『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の伏線を改めて読み解き、「完全なる桐乃エンド」を考察してみた(12巻編、下)

注意

この記事はライトノベル俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を全巻読んでいることを前提に書いています。
おもいっきりネタバレがありますので、未読の方はお気をつけください。

10~12巻の出来事と時間軸

10~12巻の時系列はバラバラで理解しづらいので、3巻分をまとめています。

日付 出来事 原作
10月上旬のある日 両親に桐乃との仲を疑われ、一人暮らしをすることになる 10巻、第一章
翌日の放課後 御鏡と赤城に一人暮らしについて話す 10巻、第一章
上記の2日後 京介のアパートに桐乃がやってきて、冷蔵庫と『押しかけ妹妻』をもらい、賭けをする 10巻、第二章
上記の翌日の放課後 加奈子がアパートにやってきて、桐乃と兄妹ということがバレる 10巻、第二章
上記の翌朝 あやせと黒猫がアパートにやってきて、黒猫に自分の決断を伝える 10巻、第二章
同日放課後 親父がアパートにやってきて、『押しかけ妹妻』を持ってるのがバレる 10巻、第二章
上記後の休日 京介のアパートで引越し祝いパーティ、あやせが京介のお世話をすることに 10巻、第三章
上記の翌日の放課後 あやせに桐乃がフィギュアや妹エロゲーを好きな理由について聞かれる 10巻、第三章
上記の後日の放課後 雨の日に、日向ちゃんが様子を見にやってくる 10巻、第三章
上記の後日の深夜 あやせのファンブログに異変が起こる 10巻、第三章
同日 ブログの異変について赤城や御鏡に相談 10巻、第四章
上記の翌日の放課後 女装した御鏡に遭遇 10巻、第四章
上記の後日の放課後 あやせにエッチな本を隠していたのがバレる 12巻、第二章
上記の後日の土曜日 あやせに『おしかけ妹妻』を隠していたのがバレる 12巻、第二章
上記の翌日の日曜日 アパートに加奈子が差し入れに来て、あやせとの仲を誤解されそうになる 12巻、第二章
上記の翌日の放課後 あやせと買い物に出かけ、フェイトさんから赤ちゃんを預かる 12巻、第二章
11月1日 アパートであやせに踏まれている黒猫を目撃する 10巻、第四章
11月3日 模試当日、あやせのストーカー問題解決 10巻、第四章
同日試験終了後 桐乃と一緒に病院に行く 10巻、第四章
11月のある日 麻奈実と加奈子の話し合い 11巻、エピローグ
上記以降のある日 桐乃が黒猫と沙織に、卒業したら海外に行くことを告げる 11巻、俺の妹がこんなに可愛いわけがない12 プロローグ
上記の翌日 桐乃、黒猫、あやせの話し合い 11巻、俺の妹がこんなに可愛いわけがない12 プロローグ
12月の初め 模試結果発表、京介がA判定を取って実家に戻れることに 10巻、第四章
上記後の休日 京介が一人暮らしを終えて帰宅、部屋が桐乃の私物だらけになっている 10巻、第四章
12月上旬 田村家で麻奈実、京介、桐乃の話し合い、冷戦の真相が明かされる 11巻、第一~四章
上記の後日 京介が櫻井と再会、好きなやつがいると櫻井の告白を断り、自分から告白すると決心する 11巻、第四章
12月のある日(上記のすぐ後) 桐乃をクリスマスデートに誘う 12巻、第一章
上記の後日 アパートの前で、あやせに告白されて断る 10巻、第四章と12巻、第二章
12月20日 京介が黒猫に正式に自分の気持ちを伝え、黒猫を振る 12巻、第三章
12月24日 京介がクリスマスデートで桐乃に告白、高坂兄妹が恋人同士になる 12巻、第一、三、四章
12月25日 黒猫と沙織に兄妹で付き合うことになったと話す、ゲーセンで櫻井に会う 12巻、第四章
とある休日の日の朝 起きたら桐乃が隣で寝ていて、びっくりする 12巻、第五章
正月を過ぎた頃 UDXのライブで加奈子に告白されて、断る 12巻、第四章
とある休日の日の午前中 桐乃と『恋人の儀式』をする 12巻、第五章
卒業式の日 麻奈実と対決、桐乃と結婚式を挙げ、約束通り兄妹に戻る 12巻、第五章
春休み 桐乃と秋葉原に行き、指輪を買ってあげたあとにキスをする 12巻、最終章

第五章

P.284
妹と付き合い始めた俺が、どんな日々を送っているのかを語ろうと思う。思うが、間違っても恋人同士の甘いいちゃいちゃを期待しないでくれよ。
ぶっちゃけ、そういうのないから。
カムフラージュっつーか、素なのが困るが、いまの俺たち兄妹を見て『付き合っている』と見破れるようなやつは絶対いないだろう。ぜんっぜん! いちゃいちゃしてないからね!

分かりやすいフリですね。
「期待するなよ、絶対期待するなよ!」みたいな。

P.287
……しかし、かわいい寝顔だなこいつ。
なんかいい匂いもするし……ドキドキしてきたぞ……。
「………………」

妹の寝顔をかわいいと思うことをまったく隠そうとしない京介。
12巻かけて、ようやくここまで素直になったかと思うと、感慨深いものがありますね。

P.288-289
4.ちょんと優しく触ってみた。


「ぎゃーっ!」
がばぁっ!
「い、妹になんてことすんのよっ!」
「うわああああああ! ちょ、オマ……お、起きてんじゃねーか!」
(中略)
「うっさい! つーか話そらそうとすんなっ! いまっ……あんた、あああ、あんた――」
桐乃はまるであやせのように、恥じらいのポーズで胸をかくす。
「あたしの胸さわろうとしたでしょ!」
なんて人聞きの悪い。
「して……ないぞ」
「ちゃんとこっち見て答えて。さわろうとしたよね? てかさわったよね?」
「してない。さわってない」
きっぱり。
「は? さわったでしょ?」
「さわってないっつーの。しつこいなあ……ちょっと服をつついただけだろ?」
「完っ全に胸の位置だったけど!? この――エッチ! マジサイアク! 死ね!」

妹の胸をさわって怒られる京介。
欲望にも素直ですね(笑)。

P.290
「チッ、付き合ってんだから別にいいだろ?」
「い、言い訳が進化してるだと!?」
「様子見の段階で目を覚ましやがったせいで、まったく感触が分からなかったし」
「やっぱさわってんじゃん! 寝込みの妹を襲うとか――信っじらんない!」
「『妹と恋しよっ♪』の主人公は、妹の寝込みに抱きついてくんくんしてたけど、あれはいいの?」
「あれはいいの、愛があるから。あんたはダメなの、欲望が先に立ってるから」
「そんなことないって。いまのは愛のあるつんつんだった」
「あ~もぉ……ああ言えばこう言う……」
半目で睨んで来やがる。最近のこいつは以前ほど暴力に訴えて来ないので、あんまり怖くない。『あ』で始まるあの娘だったら、もうすでに俺は半殺しにされている頃合い。

桐乃が言っている、言い訳が進化してるというのは「兄妹なんだから別にいいだろ?」からの進化という意味でしょう。
『あ』で始まるあの娘は、あやせですね。

P.292
「えっと……そんでおまえは、この度俺のために『お布団デート』をやってくれたってわけ?」
「そ、そう」
もしその言葉が本当なら、超健気な彼女なんだけど。
裏があるのでは?
「マジで……そうだったのか?」
それならいまからイチャイチャしようぜ。
「三分の一はね」
「というと」
「もう一個の三分の一は……さっき言ったっしょ」
……あたしが隣に寝てたら、あんた、どーするかなって。
あれか。……考えるのも恥ずかしいのだが、桐乃は俺がどうすることを期待してたんだろうね。とりあえず、つんつんではなかったようだが。

どうすることを期待してたもなにも
1.ぎゅっと優しく抱きしめてあげた。
に決まってると思いますが。
……まぁ、それ以上の行為を期待していた可能性もありますけど。

P.293
「最後の一つは?」
「は? なんであたしの気持ちをいちいち全部教えてやらないといけないわけ?」
ですよね。こういうところが、たまらなくこいつらしい。
いままでの俺だったら、『俺にはさっぱり分からねえや。なあ、どう思う』――と、そんなモノローグを展開していたところだが、今日は上から目線でやらせてもらおう。
クイズだ。どう思う?

めちゃくちゃ簡単なクイズですね。
妹好きなら考えるまでもなく分かるでしょう。
妹がお兄ちゃんのお布団に忍び込む理由なんて考えるまでもない。


大好きなお兄ちゃんと一緒のお布団で寝たかったから。


これ以外ないでしょう?

P.293
ちなみに――
最近の俺たちは、毎日こんな感じ。
ほらな? ちっともいちゃいちゃしてなかっただろ?

お、おう……。
えーと、これはツッコミ待ちなんですよね? 「十分いちゃいちゃしてんじゃねーか!」っていう。

P.293-296
また別の日、とある休日の午前中。俺が部屋で勉強をしていると、桐乃がやってきて、こんなことを言い出した。
「『恋人の儀式』を執り行うから、勉強落ち着いたらちょっと手伝って」
黒猫のパクリみたいなことを言いだしやがったな。
(中略)
「恋人同士って……お互いの部屋に、お互いの居場所を作ったり……するっしょ?」
「するの?」
「するの!」
俺の数少ない恋愛経験を参照してみるも――あぁ、そういうことか。
なんとなく分かったが、あえてモノローグで語る必要はない。
いまは、俺と桐乃の物語を語っているんだからな。

『恋人の儀式』というのは明らかに黒猫の影響ですね。
桐乃は黒猫に対抗心を燃やして、京介と『恋人の儀式』を行いたがっているのでしょう。
黒猫と付き合った時のことを思い出してそれを察した京介は、素直に従っています。

P.296
「でも、それっていつのまにか自然とできてるもんじゃねーの? ほら、いま俺が座ってるクッションとかさ」
これって――初めて人生相談をしたときに、おまえが投げつけてきたやつだぜ?
覚えているか?
桐乃の部屋に行くと、俺はいつもこの猫クッションを使わされていた。
『そこ、座れば?』ってな。
「確かにそれは、あんた専用クッションだといえるかもだけど、それってあんたのおしりに触れたものなんか、もう使いたくないからだよ?」
そんな理由だったのかよ!

桐乃はこんなこと言ってますが、京介がいなくて寂しい時は、ベッドでこのクッションを抱きしめてクンクンしてるであろう桐乃の姿が、容易に頭に浮かんでしまうんですけど(笑)。

P.298-299
「これでいーや」
「――っておま、俺の制服! んなもん持ってってどーするつもりだ!」
桐乃がひょいっとハンガーごと掴んだのは、壁に掛けておいた俺の制服一式だった。
ワイシャツ、ネクタイ、上着にズボン――全部である。
「それ持って行かれたら、俺、学校行けねーんだけど!」
「使うときは、あたしの部屋まで取りにくればいいじゃん」
「毎朝パンツ一丁でおまえの部屋に行って着替えろってのか!」
「なわけないでしょ! どこの世界に妹の部屋にハダカで突入する兄がいんのよ! この変態! 普通に服着たまま取りに来いっ! 『おはよう桐乃。じゃあこれ、持って行くな』って」
「だーかーらー、なんでそんなめんどくせー真似しなくちゃいけねーんだよ」
「だってあんたの部屋、他になんもないしぃ。ってわけで決まりね」
ばたん。
「…………」
本当に持って行っちまいやがった……。

桐乃が京介の服を部屋に持っていった理由は、京介に毎朝桐乃の部屋に顔を見せて「おはよう」と言って欲しいというのと、京介の制服を身近に置いて、眺めたり、制服を抱きしめたり、くんかくんかしたりしたいということでしょう。
少しでも兄との接点を増やしたいという、桐乃にしては、なかなか可愛い妹心です。

ところで、桐乃は本気で二人の関係を両親に隠す気があるんですかね?
両親に、桐乃の部屋にある京介の制服を見られたら、一体どう言い訳する気なんでしょうか?
……っていうか、実際はもうバレてるんじゃないか? と僕は思うんですが。

P.300
「へいへい……。てかよー、『恋人の儀式』って……他にやりよーあるんじゃねーの?」
「はあ? たとえば?」
「お揃いのカップを買うとか、同じハブラシ買うとか」
「よ、よくそんなエロい発想ができんね! ヘンタイ!」
なんでだよ! 別に変なこと言ってねーだろ! ……ないよなあ?
あんなんでエロい発想をしちゃうおまえの方がエッチだろ。ハブラシやカップでエロ妄想を炸裂させるとか、瀬菜と同等の変態っぷりである。

お揃いのカップやハブラシを買うなんて、完全に同棲カップルですからね。
おそらく桐乃はその辺から、エロい発想という考えに至ったんだと思いますが、京介にはわからなかったようです。

P.301-302
想像力ってもんがねーのかこのクソアマ! 高校生男子(妹持ち)の部屋の本棚に、ずらーっと妹モノのエロゲーが並んでたら、見たやつどう思うんだよ! 死ねるだろ!
「妹と付き合ってるくせに、何をいまさら……」
「それはそれ! これはこれだ!」

この辺も桐乃は完全に開き直ってますよね。
どうせ期間限定の恋人なんだからやりたいことをやるということで、あまり細かいことは気にしていないのかもしれませんが……桐乃って結構抜けたところありますしね。

P.306-307
「あんた、うちの――お父さんのアルバムって見たことある?」
「……ある」
それこそ、初めての人生相談の時――


――桐乃のアルバムか。これがどうした。


「あ」


――しかし、ホントに俺の写真は一枚もねえな。


「あああ……っ」
バッ! 回想から戻った俺は、目の前のアルバムを覗き込んだ。
「お、俺の写真!」
そう。そこには親父のアルバムには一枚もなかった『俺の写真』が、何枚も貼られていたのである。てっきり親父に愛されてないのかと勘違いしていたが――
「ここにあったのか!」
俺は驚き、こう聞かずにはいられなかった。
「な、なんで俺の写真がここに?」
「そりゃあ……ねえ」
桐乃はとぼけるように視線をそらし、唇を尖らせる。
「大好きなお兄ちゃんの写真だもん」
「……っ」
胸にナイフを刺されたような感触。あまりにも強烈な種明かしだった。
「あたしが中学に入ってからのは、ないけどね」
その頃……兄のことが、嫌いになったから。

父親のアルバムに京介の写真が無かった理由。
昔はこれが「京介はどこかから貰われてきた子供なんじゃないか?」という桐乃義妹説の根拠の一つになっていたものですが、ここで完全に否定されましたね。

「大好きなお兄ちゃんの写真だもん」
11巻のP.64でも似たような描写がありましたが、桐乃のお兄ちゃん呼びは、京介への攻撃力高すぎ(笑)。

P.308
「ねぇ……」
「ん?」
「それ、見ながらでいいからさ……はいこれ」
桐乃が片手に持って差し出して来たのは、イヤホンの片方だけ。
コードはipodにつながっている。
「耳に付けて」
「………………おう」
一緒に聴こう……って、ことか。
俺たちは一つのイヤホンを二人で片耳ずつ嵌め、並んで座り、アルバムをめくっていく。

8巻のP.187で同じこと(一つのイヤホンを二人でつける)をやってた時は、桐乃がグチグチ言ってましたが、今回はごく自然にやっていますね。あの時とは違い今は恋人ですし、恋人の二人にとってはごく自然な行為なんでしょう。

P.308-314
「あんたさ、ずっと前……あたしに聞いたよね? 『なんでおまえ、妹もののエロいゲームばっか持ってんの?』って。『どうして妹が好きなんだ』って」
「……ああ」
妹の秘密の趣味を知ったとき、まず最初に疑問に思ったのがそれだ。
ええと……確か――


『だ、だが……どうしてだ?』
『え?』
『だからおまえ、どうして妹が好きなんだ? 悪いとは言わないが……おまえが集めているゲームって、普通男が買うもんだろ? ……しかも、その、18歳未満は買っちゃいけないやつじゃないのか? あまりにも、おまえのイメージからはかけ離れてるだろ。どうしてそんな――そういうのを、好きになったんだ? 何がきっかけとか、理由とか……あるのか?』
『そ、それは……その……わ、分かんない!』


『分かんないっておまえ……自分のことだろ?』
『だ、だって! しょうがないじゃん……ホントに分からないんだから……。いつの間にか、好きになってたんだもん…………たぶん店頭で見かけたアニメがきっかけだったとは思うんだけど……』
――こんな会話だったか。
「あのときは、『分かんない』って言ったし、別に嘘を吐いたわけじゃないんだけどさ。……あんたに、まだ言ってないことがあるんだ」
桐乃はipodを一瞥し、
「それが、この中……一番最後に入ってる」
そうして。
昔の兄妹(おれたち)を前に……録音されていたものが再生される。
(中略)


「……ここから先は……六年生の頃のあたし」
つまり、冷戦直前の桐乃が吹き込んだ音声……ということ。
これを聴けば『桐乃が妹もののエロゲーを好きになった理由』が分かるのだろうか?
桐乃が言った。
「これが最後だから」


未来のあたしへ。
昔のあたしが吹き込んだメッセージを聴いたけど、なんか結構恥ずかしいね。
あんたもいま、このメッセージを聴いて、『あたし』だった頃を思い出して、恥ずかしくなってるのかもね? ――ごめん、でも、ちゃんと聴いててよ?
未来のあたし――大好きな人と、結婚できましたか?
それはだめなんだって、言われました。誰にも言っちゃだめなんだって、言われました。
ちょうむかつく。
でも、あの人の言ってることはきっと正しくて……どうしようって、困ってます。
すごく悩んでます。
誰かに相談したいけど、お父さんにも、お母さんにも、一番頼りになる人にも、相談できません。……きっとすぐに元通りに戻ってくれるとは思うけど、それでも言えません。
失敗したら、ぜんぶ台無しだからです。あの人の言ったとおりになってしまいそうで、きっとそのとおりになるって分かるから、怖いです。
チャンスはきっと一度だけ。
そのときは、勇気を出して。
そして、考えてください。ずっとずっと考え続けてください。ヒントを探してください。
どうやったら、だめじゃなくなるのか。
どうすれば、あたしの夢が叶うのか。
どうすれば、あたしのことを好きになってもらえるのか。
どうしたら、ずっと一緒にいられるのか。
いまのあたしには分かりません。
だから、
未来のあたしに相談します。
すごくなったあたし――ううん、
これを聴いているあなたに相談します。
ねぇ――――あたし、どうしたらいいと思う?

『桐乃が妹もののエロゲーを好きになった理由』ですが、ここで明かされましたね。

妹モノのエロゲーには、お兄ちゃんを好きになってもいい世界、お兄ちゃんが妹を好きになってくれる世界、お兄ちゃんと妹が結ばれる世界があった。そんな世界があることを知った桐乃はすっかり妹モノのエロゲーにハマってしまい、妹を大好きになった。そして妹モノのエロゲーに大好きな人(兄)と結婚するためのヒントを求めた。

というのが真相です。
これについてはアニメの感想6巻、下の記事(P.228-229の部分)でも書いているので、そちらも参照してください。

最終章

P.319-320
俺の親友・赤城浩平がとんでもないシスコン野郎だってのは、一年くらい前に知ったことだ。
アキバの深夜販売でばったり出くわしたのを皮切りに、こいつとは、何度となく『妹』について語り合った。どちらの妹が可愛いかって、気持ち悪い勝負をしたこともある。
色々と参考になったが――それで分かったことがひとつ。


――こいつは例え血が繋がってなかったとしても、妹と付き合ったりはしない。


赤城は妹を心底愛しちゃいるが――それでも普通の兄妹の範疇に収まっているからだ。
……やれやれ。
結局のところ、俺はこいつのような兄貴にはなれなかったわけだが。
兄貴の数だけ、妹の数だけ、兄妹の形はあるって――そう思いたいところだな。

京介と赤城は同じシスコンでも、対照的な存在として描かれていますね。
京介は妹とガチ恋愛してしまうシスコン、赤城の方はシスコンではあるが、あくまで兄妹愛の範疇。
どちらがいいとか悪いとかそういうことではなく、京介のいうとおり「兄貴の数だけ、妹の数だけ、兄妹の形はある」ということなんだと思います。

P.325-326
「そういえば桐乃ちゃんから聞いてますよー」
「えっ?」
瀬菜がこっそりと耳打ちしてきた。
「兄妹で恋人やってるそうですね」
「ブッ!」
あいつ瀬菜にまで言ったのかよ!
いくら――――だとはいえ、親にバレるわけにゃいかねーってのに。

ここで――――で伏せられた部分は「期間限定の恋人」ですね。

P.326-327
「だいじょーぶですよ。人に言いふらしたりはしませんから」
「……そこは信用してる。ところで……それ聞いて、おまえはどう思った?」
兄を持つ妹である瀬菜に、俺と桐乃の関係をどう思うか――聞いてみたかったのだ。
瀬菜はあっさりとこう答えた。
「うーん、もしもあたしとお兄ちゃんが――とか考えちゃうと、やっぱり有り得ないなーって思いますよ」
「……そか」
だよな。
「でも」
瀬菜は何かを思い出すかのように苦笑して、
「あんなに幸せそうにノロけられたら……ねえ。――はいはい好きにすればって――もうそれで別にいいんじゃないですかーって、そう思っちゃいますよ」
瀬菜は真壁くんと再び顔を見合わせて、それから俺に微笑みかける。
「あたしたちの心配はいいですから、高坂せんぱいこそ頑張ってください。どうしたら一番いいのかなんて、あたしには分かりませんけれど……『おめでとう』とも言えませんけれど……応援、してますから」
「ああ、ありがとよ」
本当に。いまの一言が、どれだけ俺の背中を押してくれたことか。

兄妹で付き合っていることへの反応シリーズ。
瀬菜の場合は普通に応援してくれてますね。
桐乃が瀬菜にどうノロケたのか聞きたかった……。

>本当に。いまの一言が、どれだけ俺の背中を押してくれたことか。
この京介のモノローグも、「完全なる桐乃エンド」を考察するうえで、とても大切なものなので覚えておいてください。

P.327-328
そのやり取りが一段落してから、ゆっくりと良い声で割り込んできたやつがいる。
「僕は、とても素晴らしいと思うよ」
御鏡だ。話の文脈で、俺たちが何を喋っていたのかを察したのだろう。
ちなみに俺と桐乃の関係については、こいつも知っている。
「まぁ、おまえはそう言うと思ったよ」
兄妹の『禁断の愛』とか、大好きだもんな。
「以前も言ったかもしれないけれど、兄妹同士での結婚なんてどうにでもなる問題さ。――かくいう僕も、二次元の女の子と結婚しているしね」
「堂々と何言ってんだオマエ! そういう問題じゃねーだろ!」
「そういう問題だってば。結婚というのは、本人同士が決めることで、法が決めることじゃないんだから。確かにこの国の法に、僕とりんこりんが結ばれていいというものはない。けど、だから何?」
御鏡さんかっけー。
でもエロゲーヒロインと俺の妹を一緒にすんな。
「ぶっちゃけ愛と健康とお金があれば、人生なんてヌルゲーでしょ? 手に入れるまでが大変だけど、全部持っている君たちが、いまさら何を恐れるの?」
「俺はそこまで割り切れないわ。他にも色々大切なものってあるだろ」
「世間体とか?」
「それも大事だ」

兄妹で付き合っていることへの反応シリーズ。
御鏡は、高坂兄妹の関係について最も理解を示す人物ですね。
全面的に賛成で、具体的なアドバイスまでしてくれます。

>結婚というのは、本人同士が決めることで、法が決めることじゃないんだから。
けだし名言。個人的には、別に結婚という形にこだわる必要は無いと思うんですけどね。
もちろん社会で生きていく上で、結婚という法で認められた形があれば色々と優遇されますし、それがないことで、心ない人たちから変な目で見られてしまうのは事実ですが……。

P.328-330
「ひとつ、勇気の出る話をしよう」
御鏡は指を一本立てて、真剣な表情でこう語った。
「あるところに、若いファッションモデル兼イケメンデザイナーがいました」
(中略)
「ただひとつ、彼にはある秘密があったのです」
隠れオタクだったんだろ?」
「そう――彼は世間での自分のイメージを守るため、エロゲーを愛するオタクであることを隠していたのです」
どっかで聞いたような話だぜ。
「ところがある日、彼の身に不幸なイベントが発生します」
ほうほう。
「お正月のメルルライブの打ち上げに、あらゆるコネを駆使して潜り込んだぼ――じゃなくて彼は、そこでアルファ・オメガのコスプレをしていた可愛い女の子と仲良くなります」
(中略)
「彼は悩みました。このままでは自分だけでなく、幼い彼女の心に大きな傷ができてしまうと。メルルコスの親分みたいなロリっ娘にも怒られました」
容易にその光景が想像できる。
(中略)
「結果として彼の世間体はかつてと比して変容してしまいましたが、というか完全にぶっ壊れましたが――――別に死んだりすることもなく、毎日幸せに、強く生きています」
「………………………………そうか」
「勇気出たかい?」
「お、おう」
俺と同系統の地雷原に、真っ直ぐ突撃した先達の言葉である。
受け止めなくてはならなかった。

一応解説しておくと、アルファ・オメガのコスプレをしていた可愛い女の子とはブリジットちゃんのことで、メルルコスの親分みたいなロリっ娘とは加奈子のことですね。

この御鏡の話で大事なのは、「京介が気にする世間体というのは、実は大したことではない」と御鏡が教えてくれたこと。そして、御鏡の話を聞いて、それをちゃんと京介が受け止めたことです。
この2つも、「完全なる桐乃エンド」を考察するうえで外せない大事なことなので覚えておいてください。

P.331-332
「聞け!」
部長が立ち上がり、凛々しい声で扇子を打ち鳴らす。
「俺は世界一のゲーム会社を立ち上げて、むちゃくちゃ面白くて熱中できる超すげーゲームを作る! そのために進学し、力を付けることにした! 仲間を探すことにした! 俺にはどうやらセンスがないらしい――が、諦めねえ! 夢を叶えるために、やれることをやっていく! 後悔しねえように、俺自身に胸を張れるように、ベストを尽くすぞ! そいつはな――」
部長は俺を見、真壁くんを見、瀬菜を見、部員たちを見回し――
五更瑠璃の席を見据えて言った。
「全部、おまえらが教えてくれたことだぜ」

三浦部長の演説。
この演説を受けて京介がどう思ったかは書かれていませんが、この後、麻奈実との対決をするにあたって、勇気づけられたことは想像に難くないです。

P.335
「ふん、まだみたいね」
「なにが」
「…………」
桐乃は答えず、すっと俺の腹に手を伸ばし――
ぶちぶちっ!
「ってわけで第二ボタンげーっと!」
あ! こいつ第二ボタンどころかブレザーのボタン全部持って行きやがった。
桐乃は戦利品を得意げに片手お手玉したあとで、さらに俺の首に手を伸ばした。
「へっへー、一応ネクタイももらっといてあげるよ」
「引っ張るな! 首が苦しい! ネクタイくらいやるからちょっと待てよ!」
おまえは山賊か!
「身ぐるみ剥がされた気分だぜ……ったく――ほらよ」
「うむ」
偉そうにしやがって。
「もうこの制服着るのも最後だから、欲しいなら全部やるよ。つーかコレ、最近はいつもおまえの部屋に置いてあるもんだし」
「……全部か……それもいいかも。――よし、そんなに言うならもらっといてあげるよ」

桐乃って本当に独占欲強いですよね。
京介が他の女の子とちょっと仲良くするだけで、すぐに嫉妬しますし。
それにしても第二ボタンだけでなく、制服まで全部もらって何に使うんですかねぇ……やっぱりクンクンですか?(笑)。

P.336
俺が、鞄を背負い歩き出すと、桐乃が追いついてきて横に並んだ。
擦れ違い続けてきた俺たちが、いまは並んで歩いている。
何度目かの台詞になるが……本当に、遠くまで来たもんだ。
それから俺たち兄妹は、末永く幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし――と、そう締めくくってしまいたいシーンである。

ここは12巻の表紙のシーンですね。
表紙絵だけ見ると良いシーンですが、実際の京介は、表から見ると桐乃にネクタイやらボタンを取られた後なんですよね(笑)。

P.339
「今回も、わたしに何も相談してくれなかったね」
「…………」
麻奈実が言っているのは、『俺と桐乃が付き合っている』件についてだろう。
黒猫や沙織には二人で告げたし、あやせには桐乃から説明してある。
けれど麻奈実には、何一つ告げていなかった。まったく俺ってやつは、大切な幼馴染に対して、薄情で、誠意がないよな。そんなことは分かっていて、それでも俺は、この話を内緒にしていた。親父やお袋と、同じ理由でだ。

あやせには桐乃から説明したんですね。
あやせは第二章以降最後までまったく出番が無いので、二人が付き合うことについてどう思っているのかは、今をもってまったく謎のままです。まぁ、あやせは桐乃の気持ちを知っていますし、時間が経って心の整理がつけば二人の仲を応援してくれるとは思うんですが。

>それでも俺は、この話を内緒にしていた。親父やお袋と、同じ理由でだ。
京介にとっては、麻奈実はお婆ちゃんのような保護者的存在で、余計な心配をかけたくなかったということでしょう。

P.341-342
「桐乃ちゃん。もう、いいんじゃないかな? 大人なら、分かるよね?」
「なんのことですかぁ~? プッ、ちゃんと言ってくんないと分かりませーん」
うっぜぇ……。俺に言ってるわけじゃないのに、ブッ飛ばしたくなるな。
麻奈実は麻奈実でおっかねぇし。
まさに一触即発ってやつだ。そんな中、桐乃はおちょくるように言う。
「ってわけで、麻奈実さん――」
ぎゅ! と俺の腕にしがみつき、
「あたしぃ、京介とぉ、付き合ってるから!」
「……そう、それで?」
「なにヨユーぶっちゃってんのぉ? ホントは悔しいくせに」
「…………」
「悔しいっしょ? 悔しいよねえ? くひひひ」
「…………」
「あ! 黙っちゃった! ふははははははは!! やったあ――――!!」
桐乃はベンチから飛び跳ねるように立ち上がり、
「きりりん大勝利――! ずっ~~~~とその顔が見たかった!」
大喜びで、パンパンパンパン手拍子を始める。
「ねぇ、いまどんな気持ち? ねぇねぇ麻奈実さん、あたしに京介取られちゃってぇ、いまどんな気持ち?」

うっぜぇ……。
いや、小学生の頃に言われた麻奈実の言葉のせいで、桐乃が今まで悩み苦しんできたってのは分かるんですけどね。しかし、だからといってこの態度はない。

麻奈実が小学生の桐乃に言ったのは至極正論ですし、麻奈実なりに桐乃のことを考えて言った言葉でしょう(京介を桐乃に取られたくないという多少の下心はあったとしても)。それを逆恨みして、ここまで煽る必要や理由は無いでしょうに……まるで成長していないと言われてもしょうがないですよ。
桐乃好きの僕でも、この桐乃の態度は擁護できないです。

P.342-343
いい加減にしろこのクソアマ! 俺の幼馴染みをおちょくってんじゃねえ!
と――そう怒鳴りつけようとしたときだ。驚くべきことが起こった。


ゴスッ! と、麻奈実の拳が桐乃の腹にめり込んだのだ。


ちょ! えええええええええええええええええ!
「げほっ……! な、なにすんのっ!?」
お腹を押さえ涙目でキレる桐乃。
一方麻奈実の表情は、俺の位置からは窺えなかったが、別段口調を改めることもなくこう答えた。
「こんな気持ち」
「~~~~ッ!」
キバを剥いて歯軋りする桐乃。
ぱぁん! 今度は桐乃のビンタが麻奈実の頬に炸裂した。
パン! すぐさま麻奈実の反撃が、桐乃の頬を強かに打つ。
「お、おまえらやめ……!」
ハッ! と正気を取り戻した俺が割り込むも、バキドカッ! と、両者の攻撃を喰らってしまう。
「痛ってえ!」
くらっとしたぞ! なんだこりゃ! 二人とも全力攻撃じゃねーか!
荒い息を吐いて相手を睨む桐乃。
頬を赤く腫らしながらも、平然と相手を見据える麻奈実。
対照的な二人だが、両者とも女とは思えぬド迫力だった。

もうね……なんなんですかね? このシーン。
作者や編集は一体どういうつもりでこんなシーンを入れたんでしょうか?
まさか、これを本気で面白いと思ったんですかね? だとしたら趣味が悪すぎると思うんですが……。

アニメでもやたらこのシーンは作画に気合が入っていましたが、このシーンだけは本気で不快。8巻で黒猫と京介がいちゃいちゃするシーンよりも胸糞悪いです。

P.343
「だからやめろって!」
「先に手ぇ出してきたのはあっちだし!」
「でも、いまのは桐乃ちゃんが悪いよね?」
おまえが腹パンしなければな。
「あたしは積年の恨みを晴らしただけで何も悪くなぁ――――いっ! いまこそ復讐の時!」

腹パンした麻奈実も麻奈実ですが、先に挑発したのは桐乃ですし、これは明らかに桐乃が悪いと思うのですが……。

P.344-345
「いつもいつもいつもいつも邪魔ばっかして! 子供の頃からずーっとムカついてたんですケドぉ!」
「……邪魔ばっかりしてたのは、桐乃ちゃんの方でしょう?」
「あっれー! あたしのことなんか忘れてたんじゃなかったのぉ~?」
「……っ!」
「あ、やっぱ図星なんだ! この嘘吐き!」
「……ぅううう! 桐乃ちゃんさえいなければ! 全部上手く行ってたんだよ!」
「人のせいにすんなっ!」
「っっ!」
「っ痛ぁ~……あっそう! やってくれんじゃん! この……!」
「ずっとずっとずっとずっと! 十年以上も一緒だったんだもん! 桐乃ちゃんには、負けない!」
「こっちは生まれたときから一緒だっつーの! 妹が! 幼馴染みなんかに負けるかぁ――っ!」

京介を巡る女同士の醜い争い……引くわぁ……。

「こっちは生まれたときから一緒だっつーの! 妹が! 幼馴染みなんかに負けるかぁ――っ!」
でも、これだけは名言だと思います。
実際は、幼馴染みに負ける妹は多いですけどね……。

P.346
「おまえらの主張は分かったが、暴力は何も生まん!」
「超すっきりするじゃん」
「お互い言いたいことをぶつけ合ったからね」
闘争で分かり合うなよ。おまえらはバトル漫画のライバル同士か。
考えてみれば、いままではこいつら、こうやって全力でぶつかり合うことさえできなかったわけで。『ちゃんと喧嘩』――できるようになったってことか。
進展はしている。周囲に被害が出ているが。

一見筋が通っているように思えるかもしれませんが、言いたいことをぶつけ合うなら口で言えばいいわけで、暴力に訴える必要はないと僕は思いますよ。

P.347-348
「じゃあ……今度はわたしの番だね。きょうちゃん、桐乃ちゃん」
「……なに」「なんだ?」
「誰も言わなかったみたいだから、わたしがはっきり言ってあげる」
完全に三年前と同じマジギレモードに変貌した麻奈実は、穏やかにこう告げる。
「兄妹で恋人になるなんて、気持ち悪いと思うよ。――普通じゃないと思う。異常だと思う。たくさんの人が、気持ち悪いって感じると思う」
語り口はゆっくりで、彼女らしく。それでも否応ない圧力を感じさせる。
「当たり前だけど、兄妹では結婚なんてできないし、ご両親だって反対するに決まってるよ。桐乃ちゃんの気持ちが本物であればあるほど、大人になっても変わらないものであればあるほど、誰かが不幸になる。それはもうどうしようもないことで、誰にだって、たとえきょうちゃんにだって、どうにもならないことなんだよ」
そして麻奈実はこう結んだ。
「だからね、桐乃ちゃん、きょうちゃん。もう、十分でしょう? 夢から覚めて、現実を見て――」
「普通の兄妹に――なりなさい」


それが三年前、桐乃に突き付けられた現実だった。
いま現在、俺たちが直面している常識だった。
「……っ……」


それはだめなんだって、言われました。誰にも言っちゃだめなんだって、言われました。
でも、あの人の言ってることはきっと正しくて……どうしようって、困ってます。


「なるほどな。おまえらはもう、とっくの昔に、一戦交えてたってわけかい」

麻奈実による正論。
それに対する桐乃の反応を見て、状況を察する京介。
ここでの、京介の察しの良さは素晴らしい。妹を守るための、兄の本能ってやつですかね? 7巻や8巻辺りでは、発揮されないことも多かったですが……。

P.348-349
「麻奈実も小学生相手に非常な現実を突き付けすぎだろ」
「いまの二人には、これでもまだまだ全然足りないくらいだよね――あれから三年経って、もう子供みたいなことは言っていられなくなったんだから」
卒業という節目を迎え、俺は高校生ではなくなり、桐乃は中学生ではなくなった。
もう子供ではない。だから大人の論理を受け容れろ――と、麻奈実は言っているのだろう。
「きょうちゃん」
「……なんだ」
「女の子に告白されて、妹が好きだからって断る人って、どう思う?」
「………………」
「桐乃ちゃん」
「……なに」
「高校生にもなって、お兄ちゃんと付き合ってるって自慢する妹って、どう思う?」
「………………」
「このあと二十歳になって、三十歳になって、二人は同じことを言い続けるの? それでいいと思っているの? 親しい人たちに、それをなんて説明するの? えっちなげーむの悪影響でそうなったって責められたとき、否定できるの? 納得してもらえるの?」
「………………」
「――――答えなさい」
なんだこの、魔王のような説教は。とんでもない生き地獄だぞくそ。

まだまだ続く麻奈実の正論。まぁ、言ってることは理解できます。
一見正しいように思えます、一見ね。

P.340
「どうして『今日』なんだ?」
俺と桐乃の関係を知ってたなら、もっと早くにこの話になっていておかしくなかった。
なのにどうして今の今まで干渉してこなかったのか――。
「節目だから、かな?」

>卒業という節目を迎え、俺は高校生ではなくなり、桐乃は中学生ではなくなった。
>もう子供ではない。だから大人の論理を受け容れろ――と、麻奈実は言っているのだろう。
麻奈実が卒業まで干渉してこなかった理由は、これですね。

P.350
「そ、それは――!」
桐乃が『約束の台詞』を口にしようとしたが、俺はそれを片手で止める。桐乃と麻奈実の喧嘩は、さっきのでしまいだからだ。
そもそも、最終決戦だなんてご大層な前フリをしたが、麻奈実はラスボスなんかじゃない。
この物語のラスボス、俺が立ち向かうべき敵は、一番最初から変わっちゃいないんだから。
俺はそいつ、あるいはそいつらに言ってやった。
「知るか!」
ってな。

京介が言うそいつそいつらとは一体誰のことなのか?
これは兄妹恋愛を否定する世間の考え方、常識や倫理観、普通などを押し付ける人たちなど、そういったものだと僕は解釈しています。

P.350-351
「いいか、よっく聞けよ――おまえは正しくて、俺たちは間違っている。悪いことをしているってハッキリと分かるぜ。倫理とか、常識とか、世間体とか、エロゲー主人公の中には、くだらねえって切り捨てちまうやつもいたけど、痛快でカッコイイとは思うけど、俺は、くだらないとは思わない。そういうの全部、すげー大切な考え方だと思うぜ。平凡な高校生が幸せに生きるためには、守るべきルールってもんがあるんだ」
だから常識や世間体として、広く定着している。
正しいからだ。けどな。
「俺はそれを破る! もっと大切なものがあるからなあ!」
「……ふぅん……分かってて、そういうこと言うんだ?」
「ああ!」
「……京、介……」
桐乃が蕩けた声で呆然と呟く。麻奈実はそれを一瞥し、俺に目線を戻す。

麻奈実の正論に対する、京介の反論。
京介がいう「もっと大切なもの」というのは、桐乃(妹)のことでしょう。小学六年生の桐乃が麻奈実の正論に対して答えられなかったことを、今、兄である京介が代わりに言っています。

P.351-352
「じゃあ、たとえばだけど……わたしが『二人のこと、おじさんにばらしちゃうよ?』って言ったら……どうする?」
「マジでやめて! 殺されちゃう!」
俺は全力で懇願した。瞳を潤ませ、麻奈実様を拝むようにしてだ。
「………………」
麻奈実は黙った。呆れたような雰囲気がある。
桐乃がぼそりと呟いた。
「…………かっこ悪」
かましい! 実際それやられたらシャレにならんのだから、ここは麻奈実様の慈悲にすがるしかないだろうが!
「ごほん!」
俺はごまかすように凛々しい咳払いをする。
「麻奈実!」
「なぁに?」
「見逃せ!」
「そんな決め台詞みたいに言われても……嫌って言ったら?」
「土下座してお願いするぜ! 俺にできることなら何でもするから、バラさないでくださいってな!」
そうしないと、親父が哀しむ。桐乃と無理やり引き離される。
俺はすでに、親父の信頼を裏切った最悪のクソ野郎だが。
それは仕方がない。仕方がないで済ませていいわきゃねーが、仕方がない。
物事には優先順位ってもんがある。

一見格好悪い京介ですが、京介がなりふり構わず麻奈実に懇願しているのは、あくまで父親と桐乃を悲しませないためです。決して、自分の保身のためではない。仕方がないというのは、兄妹でお互い好きになってしまったものは仕方がないという意味でしょう。

結局京介は妹を好きだという自分の気持ちに嘘を吐くことができなかった。それが父親を哀しませると分かっていても、止められなかった。
京介にとって、優先順位の一番はあくまで妹の桐乃であり、父親ではない。
それらを京介も分かっているから、自分のことを「親父の信頼を裏切った最悪のクソ野郎」だと言っているのでしょう。

P.352-353
麻奈実が教えてくれたとおり、俺は平凡な人間だ。
無理なものは無理で、できないことはできない。
そして、選択肢はスキップできない
悪かろうが、ダメだろうが、選ばなくちゃいかんときもある。
大切なものを切り捨ててでも、決断しなくてはいけないときもある。
それがいまだ。
「土下座されても、嫌だって、邪魔するよって、わたしが言ったら?」
「……!」
こいつ……! 俺はごくりと喉を鳴らし、
「そのときは――――まぁ、しょうがねぇわな」
諦めたように、笑う。
「エロゲの主人公の兄貴どもの真似をしてみるさ」
あいつらの痛快な生き様は、安定志向の俺からすっと、どうにもこうにも向こう見ずで、リアルでやるにゃあキッツイように思える。情けないが凡人の俺には、選べる生き方じゃない。
だから痛快さなど度外視して、ギリギリまで現状の生活に固執するつもりだが――
それで無理なら覚悟を決めるよ。一つを守るために、多くを失う覚悟をだ。

ここでの京介の覚悟が読み取れるでしょうか?
凡人の京介としては、なるべくなら平穏に生きたい。だから桐乃との関係も親には内緒にして、今の生活を保ちながら何とか上手くやっていきたい。それが京介の基本的な考え方です。

しかし、どうしてもそれが無理なら、エロゲの主人公の兄貴どものように、覚悟を決めようと言っています。一つ(桐乃との恋人関係)を守るために、多くを失う覚悟を。

大切なもの(倫理、常識、世間体、両親、平穏な生活、幼馴染など)を切り捨ててでも、決断しなくてはいけないと、京介はここでハッキリと宣言しています。

P.353-354
「そっか。じゃあ…………」
俺の本気さを見てなお、麻奈実は諦めずにさらにこう続ける。
「わたしが、お願いだからやめてって……考え直してって……土下座して頼んだら、どうする?」
「……おまえ」
「どうする?」
彼女のここまで必死な様子を、生まれて初めて見た。
真摯な眼差しが俺をえぐる――
「それでもだ」
切り捨てるように、返事をした。

麻奈実が必死に頼み込んでも、あくまで妹を優先し、考えを曲げない京介。
ここで京介は、本来なら一生続くはずだった幼馴染みとの関係を切り捨てようとしています。

P.354-355
「なら……なら……っ!」
麻奈実の口調が震え、かすれていく。
「わたしがっ、ずっと……ずっと……きょうちゃんのことが好きで……いまここで、付き合ってくださいって……告白したら?」
「!」
「……そうしたら、わたしのそばにいてくれる?」
彼女の頬を、涙が伝った。
「――――」
涙ながらの愛の告白――それはあまりにもタイミングが悪すぎて。
だから察してしまった。いや、麻奈実にここまで言わせちまって……ようやく気付けた。
俺は実に馬鹿だな。
俺の幼馴染みはいつだって、自分のことは後回しにして、人の心配ばかりして……自ら進んで貧乏くじを引いていく。逆の立場だったなら、俺にはとてもできやしない。
麻奈実は俺のことを俺よりも分かっている。
ああ、分かってるさ。
だからいま、告白したんだよな。大馬鹿野郎め。最高の幼馴染みめ。
麻奈実からもらったたくさんの想い出が、次から次へと溢れてくる。
俺は唇を噛んで涙を堪えた。泣くわけには、いかない。

麻奈実の涙ながらの愛の告白。

麻奈実がこうして憎まれ役を買ってまで二人を止めに来たのは、言うまでもなく二人の心配をしてのことです。兄妹で付き合っても幸せになんてなれない、今は良くても将来はどうするのか? 本当にその覚悟はあるのか? それらを問うために麻奈実は卒業式を待って、二人のところにやってきました。

しかし、麻奈実が思うより京介はずっと桐乃のことが好きで覚悟も固まっており、京介の考えを変えることができなかった。

兄妹でなんて絶対幸せになれないし、このままでは二人とも不幸になる。普通の兄妹に戻って幼馴染の自分を選んだ方が、京介は幸せになれる。そう信じている麻奈実は、今まで隠していた自分の京介に対する想いを告げてでも止めようとします。

京介の言うとおり、麻奈実が自分のことを後回しにして、人の心配ばかりした結果がこれです。京介も麻奈実が憎まれ役を買ってまで自分(と桐乃)のことを心配してくれていることがわかってしまったから、泣きそうになっているのでしょう。

11巻 P.300-301
「加奈子に言わせっと、野良猫とかゆーアホは救いようのないバカっすね」
「あはは。じゃあ、わたしもばかだね」
「そうなんすか?」
「きっと黒猫さんは、桐乃ちゃんのこと、きょうちゃんと同じくらい大好きで……だから桐乃ちゃんの気持ちを無視して、自分だけ幸せになるのは駄目だって、思ったんじゃないかな」
以前きょうちゃんに告げたのと同じ台詞を、わたしは口にした。
「そこはね、わたしも黒猫さんと同じ気持ち。……わたしは、きょうちゃんにも、桐乃ちゃんにも……みんなに幸せになって欲しいんだ」

これに関しては、ここに麻奈実の気持ちが書いてありますので参考までに。

P.355-356
――全部捨てられても。好きでいることだけは、やめない。


桐乃はあのとき、そう決断した。


――妹でも、好きだ。


どっかのエロゲ主人公は、そう決断した。
そして俺は――
「桐乃を選ぶ」
かちりという幻聴(クリック)が、聞こえた気がした。もっともルート分岐の選択肢は、もうとっくに通りすぎてしまっている。後戻りはできないし、するつもりもない。
「俺は……」
いつかと同じ台詞を叫ぶ。
「――俺は――」
今度こそ嘘偽りのない、本当の気持ちで。


「俺は! 妹が! 桐乃が! 大っ好きだぁ――――――――――――――っ!」


俺もずいぶん探したが、この先に抜け道はない。上手い落としどころなんてない。
真っ直ぐ進むしかないのである。

京介の決断。
いつかと同じ台詞というのは、2巻のP.358で桐乃とあやせを仲直りさせるために、妹が大好きだと叫んだ時のことですね。あの時は半分演技でしたが、今度は嘘偽りのない、本当の気持ちです。

>俺もずいぶん探したが、この先に抜け道はない。上手い落としどころなんてない。
>真っ直ぐ進むしかないのである。
これ、めちゃくちゃ大事なモノローグなので、覚えておいてください。

P.356
「…………そっか」
すべてを振り絞った俺の返答を聞いた麻奈実は、ぽろぽろと涙をこぼしながら、微笑んだ。
「気持ち悪いね」
すっきりした声だった。だから俺も、笑い返した。
「おう、近親相姦上等だ! 実妹エンド、やってやるぜ!」

「おう、近親相姦上等だ! 実妹エンド、やってやるぜ!」
この京介の台詞も、「完全なる桐乃エンド」を考察するうえで大事な台詞です。覚えておいてください。

P.356-357
パァン!
「ほんと、最悪の返事だね」
「にこやかに殴るなよ」
「きょうちゃんが悪いんでしょう?」
「まったくだ」
俺は口から血を流しながら。
麻奈実は目を真っ赤に腫らしながら。
いつもと同じように笑い合う。
きっとこれが俺たちの、始まりすらしなかった、初恋の終わりだった。

麻奈実退場。
京介の初恋は麻奈実でしたが、結局最後に選んだのは妹である桐乃です。

11巻の考察でも書きましたが、麻奈実の考える幸せと京介の考える幸せは違うんですね。そのすれ違いがこの悲劇を生んでしまいました。京介は、麻奈実は俺のことを俺よりも分かっていると麻奈実を評していますが、僕から見ると肝心なところはわかっていないように思えますし、それが麻奈実の敗因だと思います。

P.358
それでも俺が、決めたことだ。自分の意思で、選択肢を、選んだ。
なら、そのとおりにしなくっちゃな。

これも大事なモノローグです。覚えておいてください。

P.359-360
「うっし、桐乃――」
いま、俺はきっと、三年前よりもずっと、子供っぽい笑顔を浮かべていることだろう。
「結婚すっか」
生涯一度きりしか言えない、ずっと準備していた台詞だった。

ここでの京介の覚悟が理解できますかね?
京介は「結婚すっか」という台詞を、生涯一度きりしか言えないと言っている。
つまり、京介は生涯において桐乃以外の人間と結婚する気がないのです。
他の人の感想で、ラストで普通の兄妹に戻った後は、京介が別のヒロインと付き合うという解釈を見たことがありますが、そんなことはあり得ません。なぜなら、俺妹のラストは「完全なる桐乃エンド」なんですから。

P.360-361
「……呆れた。こんな大がかりなことを、準備してるなんて」
「クリスマスんときから、ずーっと『兄妹じゃ結婚できない』って何度も言ってやがったろ」
だから着付けの技術やら会場衣装の下準備やら、この日のためにいままでのコネをフル活用して用意したのだ。徹頭徹尾、他力本願なやつで悪かったな。
「だから、その、おまえ……結婚してーのかなってさ」
ここで違うって言われたらどうしよう。内心ビビりながら問う。
「違ったか?」
桐乃は首を振った。
「違わない」
ぎゅっ、と、正面から抱きついてきた。
「違わない……! 嬉しい! すっごい、すっごい嬉しい!」
「……そっか」
照れるぜ。思えば、こんなに真っ正面から抱きつかれたのって、付き合ってから初めてだ。

桐乃の結婚願望を理解して、結婚式の準備を整えた京介。
あの桐乃の驚くほど素直な反応からして、本当に嬉しかったみたいですね。

P.361
やがて桐乃が、ゆっくりと口を開く。
「兄貴」
「ん?」
「京介」
「なんだ?」
桐乃は、まるで俺が二人いるかのように、二回呼びかけた。

P.362-363
「……あたしさ。あんたの妹で、よかった。……あんたは?」
「……ばかやろう」
そんなの決まってる。
「俺もだ。――二年間、おまえの人生相談に振り回されてきた。ムカつくことばっかだったけどな。悪くなかったよ。バカな連中とバカなことやって……おまえとは喧嘩ばっかして……俺までオタクの仲間になっちまって――むちゃくちゃ楽しかった」
「そっか」
「おまえの兄貴でよかった」
「……そっか、ならいい」
桐乃は、満足そうに頷いた。

ここは作者の伏見先生が兄妹恋愛というものをよくわかっているなと感じられるシーン。
兄妹恋愛モノって、(世間では認められないし、結婚もできないから)兄妹であることを否定して恋人になる、みたいな作品も時たま見受けられるのですが、この作品は兄妹であることを決して否定せず、兄妹であり恋人でもあるということを大事にしているのが、桐乃の最初の2回の呼びかけと「あんたの妹で、よかった」という台詞から分かります。

P.363
結局――
俺たちの間に、ゲームのような奇跡は起こらなかった。
兄妹の間に立ちふさがる壁は依然として健在で、俺たちにはどうしようもない。
どうしようもないままで、『約束の日』へとやってきた。

ここも京介の(作者の)仕掛けたミスリードです。
ここだけ読むと、どうしようもないとしか読めませんが……。

P.236-237
それってなんでだろうな? 分かるかい?
俺は分かったよ。
ところで物語の語り部ってのは、読者よりもちょっとだけ察しが悪いくらいが良いさじ加減なんだってよ。クソ喰らえだね。悪いけど、俺、それはもうやめたから。
いまの俺はいままでの『俺』じゃない。
スーパー京介だ。
そうあろうと決めた。

この記事の12巻編、中のところでも書きましたが、大事なことなのでもう一度書きます。

P.202
自分に吐き続けてきた嘘を、嘘だと認めようと決めたのだ。

12巻の京介は、ずいぶん素直になって桐乃への気持ちにも正直になっているので、一見嘘は言わないようになったように見えますが、そんなことはありません。
京介が認めたのは自分に吐き続けてきた嘘を嘘だと認めようと決めただけで、読者に対して嘘をつかないなんて一言も言っていません。むしろスーパー京介として、今まで以上に読者より上を行こうとしていますし、大事なことは平気で読者に隠します。

P.246
つかっ……! 語り部だからって、おまえらに全部教えなくたっていいだろ!

こんなことも言っていますし、京介は12巻でもまだまだ信頼できない語り部です。
その証拠の一つとして、クリスマスでした桐乃との約束の内容を、二人の結婚式まで読者に隠していましたよね? 恐らく多くの人は最初に読んだ時、結婚式のシーンまで二人が期間限定の恋人として振る舞っていると気づかなかったはずです。こんな大事なことをちゃっかりと京介は黙っていて、読者を騙していたわけです。

P.364
「――ん」


桐乃は目をつむり、ほんの少し、唇の先を尖らせた。
俺は花嫁の背に、そっと腕を回し――――


妹と、キスをした。


「……あーあ、やっちゃった」
「やっちまったな」
婚姻の儀式を済ませ、俺たちは悪戯が成功した子供のように苦笑する。
「あんたにしては、悪くなかったよ」
「……比べられるほど経験あんのか?」
「初めてに決まってんでしょ! キスのことじゃなくて、結婚式のこと!」

誓いのキスのシーン。
ここは何度見ても感動しますね。
正直、ラノベでここまでやってくれるとは思ってなかったので、感激もひとしおです。

ここで結婚式にあるはずの誓いの言葉がないのは、「二人で交わした期間限定の恋人という約束」があるからでしょう。普通の兄妹に戻るという約束があるから、生涯を添い遂げるという誓いの言葉は言えないのです。

P.364-366
「じゃあ……えっと、キリもいいところだし、約束どおり、ここで終わっとく?」
「そーだな」つとめて明るく返事をする。「そうすっか」
「ん」
桐乃は笑みを浮かべてこくんと頷く。
クリスマスの日――俺たちは『約束』を交わした。


――卒業まで、二人は期間限定の恋人になる。
――卒業したら、二人は普通の兄妹に戻る。


好き合っている兄妹(おれたち)の、それが現実的な落としどころだった。
麻奈実に言われるまでもない。
さっき――桐乃が言いかけ、俺が止めた台詞がこれだ。

好き合っている兄妹の現実的な落としどころ。
ここにもミスリードが仕掛けてあります。

クリスマスに桐乃と約束した時の京介は、これが現実的な落としどころだと思っていた。この現実的な落としどころとは、「その時」のことを言っています。だったと「過去形」になっているのがポイント。

しかし、その後京介は考え方を変えています。

この先に抜け道はない。上手い落としどころなんてない。真っ直ぐ進むしかないと。

それを象徴する台詞が、

P.365
「おう、近親相姦上等だ! 実妹エンド、やってやるぜ!」

これです。
これが京介の決断であり、本気なのです。

これについては、

P.366
桐乃もびっくりしたろうな。この約束のことを明かせばある程度どうにかなりそうな状況だったのに、俺が返した台詞ときたら――思い返すだけで死にたくなる。
が、あれで良かったのだ。俺は最も誠実かつ正直な台詞で、答えを告げたのだから。
あのときの俺に、何一つ嘘はなかった。すべて本気だった。

ここでもハッキリと「あのときの俺に、何一つ嘘はなかった、すべて本気だった」と書かれています。「あのときの俺に」と書いてあるので、今は違うとつい解釈しそうになりますが、これもミスリードでしょう。

P.366
さて――この約束があったからこそ、俺たちは限りある恋人としての時間を、後ろめたさを感じずに、全力で気持ち悪いバカップルとして過ごすことができたわけだが。
それも今日でおしまい。

ここも非常に紛らわしいモノローグですね。
ここで京介が言っている「おしまい」とは、限りある恋人としての時間の話であり、期間限定の恋人の話です。別に何かを諦めたわけではありません。

P.367
「はいっ、終わりっ!」
桐乃は俺の身体を、ぐっと両手で押す。
「これ、返すね」
そして婚約指輪を外し、差し出した。クリスマスの日に桐乃の指に嵌めた、あの指輪だ。
俺は片手で桐乃の背を抱いたまま、その指輪をそっと摘み……
「………………」
「………………」
「ほらぁ、いつまで馴れ馴れしく妹に触ってんの? もう恋人じゃないんだから離れてよ」
「へいへい」

桐乃は、もちろん京介のそんな心境は知らないので、約束通り普通の兄妹に戻る気です。
桐乃はよくも悪くも真っ直ぐな性格なので、父親のように一度約束した以上は必ず守るつもりなのでしょう。
でも、京介は違います。それは、この気のない返事からも想像はつくでしょう。ここで普通の兄妹に戻ったのは、あくまで桐乃との約束を尊重しただけです。

P.367
俺たちは恋人から兄妹に戻り、二人は誰とも付き合っていない状態に戻り。
俺のとなりには誰も残らない。取り返しも付かない。
それが俺の選択だった。
制服に着替え、教会を出る。
そのときにはもう、二人の手は繋がれていなかった。

ここは9巻ラストとの対比でしょう。

9巻 P.274
繋いだ手を、しっかりと握りしめる。
もう二度とはぐれないように。

9巻のシーンと対比することで、読者に「二人の恋人としての関係は終わった、普通の兄妹に戻った」と強く印象づけています。伏見先生お得意のミスリードです。

エピローグ

P.371
へっ……二年前は、よちよち歩きのサークルだった俺たちが、いまや新メンバーを受け容れる側になるなんてな。感慨深いぜ。
「さぁ? どんなやつなんだろね? 妹っぽい娘だったらいいなー」
「オマエほんっとそればっかな。……意外と男かもしれんぞ?」
「『オタクっ娘あつまれー』なのに?」
「すでに俺がいるわけだし、女限定ってわけでもないだろ」
「うーん。ま、会えば分かるか」
「そういうこったな」

新メンバーについてですが、これは俺妹という作品を読んでる読者(あなた)のことなので、性別はわざと曖昧にしています。
男の人が読んでるなら男ですし、女の人が読んでたら女。そういう仕掛けです。

P.372
「メルルの新しいグッズ出てる! まじかるリング!」
どうやらメルルの作中に出てくる『魔法の指輪』のおもちゃを見つけたらしい。
「ねぇねぇ、あんたあたしにコレ買ってよ」
「はあ!? なんで俺がおまえにオモチャの指輪なんざ買ってやんなくちゃいけねーんだよ」
もう彼氏でもなんでもねーってのに。

恋人としての関係は終わっているので、当然京介の認識する桐乃との関係は彼氏彼女ではありません。

P.372
「自分で買えば?」
「チッ、兄妹なんだから別にいいでしょ」
「なんだその理不尽な理屈は!」

桐乃の京介との関係の認識も、もちろん兄妹です。
桐乃は何も知らずに、二人は普通の兄妹に戻っていると思っていますし、指輪をねだったのも単にメルルの新しいグッズが欲しかっただけで、特に深い意味はないでしょう。
ここでの「兄妹なんだから別にいいでしょ」という台詞は伏線。桐乃のこの台詞は、あとで自分に返ってきます。

P.372
「ったく分かってないなァ~。――いい? 妹ってのはァ、兄に可愛くおねだりするもんなの」
「じゃあ可愛くおねだりしろ! そしたらちょっとは考えてやんよ」
「え? あたし可愛いっしょ?」
見た目はな! おねだりの仕方は可愛くないっ!

さっきから、殊更に妹を強調しているのは桐乃なりのけじめなのでしょう。
表面上は明るく振舞っていますが、いじらしい努力です。
そして、たとえどんな時でも妹の見た目が可愛いことを否定しない京介。
これは本当に最後までブレなかったですね。

P.372-373
「いーじゃん、買ってよケチ」
「……ぐぬ……はぁ~~わーったよ」
結局俺は、いつものようにワガママを聞いてやる。
「へっへー、さんきゅー」
いまいち気持ちがこもっていなさそうとはいえ、礼が返ってくるだけ以前よりはマシか。
ちくしょう……ほんと妹に甘いよな、俺ってやつは。
なんとか仕返ししてやれねーもんか。

妹のおねだりを断り切れない京介。チョロい(笑)。
ここで京介が桐乃に指輪を買ってあげたのが重要なポイント。
桐乃への仕返しを考えている京介は、この後あることを思いつきます。

P.373
「あ、忘れてたわ」
俺はふと足を止めた。桐乃も止まり、振り向く。
「何が?」
「ほら、いつかの『おまえが何でも言うこと聞いてくれる』っつー約束。――まだなんもしてもらってねーや、俺」
「そういやそうだね。――使い途思いついたわけ?」
「おう」

ここで思いついた使い途については後述。

P.373-374
俺は、数歩先にいる桐乃に向かって手招きする。
「よし、じゃあちょっとこっち来い」
「はぁ~? なんだっての。それが願いごと?」
「いいから」
「はいはい。これでいい?」
「おう」


――不意打ちでキスをしてやった。

ここの会話で、「こっち来い」や「不意打ちのキス」が京介の思いついた使い途や願いごとだと大半の人は思ったでしょうが、違います。よく読むと、京介はそんなこと一言も言っていません。巧みにごまかしています。

ここでさっき買った指輪のことを思い出してください。
京介が指輪を桐乃にプレゼントし、キスをした。
この行為が何を意味するのか、求愛です。
このキスで京介は桐乃に、自分がまだ桐乃を好きだという気持ちを伝えています。

アニメではこのシーンのキスは頬になっていましたが、原作ではどこにしたかは書かれていません。僕は唇だったと思っていますが。

P.374
「んなっ……!」
どんっ! と桐乃は俺を突き飛ばす。
「な、なにすんのっ! 約束は!?」
「兄妹なんだから別にいいだろ?」
「い、いいわけあるかぁ――――――――――――――――っ!」
びしっと俺を指差して、
エロゲーじゃないんだっつーの! 帰ったら、人生相談だかんね!」
捨て台詞とともに、妹は待ち合わせ場所へと駆けていく。

ここで、桐乃は京介が約束を破ったと思っています。
桐乃からしてみれば京介は(普通の兄妹に戻るという)約束を破ったということになります。しかし、京介からすると別に約束を破ったつもりはないでしょう。

この齟齬は「普通の兄妹」というものに対する、二人の認識の違いから来ています。

この時点での桐乃の認識からすると、二人は「普通の兄妹」に戻ったし、兄妹はキスなんてしないものという思い込みがあります。だから桐乃は、「京介は約束を破った」という風に感じています。

しかし、「京介の認識する普通の兄妹」というものは、桐乃とは違います。

京介にとって、妹にキスするのは普通の兄妹の範疇なのです。
「兄妹なんだから別にいいだろ?」という京介の台詞にそれが現れています。

二人だけの結婚式で、期間限定の恋人から普通の兄妹に戻ると桐乃と約束し、京介はちゃんとそれを守りました。そして二人の関係は、恋人から兄妹に戻りましたが、京介はいまでも桐乃のことが好きです。だから桐乃にキスをした。ただ、それだけのことで、別に京介は約束を破ってなどいません。

ここで、まだ京介が『おまえが何でも言うこと聞いてくれる』という約束を行使していないのがポイントです。
京介が使う『おまえが何でも言うこと聞いてくれる』約束とは、帰った後の桐乃との人生相談で使われると思われます。それが何なのかはハッキリ書かれていないので推測になりますが、改めて桐乃に好きだと告白して、付き合ってくれというようなことを言い出すでしょう。おそらく桐乃は驚いて最初は断るでしょうが、まだ行使していない『おまえが何でも言うこと聞いてくれる』権利を盾にすれば、別に京介のことを嫌いになったわけじゃない桐乃は断れませんし、桐乃が何か言っても、京介の性格上いつものように強引に押し切るでしょう。
そして、その後、二人はまた兄妹兼恋人として付き合うことになると。

・「完全なる桐乃エンド」
・「最初の人生相談と同じように、兄妹は、二人だけの秘密を抱えて終わる」
blog.livedoor.jp

これが「完全なる桐乃エンド」であり、二人だけの秘密です。

P.365
「おう、近親相姦上等だ! 実妹エンド、やってやるぜ!」

京介は麻奈実に対し、実妹エンドをやってやると宣言しました。
これを多くの読者は、単に麻奈実(や黒猫やあやせ)じゃなくて桐乃を選んだという意味だと解釈しているようですが、僕の解釈ではそうではありません。
京介のいう実妹エンドとは、上記のような「完全なる桐乃エンド」のことです。

まぁ、これだけだと「単なるお前の願望や妄想だろ?」で終わってしまうので、これについては、後でもうちょっとちゃんと説明します。

僕が思うに、俺妹の結末はあまりに説明不足だったように思います。
ちゃんと読み込めば理解はできるのですが、多くの読者はそこまで読み込んだりしません。だから、京介の言動をそのまま素直に受け取ってしまい、「京介はいつの間に桐乃のことを好きになったの?」「京介の桐乃に対する気持ちは純粋な兄妹愛だと思っていた、裏切られた」みたいな感想を、多くの人が抱くことになりました。
そういう意味では、12巻の賛否両論の評価は妥当だなと思っています。
10~12巻には7巻までの頃の丁寧さがなくて、あまりに雑なんですよね。

P.374-375
桐乃が走っていく先には――どんなやつが待っているのやら。
ふむ、これから長い付き合いになるのだとしたら、どっかの腐女子のようにきっちりと、己をさらけ出す自己紹介をしておくべきか。
……やれやれ、ったく――しょうがねーな。
そんじゃまぁ……長い話になるが、語ってやるよ。
聞いてくれ。
俺と妹の、とんでもない秘密の話を。
俺が二年間で体験した、いくつもの大騒動を。
クソ生意気な妹と、ごく平凡な兄貴の話。
人生相談から始まった、どこにでもいる兄妹の、ほんのちょっぴり特別な、恋物語
一回くらい、笑ってもらえりゃ幸いだ。
最後の締め方だけは、もう決まっている。


「ほらぁ、なにしてんの! さっさと来いっ!」
「へいへい」


――俺の妹がこんなに可愛いわけがない。

12巻の巻頭でも描写されていましたが、このモノローグによって「この俺妹という作品が、京介が読者に向けて語ったもの」だということが分かります。

>――俺の妹がこんなに可愛いわけがない。
俺の妹がこんなに可愛いわけがない」とは、裏を返せば「俺の妹は可愛い」ということです。
結局、京介が読者に一番伝えたいのはこれなのでしょう。妹が大好きなどうしようもないシスコン。それが京介なんです。それは最後まで変わることはありません。

まとめ

長々と書いてきたこの記事ですが、俺妹の伏線については、ほぼ読み解きました。
最後にもう一度「完全なる桐乃エンド」についてまとめておきましょう。

伏見 ゲーム(編注:俺の妹がこんなに可愛いわけがない ポータブル)の脚本を書かせていただいた影響が大きいと思います。IFではあるものの「俺の妹」のさまざまな形のエンディングを書いてみて、桐乃の想いが完全に報われる結末が(IF設定の力を借りなければ)ひとつもなかったんです。普段表には出さないし、いろいろな事情があって、分かりやすい形で書いてあげることもできないけれど、彼女がとても主人公のことを想っているのを、僕は知っていたので、何とかしてやりたかった。ここまで踏み込むのを決めたのは、それがきっかけです。


―― 作者として女性キャラクターの中で一番ご自身が愛情を注いでいるキャラは?


伏見 最終的には桐乃になってしまいましたね。最初桐乃はムカつくキャラクターとして生み出したもので、僕自身も嫌いで、主人公と同じように見ていたところがあったんです。第1巻から、彼女の秘められた恋心を設定して、少しずつ描写してきたのは、嫌いなヒロインを何とか魅力的に書こうと苦心した結果でもありました。それが、ストーリーが進むにつれて、積み上げてきた描写が効果を発揮し出して、桐乃を好きだといってくれる方がどんどん増えてきて……本当にうれしかったのを覚えています。
www.itmedia.co.jp

>桐乃の想いが完全に報われる結末が(IF設定の力を借りなければ)ひとつもなかったんです。
>彼女がとても主人公のことを想っているのを、僕は知っていたので、何とかしてやりたかった。ここまで踏み込むのを決めたのは、それがきっかけです。
ここを読めば、伏見先生が、桐乃の想いが完全に報われる結末を用意するために、何とかしてやりたかったと思っていたことが分かります。

>普段表には出さないし、いろいろな事情があって、分かりやすい形で書いてあげることもできないけれど、
それと同時に、桐乃の想い(兄妹恋愛)を分かりやすい形で書くことができないという大人の事情も垣間見えます。

───12巻は全体的に美少女ゲーム(ギャルゲー)を意識した構成になっていて、原点に帰った印象を受けます。


伏見:そうですね。狙って1巻っぽいシーンを書いています。すべてに決着をつけて禁断の道に突っ込むという痛快な物語は、電撃文庫で、直接描くのは、とても難しいですし、桐乃を幸せにするエンドにしようと決めた以上、彼女の今後には、可能な限り良いレールを敷いてやらなくてはいけないし……非常に悩みました。結果は、読んでいただいたとおりなのですが、再読する方向けに、蛇足ながらコメントさせていただくと、


・「完全なる桐乃エンド」
・「最初の人生相談と同じように、兄妹は、二人だけの秘密を抱えて終わる」


12巻は、そんなお話です。
blog.livedoor.jp

>すべてに決着をつけて禁断の道に突っ込むという痛快な物語は、電撃文庫で、直接描くのは、とても難しいですし、
こちらのインタビューでも、伏見先生は似たようなことを言っています。
つまりですね、本当は伏見先生としては、桐乃が完全に報われる兄妹恋愛の結末、すべてに決着をつけて禁断の道に突っ込むという痛快な物語を書きたかった、しかし、電撃文庫ではいろいろな事情があってそういったハッピーエンドを描くのは難しい。そこで苦肉の策として伏見先生が用意したのが「完全なる桐乃エンド」だったと僕は考えています。

表向きは「高坂兄妹は両想いだけど実の兄妹で恋人になるのは難しい、だから現実的な落としどころとして期間限定の恋人として振る舞うことにし、最後は普通の兄妹に戻りました」という風に書いてあります。大抵の人は、俺妹の結末をこういう風に解釈しているでしょう。

しかし、それと同時に伏見先生はしっかりと「完全なる桐乃エンド」の伏線を仕込んでいます。

6巻 P.266-268
人生ってのは、セーブデータ一つしかないエロゲーみてえなもんだ。
一度選んだ選択肢を、遡って変えることはできない。
失敗したら取り返しが付かないし、そうそう都合よく奇跡なんておきやしない。
無理なものは無理で、どうしようもないことは、絶対にどうしようもない。
だけどそんなもん、誰が決めんだよ! 無理とか無駄とか、やってみなくちゃ分からねえだろうが! 神さまじゃねえんだ、未来なんざ知ったことか!
だから遠慮なくやっちまえ! やっちまえよ、桐乃! 道理なんざひっくり返して――
「ぶち抜け……!!」

これは6巻の頃の考え方ですが、京介という人間を分かりやすく表していると思います。

P.274
「ま、知ってたけどね。キミはいつだって、自分の決めたとおりにやるやつなんだから」

P.350-351
「いいか、よっく聞けよ――おまえは正しくて、俺たちは間違っている。悪いことをしているってハッキリと分かるぜ。倫理とか、常識とか、世間体とか、エロゲー主人公の中には、くだらねえって切り捨てちまうやつもいたけど、痛快でカッコイイとは思うけど、俺は、くだらないとは思わない。そういうの全部、すげー大切な考え方だと思うぜ。平凡な高校生が幸せに生きるためには、守るべきルールってもんがあるんだ」
だから常識や世間体として、広く定着している。
正しいからだ。けどな。
「俺はそれを破る! もっと大切なものがあるからなあ!」

P.353
「エロゲの主人公の兄貴どもの真似をしてみるさ」
あいつらの痛快な生き様は、安定志向の俺からすっと、どうにもこうにも向こう見ずで、リアルでやるにゃあキッツイように思える。情けないが凡人の俺には、選べる生き方じゃない。
だから痛快さなど度外視して、ギリギリまで現状の生活に固執するつもりだが――
それで無理なら覚悟を決めるよ。一つを守るために、多くを失う覚悟をだ。

P.355-356
――全部捨てられても。好きでいることだけは、やめない。


桐乃はあのとき、そう決断した。


――妹でも、好きだ。


どっかのエロゲ主人公は、そう決断した。
そして俺は――
「桐乃を選ぶ」
かちりという幻聴(クリック)が、聞こえた気がした。もっともルート分岐の選択肢は、もうとっくに通りすぎてしまっている。後戻りはできないし、するつもりもない。
「俺は……」
いつかと同じ台詞を叫ぶ。
「――俺は――」
今度こそ嘘偽りのない、本当の気持ちで。


「俺は! 妹が! 桐乃が! 大っ好きだぁ――――――――――――――っ!」


俺もずいぶん探したが、この先に抜け道はない。上手い落としどころなんてない。
真っ直ぐ進むしかないのである。

P.356
「おう、近親相姦上等だ! 実妹エンド、やってやるぜ!」

P.358
それでも俺が、決めたことだ。自分の意思で、選択肢を、選んだ。
なら、そのとおりにしなくっちゃな。

P.366
桐乃もびっくりしたろうな。この約束のことを明かせばある程度どうにかなりそうな状況だったのに、俺が返した台詞ときたら――思い返すだけで死にたくなる。
が、あれで良かったのだ。俺は最も誠実かつ正直な台詞で、答えを告げたのだから。
あのときの俺に、何一つ嘘はなかった。すべて本気だった。

京介の本気や覚悟については、こんな風にハッキリと書いてあります。
この後の結婚式で現実的な落としどころという話が出てくるので、これらの決意は一体何だったんだ? と思ったかもしれませんが、先にも書いたように、あれは桐乃との約束を果たしただけです。これらの京介の覚悟と決意は本物で、最後まで貫くつもりなことは、改めてちゃんと読めばわかるはずです。

桐乃を幸せにするエンドにしようと決めた以上、彼女の今後には、可能な限り良いレールを敷いてやらなくてはいけないし……非常に悩みました。結果は、読んでいただいたとおりなのですが、
【コラム・ネタ・お知らせ】 俺の妹がこんなに可愛いわけがない最終巻 伏見つかさ先生へ「ラストについて」「次回作」などインタビュー! : アキバBlog

もう一つ、「伏見先生が敷いた可能な限り良いレール」についても考察します。

12巻の考察記事で僕が書いてきた、兄妹で付き合っていることへの反応シリーズを覚えているでしょうか? あれの反応をまとめると黒猫、沙織、櫻井、瀬菜、御鏡と高坂兄妹には意外に味方が多いことに気づくと思います。ハッキリと書いてはありませんが、10巻 P.112-114の加奈子の態度を見る限り、加奈子も大丈夫でしょう。

P.254 黒猫
「あらそう。よかったわね」
予想どおりといえば予想どおり。こいつだけは、(邪気眼的な思い込みではあるけれど)こうなるって分かってやがったもんな。

P.256 沙織
「正直拙者、この四人が仲良く揃って遊んでいられるのなら、後のことはどーだっていーでござる」
ぶっちゃけやがった。
「兄妹で付き合おうと、禁断の関係に踏み込もうと、どうぞお好きに」

P.274 櫻井
「じゃーね、ばいばい」
顔を見せぬまま、クマの手を振る。
「あたしはここにいるからさ。また会いに来なよ」

P.326-327 瀬菜
「あたしたちの心配はいいですから、高坂せんぱいこそ頑張ってください。どうしたら一番いいのかなんて、あたしには分かりませんけれど……『おめでとう』とも言えませんけれど……応援、してますから」
「ああ、ありがとよ」
本当に。いまの一言が、どれだけ俺の背中を押してくれたことか。

P.328 御鏡
「ぶっちゃけ愛と健康とお金があれば、人生なんてヌルゲーでしょ? 手に入れるまでが大変だけど、全部持っている君たちが、いまさら何を恐れるの?」

……と、こんな具合に伏見先生は、桐乃の今後に可能な限り良いレールを敷いてあげています。
実際のところ、高坂兄妹が付き合うことに実は障害ってそんなに多くないんですよね。愛と健康とお金はありますし、あとの問題は両親ぐらい。

どうでしょうか? 「完全なる桐乃エンド」 について納得できたでしょうか?

これでもまだ納得できないという人は、最後にもう一つ記事を書いているので、そちらも読んでみてください。

ラストのエピローグは、2人にはまだ未来があって、その未来に向かって歩いて行くという感じで締めさせていただきました。


(『『俺の妹。」がこんなに丸裸なわけがない』のインタビュー記事より引用)

2人の未来。
僕はそれを、これからも普通の兄妹として過ごしていくのではなく、「ほんのちょっぴり特別な兄妹として過ごしていく未来」だと思っています。

次の記事

jitsumai.hatenablog.com