『ダダダ』2巻(完結)の感想

作品情報

家族を守る為、父を超える為…様々な思いを胸に男たちは拳を振るう! 圧倒的画力で描かれる、激アツボクシングストーリー、感動の完結巻!!

上記はAmazonの内容紹介より転載。

マンガParkで連載されていたボクシング漫画。
最終巻です。

感想

第7話 大切なもの②


第6話での神崎と兄の殴り合いを見て、自分もしっかりしなくちゃと決意するゆめが健気ですね。
ランドセルを前で抱えてちょこんと正座してるのが、なんか可愛いです。

この回は主人公の祐と神崎の対比が随所に見られます。

眉をいじる癖のある祐、手を噛む癖のある神崎
スパーリング相手のいる祐、一人でサンドバッグを打ち込む神崎
親身になってくれるトレーナーのいる祐、突き放したような態度のトレーナーしかいない神崎

ミケさんから、父親があの日、自分の試合に来てくれようとしていたことを知り、祐は自分が大切なものを持っていることに気づきます。
孤独な神崎とは対照的ですね。

第8話 逃げられない

いよいよ、神崎との試合開始。
ゆめがヘアゴムをお守りにくれるのと、ちゃんと帰ってくると約束するのがポイントですね。


第6話で兄に思いっきり嘘を吐かれたせいか、「ちゃんと帰ってくるから」という兄の言葉を全然信用していないゆめの冷めた表情が笑えます。
自業自得はいえ、妹に押し倒されるお兄ちゃん、弱い(笑)

温かい声援を受けてリングに入場する祐に対し、静寂と重圧を漂わせる神崎。
試合の方は神崎の余裕と不気味さが際立っています。

第9話 恐怖

神崎の猛攻開始。

余計なことに気を取られ、自分だけを見ようとしない祐に対し、苛立ちを見せる神崎。
神崎の強烈な右フックが決まり、ゆめから貰ったお守りのヘアゴムもちぎれてしまい、劣勢の祐。

第10話 愛

神崎に勝てる気がせず恐怖する祐ですが、セコンドのミケさんの励ましとちゃんと帰ってくるというゆめとの約束を思い出し、立ち直ります。
切れてしまったお守りのヘアゴムを、シューズに結び直してくれるフォローといい、ミケさんは本当に頼りになりますね。



第9話では怖くて試合から目を反らしていたゆめが、しっかりと兄の姿を見据えているのも印象的。


見開きで兄に抱きつくゆめからは「愛」を感じますね。

神崎の過去回想では、神崎が両親に捨てられた事。
ボクシングを始めた理由が、祐の父親の試合がきっかけである事。
神崎が祐にこだわるのは、自分を怖がって近付こうとしない、自分の拳(すべて)を受け止めきれない周りの人間と違って、祐は何度でも立ち上がり、自分に対して向かって来てくれるからだと言うことが明かされます。
なかなか歪んだ「愛」ではありますが……それを受け止める祐も大変ですね(笑)

トドメを刺しに来る神崎に対し、ミケさんの作戦通りの見事なカウンターを決める祐ですが、神崎は、はずれた顎を強引に元に戻し立ち上がってきます。
神崎も祐も左フックを使うのは、祐の父親の影響でしょうか?

第11話 以心伝心

周囲に支えられて恐怖を乗り越え、前に進む祐。

今までの祐はゆめを守るため、自分を認めさせるために「神崎を倒さなきゃいけない、勝たなきゃいけない」という気持ちで戦っていましたが、ここで初めてボクシングを楽しいと感じ、ボクサーとして自分の意思で神崎に「勝ちたい」と思うようになります。

ボクサーとして神崎と戦えることを心から嬉しいと思った祐は、「神崎だけ」を見るようになります。
ようやく祐が自分だけを見てくれたことに神崎は嬉し涙を流し、殴り愛が始まります。

自分を守るはずだった防御を捨て、殺気を纏い神崎と壮絶な殴り愛をする兄を止めたのは、やはり妹のゆめ。


涙を流して必死に叫び、神崎の側に行こうとする兄の意識を引き戻します。
この時のゆめの台詞は書いてありませんが、第6話での神崎との状況をなぞっているとするなら「お兄ちゃんダメ!!」でしょうか?

神崎のパンチを「かわし」、顔面にパンチを入れる祐ですが、同時に神崎のパンチを腹に喰らってしまいます。

第12話 決着

試合は相打ちになり、両者同時にダウン。

今まで応援してくれた人たちの言葉を思い出し、必死に立ち上がろうとする祐ですが、先に立ち上がった神崎の前に力尽きダウン。
試合は神崎の勝利で終わります。

意識を取り戻した祐は、試合に負けたことを知り悔し泣き。
そこに駆けつけた神崎に対し、「世界で…待ってろ、次は殺してやる」と呟くのですが、その時の神崎の何かから解き放たれたような清々しい表情がいいですね。
祐の手を舐めたのは、今まで傷つけ壊すことでしか愛を表現出来なかった神崎なりの不器用な愛情表現でしょうか?

もし、ゆめが殴り愛の最中に兄を止めなかったら、祐は神崎を殺すか、あるいは殺されていたと思うんですよね。
祐は試合にこそ負けましたが、結果的には二人とも生きて戻ってきました。

もしここで祐が勝ってしまったら、祐は満足して、そこで終わってしまう。
負けたからこそ、祐は悔しさをバネに一回り成長し、次は勝つ(殺してやる)という目標が出来た。
そしてラストの未来に繋がった。
そういう意味では、この結果は必然だったのだと思います。

最終話 未来

ゆめに試合に勝てなかったことを謝る祐。
そんな兄に対し、ゆめは兄が約束通り帰ってきたことに感謝し、抱きつきます。


よくよく考えてみると、ゆめは兄に対し、一度も勝って欲しいなんて言ったことないんですよね。
ゆめにとっては、兄が側にいてくれさえすれば、それだけでいいんでしょう。

兄はゆめにボクシングを続けたい、もっと上に行きたいと告げるのですが、ゆめはそれに答えず、母親の話を始めます。

「お母さんはね、大きな夢に向かって頑張るお父さんが好きだったんだって。すごくかっこよかったって」


ゆめの話を聞いた兄は、父親のことを「かっこよかったよ」と返します。
その表情はとても穏やかで、今まで祐がずっと抱えていた父親に対するわだかまりが消えたことを伺わせますね。
このコマの兄妹の表情は、とても幸せそうで非常に良いです。

先程、兄がゆめに言った、ボクシングを続けたいに対するゆめの答えですが、これはコンビニに出掛ける時のゆめの表情と台詞が物語っています。

「ゆめは今のお兄ちゃんが大好きっ」

今のお兄ちゃんというのは「父親のように大きな夢に向かって頑張るお兄ちゃん」のことでしょう。
つまり「ボクシングを続けていいよ、そんなお兄ちゃんが大好きだよ」と間接的に告げているわけですね。

このシーンで兄がゆめに買ってくるように頼んだみかんのゼリーですが、第3話でゆめが風邪を引いた時、兄に同じようにみかんのゼリーを頼んでいます。
細かいことですが、こういうところでも兄妹の絆を表現しているのは、上手いですね。
兄が妹を助けるだけでなく、妹も兄を助ける。理想的な兄妹関係です。

コンビニに出掛けたゆめは、アパートの外に居た神崎と出会います。
神崎のゆめに対する接し方はとても穏やかで、第3話でゆめのことを殺してやってもいいと言ってた時とはまるで別人。

これはさすがにこじつけかもですが、神崎は祐のことを「相瀬」って呼びますけど、これは「愛せ」に通じるのではないかと思っています。
今までは「愛せ、愛せ」と一方的に自分の感情を押し付けていた神崎ですが、ゆめとの最後の会話では、「相瀬」から「祐」に呼び名が変化しています。
これはゆめも相瀬という名字だから呼び名を変えたというだけでなく、神崎の心情の変化を表しているのではないでしょうか?

最終話で春陽が祐に「祐の頑張りと優しさは、みんなの心の支えなんだよ。私も昔からそれに助けられてる」と言ってますが、神崎もまた祐に助けられた一人だったのでしょう。
それは、神崎が夢に伝えてもらおうとした「大事な事」というのが「ありがとう」という台詞だったことからも伺えます。
「相瀬」から「祐」に呼び名が変化したことで、神崎にとって祐は対等なライバルになったのだと僕は解釈しました。

コミックスの帯には「孤独な男と、たった一人の妹の、愛と再生のボクシング譚」とありますが、「愛と再生のボクシング譚」とは祐だけでなく神崎にも当てはまります。
神崎は『ダダダ』のもう一人の主役とも言える存在として、最後まで強烈な存在感を放っていましたね。

おまけ漫画

2Pの描き下ろし。
内容は前髪を自分で切ろうとする兄を見守っていたゆめが、兄に眉毛が生えてるのに気づくというもの。
時間軸は最終話の神崎との再戦前ですかね?
よく見ると、最終話のやけに凛々しい兄は、前髪が目にかかってなくて、眉毛生えてますし。