分からない。
桐乃がエロゲーを好きになった理由については1巻の考察や6巻、下の記事でも触れましたが、詳しくは12巻で考察します。
P.236-237
「フッ、愛の力だ」
「あたしへのっ!?」
「黒猫と桐乃への……かな?」
「スッゲー! 言ってて恥ずかしくない!?」
恥ずかしいです。ノリで言うんじゃなかった。
冗談めかしているとはいえ、桐乃への愛を認める京介。
P.244
「あーやだやだ。やっぱ俺、勉強とか嫌いだわ」
成績いいやつは違うのかねえ。桐乃はどんな気持ちで勉強してんだろ。
「ちょっとメールでもしてみっか」
思い立った俺は、携帯で妹にメールを送ってみた。
『お兄ちゃん今日いっぱい勉強したよ!』
送信、と。
………………待つこと数十秒。返信はすぐにきた。
『ウザい! キモい!』
………………。
「ったく、この妹は、もうちっと温かなコミュニケーションというものができねえのか」
せっかく俺が、あえてフレンドリーなメールを送っているというのに。
毎回これだもんな。キレている顔まで容易に想像できる。
キモいメールを送って桐乃にキレられる京介。
「毎回これ」ということは、今までも何度か同じようなメールを送ったようですし、この桐乃の反応はさすがに照れ隠しではないでしょう。今まで電話したり、メールを送った瞬間に即反応して返事が返ってきた桐乃が数十秒かかるって遅くないか? と最初は思いましたが、こんなウザいメールを何度も送られても、無視せずちゃんと返事を返す桐乃は偉いですね。
第四章
P.264
「ふふ……どうやら僕は、Mじゃないらしい」
死んだ瞳で呟く御鏡。
「桐乃さんといい新垣さんといい――やはり京介くんじゃないと駄目みたいだね」
「おい、その文脈だとまるで俺がドMみたいじゃないか」
「む、その言い方だとまるで京介くんがドMじゃないみたいだね」
「ドMじゃねえよ!」
決めつけるな!
いや、間違いなく京介はドMですから。
ドMじゃなかったら、あのヒロインたちの中で、よりによって桐乃を選ぶなんてあり得ないですから。
P.268
桐乃は桐乃で、
『あたしは行かないから、あんた見て来てよ。試験のちょっと前くらいに行って、ついでに激励してやって。したらあいつ、気合入るし』
そんなことを言っていやがったらしい。
相変わらず、兄を応援してるんだかどーでもいいんだか、よく分からん態度である。
直接やってきて『試験、頑張ってね』の一言でもあれば、可愛い妹だとも思えるし、やる気だって出るのによー。
要するに京介は桐乃にアパートに直接来て『試験、頑張ってね』と言ってもらいたかったと。桐乃が来ない理由は、冷蔵庫と京介に渡したエロゲーの件で、父親に何か言われたから(P.157参照)でしょう。
P.269-272
「その……わたしと黒猫さんは、せっかく二人きりになれたので、お互いに突っ込んだ話をしていたんです」
「突っ込んだ話?」
「はい。桐乃のこととか……あと……お兄さんのこととか」
具体的な内容までは、言う気がないらしい。
(中略)
「……少なくとも、この間のように怒鳴り合う必要はなくなったわ。いまの私たちは、お互いの主義主張を心ゆくまで交わしあったのだから」
「……へ、変な言い方しないでくださいっ」
表情と口調がやたらエロいんだよな、瑠璃先輩。
「まぁ、相手の主張に同意できるかどうか……という点では、いまだ対立しているのだけれど」
「当然です。妥協の余地はありません」
(中略)
「新垣あやせ――以前の失言を撤回させて頂戴。私はあなたに、もう二度と『関係ない』なんて言わない。これからはこう認識するわ――あなたは我が運命の前に立ちふさがる、強大な敵であり、同じ場所を目指す輩よ」
ここで二人で話した内容はハッキリ書かれていないので推測になりますが、桐乃が京介のことを好きであるということと、自分が桐乃の一番の親友であるということについてでしょう。相手の主張に同意できるかどうかについての対立というのは、黒猫は桐乃と京介の関係を認め2号でも構わないと考えているが、あやせは兄妹でそんな関係は不健全で認められないという部分。我が運命の前に立ちふさがる、強大な敵というのは京介を巡る恋のライバルという意味で、同じ場所を目指す輩というのは、桐乃の親友というポジションのこと。この辺についてはP.140-141にヒントが書いてあります。
要するに、お互い本音で話しあって主義主張を戦わせることで、ライバルとして認めあったということですね。この『話し合い』が11巻のP.324からの黒猫、あやせ、桐乃の『話し合い』に繋がります。
P.272
それからは再び、勉強勉強勉強の日々。もう二度と、妹にあんなことを言われたくないからな。そりゃもう――本気の本気で頑張ったさ。
あいつを見返してやりたいという想い。世話をかけたみんなへの恩。
俺に任せろと見栄を切った、あのときの誓い。
それらが背中を押してくれた。
久しぶりに、誰かのためでなく、高坂京介……俺自身のために動いていると実感できる毎日。
>俺に任せろと見栄を切った、あのときの誓い。
これはP.25の「まあな、任せとけって」という部分のことでしょう。
頑張る理由の妹の割合高いですね。思いじゃなくて「想い」という言葉を使っているのに注目。単に桐乃との賭けに勝ちたいという以上の気持ちが感じられます。
P.273
携帯をチェックすると、メールが着信している。
妹から、短く一言だけ――
『がんばれ』
「へっ……」
なんだあいつ、テレパシーでも使えんのか。いま、俺が一番……。
「へいへい、頑張りますよー」
いま、俺が一番……の後に続くのは「欲しい言葉」でしょうか?
兄妹の絆を感じさせるやり取りですね。
P.278
「ちなみに、みんなって」
「……桐乃と、わたしと、加奈子と、黒猫さんと、沙織さんです」
やや複雑そうに、あやせは言った。そっか、その組み合わせでの行動が――ありえるようになったのか。
「みんなで――お二人の合格祈願、してきましたから。ついでに加奈子のも」
ちゃんと桐乃もいるのに注目。
表立った手伝いは、冷蔵庫を買う(のとエロゲーのプレゼント)と叱咤激励ぐらいですけど、裏ではちゃんと京介のためにいろいろと考えて動いているのがわかりますね。
P.293-294
「だよな、分かってる。あのときとは事情が違う。だけどよ……」
俺は、この一年で学んだんだよ。
「ちゃんと本音で話し合えば、意外となんとかなるもんだ」
そう。物事ってのは、やってみなくちゃ分からない。
仲が最悪だった妹とでさえ――笑い合えるようになるんだから。
(中略)
ちょっと前までは、こうじゃなかったはずなんだよ。
高坂京介は、穏やかで平穏な日常を愛する、ドライでマイペースな人間だったはずなんだ。
ったく……最近の俺はどうかしてる――――――なんてな。
そんな自嘲も、いまはもう出てこないぜ。
この一年で変化した京介。
麻奈実の望んだ「堕落」からは抜け出しているのが、よくわかりますね。
P.306
「幻滅させてごめんなさい。あなたの大好きな『あやせ先輩』も『あやせちゃん』も、あなたの中にしかいないんですよ――筧さん。筧沙也佳ちゃん」
ここは桐乃の「凄いお兄ちゃん」と掛けてあるのと、過去編の伏線ですね。
P.310
この前みてーに蹴っ飛ばされるかなーと半ば覚悟していたのだが、あやせは呆然とはしていたものの、成行きを見守ってくれている。さすがに二度目だけあって、分かってるな。
一度目というのは、2巻ラストでのあやせとの対決の時のことですね。
覚悟じゃなくて期待の間違いじゃないですかね?(笑)
P.311
「あやせはオタクが大嫌いで、穢らわしいと思っていて――一度はその友達に幻滅して、見損なって、絶交までしたんだ。それでも友達のことが大切で……自分に嘘を吐いてまで、仲直りしてくれた」
そう――ちょっと考えれば、すぐに分かることだったんだ。
『俺はなあ――妹が、大ッッ……好きだあぁぁぁぁぁぁぁ――――――ッ!』
あんなその場しのぎの嘘が、いつまでも続くわけがなかった――
あやせは、俺の嘘になんか、とっくに気付いていたんだ。
気付いていて――オタク嫌いな自分と、オタクな親友を大切にしたいという想いに折り合いをつけるため、あえて騙され続けてくれていた。自分に嘘を吐き続けてくれた。
桐乃のためにだ。
あやせが自分の嘘に気付いていることを知っていた京介。京介がいつ気付いたのかは不明ですが。
P.317
「……キモいブログだって言ったくせに」
「気持ち悪くない趣味なんかないよ」
俺はフィギュアケースの中身を見て、言った。
「でもな。キモかろうが、悪かろうが、バカにしていい趣味なんかない」
悪いことは罰せられるし、気持ちの悪いものは拒絶される。それは仕方のないことだ。
けれど、蔑むことだけはすまいと思う。
俺自身の大切なものを、蔑むのと同じことだから。
ここの「俺自身の大切なもの」というのは、オタクである桐乃、黒猫や沙織、ゲー研の仲間などのことを指していますが、12巻での桐乃への告白時の台詞の伏線にもなっていますね。
P.324
「で? ダメだった?」
第一声がこれだった。久しぶりに会った、しかも大事な試験を終えた直後の兄に対しての台詞かよ。あまりにも相変わらずすぎて、逆に微笑ましくなってくるわ。
俺はあえて余裕の態度を装って応えてやる。
「バッチリだったよ。――この前した賭けのこと、忘れんじゃねーぞ」
「はいはい、言ってればー」
久しぶりに会った兄に、いつもの毒舌を吐く桐乃。
たった一ヶ月ぐらい会ってなかったからって、何が変わるもんじゃないですよね? 家族って、兄妹ってそういうものだと思います。しばらく会ってなくても、会えばすぐに元通り。そういうものに安心してしまう感覚って、大抵の人には覚えがあるんじゃないでしょうか?
P.324
「つーか、おまえ何しに来たの?」
「あやせから聞いたんだけど、あんた、怪我したらしーじゃん」
いかにも興味なさそうに聞いてくる。
あやせめ、桐乃にチクリやがったな。ちっ、余計なことを。
「怪我? なんのことだよ」
「とぼけんなっつーの。……なに強がってんの? ばかじゃん」
「ぬぐ……」
まじムカツクなこいつ。
桐乃の態度がそっけないのでわかりづらいですが、要は「お兄ちゃんが怪我したって聞いたから心配で迎えに来た」ということです。怪我について京介がとぼけるのは「兄ってのは妹には格好悪いところを見せたくないし、妹の前ではつい格好つけて強がってしまう生き物」だからですね。妹がいる人はわかると思いますが「兄ってそういうもの」なんですよ。
P.325
「痛ってえ!」
何しやがるこのアマ!
「やっぱ痛いんじゃん」
「……野郎」
涙目で睨み付けてやると、桐乃は数歩俺から離れ、首だけで振り向く。
「ほら、なにやってんの? 病院行くんでしょ?」
「…………………………おう」
ムスッと口元を閉ざしたまま、先を歩く妹の隣へと並ぶ。
これまたわかりづらいですが、要は「お兄ちゃんが病院行くのに付き添ってあげる」ってことですね。さりげなく桐乃の隣に並んで歩く京介も、密かな萌えポイントです。さすがの桐乃も、この場面で離れて歩けとは言いません。
P.326
「おまえさー」
「なに?」
「どうすんの?」
「なにが?」
「進路」
「………………」
桐乃は答えなかった。俺も、再度聞き直すことはしなかった。
桐乃はこの時点で卒業したら、海外に行くと決めています。
まだ麻奈実との『話し合い』が終わっておらず、今後どうなるかわからないので、この時点では京介の質問に答えられません。
P.327
「どうしたよ」
問うと、妹は俺を見上げてきた。言葉を彷徨わせる口元から、白い息が漏れる。
桐乃はそこで、初めて少し笑った。
「とりあえず――――お疲れ」
――――。
ふん。……こいつめ。
「おうよ」
さっきは何が変わるもんじゃないと書きましたが、やはり少し変わっているようです。どこか落ち着いた兄妹のやり取りは、離れて暮らしている間の、二人の心境の変化を感じますね。ハッキリとした描写は無いですが、離れている間に、お互い自分や相手についていろいろと考えるところがあったのでしょう。
P.328-329
人間、できないことはできないけれど。
できることだって幾つもあるのだ。
それは、きっと当たり前のことで……。
いつの頃からか……俺が目をそらしていた現実だった。
(中略)
もちろんこんな結果は通過点に過ぎず、練習にすぎず、真の本番は年明けにやってくる。
けれども――何かを成し遂げたというこの感覚は、俺の中で、確かな一つの節目になったと思う。我ながら――いや、自分のことだからこそ、つい大げさに語ってしまうが。
小さい男だと笑ってくれて構わない。
こいつは……久しぶりに、自分のために頑張って――勝利した、記念すべき一歩なのだから。
模試でA判定を取った京介。
自分のために頑張って手に入れたこの結果が、京介が過去を克服するのと、桐乃への気持ちに踏み出すきっかけになったことは間違いないでしょう。
P.331-332
「……よう」
美容院帰りだという桐乃は、髪型を変えていた。明るい髪色、ふんわりと毛先にパーマをかけている。ぐっと大人っぽくなっていて、びっくりした。
「どうした、その髪」
「似合ってるっしょ」
「まあまあじゃね」
「は? 何様?」
見くだすように笑う桐乃。
「ロープレでさー、ボス戦行くまえに、装備整えるじゃん?」
髪の毛を、ちょいちょい、と摘んで、
「そんな感じ」
「なんのこっちゃ」
ボス戦ってのは麻奈実との『話し合い』のことですね。
麻奈実との対決の前に、美容院で髪型を変えて気合入れてきたということでしょう。桐乃の本気っぷりがうかがえます。
P.332
俺の顔をちらりと見るや、「ふー」と、意味ありげに息を吐く桐乃。
「…………んだよ」
今日が試験の結果発表日だということは知っているはずなので、それを聞いてくるのかなと思いきや、妹はそっぽを向いて、
「おかえり」
短く、端的な一言。補足することなど、何一つなかった。
そのとき俺がどう思ったのか――って。
京介が補足してくれないので、僕が代わりに補足します。
桐乃は最初から京介が模試でA判定を取ると信じていたし、家にいる京介の様子を見て、結果もすぐに察したのでしょう。しかし、賭けをした手前、素直に負けを認めることができず、そっぽを向いて「おかえり」と返した。桐乃の気持ちを察した京介は、そんな妹の態度を可愛いと思ったのでしょう。
桐乃が京介のことを信じていたというのは、
11巻 P.331
その『話し合い』は、『お兄さんがA判定を取る』という結果が前提条件であるはずなのだが、明らかに桐乃は、当然そうなるものとして頷いていた。
お兄さんを――信じているのだろう。
ここにも書いてあります。
P.333
へっ……もう、こんなモノローグも恒例のものになってしまったな。
髪型を変えた桐乃。
妙に気合の入った、新作の冬服。
不機嫌に顔をそむけている妹に向けて、
「おまえの新しい髪型な、すげえ似合ってるぜ」
二ヶ月ぶりに家に帰ってきた俺は、こう言ってやる。
プイ、と、そっぽを向いて、
「俺の妹がこんなに可愛いわけがない、って、思った」
「――死ね」
吐き捨てた妹の表情は、もちろん、見えるわけもない。
桐乃の髪型は麻奈実との対決のために変えたのは確かですが、もちろん京介が家に帰って来る節目に合わせておめかししたという意味もあるでしょう。「妙に気合の入った、新作の冬服」という描写からもそれは察することができます。(麻奈実との対決のためだけなら、別に「今」新作の冬服を着る必要はない)
そして、やけに素直に妹を褒め、可愛いとハッキリ言う京介からも心境の変化(余裕と自信)がうかがえます。桐乃の表情は「死ね」という言葉とは裏腹に、恥ずかしさで真っ赤になっているのは言わずもがな。
P.340
「あれ、なんか髪型……いつもと微妙に違うか?」
「あ、よく気付きましたね、お兄さんのくせに」
「俺のくせにってなんだよ」
あやせは、俺をからかうように流し見て、
「前科がありますから。……ふふ、まぁ、いいです。気付いてくれたのは嬉しかったですし――桐乃と一緒に、ヘアサロンに行ってきたんです」
あやせのいう前科というのは、6巻第二章(P.70-72)の麻奈実変身イベントのことですね。あやせが麻奈実をプロデュースして髪型を変えてあげたのに、京介が寝癖と勘違いして全然気づかなかったやつです。
P.340
「私は、ちょっと整えてもらっただけなんですけど。桐乃、可愛くなってましたよね」
「まぁな」
スーパー桐乃になってた。なーにを気合入れてんだかな。
あやせはくすくすと笑って、
「本人がいないと本音が言えるんですね」
「うっせ」
さきほど、本人を目の前にして本音を言ってた気がしますが……まぁ、あやせは普段の京介の言動と比べて言っているのでしょう。
P.344-345
「お兄さん。わたしの嘘に――気付いていたんですね」
「ああ……そのことか。まあ……な」
「いまさらですけど――桐乃と仲直りした日、家に帰ってすぐ……お兄さんに『あのメール』を出したときには、もう、『きっとそうなんだろうな』って……なのにわたし……お兄さんの好意に甘えて……お兄さんを悪者にして……自分の心を騙してました」
――大ウソ吐きのお兄さんへ。
(中略)
「ずっと嘘を吐いてて、すまなかった」
「こちらこそ」
2巻のあやせのメールについての種明かしと和解。
P.347
「そんなあなたのことが好きです」
あやせの告白については12巻で。
10巻のまとめ
10巻のポイントは、
両親に兄妹の仲を疑われて、京介が一人暮らしをすることになった。
京介が模試でA判定を取ることによって自信を付け、桐乃との賭けに勝った。
あやせに告白された。
これぐらいですかね。
10巻は最終巻へ向けての仕込みの巻なので、物語的には大人しめ。
京介の気持ちと京介を巡るヒロインたちの思惑に迷彩を施して、京介が誰を選ぶことになるのかわからないようにしてますね。時系列のシャッフルは、その最たるものでしょう。
この巻の冒頭で桐乃との仲を両親に疑われた京介は、最初の頃は桐乃への気持ちを隠して、妹とそんな関係になるわけがないと強がっています。しかし、模試でA判定を取って自信を付けてからは心境の変化があったようで、桐乃への態度もずいぶん素直になっています。おそらく、この頃から桐乃に対する自分の気持ちを認めるようになり、告白を考え始めたのでしょう。