注意
この記事はライトノベル『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を全巻読んでいることを前提に書いています。
おもいっきりネタバレがありますので、未読の方はお気をつけください。
10~12巻の出来事と時間軸
10~12巻の時系列はバラバラで理解しづらいので、3巻分をまとめています。
日付 | 出来事 | 原作 |
---|---|---|
10月上旬のある日 | 両親に桐乃との仲を疑われ、一人暮らしをすることになる | 10巻、第一章 |
翌日の放課後 | 御鏡と赤城に一人暮らしについて話す | 10巻、第一章 |
上記の2日後 | 京介のアパートに桐乃がやってきて、冷蔵庫と『押しかけ妹妻』をもらい、賭けをする | 10巻、第二章 |
上記の翌日の放課後 | 加奈子がアパートにやってきて、桐乃と兄妹ということがバレる | 10巻、第二章 |
上記の翌朝 | あやせと黒猫がアパートにやってきて、黒猫に自分の決断を伝える | 10巻、第二章 |
同日放課後 | 親父がアパートにやってきて、『押しかけ妹妻』を持ってるのがバレる | 10巻、第二章 |
上記後の休日 | 京介のアパートで引越し祝いパーティ、あやせが京介のお世話をすることに | 10巻、第三章 |
上記の翌日の放課後 | あやせに桐乃がフィギュアや妹エロゲーを好きな理由について聞かれる | 10巻、第三章 |
上記の後日の放課後 | 雨の日に、日向ちゃんが様子を見にやってくる | 10巻、第三章 |
上記の後日の深夜 | あやせのファンブログに異変が起こる | 10巻、第三章 |
同日 | ブログの異変について赤城や御鏡に相談 | 10巻、第四章 |
上記の翌日の放課後 | 女装した御鏡に遭遇 | 10巻、第四章 |
上記の後日の放課後 | あやせにエッチな本を隠していたのがバレる | 12巻、第二章 |
上記の後日の土曜日 | あやせに『おしかけ妹妻』を隠していたのがバレる | 12巻、第二章 |
上記の翌日の日曜日 | アパートに加奈子が差し入れに来て、あやせとの仲を誤解されそうになる | 12巻、第二章 |
上記の翌日の放課後 | あやせと買い物に出かけ、フェイトさんから赤ちゃんを預かる | 12巻、第二章 |
11月1日 | アパートであやせに踏まれている黒猫を目撃する | 10巻、第四章 |
11月3日 | 模試当日、あやせのストーカー問題解決 | 10巻、第四章 |
同日試験終了後 | 桐乃と一緒に病院に行く | 10巻、第四章 |
11月のある日 | 麻奈実と加奈子の話し合い | 11巻、エピローグ |
上記以降のある日 | 桐乃が黒猫と沙織に、卒業したら海外に行くことを告げる | 11巻、俺の妹がこんなに可愛いわけがない12 プロローグ |
上記の翌日 | 桐乃、黒猫、あやせの話し合い | 11巻、俺の妹がこんなに可愛いわけがない12 プロローグ |
12月の初め | 模試結果発表、京介がA判定を取って実家に戻れることに | 10巻、第四章 |
上記後の休日 | 京介が一人暮らしを終えて帰宅、部屋が桐乃の私物だらけになっている | 10巻、第四章 |
12月上旬 | 田村家で麻奈実、京介、桐乃の話し合い、冷戦の真相が明かされる | 11巻、第一~四章 |
上記の後日 | 京介が櫻井と再会、好きなやつがいると櫻井の告白を断り、自分から告白すると決心する | 11巻、第四章 |
12月のある日(上記のすぐ後) | 桐乃をクリスマスデートに誘う | 12巻、第一章 |
上記の後日 | アパートの前で、あやせに告白されて断る | 10巻、第四章と12巻、第二章 |
12月20日 | 京介が黒猫に正式に自分の気持ちを伝え、黒猫を振る | 12巻、第三章 |
12月24日 | 京介がクリスマスデートで桐乃に告白、高坂兄妹が恋人同士になる | 12巻、第一、三、四章 |
12月25日 | 黒猫と沙織に兄妹で付き合うことになったと話す、ゲーセンで櫻井に会う | 12巻、第四章 |
とある休日の日の朝 | 起きたら桐乃が隣で寝ていて、びっくりする | 12巻、第五章 |
正月を過ぎた頃 | UDXのライブで加奈子に告白されて、断る | 12巻、第四章 |
とある休日の日の午前中 | 桐乃と『恋人の儀式』をする | 12巻、第五章 |
卒業式の日 | 麻奈実と対決、桐乃と結婚式を挙げ、約束通り兄妹に戻る | 12巻、第五章 |
春休み | 桐乃と秋葉原に行き、指輪を買ってあげたあとにキスをする | 12巻、最終章 |
第四章
P.209
結果だけ見れば、黒猫の『生涯最大の呪い』は、俺がすでに固めていた覚悟を、さらに燃え上がらせる結果となった。
あいつら、この効果を狙ってあんな真似をしやがったのかな?
実際に聞いたわけじゃないし、これは俺の想像でしかないんだが。
あの表情からすっと、黒猫は狙ってたと思う。普段、邪気眼厨二病的な思い込みでしかない“儀式”とやらは、こと高坂兄妹に関してのみ、絶大な効果を発揮するのだ。
理由までは、言わなくていいよな。
京介が言わないので補足すると、“儀式”が高坂兄妹に関してのみ絶大な効果を発揮する理由は、黒猫が高坂兄妹のことをよく理解していて、兄妹のことを大好きだからですね。
P.211
「はぁ……ええっと……だからな。俺は、その……おまえのことが、好きなわけ」
「恋愛的な意味で?」
「恋愛的な意味で」
いまさら恥ずかしがっても意味がねえ。はっきりと即答した。
「ほ、ほう……へぇ~……」
「……うれしそーじゃないか」
「うっさい」
京介は桐乃(妹)のことが恋愛的な意味で好き。
いままではシスコンだの、妹ともっと仲良くなりたいだのと言って、桐乃に対する好意をごまかしていましたが、ようやくここでハッキリと明言されましたね。
P.212-213
「いや、おまえ『はい』って言ったよね? 俺の告白に対してさ」
「言ったケド?」
「じゃあ、それってつまり……おまえも俺のこと、好き……なんだよな?]
当たり前だけど、すっげー大切な問いである。内心かなりビビリながら聞いた。
桐乃の返答は、
「はあ~?」
これである。
「きっも! なんでそーゆうことイチイチ聞くワケ? ありえなくない?」
「いやいや! だってそこは確認しておかないと! このあとどうするか相談するわけじゃないか!」
「だーかーらぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
ぷいっとそっぽを向いて、
「……………………………………返事、したでしょ」
「……えーと……『告白の返事を何度も確認したりすんのがロマンチックじゃないからやめてよね! 察してよね!』っていう意味か?」
「いちいち言うなバカ!」
おっ、図星か。
「やったぜ! おまえの本心をここまでちゃんと的中させたのってもしかして初めてじゃね!? お兄ちゃん凄くない!? 褒めてもいいよ?」
桐乃の方は恥ずかしがってハッキリ言わないですが、このやり取りを読めば桐乃も京介のことが好きというのはわかるでしょう。
京介が告白し、桐乃はそれを受け入れて、高坂兄妹は両想いになった。
これが厳然たる事実であり、今までのような嘘、勘違い、叙述トリック、ミスリードなどの疑う要素は一切ありません。
P.215-217
「ねぇねぇ、その前に、やりかけだった『くりすます聖夜(ほーりいないと)』クリアしてもいい?」
おまえってやつは!
「ふざけんなよ!? せ――せッ~かく俺がいい台詞を言ったってのに! なんでこれから俺たちの大切な今後について話し合おうってときに、エロゲーをやんなくちゃならんのだ!」
「だってさっきここ出るとき、あえてクライマックス直前で止めといたでしょ! 主人公の告白シーンの直前で! さっきからずーっと続きが気になって気になってさあ!」
「ほう――ちなみに『さっき』っていつからだ?」
「正直、あんたにコクられてるときもエロゲの続きが気になってた」
「最悪だてめえ! 台無しだよ畜生!」
「あんたが告白してきたせいで、『あッ、そういや聖夜たんに告白しないと』って思い出しちゃったの!」
「はいはいそうですか! へッ、おまえとの禁断の愛も、これでお終いだな!」
百年の恋も醒めるわ! なんで俺は、こんなクソ女に告白しちゃったんだろうな?
「ちょ、聞いて! マジでマジで! あんたのゆー『あたしたちの人生相談』は――そりゃまァ? 超大事なことだよ? 人生の分岐点だよ? でも――でもね? 『くりすます聖夜(ほーりいないと)』は、まさにいま! クリスマスを舞台にしたエロゲなの!」
「……だから?」
「いまやるのが、いっちばん楽しめるってこと! その機会は、あと数時間で終わっちゃう……もしそんなことになったら、話し合いどころじゃない……むしろ最高のエンディングを見てスッキリ感動してからの方が、いいアイデアだって浮かぶはずっ……!」
そうでしょ? 分かるっしょ? と、詰め寄ってくる。切実な口調と眼差しでだ。
マジでキモいなこいつ!
こ れ は ひ ど い。
京介が怒るのも無理からぬこと。京介とのことよりもエロゲーの方が大事だと言ってるようなものですからね。
桐乃の言い分も、後半はまぁ、一理あるというか、分からなくもないですが、さすがに前半の京介にコクられたときもエロゲの続きが気になってた云々は、照れ隠しのための冗談だと思いたい。
P.217
「その椅子硬いし、こっちでやろう」
「一緒に?」
「あったりまえじゃん」
「……へいへい」
いつもの照れや言い訳もなく、普通に一緒にやろうという桐乃。
ようやく素直になりましたね。
P.218-219
「悪い?」
俺は少し考えて、こう答えた。
「いいや、悪くねーよ」
「……こういうあたしって、気持ち悪いって思う?」
「世間一般とやらでは、そーかもな。でも、俺は絶対、バカにしたりしねーよ」
「ぜったい?」
「ああ、絶対」
「ほんとに、ほんと?」
「本当に、本当に、本当だ」
覚えているだろうか……この――俺たち二人にしか分からないやりとりを。
あのときは、大嫌いな妹との会話を早く切り上げたくてそう言った。
けれどいまは違う。心の底から、そう思っている。
俺の答えに、桐乃はあのときとは違う答えを返した。照れくさそうに微笑んで――
「へへ……知ってる」
「だよな」
このやり取りは、1巻 P.62-63で、桐乃のオタク趣味を知った京介と桐乃のやり取りの再現ですね。
あの時とは違う「今の二人の関係」を上手く表現しています。
京介のモノローグからして「あの頃の京介は本当に桐乃のことが大嫌いだった」ことがわかりますね。大嫌いな妹が強調してあったら、お約束の遠回しな嘘だとわかりますが、今回は普通に書いてありますし。
P.219
俺はベッドの上、妹の隣に腰を下ろす。
かちかちっ。桐乃はマウスを操作し、エロゲーを立ち上げる。
ベッドの隣に京介が腰を下ろしても何も言わない桐乃。
今までだったら、近づきすぎだの、もっと離れてだの、一言文句を言ってたでしょうが、両想いだとわかった以上、もう、そういうのは必要ないのでしょう。さりげない描写ですが、二人の心の距離を感じさせます。
P.219-220
「一個だけ、はっきりしてることだけ、言っとくね。――嬉しかったから」
「――――」
意表を衝かれた俺は、両目を見開き固まった。
「あたしを好きになってくれて、ありがと」
「……おう」
辛うじてそれだけ口にできた。
いかん――ドキドキしてきた。顔が熱い。思えば初めからそうだった。
――俺の妹が、こんなに可愛いわけがない。
妹の笑顔を見るたび、礼を言われる度、俺はそう思い続けてきたんだっけ。
素直な桐乃。
それにしても京介はチョロすぎる。さっきはあんなに怒ってたのに、ちょっと妹がデレただけでこれですからね(笑)
P.221-222
「いや、あんなもんエッチなお願いするに決まってんだろ? 他の発想なんてなかったわ」
「マジ死んでよ! ヘンタイ! キモッ……普通このシチュでそれ言う~?」
「あんな約束したら誰でもそうだって。絶対絶対。俺が特別変態なわけじゃないと思うぞ」
「最近のあんたは特別変態だと思うよ? 『兄妹なんだから別にいいだろ』的な言い訳で、あたしにセクハラしまくってくるし」
妹モノならともかく、リアルで妹相手にエッチなお願いをしようとする人は、そうはいないと思いますよ?
P.222
一方俺は、妹とエロゲーやっててエロい気分になってきた。
いや! だってさ! 距離が近いんだもんよ!
いまはいつも以上に意識しちゃうんだよ! 仕方ないだろ!
妹を性的な意味で意識してしまう京介。
京介のこういうところが世間ではキモがられているようですが、僕的には全然OKです。いくら妹といったって女ですしね、しょうがない。
もちろん、嫌がる妹や仲の良くない妹に無理やりなんてのはダメですよ? 「お互い好意を持ってるなら、別にいいんじゃないか?」という意味です。
P.223
「ワンルートクリアしたら、『二人の人生相談』をやるわけじゃん?」
「そうだな」
「このゲームが、参考になるんじゃない? ほら、あたしたちと、シチュが似てるし」
「…………」
エロゲーを参考にしていいのか? 本当にいいのか?
俺はかなり難しい顔をしていたんじゃないかと思う。
フラグ。
回収されるのはP.245にて。
P.226-227
「そういやあんた、いい加減『しすしす』クリアしたわけ?」
おおっとやぶ蛇だったか。
「その話は後でな。ゲームを進めろよ」
後でなと言いつつ、結局『しすしす』の話をすることはなかったですね。
伏見先生が忘れてたのか、『しすしす』の内容について詳しく語る気がないのかはわかりませんが。
P.232
そう――俺が選んだプレゼントは、去年のいま、渋谷の109で桐乃が欲しがったあのリングだった。
「おまえ、すっげえ欲しがってたろ? でも去年は金がなくてさ、結局そのピアスを買ったんだったな。一万円で」
俺は桐乃の耳を指差した。そこには去年、俺が買ってやったピアスが光っている。
「……うん」
桐乃が、このクリスマスデートで、去年京介に買ってもらったピアスをつけているということは、桐乃がこのクリスマスデートを特別なものと思っているのと、ピアスを大事にしていることの証ですね。こういうのをいちいち書くのは野暮ですが、これは考察記事なので、わかりきったことでも確認のためにちゃんと書きます。
P.233
「つーか、兄妹なんだから結婚なんてできないってーの」
「お、おまえだって! 『はい』って言ったじゃねーか!」
「言ったケドさぁ~~へへへへ」
ニヤつきやがって。言ったけど――なんだってんだ。ようやく気持ちが通じ合ったと思ったのに、やっぱり何を考えているのか分からないところがある。
兄妹で結婚なんてできないことは分かっているけど、大好きな人にプロポーズされればやっぱり嬉しいし、婚約指輪を渡されたら顔がニヤつくのを抑えることができない……ってところでしょうか? 桐乃の心境は。
P.234-235
「俺が……指輪を嵌めるの? おまえの指に?」
「そう。ほら、早く」
「……恥ずかしいんだけど」
「あたしだって恥ずかしい」
言葉どおり、真っ赤である。告白シーンのヒロインのようだった。
「………………」
俺が指輪を摘んで見つめ、赤面していると――
「あたしと結婚したいんでしょ?」
……この野郎。
「分かった」俺は覚悟を決め、「――行くぜ!」まるで戦う前みたいな声を出して、妹の指にそれを嵌めた。
「……ぴったり」
「おう。クリスマスプレゼントで――婚約指輪だ」
(中略)
「ありがとう。婚約指輪、嬉しい」
「……どういたしまして」
素直な言葉が、耳に響いてくる。
「ま、兄妹では結婚できないんだケドね」
「いちいち現実に引き戻してくれるなよ」
桐乃の指に指輪を嵌める京介。
桐乃も女の子ですからね。やはりこういうのに憧れがあるのでしょう。京介に対してもめずらしく素直です。
さっきから、兄妹では結婚できないことをやたら強調する桐乃ですが、それは裏を返せば結婚にこだわっていることの表れでもあります。
P.235-236
「俺がいままでプレイさせられてきた妹モノのエロゲーってさ。たいてい二人が結ばれたところでハッピーエンドになって、その後の話は描かれないよな」
二人は末永く幸せに暮らしました。めでたしめでたし。
ちょっと想像を膨らませるだけで、その後の二人に待っているのは幸せばかりじゃないって気付いてしまうから。語るのは野暮と、話を切り上げてしまう。
もしくは、厳しい現実を突き付けつつも、そんなのは乗り越えてみせると決意をして、駆け落ちをして――兄貴の戦いはこれからだ、と締める。
俺たちは必ず幸せをつかんでみせる――おしまい。
なんの参考にもならねえ。参考になるのは、告白するところまでだ。
京介の妹エロゲ語り。
まぁ、概ね同意ですね。ほとんどの妹エロゲは京介が言うとおりの内容です。そうじゃない作品を探すほうが難しい。
最近プレイした中で、兄妹に子供が生まれて幸せに暮らしているところまでをちゃんと描いたような作品は『はるるみなもに!』と『サイノガミ ~破滅も来るべき事柄も、望めば手中~』ぐらいですかねぇ。厳しい現実を描いたとなると……なにかありましたっけ? 大抵の作品は悩むことはあっても、わりと簡単に解決しちゃいますから……。
P.236
「あんたがやってないだけで、そうじゃない妹モノエロゲもたくさんあるけどね」
と、なんでもない風に桐乃は言った。
「ガチで泣ける名作もあるよ」
「ふうん」
実際そーなんだろう。厳しい兄妹の現実を描くエロゲーも、たくさんあるのだろう。
だけど俺がプレイした妹ゲームの中にはなかった。
俺が妹に押しつけられてきたエロゲーの中にはなかった。
それってなんでだろうな? 分かるかい?
俺は分かったよ。
京介が桐乃に押しつけられてきたエロゲーの中に、厳しい兄妹の現実を描くエロゲーが無かった理由。ここまでちゃんと読んできた人には簡単ですね。
京介のことが昔から好きだった桐乃は、妹モノのエロゲーを京介にプレイさせることで、兄妹の恋愛がアリだということを知って欲しかった。世の中にはこういう世界があることを知って欲しかった。妹の良さを知って欲しかった。自分のことを見て欲しかった。
その目的のためには、京介に厳しい兄妹の現実を知ってもらうと都合が悪いのです。だから桐乃は、京介にそういった作品をプレイさせようとはしなかった。兄妹が幸せになる作品ばかりを押しつけた。見ようによっては一種の情報操作なんですが、桐乃の京介に対する気持ちを考えると、僕はそのことを、どうこう言う気にはなれないですね。
P.236-237
ところで物語の語り部ってのは、読者よりもちょっとだけ察しが悪いくらいが良いさじ加減なんだってよ。クソ喰らえだね。悪いけど、俺、それはもうやめたから。
いまの俺はいままでの『俺』じゃない。
スーパー京介だ。
そうあろうと決めた。
桐乃への告白をした後の京介は、一見今までの嘘をやめて正直になったように見えますが、別にそういうわけではありません。読者の上を行くために、この後も平気で嘘をつくし、大事なことも隠します。なので、読者はその上をいかないと京介の気持ちや意図は理解できません。
多くの読者は読後がスッキリできるようなラストや答えを期待したのでしょうが、伏見先生はそれをやらなかったため、この作品をよく理解できなかった層は軒並みこの作品に低評価を付けました。
まぁ、難易度高すぎるので、理解しろという方が無茶ぶりなんですけど……。
余談ですが、この展開は同人ゲームである『うみねこのなく頃に散』の完結編が頒布された時と非常によく似ていますね。あちらはスクエニから発売されたコミック版で、ゲーム版では明かさなかった答えをきちんと描いて好評を博しているので、ゲーム版しかプレイしていない人は、機会があれば読んでみてほしいです。かなり作品に対する評価が変わりますから。
P.237-238
「でも兄妹だから、実際くっつけるとなると大変だよな。だから決意を固めて告白して、結ばれて、くっついたその後で『実は血が繋がってなかった』ってオチがつく」
大きな問題はそれで解決。めでたしめでたし。
「それは逆にエロゲーではあんまないっしょ。ユーザー怒るし」
「怒るの?」
「すっごい怒る。ディスク割るバカが出たりする」
オタク怖えぇ。
義妹オチなんてやられたら、そりゃ怒る。間違いなく怒る。
……たださすがにディスクを割ったりはしないですが。
僕の知る限りでは、妹が義妹だと知ってディスクを割ったユーザーの例は思いつかないのですが、そういう事例はあるんですかね? 実際にディスクを割ってメーカーに送りつけた『下級生2』のたまきの件は有名ですが、桐乃(伏見先生)はそれと混同しているんじゃないでしょうか?
P.238
「一昨年ぐらいに観たアニメ映画が、まさにあんたが言ったまんまの展開だったよ。まぁ、あれは別にメインテーマが『兄妹恋愛』ってわけじゃなかったからそれはいいんだけどさ。でも最近の傾向としては『義妹オチ』は避けられているし、義理なら義理って最初に提示しとくのが義理みたいな」
僕を含め、色んな実妹キャラ好きの人たちが『義妹オチ』反対の声を上げ続けた結果……かどうかはわかりませんが、桐乃の言うとおり『義妹オチ』は減少の傾向にありますね。それでもまだ完全に無くなったわけではなく、時折思い出したように現れて、神経を逆撫でしてくれますが……。
P.238-239
「ってワケで、あたしが義妹だという展開は期待しないでよ?」
「おまえこそ、ゲームと現実を一緒にするな!」
確かに俺とおまえは全然似てないけども!
さすがにいまさら血が繋がってないとかねーよ!
それをやっちまったら俺、もはや語り部失格ってどころの問題じゃないぞ!
実は語り部の性別が違ってましたレベルの叙述トリックじゃねーか。
「想像は想像。夢は夢。ゲームはゲーム。……現実ではあたしとあんたは実の兄妹で、結婚なんてできないわけ」
ここで出てくるゲームとは『俺の妹がこんなに可愛いわけがない ポータブル』のことですね。
このゲームでは桐乃が実は義妹で、京介と結婚し、子供までできるという桐乃義妹ルートが存在するらしいです。(しつこいようですが僕は未プレイです。情報はあくまで又聞き。たとえIFの話とはいえ、義妹オチのゲームなど絶対にプレイしません)
ゲーム版の桐乃は義妹でしたが、原作(現実)ではちゃんと実妹ですよと、親切に教えてくれてるわけですね。
これまでにも実の兄妹という描写は数多くありましたが、ここでようやくハッキリと明言されました。実際、こうやってハッキリ言ってもらえないと安心できないんですよ……。
最近は少なくなってきたとはいえ、今まで他の妹モノの作品で散々裏切られてきたので、いくら実の兄妹であるという描写を積み重ねても、もしかして最後の最後にひっくり返されるのでは……という不安がどうしてもチラついてしまうんです。実妹キャラ好きじゃない人には、なんでそんなことを気にするのか理解できないかもしれないですけど、そういうものなんです。
P.239
「ま、とりあえずお父さん達にはナイショだよね」
「好き合ってる兄妹がイブにホテルで一泊とか、卒倒しかねんからな」
「え、エロい言い方すんなっ! え? てか、泊まり?」
「今さら何を言っとるんだ? もう電車ないよ?」
「………………」
愕然とする桐乃。自分の身体を抱いて、
「…………身の危険を感じるんですケド」
「ガチっぽく言うな! なんもしねーよ!」
「……それはそれで、情けなくない?」
「どっちだよ!」
まぁ、確かに情けないよな。俺の安全牌っぷりは異常である。
エロ猫さんの据え膳を喰わなかったのは、自分でも、正直男としてどうかと思うもん。
「桐乃は京介を誘ってるの?」と言いたくなるような、桐乃のリアクション。
演技や駆け引きではなく、素でやってそうなところがタチが悪い。
P.239-240
「こほん。話を戻すぞ。とりあえず――親父たちには内緒にすると」
「うん」
振り返ってみると、桐乃のエロゲーを捨てるという親父の選択はまったく正しかったように思う。黙認放置した結果、兄妹でのガチ恋愛に発展してしまったわけで。
もちろんあのとき、親父に向かって啖呵を切った自分の言葉が、嘘になったわけじゃないし。
いまの兄妹の状況を、『悪いもの』とは思いたくない。
――親父は、いまも俺を信じてくれている。
その信頼を裏切っているんだろうな、俺は。
それでも思う。俺はあの人を泣かせるわけにはいかない。哀しませるわけにはいかない。
桐乃も同じ気持ちだろう。
ゲームのように、すべてをカミングアウトして駆け落ちなんてことはできないのだ。
俺たち兄妹には大切な両親がいて、大切な世間体があって、日々多くの『常識』に囲まれて生活している。切り捨てられないものが山ほどある。
すまねーな。スーパー京介なんて粋がっておいて、俺には、あいつらのように痛快な選択はできそうにない。
どうあろうと、自分たちがちゃんと歩いて行けるような、上手い落としどころを見つけなくてはいけない。
そんなもの、あるわけねーって分かっててもだ。
だから――内緒にする。もちろん『いつまでも』というわけにはいかない。
そこまでは桐乃も、とっくに気付いているだろう。
「さあて――どうしたもんかね」
字面とは裏腹に、重い一言だった。
あいつらというのは、妹モノの兄妹のことです。
京介はこの後どうするかについてこんな風に考えていますが、この考え方は「あくまで、この時点のもの」です。これ、とても大事なことなので覚えていてください。
P.241-242
「もしもあんたが告白してこなかったら――今日、あたし、あんたに告白するつもりだったんだよね」
「――え?」
俺は心臓を貫かれたような気分で固まった。
「ど――どういうことだ?」
「こ、言葉通りの意味! ま、まぁ……絶対断られるって覚悟してたけどさ。あんたを困らせるだけだって――またキモがられるだけだって……でも、でも……どっかで自分の気持ちにケリ付けないとって……思ってたの」
桐乃はあやせや黒猫に煽られて(11巻 336-340参照)、このデートで京介に告白するつもりでした。デートの最中にやたら京介を意識していて挙動不審だったのは、そのためです。
>――またキモがられるだけだって
これは7巻冒頭の「あんた、あたしの彼氏になってよ」という桐乃の告白の時のことですね。
P.242
「そ、それでね? もしも、万が一、絶対ありえないけど――あんたがオッケーしてくれたらどうしようって……その場合のシミュレーションも……してて」
「『このあと』のことも――考えてあるってことか?」
「――うん」
桐乃は俺の耳にそっと口を寄せ――
こっそりと『秘密のお願い』を囁いた。
「――どうかな?」
『秘密のお願い』とは『期間限定の恋人になる』ということです。
桐乃が京介からオッケーをもらった後について、色々シミュレーションしてるところを想像すると萌えますね。普段は生意気でムカつく態度ばかりとるくせに、たまにこういう可愛いところを見せるから困る(困らない)。
P.244-245
「だって参考になるかもじゃん? 『あの兄妹』が付き合ったあと――まずはどうやって楽しむのかなってさ」
さっきと同じ台詞を繰り返す桐乃。さっきよりもずっと、はしゃいでいる様子だった。
「分かったよ。じゃあ、続きをやるか」
「オッケー。ってわけで――『くりすます聖夜(ほーりいないと)』、ゲーム再開っ!」
勢い込んでゲームを起動する桐乃。
(中略)
「さーて、次のシーンではどうなってるのかなーっと♪」
ったーん! 桐乃は全力でエンターキーを弾いた。
するとシーンが切り替わり――
聖夜『告白直後にエッチなんて――ほんっと、どうしようもない男ね……♡』
エロCGが表示されました。
告白直後にやってんじゃねーよ!
でも当然だよね! だってコレ、エロゲーだもん!
「………………………………」
「………………………………」
だが、舞い上がっていた俺たちにとっては驚きの展開だったわけで。
二人とも、目が点になっていた。
「………………………………」
「………………………………」
凍結したまま時間が流れ、やがて俺はふと画面を指差し、
「………………………………………………なぁ、これ、参考にすんの?」
「するかぁ――っ!」
こうして――俺と桐乃は。
兄妹で、恋人になった。
P.223のフラグ回収。
最後に「こうして――俺と桐乃は。兄妹で、恋人になった。」とハッキリ書いてありますね。
P.246
翌朝。
まだ五時にもなっていない早朝。
ちゅんちゅんと雀の声――はさすがにしないが、朝特有の気だるい空気が部屋には満ちている。
俺は椅子に無造作に腰掛けていた。一方妹は、バスローブ姿でベッドに腰掛けている。
両者とも――相手と視線を合わせようとしない。
「………………」
「………………」
俺たちの間には、奇妙な沈黙が横たわっていた。
……いや、いやいや。別に――あのあと兄妹で変なことしちゃったってわけじゃないぞ!?
マジでマジで! 確かに参考にしようとか言ってエロゲーやって、そしたらエッチシーンになっちまって、すっげー気まずい感じにはなったけどさ!
そのあと『ど、どうする』みたいな流れにもなったけどさ!
つかっ……! 語り部だからって、おまえらに全部教えなくたっていいだろ!
P.289で京介が桐乃の胸をちょっと触ってみただけで怒っていたし、P.361では真正面から抱きつかれたのって、付き合ってから初めてだと言っているし、P.364ではキスが初めてと言っていました。だからこのシーンでは結局兄妹の間には何もなかった……と普通なら解釈するんですが、それだと「じゃあ、なぜ伏見先生はこんな意味深な描写を入れたの?」という疑問が残ってしまうんですよね。
しかし、この疑問はとある解釈であっさり解消できます。
その解釈は、「本番はしてないけど、手コキぐらいはしたんじゃないか?」というものです。
……あっ、待って、待って、引かないで!
いや、僕もさすがにこの解釈はどうかと思うんですけど、この解釈、意外に合うんですよ。手コキだけなら、先ほど上げた3つの事象にも反しないですし、朝特有の気だるい空気、「椅子に無造作に腰掛ける」京介と「バスローブ姿」でベッドに腰掛けている桐乃の雰囲気や様子とも一致します。
(ぶっちゃけ、僕にはここの描写が、一発抜かれて賢者モードの京介と、京介にぶっかけられてシャワーを浴びた後の桐乃の姿に見えます。18禁な描写なので隠します)
京介は、
……いや、いやいや。別に――あのあと兄妹で変なことしちゃったってわけじゃないぞ!?
マジでマジで! 確かに参考にしようとか言ってエロゲーやって、そしたらエッチシーンになっちまって、すっげー気まずい感じにはなったけどさ!
……と言ってますけど、この後に
つかっ……! 語り部だからって、おまえらに全部教えなくたっていいだろ!
とも言ってるんですよね。非常に怪しい。
手コキは十分あり得る解釈だとおもうんですけど、どうでしょうか?
あくまで一般ラノベだから、さすがに行為そのものズバリは書けないでしょうが、そういった行為があったと解釈する余地は十分残してあると僕は思います。更に補足すると、P.52でわざわざシングルベッドと書いてあるのもポイント。さすがにこの状況で桐乃がベッドで寝て、京介は床で寝たとは思えませんから(真冬ですし)一緒のベッドで寝たでしょう。で、朝起きたら色々盛り上がっちゃって恋人らしいこともしちゃったと……。
前ページの「兄妹で、恋人になった」という一文は「そういう意味」も含まれているのではないでしょうか?
P.247
「それもいーけど。あたしたちがこれからどーすんのか、方針が定まったわけだしさ。あいつらに報告しとかない?」
「今日?」
「今日」
なんつー性急な……。
「付き合った翌日だぞ?」
クリスマスだし。
「だから? これからいくらでもデートできるでしょ?」
「…………」
京介といっぱいデートする気満々の桐乃(笑)
P.249-250
「分かってるって。ってか、あんまそば寄んないで。デートしてると思われたらヤじゃん」
「………………」
俺たち、付き合ってるんじゃねェ――のかよ!
危うく大声でツッコんでしまうところだったぜ!
「なにその反抗的な目?」
「おまえ、俺とデートしてると思われんのヤなの?」
「うん」
即答かよ……。
「まあ、でもぉ……彼氏だしねぇー」
桐乃は超ムカつく感じにもったいぶってから、右手を差し出して来た。
「しょーがない。ど~してもってゆーんなら、手ぇ繋いであげてもいーよ?」
「うっざ」
さすがに本音が漏れたわ。ふざけるなよこのクソアマ。
そんなん言われて、はいそーですかってなるわきゃねーだろ!
ふん……まぁ、でも、彼女だしな。
しょーがない、どーしてもってゆーんなら、手ぇ繋いでやるよ!
「ほれ」
「ん」
ぎゅっ、と柔らかな手を握る。
初めてここに来たときは、別行動でオフ会の集合場所に向かったものだが。
今日は二人で、手を繋いで向かう俺たちであった。
恋人になっても相変わらず素直じゃない兄妹ですが、結局手を繋いじゃうところが可愛いですね。
P.250
となりを歩く桐乃の服装は、なんと驚け昨日と変わっている。なんで泊まりだという想定がなかったはずなのに着替えを用意していたのか。女ってのは不思議極まりねえ。
桐乃の上手く行った場合のシミュレーション(P.242)には、ちゃんとお泊りデートも想定してあったのでしょう(笑)
P.253-254
「……ふん」「ふん」と、口喧嘩をやめる二人。それから桐乃が、「んじゃまー、報告」と本題を切り出した。ちらっと俺を見て、そっぽを向いて、頬を赤く染めてから、
「あたしたち、付き合うことになったから」
…………し~~~~~~ん、と場が静まりかえる。
幸い店には、俺たちの他に客はおらず、メイドさんたちも聞き耳を立てている様子はない。
最初に反応を示したのは黒猫だった。ごくごくあっさりと、
「あらそう。よかったわね」
予想どおりといえば予想どおり。こいつだけは、(邪気眼的な思い込みではあるけれど)こうなるって分かってやがったもんな。
兄妹で付き合っていることへの反応シリーズ。
まずは黒猫。
元々こうなることがわかっていたので、反応もあっさりしています。そもそも兄妹のお膳立てをしたのが、黒猫自身ですしね。
しかし、京介に振られてからたった5日しか経ってないのに、これだけ普通に振る舞えるのは凄い。ややご都合な感じではありますが、少なくとも二人の関係に反対はしていない様子。
P.254-255
一方で沙織はといえば、
「………………………」
ぽかんと口を開けて固まっている。俺の大告白を聞いていたのだから、予想くらいはしていたのだろうに、それでもこの反応。沙織って初めて会ったときから、トンデモな性格の振りして、本性はわりと常識人だったからな。無理もない。
「マジですの?」
「マジですの」
おうむ返しに応える桐乃。
「エロゲーの話じゃなくて?」
「エロゲーの話じゃなくて」
おうむ返しに応える俺。
「……それはまあ………………思い切りましたわね」
沙織はまだ驚愕が抜け切らない様子。
「正直なところ、わたくし、その件についてはなんともコメントし辛いですわ。果たして――気軽に言祝いで良いものかどうか」
兄妹で付き合っていることへの反応シリーズ。
お次は沙織。
お嬢様モードの沙織は普通に驚いている様子。
P.256-257
「正直拙者、この四人が仲良く揃って遊んでいられるのなら、後のことはどーだっていーでござる」
ぶっちゃけやがった。
「兄妹で付き合おうと、禁断の関係に踏み込もうと、どうぞお好きに」
「黒猫よりひでえこと言ってるぞオマエ!」
「はっはっは」
大笑いしてから、口元をω(こんなふう)にしてはにかむ。
ったく――常識人って言ったの、アレ、取り消しだな!
「いまのはもちろんすべて本音ですが――とはいえ、拙者は京介氏のことを信用しておりますよ。きっと今回も――どうにかするのでしょう?」
「へっ」
信頼されたもんだ、俺も。
「どーだかな。やるだけやるさ」
以前の俺なら、『任せろ』って胸を叩いていた場面だが。
こんな返事しかできない自分が、情けなくもあり、頼もしくもある。
オタクモードの沙織は、どうぞお好きにと肯定モード。
京介は信頼されていますね。
ここで根拠もないのに『任せろ』って言わないのは、中学生の頃(過去編)とは違う京介を表しています。
P.260-261
四人で歩いていると、黒猫がぼそりと呟いた。
「……そうやって堂々と手を繋いで歩かれると、改めてイラつくわね」
「つ、付き合ってんだからいいでしょ!」
真っ赤になって繋いだ手を振り回す桐乃。
7巻の偽デートの時もそうでしたが、桐乃って京介と腕を組んだり、手を繋いだりのスキンシップが好きですよね。黒猫に指摘されても手を離したりしないのが、また……。
P.261-262
「あーもー、さっきからチクチクチクチク――いつまで嫌味言い続けるつもりなわけ?」
「私の僻み屋な性格を舐めないで頂戴。ククク……永久に根に持ってやるわ」
まったくなんの自慢にもならねえ。
「うっへ~、そんなんだからあんたは友達できないんだって」
「……な、なんですって……? い、言ってはならないことを……」
喧嘩しすぎだろこいつら。
「なぁ、沙織……段々と懐かしいとか微笑ましいとか言ってらんなくなってきたぞ」
「そうですか? わたくしにはいまの黒猫さんの台詞――『永遠にあなたたちのそばにいるつもりよ』と言っているように聞こえましたが」
「……いくら何でもポジティブに取り過ぎじゃないか?」
「そんなことはありませんわ。疑うのならお見せしましょうか? 黒猫さんがピクシブに投稿した『新約・運命の記述(デスティニー・レコード』を」
(中略)
桐乃は意地悪そうな顔でスマホを操作し、『新約・運命の記述(デスティニー・レコード』とやらを画面に表示させた。
そのイラストがどんなものだったのかというと……。
『今の俺たち』を、そのまま描いたような作品だったよ。
以前の『運命の記述(デスティニー・レコード』では黒猫の理想の世界の絵に沙織がいなくて、沙織本人に突っ込まれてましたが(9巻 P.182-183)、今回の『新約・運命の記述(デスティニー・レコード』では、仲良さそうな高坂兄妹の周りに黒猫と沙織がいて、四人で楽しそうにしている世界が描かれているのでしょう。
この描写からは、高坂兄妹が付き合っていても黒猫と沙織との付き合いは今までと変わらずこの後もずっと続いていく、という未来が暗示されているのが読み取れますね。
P.262-263
やがて俺たちはゲーセンへと辿り着いた。
……なんだかんだで、俺の周りの女どもはゲーセン好きだよなぁ。桐乃も黒猫も、入った瞬間、目ぇ輝かせてっし。ガンガン中に入って行くもんだから、俺、引っ張られて散歩してもらっている犬みたいになってっし。
(中略)
俺たちは手をつないだままで奥へと進み、格闘ゲームコーナーへ。
まだ手を繋いでるんですか、ラブラブですね(笑)
P.263
ってわけで――五回ほど対戦し、勝率は俺の二勝三敗。わりと実力が拮抗しているのは、いつか沙織にコツを聞いて練習したからだったりする。……まだ俺と沙織が出会ったばかりの頃のことだ。覚えているやつがいるだろうか?
これは2巻の第一章(P.39-44)で桐乃にシスカリをやるように言われて、プレイしてた時のことですね。
P.264
「記念にプリクラでも撮るか? クリスマス限定のさ」
(中略)
「ふーん、あっそ。そんなにあたしとプリクラ撮りたいんだ?」
この明らかに『そうです』って言わせようとする台詞! イライラするなあ。
「…………」
「撮りたいんでしょ?」
「はいはい、撮りたい撮りたい」
「ちょ、何その言い方――って、腕ひっぱんないでよ!」
「おら行くぞ」
「ったく……ごーいんなんだから」
俺は妹の腕を掴んで、プリクラの機械まで引っ張って行った。
プリクラを撮ることを提案する京介。
強引な京介に対し不満そうな態度を見せてる桐乃ですが、「ごーいん」が平仮名なところに、そんな京介も悪くないと思っている様子がうかがえます。
P.268-269
「おぉっとやっぱそっちもサボりか。ひひー、当たっちった。――で? その超可愛いコは――いったい高坂のなんなのかな?」
櫻井は桐乃を指差したまま、俺をギロリと睨みつけてくる。
つーかなんでこいつ不機嫌なの? 俺、別におまえと付き合ってるわけじゃないじゃん。
俺が答えあぐねていると、
「あたし、こいつの彼女です」
あっさりと行ったァ――!!
「お、おま……」
「だってそーでしょ?」
「そうだけどよ……」
そんなイキナリしれっと言うなって。びっくりするだろうが……。
ゲーセンで会った櫻井に対し、堂々と彼女と主張する桐乃。
桐乃は期間限定の恋人という制限をつけたことによって、その間は彼氏彼女として全力で振る舞い、楽しもうとしているのでしょう。言動にためらいがありません。
それはともかくとして、京介の櫻井への態度が冷たすぎる気がしますね。仮にも数週間前に告白されて振ったばかりの相手に対してこれは……櫻井が気の毒です。
P.269-271
一方で言われた櫻井はどうかと言うと、
「え……か、彼女? 高坂の?」
かなーり当惑している様子。桐乃はよそ行きの笑顔で再度答える。
「はい、彼女です。初めまして、櫻井さん……ですよね?」
「う、うん」
「あたしは――高坂桐乃って言います」
「なんでカップルで名字同じなの!?」
当然の疑問だわな。
おいおいどーすんのよ桐乃。偶然で押し通すおつもりっすか?
「兄妹だからです」
「は!? 兄妹!? 兄妹で付き合ってんの!?」
「はい」
(中略)
「ちょマジで? うっそマジで? んまままま!」
と、半ばパニックに陥っていて、クマさんが発狂している様子はなかなか面白い光景ではあったのだが、もちろんいまはそれどころじゃない。
「こぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~さかァ! キミねえ!」
「は、はぁ」
「……この前キミ、あたしに『好きなやつがいる』ってゆったよねえ!」
「……言いましたね」
「相手、妹かよ!」
「はははは」
もう笑うしかない。
「あたしてっきり『あの人』のことだと思ってたよ!『三年前もいまも答えは同じ』なんてゆーからよぉ~~~~~~~~~~~~! なに? 三年前から妹のこと好きだったの?」
「いや、三年前に好きだったやつといま好きなやつは違うよ?」
「だよねえ! 超紛らわしいよねえ!」
(中略)
「あたしあんとき『知ってた』とか、スッゲー思わせぶりな台詞言っといて、実は勘違いだったとか超恥ずかしいじゃん! アホ丸出しじゃん! てか! てか! それはまあ別によくて! よくねーけど別によくて! 妹! 妹って何さ!」
「妹と付き合ってて何が悪い」
開き直って胸を張る俺。親相手には間違っても言えない台詞である。
「妹が好きって理由で振られたってことでしょあたし! そりゃねーよ高坂! そんなんならあたしと付き合ってよ!」
めちゃくちゃ率直に要求を突き付けて来やがるな。
「やだよ。妹が好きだから」
「がぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
兄妹で付き合っていることへの反応シリーズ。
櫻井は当惑して、混乱しまくり。
ただ、これは京介に彼女がいることと、自分の予想が外れたことも含めての反応なので、兄妹で付き合っていることへの純粋な反応とは言い難い。
ちなみに櫻井がいう『あの人』とは麻奈実のことですね。
三年前は麻奈実が好きで、今は桐乃が好き。
これが京介の気持ちです。
しかし、桐乃も京介も、親以外にはあまり付き合ってることを隠す気がないですね。いくら、恋人関係は期間限定と決めてるからとはいえ、少々不用心な気がするんですが……変な噂とか立ったらどうするつもりなんでしょうか?
P.273-274
「高坂♪ あたしと付き合って、お布団デートしようよ♡」
「しない」
「ちぇ~」
と、唇を尖らせる。あっさりとした言い方だった。
それから彼女は、くすっと悪戯っぽく笑って、
「ま、知ってたけどね。キミはいつだって、自分の決めたとおりにやるやつなんだから」
「……櫻井」
「ひひ。この前はハズしちゃったからね~。やり直し」
ごそごそと、クマのフードを深く被る。
「じゃーね、ばいばい」
顔を見せぬまま、クマの手を振る。
「あたしはここにいるからさ。また会いに来なよ」
「ああ、じゃあ――」
じゃあな、と、言いかけ。
「またな」
「おうっ」
そうして俺は、櫻井と別れた。
なんでもないような言葉で、まるで『また明日』会うかのようなノリで。
きっと……卒業したら、再びここを訪れることになるのだろう。
おまえを振ってまで取った俺の恋愛――『こうなったぜ』って、報告するために。
櫻井を再び振る京介。
櫻井はなんでもないようなフリをしていますが、フードで顔を隠したところから察するに、彼女なりにショックを受けているのでしょう。
ただ、また会おうと言っているあたり、京介と関係を絶とうとまではしてない様子。
櫻井は、兄妹で付き合っていることに驚きつつも、これまでと同じように付きあおうという態度ですね。
>「ま、知ってたけどね。キミはいつだって、自分の決めたとおりにやるやつなんだから」
「完全なる桐乃エンド」への伏線。
察しのいい人なら、もうわかりますよね?
P.279-281
加奈子は、凛々しい表情で会場を見回し、どうやら俺を発見したらしい。
『京介ぇ!』
マイク越しに、全力で叫んだ。
「好きだ! あたしと付き合えぇぇぇぇぇぇぇ――――――っ!」
(中略)
あーくそ……。ったく――。たしかにこりゃあ……逃げられない。どんなに鈍感なバカ男だろうと、いま、ここで、答えるしかない。俺は一発で、そういう状況に追い込まれた。
へっ……こんな男前な告白、エロゲーでも見たことねえぜ!
「加奈子!」
俺も堂々とでかい声で答えた。
「断る! おまえとは付き合わない! ――大好きな彼女が、できたからだ!」
『――――――』
加奈子は一瞬だけ目を見開き、それからキバを見せつけるようにして不敵な笑みを浮かべた。
『ケッ――そーかよ。そりゃー、おめでとさん』
加奈子は魔法のステッキを、片手で真横になぎ払う。
すると――打ち合わせたかのように軽快なミュージックが流れ出した。
『覚悟しとけよ! ぜってーすげーアイドルんなって、後悔させてやっからな!』
加奈子、京介に振られて退場。
たった6Pで告白イベントを終了させられ、振られてしまう加奈子の扱いって……あまりに適当すぎて泣けてきます。