『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の伏線を改めて読み解き、「完全なる桐乃エンド」を考察してみた(8巻編、上)

注意

この記事はライトノベル俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を全巻読んでいることを前提に書いています。
おもいっきりネタバレがありますので、未読の方はお気をつけください。

8巻の時系列

日付 出来事 原作
8月18日夕方(7巻ラストの続き) 黒猫の告白を保留する 第一章
帰宅後 桐乃に告白を真剣に考えると約束する 第一章
8月19日早朝 麻奈実にちゃんと黒猫に向き合うことを約束する 第一章
同日昼過ぎ 高坂家で夏コミの打ち上げパーティー 第一章
同日夕方 黒猫と付き合うことにする 第一章
8月20日 黒猫と付き合うことに浮かれまくって、桐乃に壁ドンされる 第二章
8月21日正午 御鏡が自宅にやってきて一緒に登校することになる 第二章
同日の部活時 黒猫に“運命の記述”を見せてもらいデートの約束をする 第二章
8月22日 黒猫との初デート 第三章
8月23日 黒猫の家で黒猫の妹たちと出会う 第三章
数日後の午前中 リビングで桐乃を押し倒してしまう 第三章
夏休みのある日 家に遊びに来た黒猫と桐乃が遭遇 第三章
夏休みも残り少なくなってきたある日 黒猫と花火大会に出かけて別れを切り出される 第三章
9月1日 瀬菜から黒猫が転校したことを知らされる 第四章
同日深夜 桐乃の部屋へ行き、桐乃に慰められる 第四章
9月2日の日曜日 いなくなった黒猫と再会し、桐乃の本音を知る 第四章
上記後の下校時 麻奈実と今回の顛末について話し合う 第四章
数日後の日曜日 黒猫の新居に桐乃と招かれる 第四章

第一章

P.13
俺はいつかのように、全身を硬直させて動けなくなっていた。

いつかというのは7巻冒頭の桐乃に告白された時のことですね。

P.14
「……他に、好きな人がいるの?」
「……そういうわけじゃない」
喉が渇いて、嗄れた声が出てしまう。
黒猫の黒い瞳が、『じゃあ、どうして?』と切実に問うている。
俺は自分の中から何度も答えを探すが――
分からなかった。
愕然とした。

特に嘘をつく理由がないですし、ここは京介の本音とみていいでしょう。
この時点で、京介は今の自分の気持ちが分かっていないと思われます。

P.15
大切で可愛い黒猫に告白されて、いま、俺はもの凄く喜んでいる。生まれて初めて、女の子に好きだと想いを告げられたのだ。天にも昇る気持ちだったさ! 死ぬほど嬉しいよ!
なのに――なのにどうして俺ってやつは、そんな黒猫の気持ちに「はい」と応えてやらねえんだ!? どうして断る理由さえ、言ってやることができねえんだよ!
最低じゃねえか、俺――

ここで京介が黒猫の告白に即答出来ない理由は、

P.268
いまにして思えば――俺が黒猫の告白に即答してやれなかったのは、妹のことがあったからなのだろう。妹には、『おまえに彼氏ができるなんてイヤだ!』と自分勝手な気持ちをぶつけておいて、自分はちゃっかり彼女を作るなんて、ダメだと思った。
無意識で、躊躇していたんだ。
いまこそ俺は、自分でも理解できていなかった心の動きに得心がいった。

ここにはっきり書いてあります。

P.15
「……まあ、いいわ。想定通りよ。……もとより私は、あなたがそうなるであろうことを、分かっていて告白したのだから」

ある意味、京介よりも京介のことをわかっている黒猫。
黒猫は京介のシスコンぶりを知っているから、自分の告白に対して京介がそうなるであろうことも分かっていたのでしょう。

P.18
「正座して頂戴、そこに」
ぴ、と地べたを指差す黒猫。
「……下、地面なんスけど」
「処遇に文句があるのかしら? このクズ」

これは桐乃の真似でしょう。
黒猫は京介のドMぶりを知っているので、桐乃の真似をして頑張ってSぶりを発揮しています。それにしても、年下の後輩にいきなり地面に正座しろと言われて、それに大人しく従う京介も相当アレですね。

P.22
「――私は、あなたのことが好きよ。世界で一番、他の誰よりずっとずっと、永遠にあなたのことが好きよ。あなたと会ってから。まだ一年しか経っていないけれど……この気持ちだけは誰にも負けない。たとえこの身体が滅びて、世界から消えてしまっても……」


「きっと来世でも、好きになるわ」

黒猫の重い告白。
これを12巻で完膚なきまでに打ち砕く伏見先生は鬼畜ですね……。

P.24
そんなことを考えながら家に帰ると、桐乃がリビングのソファで雑誌を読んでいた。
夏らしいホットパンツを穿いていて。体育座りのように膝を曲げ、ちょこんとソファの上に乗っかっている。
「…………」
なんとも目に毒な光景だった。

京介が桐乃を性的な目で見ている描写。
6巻で裸を見ても動じなかった頃とは大違いで、桐乃のことを意識しているのが窺えます。
8巻からこの手の桐乃を意識する描写が急激に増えるのは、7巻での桐乃の告白や偽デート、偽彼氏騒動などがきっかけですが、それ以前に京介に妹モノのエロゲをプレイさせたり、2巻ラストの偽告白、クリスマスデートなど、妹を意識させるために桐乃が色々やってきた下地があってこそのものでしょう。桐乃の努力は着々と実りつつあります。

P.25
啖呵を切った結果、どうなったかというと……何と『彼氏ができた』というのは桐乃の狂言だったことが発覚した。
どうして桐乃は、そんなことをしたのか。
それはいまだに聞けていないし、今後もきっと、あのときの話をすることはないんだろうな。

フラグ乙。普通に3ページ後で話をすることになりますけどね。
本当に京介の言うことはいい加減で、迂闊に信じるとあっさり騙されるから困ります。この手のいい加減な描写のせいで、この考察を書くのにどれだけ苦労させられたことか……。

P.25-26
「ねぇ」
意外なことに、桐乃はあっさりと俺に声を掛けてきた。
「……な、なんだ?」
「どこ行ってたわけ?」
「学校、ちょっと用事があってさ」
「ふーん」
本当にどうでもいい、という口調だった。桐乃は膝を折り畳んだ態勢のまま、雑誌に目を落とし続けている。こちらに視線を寄越したりはしない。
「――あのさ」
「うん?」
「なんか、変わったこと、あった?」
「別に、なんにも」
「ふーん」
なんだこいつ? 俺は怪訝に思いながらも、キッチンに向かい、麦茶を飲む。

桐乃は昨日の黒猫からの電話で、黒猫が京介に告白するということを聞かされています。
はた目には平静を装っていますが、内心はそのことで頭がいっぱいで、雑誌の内容など頭に入っていないはず。京介に探りを入れているのと、膝を折り畳んだ態勢というのが桐乃の心境の伏線になっています。

P.27-28
「なにって昨日のことに決まってんじゃん」
「ええっ!?」
「なに驚いてんの? 当たり前でしょ?」
「いや……」
ついさっき『今後もきっと、あのときの話をすることはないんだろうな』ってフリをしたばかりなのに……。するのか、昨日の話を。

フラグ回収。

P.30
「おまえに本当の彼氏ができたら……」
「できたら?」
「たぶん……」
「たぶん?」
「…………泣く」
「……なにそれ?」
予想外の返答に面食らったのか。桐乃はきょとんと首をかしげた。
「……二、三発殴って、ちゃんと話して、それで……大丈夫そうなヤツだったら……おまえもそいつのこと好きなんだったら……もう泣くしかないだろ。イヤだけど、すげえイヤだけど……止めらんねーしさ」
正直に答えた。きっとバカにされるだろうけど、ウソを吐いてはいけないと思ったから。
「ふーん、そっか」
すると桐乃は、目を伏せて頷いてから、急に雰囲気を一転させて、ぷっと噴き出した。
「あんたどんだけシスコンなわけぇ? キモすぎ!」

京介の返答は、兄としてはまったく問題ありません。京介はシスコンではありますが、妹のことを思って妹に好きな人ができたら、すげえイヤだけど認める。兄として模範的な回答と言えるでしょう。しかし、桐乃が欲しかったのはそういう返答ではありません。桐乃としては「そんなヤツよりも自分の方が桐乃が好きだ! お前には桐乃は渡さない!」という感じの返事が欲しかったのでしょう。

7巻の考察で何度も言ってきましたが、桐乃は京介に妹としてではなく、恋人という関係を望んでいるのです。目を伏せて頷いているのは、どうあっても妹としてしか見てくれない京介に対し、恋人として見てもらうことを諦めているのでしょう。妹として黒猫を応援し、自分の幸せよりも京介の幸せを優先させるという決心の現れです。

P.31-32
「じゃあねー、んーと」
桐乃は人差し指を唇に当てて少し考え込んでいる。やがて俺への願い事を思いついたのか、おもむろに腕を組み、プイとそっぽを向いて言った。
「もしも近いうちに、『あんたが大切にしてる女の子』から告白されたら、ちゃんと……真剣に考えてあげて」


「その子、ほんとにあんたのこと、好きだからさ」

妹として、京介の後押しをする桐乃。
桐乃が言っている女の子とはもちろん黒猫のことです。7巻で自分の告白が上手くいかなかったので、黒猫が自分のようにならないようにフォローしているのでしょう。普段の強気な態度とは違い、珍しく健気ですね。

P.32
よく分からないが、俺は落ち込んでいた。
俺は妹に彼氏ができたとき、あんなに取り乱して嫌がったのに……。
妹は、俺に彼女ができたって、別にどーってことないんだなって、思ってさ。

どーってことないわけじゃないんですけどね。
すれ違う高坂兄妹の認識。

P.32
繰り返し、念を押させてもらうが――俺は桐乃のことが大嫌いだ。
依然としてそれは変わらない。
だけどいい加減、認めなければならないだろう。俺はどうやら、ほんのちょっぴりだけシスコンっぽいところがあるらしい。
この自覚は、桐乃に彼氏ができた――そう思い込んだからこそ、気づけたものだ。
薄々そうじゃないかとは思っていたのだが、はっきりと自覚したのはこのときが初めて。
桐乃さんは、お兄さんに、気づいて欲しかったんですよね?
桐乃の偽彼氏――御鏡がそんなことを言っていたが。
「もしかしてこのことかって、思ったんだけどな」
違うのか。

どこがほんのちょっぴりだけなのか? と多くの読者がツッコんだことでしょう。ちゃんととシスコンだと自覚したのは良いことですが。
7巻の考察でも書きましたが、桐乃が気づいて欲しかったというのは、自分の京介に対する気持ちですね。

P.33
俺の妹は、俺にシスコンを自覚させやがったくせに、彼女を作れなどと言う。
「ケッ」
俺の懸念は的外れだったわけか。『彼氏を作らないでくれ』って言ったこと、気にしてたのがバカみたいだ。

俺の懸念というのは桐乃も自分と同じように、自分に彼女ができるのは嫌なんじゃないか? ということですね。その懸念は当たっているのですが、京介はそのことに気づきません。

P.36
「もう~、強情だなぁ」
「しつこいぞ」
あと、顔が近い!

麻奈実と顔が近づいた時の描写。これは伏線です。覚えておいてください。

P.36-37
「きょうちゃん」


「――おこるよ?」


「ごめんなさい」
俺はその場で、速やかに謝罪した。麻奈実さん、実に三年ぶりのマジギレ予告である。
この女は絶対に本気で怒ることがないが――絶対に本気で怒らせてはならない。
俺はそのことを、誰よりもよく知っていた。本心から言うが、心底怒ったあやせよりも、心底怒った麻奈実のほうがずっと怖い。あやせは最悪、俺を殺してくる可能性があるが、麻奈実を完全に怒らせてしまうと、死よりも嫌な体験をすることになる。
あんな想いは、もう二度としたくない。深々と頭を下げて、心から反省したよ。

過去編の、そして最終巻の対決の伏線です。

P.41
「苦しいときは、遠慮なく、いつだってわたしを頼ってください」
「――はい」
「うん、よろしい」

これも伏線。第四章で回収されます。

P.45-46
「いっ」
となりに正座をしている桐乃が、後ろ手で俺の足をつねってきた。
『あんたが怒ってもいいよって促したんだから、なんとかしなさいよ!』という意味だ。

もはや言葉などなくても、目線すら合わせなくても、桐乃の言いたいことを察することができる京介。

P.51
『それは……あんたが……あんたが……っ!』
あんたが――なんだってんだ。
まさか、俺のことが好き……なんて、言わないよな。
俺たちは、兄妹なんだから。そんなバカなことは有り得ない。二次元と三次元は、違うのだ。
桐乃は俺にとって、大切な妹だ。今度のことで、それがよく分かった。

この手の京介のモノローグを信じて、やっぱり桐乃との恋愛エンドはないよなと思い、最終巻を読んで仰天した人がどれだけいたことか……。正直、僕もその一人でしたし、最終巻を読んだ人が京介をボロクソに言う気持ち、少しは分かりますよ。

P.51-52
いや――大嫌いな妹から人生相談をされたあの日から、少しずつ分からされてきたのかもしれない。
同じ趣味の友達を一緒に探してやって、妹の趣味を護るため、親父と対決した。
『ありがとね』と素直に言われて、不覚にも可愛いと思ってしまった。
(中略)
そして、妹に彼氏ができたとき。『誰にも渡したくない』と、胸の奥底から、どうしようもなくわがままな本音が飛び出した。
シスコンを自覚させられた。
もちろんあいつには、そんな気さらさらないんだろうけどよ。
まるで俺が――桐乃に攻略されちまったような気がしたよ。

京介は否定していますが、もちろん桐乃にそんな気はあったと思いますよ。
一番わかりやすいのが、妹モノのエロゲを京介に勧めるところでしょう。『妹と恋しよっ♪』なんて直球そのままですから。

P.52-53
妹の考えていることが、俺にはぜんぜん理解できない。だけど、関係ないと思った。あいつが俺を嫌いでも、そうでなくても、一度自覚してしまった俺の気持ちは変わらない。
俺は、妹と、もっと仲良くなりたいのだ。

関係ないって……そこは大事なとこでしょう?
なんか一見良いこと言ってるっぽいですが、京介のやっていることは、桐乃に対する理解を放棄して自分の気持ちを一方的に押し付けているだけであり、京介のそういうところは本当にダメだと思います。

P.53-54
『俺と桐乃のらぶらぶツーショットプリクラ』を見せてやった。
「貼っちまったよ~、フヒ♡」
(中略)
「死ねえ――――!!!」
桐乃は肉食獣のように俺に飛びかかってきた。――どばんっ! 後ろにあったソファに思い切り押し倒される。
「どわっ! ぐぎぎぎ……!」
「わ・た・せぇぇ……!」
(中略)
「これはこれは――京介氏、どんな心境の変化があったのでしょうな!」

まるで普通の兄妹のように喧嘩をする高坂兄妹。
P.24では桐乃のことを意識していた京介ですが、その後、桐乃や麻奈実に黒猫のことを真剣に考えるように言われ、妹ともっと仲良くなりたいという結論を出した直後なので、桐乃のことを妹として意識しています。なので、ここでは桐乃に押し倒されても変に意識はしません。しかし、これ以降は……。

P.55
……余談になるが、携帯に貼るため、『らぶらぶツーショットプリクラ』を自分の部屋の隠し場所から回収したとき、一緒にしまっておいたはずの『桐乃のぶんのプリクラ』は、なくなっていた。

『桐乃のぶんのプリクラ』は結局桐乃が回収したのでしょう。後で桐乃が携帯にプリクラを貼っていますから。
もちろん、あやせが夜中に忍び込んで回収し、それが桐乃の手に渡ったという可能性もありますが……これについてはどっちとも取れるので確定は不可能です。

P.55
つつがなく打ち上げパーティが終了し、俺は沙織と黒猫を途中まで送ることになった。いつもはそんなことしないのだが、今日は特別な理由があったから。

特別な理由は黒猫への告白の返事のためですね。
さすがにこれはわざわざ説明しなくてもわかると思いますが、一応。

P.56
「ありがとう」
黒猫は、ぽつりと、素直な言葉を零した。
(中略)
「今日、とても楽しかった。この前の夏コミも、楽しかった。その前みんなで遊んだときも楽しかった。……あなたたちと出会ってから、私はいつだって、楽しかったの。だから、ありがとう。あなたのおかげよ」
「黒猫氏……拙者を泣かせるおつもりですか?」
もう泣いてるだろ。
沙織は眼鏡を外し、そでで涙を拭って、こう返した。

ここは4巻(P.189~)で、桐乃が京介に感謝の気持ちを伝えたときとの対比ですね。
今回は黒猫が沙織に感謝の言葉を伝えています。

P.58
「……かっこよかった」
「はは、サンキュー」
少し先の話になるが――俺は黒猫からもらったこの言葉で、とても救われることになる。

夏コミの同人誌でのコスプレ写真の話ですが、このとても救われることになるというのは、

P.51
その後――コスプレまとめサイトで、俺のコスプレ写真がネタ画像扱いされているのを目撃し、枕を濡らすことになるのだが、それはまた別の話である。

この件のことでしょう。

P.59-60
服装こそ違うものの、それ以外は、昨日の告白の再現だ。
黒猫は、情けなく迷っていた俺に、一日の猶予をくれた。
今度こそ、俺の答えを聞かせてやらないと。


――『あんたが大切にしてる女の子』から告白されたら、ちゃんと……真剣に考えてあげて。
――焦らないで、よく考えて、自分の気持ちを大切にしてあげなさい。


考えたさ。ずっと真剣に考えてきた。
焦らないで、よく考えて、自分の気持ちを大切に……考えた。
そうして、目の前にいる大切な女の子のために、結論を出した。
俺は心の中で、深く頷く。それから言った。
「よし、付き合うか」
「!」
黒猫がはっと顔を上げた。何を言われたのか理解できない――そんな表情で目を見開く。
次第にその瞳が潤んでいった。


こうして。
俺と黒猫は、恋人になった。

桐乃と麻奈実の後押しを受け、黒猫と付き合うことを決める京介。

7巻 P.297
この告白から数日後――
俺と黒猫は恋人になった。

黒猫と恋人になったのは告白の翌日ですよね? 細かいことですが、7巻のラストの数日後と矛盾しますね……。

第二章

P.65-66
「ってか、おまえだって夏コミのちょっと前、夜中壁ドンドンやってたじゃねぇか! デケー声張り上げながら!」
「なっ! あ、あれは……!」
「どーせエロゲーでもやってたんだろ? お互い様だっつーの!」
「ち、違う! なに開き直ってるわけ!? とにかく! 壁ドンやめてよね!」

この描写に関しては、俺妹アニメ二期の第7話京介とのデート前に浮かれる桐乃の姿が見られます。余談ですが、今では壁ドンというと男性(女性)が女性(男性)を壁に押し付けて迫る様子のことを指すことがほとんどですが、本来はこの描写のように隣の部屋の住人が騒がしい時に抗議を示すために壁をドンとすることだったんですけどね。時代の流れを感じます。

P.66
だけど、妹が留学して、家からいなくなってしまったとき。
俺は、この壁を見るたびに、桐乃のことを想っていた。
あいつ、いま頃どうしてるだろう。頑張ってやってんのかな、と、心配していた。
何の音もしなくなって、やかましくなくなってしまった隣の部屋が、たまらなく寂しかった。
だから、こうして壁の向こう側から声が聞こえてくることが、いまは、少しだけ嬉しい。

P.69
……ふん、なんだ、やっぱりこいつ、桐乃にはたいして興味ないのか。
それはそれで腹が立つな。俺の妹をなんだと思っていやがる。

シスコン乙(笑)
シスコンを自覚してから、妙に素直になった京介。

P.71
「お願いだよ~、一緒に遊ぶ友達が誰もいないんだよ~、寂しいんだよ~」
「いきなり泣くなよ! 気色悪ぃな!」
ふん、だから、こいつの友達作りに、俺が付き合ってやる理由なんて一つもないね。
「……ちっ、じゃあ一緒に来るか? 部活」
ないのに、結局そう言ってしまう俺って、なんなんだろうな。

ここで御鏡の友達作りに協力した理由は、御鏡と過去の桐乃の姿(1巻 第二、三章)が被ったからですね。

P.97
これからこんな光景が、何度も繰り返されるのだろう。――自然とそう思えるくらい、彼はゲー研とよく馴染んでいた。
……よかったじゃん御鏡。こいつをここに連れてきて、正解だったな。
俺は、自分の気まずい状況を一瞬忘れて、素直にそう思った。
正面に座っている黒猫から視線を外しているとき、「……ふっ」と優しげな笑い声が聞こえた気がしたが、彼女に視線を戻すと、数秒前と同じ仕草で俯いていた。

この辺りは京介が桐乃に対して思ったのと、まんま同じですね。そして、そんな京介を見て察する黒猫。

P.74
「実はさ、俺、彼女ができたんだ」
「おめでとう!」
御鏡はさほど驚いていないようだ。やはりオトナか……。
(中略)
「ということは、『彼女さん』についての相談なんだね? ――なるほど、そういうことなら、僕も力になれるかもしれない。いや、ぜひ協力させて欲しい」
「お、おう……助かるぜ」
何故かいきなりノリノリになる御鏡だった。好都合だけど、不可解ではあるな。

後に明かされますが、御鏡は京介の彼女を桐乃だと思い込んでいます。
御鏡は妹モノのエロゲ『しすしす』をプレイして感動したクチなので、兄妹恋愛に対しては肯定的です。桐乃の京介に対する気持ちにも気付いていて、京介にも協力的。御鏡は最終巻でも重要な役割を果たすのですが、それは最終巻の考察で。

P.78
「僕は京介くんのことを、『理想の兄貴』みたいに見てたんだ」
「ふん、そいつはまた、盛大な勘違いだな」
理想の兄貴? 俺が? ありえないね。確かに俺は、妹のために色々なことをしてきた。泥を被って、自分を犠牲にして助けてやったこともある。
もしも傍から見ていたやつがいたなら、いい兄貴だと誤解したかもしんねえよ。
でもな、それは違う。俺が桐乃にしてやったすべては、全部が全部、俺が俺のためにやりたくてやったことなんだ。
こいつに対して俺がしたことが、まさにそれを証明しているんだがな。
「俺はいい兄貴なんかじゃねえよ。自分勝手なシスコンさ」
「分かってる。京介くんは、たぶん、僕が思っていたよりずっと――いい加減で、人間くさい。『理想の兄貴』なんかじゃない。もっと無様な何かだよ」

『理想の兄貴』については、過去編の伏線ですね。
こいつに対して俺がしたことというのは、7巻で「お前に桐乃はやらん」と啖呵を切った時のことですね。

P.85
「いやいや、赤城さん。さすがに違う学校の人を入れるのは駄目ですよ」
気のせいか、真壁くんのみ、いまいち面白くなさそうな顔をしていた。
……ははぁん。
俺はなんとなく事情を察したのだが、先んじて瀬菜が反応した。
「ははぁん、真壁せんぱいったら。――さては、嫉妬してますね?」
「なっ! ち、違いますよ!」

真壁くんと瀬菜の恋愛フラグ。

P.93-94
「京介くん! 妹と付き合ってるんじゃなかったの!?」と、御鏡。
(中略)
「御鏡、このっ……おまえってやつは……! この妹萌えの変態エロゲ脳!」
だからか! だからさっき相談したとき、ノリノリで答えてくれたのか!
俺が! 桐乃と付き合い始めたと思ったから!
「おまえは俺が妹のおっぱい触りたくて悩んでると思っていたのか!? ぶち殺すぞ!」

P.74の伏線回収。

P.103
「……“運命の記述(デスティニーレコード)”よ」
「日本語で頼む」
「……この世界の言葉で言うなら……フッ、そうね、少しだけ先の未来にて、恋人たちを待ち受ける運命を記述した予言書……といったところかしら? そして、私の崇高なる“願い(アルカディア)”を実現させるために行われる“儀式(セレモニー)”を段階的に記したものでもあるの」
めんどくせえ女だな。

“運命の記述(デスティニーレコード)”と“願い(アルカディア)”については後述。

P.110
「そういや桐乃から教えてもらったデートコースがあるんだ。今度はそっちのプランで行くのもいいかもな」
腹立つばかりだった妹とのデートも、予行演習という意味では、役に立ったのかもしれない。
「…………………………」
しかし、そこで黒猫は、何故か黙りこんでしまう。
……まあ、こいつが突然黙り込むのは珍しいことではないのだが。
桐乃が考えたデートコースってとこが、引っかかったのかな?
桐乃と黒猫、趣味がぜんぜん違うしさ。んー……。

自分たちのデートの話をしてる時に、妹とはいえ他の女の名前を出されたら面白くないのは当たり前だと思いますが……。女心がまるでわからない京介。

P.114
何故ならそこには――一目瞭然で説明の必要など絶対にないが――恐るべきイラストが一面に描かれていたからだ。まるで油絵のようなタッチで描かれたそれは、血の涙を流す……黒猫本人の自画像、だろうか。使われている色は、黒と赤、またはそれに近い毒々しい色合いばかり。
悲しみと絶望に彩られた……世界のすべてに呪いを振りまくような狂気さえ窺わせる、『慟哭の絵』だった。

これは最終巻で黒猫が京介に振られた時の描写に酷似しているのですが、この時点で伏見先生は黒猫が京介に振られる展開を考えていたのでしょうか? それとも最終巻を書くときに、この時の描写を上手く引っ張ってきたのか。こればかりは作者本人に聞かないと分かりませんが、どちらにせよ最終巻の伏線のようになっているのは確かですね。

しかし、もしこの時点で黒猫が京介に振られる展開を考えていたとしたら、なかなか鬼畜な行為といえます。黒猫ファンに期待させるだけさせておいて、こっぴどく、その期待を裏切った訳ですから。(一応、俺妹のコミカライズ『俺の後輩がこんなに可愛いわけがない』でフォローはしたようですが……)

P.115-116
そこには『理想の世界』と題されたイラストが一面に描かれている。
(中略)
舞台となっているのは、朝日に照らされた朝食の風景だ。
食卓を囲んでいるのは、俺と――
「桐乃……?」
なんで『黒猫が俺としたいこと』が書かれているはずのノートに、桐乃のイラストが出てくるんだろう。
少し大人っぽく描かれた俺と妹は、幸せそうに笑っている。
賑やかに騒ぎながら――どこかを見ていた。描かれていない誰かに――いや、この絵を見ているやつに向かって、『おまえも混ざれ』と急かしているような……そんな暖かな日常だった。
「……これが、私の願い。すべてを賭しても叶えたい理想の世界(アルカディア)よ」

黒猫の願い。すべてを賭しても叶えたい理想の世界(アルカディア)とは何なのか?
この描写から推察されるのは、桐乃と京介が幸せそうに笑っている未来でしょう。では、この絵を見ているやつとは誰のことか? この解釈は二つあると思います。

まずは黒猫。京介と桐乃が幸せそうに笑っている未来に、二人を見守っていく友人として一緒に過ごしていく。京介が感じた『おまえも混ざれ』とはそんな黒猫の願望を感じ取ったものでしょう。

もう一つは読者。最終巻のラストで、俺妹は京介が新メンバー(読者)に対して語る形式の物語であることが明かされます。メタ視点になりますが、『お前も混ざれ』とは読者に対して「お前も一緒に俺たちと楽しもうぜ」というメッセージであり、俺妹のラストシーンを暗示したものであると考えることができます。

これはおそらく両方でしょう。8巻の時点では前者に見えますが、最終巻まで読むと後者に見えるというダブルミーニングと思われます。

P.117
“儀式”ねえ……ずいぶんと壮大な響きだな。『黒猫が俺としたいこと』であることに間違いはないのだろうが、どうやら彼女には“儀式”を積み重ねた先に、何か目標があるようだった。

ここと先ほどの理想の世界は第四章の展開の伏線ですね。
黒猫の目標については第四章の考察で。

第三章

P.126
「――俺に彼女が出来たら、おまえにとってはいいことなんじゃないのか?」
「ど、どういうことです!?」
なんでこんなにうろたえてんだ。
「いや、だからさ、変態兄貴である俺を、桐乃と引き離すことが出来るじゃないか」
「っ……」
「それがおまえの目的だったんじゃないの? なのに、なんでいまさら、わけ分かんないこと言ってるんだ?」
「うう……」
あやせは何故か、もどかしそうに苦悶している。
王様の耳はロバの耳、ではないが、喋ってしまいたくて仕方がないことがあるのに――やむを得ない事情があって我慢しているような感じだった。
「?」
……どちらかというと、本当のことを喋って誤解を解いてしまいたいのは、俺の方なんだけどな。なんであやせが悩んでんのやら、さっぱりだぜ。

京介はあやせが自分のことを『近親相姦上等の変態兄貴』だと思っていると思い込んでますが、実際のあやせはそれが嘘だととっくに気づいているんですね。ただ、それを明かしてしまうと、こうやって京介と会う理由が無くなってしまうので苦悶しています。

P.127
「全部です! あなたの言っていることは、ぜんぶ嘘ばっかり! ……くせに……この前わたしの部屋に来たときだって……け、結婚してくれとか言ったくせに……!」

あやせは少なからず京介に好意を抱いています。
7巻で京介があやせの部屋に来た時に、京介に結婚してくれと言われ、京介も自分に好意を抱いてくれていると思っていたのに、突然黒猫と付き合いだしたうえ、あやせの好意にまったく気づかない京介の鈍感さに対し、怒っています。

この後、京介はあやせの部屋から自宅に逃げ帰るのですけど、手持ちの初版では手錠を外す描写が無くて一部話題になりましたが、どうやらこれは校正のミスだったようで、後の版では「二人の腕を繋いでいた手錠を外し、」という一文が追加されたようです。(電子書籍の俺妹合本版で確認済み)

P.129-130
桐乃は、俺に携帯を突き付けて、冷蔵庫を撮った写メを見せてきた。
「あんた、あたしと撮ったプリクラ、冷蔵庫に貼ったでしょ!」
なんだ、そんなことか。
「貼ったけど?」
「あああああ! やっぱりいいいいいいいいい!」
桐乃は涙目で俺につかみかかってきた。
「遊びに来た友達に見られちゃったらどうすんの! ブラコンだって誤解されちゃうでしょ!」
「悪かったって。つか、気に入らないなら剥がせばいいじゃん」
「なっ……」
目を見開いて固まる桐乃。バカだなあこいつ。そんな簡単なことにも気付かないで、わざわざ写メ撮って玄関で待ち構えてるなんてさ。
「う、うっさい! で! なんのつもり!? 新手の嫌がらせ!?」
「や、違うよ、全然違うよ。俺はただ、おまえともうちょっとだな」
仲良くなりたいのに――という言葉をかき消すように、桐乃は「チッ」と舌を打つ。
「ったくもぉ~~~って、」

桐乃が剥がせばいいことに気づかなかったのは、言葉とは裏腹に内心では嬉しかったので、剥がすという発想が出てこなかったからでしょう。桐乃が嬉しがっているのは、剥がせばいいと言った京介に対して、怒っていることからも明らか。ちなみにこれは結局剥がさなかったらしく、プリクラを両親に見られて二人の仲を疑われるという事態が10巻冒頭で発生します。

P.130
「――うわ。なにあんた!? クルマにでも轢かれたの?」
「なわけねーだろ。そんなんだったら、さすがに自力で帰ってこられないっつの」
どんだけ頑丈なんだよおまえの兄貴は。というか、そんなに酷い怪我してるの俺?
「びょ、病院行った?」
心配そうに俺の顔を覗き込んでくる桐乃。
「大丈夫だって。そこまでひどくねーよ」
「でもさー」
「いーってば」
ひらひらと手を降ると。
「チッ……あっそ」
桐乃はムッとしてリビングに引っ込んでいった。

珍しく素直に京介のことを心配したのに、軽くあしらわれて不機嫌になる桐乃。

4巻 P.252
「ほ……ほんとにどうしたんだよ……? いつもの威勢はどこにいっちまったんだ? また何か悩みでも抱えてんのか?」
「あのさあ……」
桐乃は腰に手を当て、苛立たしげに表情を歪めた。
「その態度、いい加減ウザいんだけど? ――あ、あたしがあんたにお礼言ったり、謝ったりすんのが、そんなにおかしいってわけ!?」
「おかしいよ!」
天地がひっくり返るほどおかしいって! 普段の自分の態度を顧みてみやがれ!
俺が素直な感想を口にすると、桐乃はへの字口になってムスッとした。
「む……」それからふいっとそっぽを向いて、「あ、あっそ! チッ……なによ……」
どすんと不機嫌にベッドに腰を下ろす。
そうそう、こうやって多少不機嫌になってる方が、俺の妹らしいって。

ここは4巻のこのシーンとの対比ですかね?

P.131
「なにノロノロしてんの? 早くこっち来て」
「はあ?」
「いーから来いっつってんでしょ?」
(中略)
「消毒してあげるから」
えええ!? な……なんってった? こいつ……。
「うざ……なにバカ面晒してんの?」
「…………」
どうやらこの言動からすると、宇宙人に身体を乗っ取られたとか、そーゆうことではないらしい。
「どういう風の吹き回しだ?」
桐乃は、テレビ台の下から救急箱を取り出して、俺の前に置く。
「あんた、不器用だから。やってあげようっつってんの。――感謝しなさいよね」
「……へいへい。ありがとよ――痛って!?」

今回は京介を放ったらかしにせず、自分から京介の傷の手当てを買って出ます。
素直になって良い妹になろうという桐乃の心境の変化が窺えますね。口調は相変わらずですが、大きな進歩です。

P.132-133
俺はソファに座っていて、妹は俺の足元に跪いている。
いつもと逆の立ち位置だった。なんだか妙なシチュエーションだった。
妙な既視感……いや、今度は覚えている。
少しだけ、だけどな。
俺がまだ向こう見ずなクソガキだった頃……こうして桐乃に怪我の手当てをしてもらったことが、あった。あのころは、まだ……桐乃と仲が悪くなかった……んだっけ? どうだったかな。

過去編の伏線。
少しずつ過去のことを思い出し始める京介。
いつもと逆の立ち位置は、いつもは桐乃に正座させられていることを指していますね。

P.134
「黒猫と付き合うことにした」
意を決して告げると、桐乃は一瞬、ぴくっと動きを止めた。
が、すぐに消毒の作業へと戻る。
「……ふーん、そっか」
驚かないんだな、こいつ。ああ……そういえば。俺はふと、思いついたことを聞いてみた。
「……おまえがこの前言ってた……『俺が大切にしてる女の子』って、黒猫のことだったのか?」
もしかしたら、黒猫が俺に告白すること……桐乃は知っていたのかもしれない。
そういう意味を込めて問うたのだが、桐乃は答えてくれなかった。それどころか、
「はい! おしまい!」
ばちーん! と患部をひっぱたいてきた。
「痛ッてえ!」
残虐な仕打ちに悲鳴を上げる俺をよそに、桐乃はさっさとリビングから出て行ってしまう。
くそ……結局どうなんだよ……?

京介が黒猫と付き合うことを報告するも、そっけない態度の桐乃。
内心はいろいろあるでしょうが、それを努めて出さないようにしている様子が窺えます。桐乃は二人の仲を応援すると決めているので、邪魔しないように気を遣っているのでしょう。『俺が大切にしてる女の子』について素直に答えず、京介の患部をひっぱたくところに、桐乃の複雑な内心と漏れでた本音を垣間見ることができます。

残虐な仕打ちに悲鳴を上げる俺とありますが、桐乃の気持ちを考えれば、京介の仕打ちも酷いですよね。

P.140
「昨日より、明らかに胸がでかい気がする」
「…………………………」
黒猫は黙った。
そして、不自然に数度まばたきし、表情を消す。
「さあ、行きましょうか」
「おい、なぜ突然話題を切り上げた?」
「どうでもいいことよ」
どうやら触れてはいけないことらしかった。

伏見:それは私のアイデアです。これは読み飛ばされても仕方がないレベルの裏設定なのですが……デートする時、気合を入れた神猫が服に胸パッド仕込んでいるんですよ。なので、この状態のときはカップが一段階上がります。


―――原作で「胸大きいよね」って言った時にムスっとしてましたよね。あれですか!?


伏見:言わないでくださいよ!(笑)  私は「俺の妹」のフィギュアを買った人たちが、桐乃や黒猫で遊んでくれているレビューを見るのが凄く好きなんです。だいたい服を脱がしているんですけどね。
「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」8巻発売記念 伏見つかさ先生インタビュー 後編 : アキバBlog

胸パッドは、京介がおっぱいを触りたがっていることを知っている黒猫の気遣いなんでしょうか?

P.143
所帯じみた異能力である。いつも派手な格好しているけれど、倹約家なんだよな、黒猫って。
浪費ばかりの誰かさんとは大違いだ。

黒猫とのデート中に妹のことを思い出す京介。

P.144
「……あなた……本当に、女の子と付き合ったことがないの?」
「ないよ。なんで?」
「だって……やけに、察しがいいというか……優しいというか……手慣れているようじゃない」
ほっ……良かった。変なこと言って、幻滅されたのかと思ったぜ。
一応、この方向で正しかったのか。俺は自信を取り戻して、胸を張った。
「桐乃と二人で出かけたときに、さんざん調教されましたからね。そんでだよ」
「……ふっ……成程。そういうこと」
微笑する黒猫。きっと妹の尻に敷かれる俺を、想像しやがったのだろう。
「さすがシスコンね」
「うっせ」
ふん、とそっぽを向く。

黒猫とのデート中に妹の話を持ち出す京介。
デリカシーが無い発言ですが、これを怒らない黒猫は心が広い。京介は既に自分がシスコンだと自覚しているので、黒猫にシスコンと言われて否定しないようになってるのにも注目。

P.148
「あーあ、桐乃とデートしたときは、腕組んだんだけどな~。黒猫は手を繋ぐことさえ許してくれないのか~。残念だぜぇ~、超残念だぜぇ~」
「あなた……『妹はしてくれた』といえば、私が何でもすると思っているんじゃないでしょうね……?」
「いやいや、もしそうなら、『桐乃に胸触らせてもらった』って主張するよ」
「なっ……あ、あなた……妹の胸を触ったの?」
「触るかっ! 『信じられない』みたいな顔で青ざめるな!」
有り得ない冗談を本気にするなよ! おっかねえなあ……これって、俺が桐乃の胸を揉みしだく可能性がゼロじゃないって思われていたってことだろ? ったく、心外にも程があるぜ。
もしかしたら『同人誌宅配テロ』事件の件で、突っ込みを入れたやつがいるかもしれないが、あれはもう時効だ。

またも妹の話を持ち出す京介。
これ、デートの相手が桐乃で、頻繁に黒猫の話を持ちだそうものなら、とっくに不機嫌になってキレている頃でしょう。そういう意味では黒猫の方がやはり大人です。
最初は胸を触らせてもらうという話だったのに、いつの間にか胸を揉みしだくにランクアップしている京介。単なる言葉のあやなのか、隠された本音なのか……。
『同人誌宅配テロ』事件の件については2巻第一章P.77以降参照。

P.150
恥ずかしさをごまかすように、俺を引っ張って歩いていく。ここで思い出すのは、やはり妹とデートしたときのことだ。『女の子とデート』なんてしたことがないから、サンプルが妹なのは容赦して欲しい。ま、とにかく――この前桐乃とデートしたときとは、対照的だな。
あの日、桐乃のやつは、いちいち『どこに行く?』『次どうするの?』と聞いてくるし、男にエスコートさせるという態度を一貫して崩さなかった。
女の子が予定を決めて俺を引っ張っていくという意味では、どちらかというと、クリスマスに渋谷に行ったときと似ているかもな。

またも妹のことを思い出す京介。
この黒猫とのデートは桐乃とのデートと対になっていますね。

P.151
……やばいな、照れくさすぎて死ぬ。冗談抜きで、鼻血が出そうなくらい。
くらくらと幸せな酩酊を覚えていると、手を繋いでいた黒猫がいきなりしゃがみ込んだ。
ハンカチを口元に当てて、俯いている。
「ど、どうした?」
「……っ」
……貧血か何かかな? 周囲の視線を集めながら、オドオドと見守っていると、黒猫がゆっくりと立ち上がった。ハンカチで顔の下半分を隠したまま、涙目で俺を睨む。
「……少し、花摘みに行ってくるわ。申し訳ないけれど、ここで待っていて頂戴」
「あ、ああ」
待つこと数分。戻ってきた黒猫は、開口一番、
「……手を繋いで歩くのは、もう少し練習してからにしましょう」
恨み節のように呟いた。

京介は鼻血が出そうなくらい照れくさすぎると語ってますが、黒猫は本当に鼻血を出してしまった模様。妹で、ある程度耐性がある京介と違って、男の人と付き合うのが本当に初めてな黒猫には刺激が強すぎたのでしょう。

P.159
いままでお邪魔したことがなかったのが、いっそ不思議でさえあるな。いままで黒猫は、一貫して俺たちを家に招こうとはしなかったから、たぶん桐乃も、黒猫の家には行ったことはないはずだ。しょうもない考えだが、ちょっとだけ、妹に対して優越感を抱いた。
仲間内で一番最初に黒猫の家にお呼ばれされたのは、桐乃ではない! この俺だぜ!

本当にしょうもないというか、こんなことでしか桐乃に勝てないのは情けないというか……京介の桐乃に対する劣等感が窺える描写です。最後の一行は、『ジョジョの奇妙な冒険』の1巻でディオがエリナに無理やりキスした時のパロディですかね? さすがに面倒だし、無駄に文量が増えるのでイチイチ拾ってはいませんが、ドラゴンボールネタもちょこちょこ出てきますし、俺妹はなにげにジャンプネタが多いです。

P.164
俺以上に興味しんしんなヤツも若干一名いるのだが、『妹萌え』という煩悩全開の桐乃(そいつ)と一緒にされてもらっちゃ困る。

またも桐乃のことを思い出す京介。

P.165
ふぅ、と息を吐くと、頭が冷えて落ち着いた。俺は、彼女の肩に置いていた手を、頭の上にポンと移動させた。

今までは桐乃にしかやっていなかったこの仕草ですが、ここで初めて黒猫にもやります。
別に妹に対しての専売特許というわけではなく、年下の子を落ち着かせる時のための、京介の癖のようですね。

P.168
退屈になってきた俺は、引き戸を開けて廊下に顔を出してみた。すると……なんということか、廊下の先から、ざばっ、ざばっ、という水音が聞こえてくるではないか。
咄嗟に脳裏を過ぎったのは、桐乃がラブホでシャワーを浴びている光景。
そして、さっきまでテレビで流れていた、生まれたままの姿になった二人が“契約”――抱き合っているシーン。

ここで咄嗟に脳裏を過ぎるのが、妹のシャワーシーンというのはさすがにおかしい(笑)シスコンとかそういうレベルじゃないです。

P.171
メルルのプリントTシャツと、スカートという年齢相応の格好をしている。どう見ても桐乃のストライクゾーンど真ん中なので、ヤツをこの家に連れて来ては絶対に駄目だな。

5巻 P.276
「あんたはどーせ、黒髪ロングの『みやびちゃん』から攻略するんでしょ?」
妹にエロゲーの攻略傾向を把握されている兄って……。死にたくなるな、オイ。

5巻にこんな描写がありましたが、兄に好みのキャラを把握されている妹も大概だと思います。

P.174
「おにぃちゃん」
「あ、ああ」
「えへへ」
嘘だろ……? こんなかわいい生き物が、地球上に存在していいの?
なんだか逆に哀しくなってきた。
こんなにかわいい妹がいる一方で、俺の妹はといえば――アレなんだもん。
泣きたくなってくるぜ。

黒猫の下の妹に「おにぃちゃん」と呼ばれてまんざらでもない京介。
後半の下りは、かわいくない妹を持つ兄なら、誰もが一度は思うことでしょう。

P.174
まあ、最近は、ほんのちょっぴりだけ――
かわいげのあるところも、見せてくれるようになったけどね!

なぜか自慢気(笑)さすがシスコンの京介さんですね。

P.181
世の中にはエロゲのHシーンをプレイする前に風呂入るバカもいるからね。
そいつと比べたら、百倍くらいまっとうな理由だろうよ。

これはアニメ一期第9話の桐乃のことですね。アニメを見ていない人には意味がわからないかもしれませんが、アニメ9話で桐乃が『しすしす』をプレイするシーンがあって、Hシーンをプレイする前にわざわざお風呂に入ってました。

P.183-184
「ちょっとこっち来て」
桐乃は、くいくい、と指で俺を招いてくる、でもって色気のある仕草でイヤホンを外し、にひひと不気味な笑みを浮かべる。

色気のある仕草なんてわざわざ付け加える必要があるんですか?
毎度毎度かわいいやら似合ってるやら、妹を褒める言葉を付け加えないと気が済まない京介の律儀ぶり(シスコンぶり)には頭が下がります。

P.184
「よかったなあ桐乃――」
なんだか俺まで嬉しくなって、妹の頭をぽんぽんと撫でてやった。
「こ、子供扱いすんなっ」
桐乃は、嫌がって俺の手をどかす。ふぅ……やっぱり俺は、妹に好かれちゃいないのだ。
「悪い悪い」
でも、関係ない。
妹が幸せそうにしていると、俺はとても満ち足りる。
こりゃ、どうしようもない、兄貴の性(さが)なのかもしれないな。

『妹空』がアニメ化されることが決まって喜ぶ桐乃を祝福する京介。
桐乃が本気で嫌がってるわけではないのは、ここまで読んでくれてる人には、もう説明しなくても分かりますよね? 照れてるのと妹扱い(子供扱い)が嫌なだけです。

P.184
「よかったな桐乃」
俺はもう一度繰り返した。
「……キモ」
その返事が来ると分かっていても、言いたかった。
「……ふん」
怒りに頬を染め、そっぽを向いていた桐乃は、ちらりと視線だけを俺に戻す。

これも、桐乃が怒りに頬を染めてるわけではなく、恥ずかしいから頬を染めてるというのも分かりますよね?

P.188
チッ、うぜーな。聞きゃいいんだろ?
俺は渋々イヤホンを片方だけ耳に嵌め、桐乃のとなりに腰掛けた。
「もうちょいこっち寄ってよ! イヤホン外れるじゃん!」
「はいはい、怒んなよ」
言われたとおりにしてやると、
「ちょ! ふとももに触れないでよ! エロ! ヘンタイ!」
「………………」
ねぇ、聞きました?
ぐっ。ぬぅぅうぅ~~おまえが寄れっつったんだろクソ! ちょっと脚と脚が触れたくらいでグチグチグチグチ喚きやがってよぉ~! 兄妹なんだからいいじゃねーかそんくらい!
「はいよ、こんくらいの距離でいいんですかねえ」
「そう。そこから一ミリでもこっち寄ってきたら、殺す。でも、イヤホン外れたら怒るから」
「あのさー、もうパソコンで聞いたほうが早いんじゃねーの?」
「うっさいなー、持ってくんのめんどうなんだって。はい、じゃー再生するよ?」

面倒くさい女ですねぇ、桐乃は……。
パソコンで聞いた方が早いという京介の提案を断るということから、本音では兄と片耳イヤホンをしながら聞きたいのは明白なのに、言われるまま近寄ったら怒り出すとは……。

P.190
そっくり返って悶えていた桐乃は、がばっと起き上がり、キスしそうなくらい顔を近づけてきた。目が正気じゃない。
「ぐあっ――」
こっちはこれ以上、頭後ろに下げられないってのに!
――好き好き連呼しながら、可愛い顔を近づけてくんじゃねえよ! 俺が死ぬだろ!

――好き好き連呼しながら、可愛い顔を近づけてくんじゃねえよ! 俺が死ぬだろ! って物凄い台詞ですね。
死ぬってのは、萌え死ぬなのか、恥ずかしすぎて死ぬなのか、(妹とキスなんてしちゃったら)社会的に死ぬという意味なのか。どれにせよ、京介が桐乃のことを意識しているのは間違いないでしょう。

P.191
それから俺は、桐乃のすぐとなりで、声優さんのサンプルボイスを、延々と二時間以上聞かされ続ける羽目になった。最後には、いい加減うんざりしてきて、こう言ってやったよ。
「おい桐乃――もう飽きたんだけど」

京介はサラッと言ってますが、二時間も付き合うって凄いんですけど……普通三十分、頑張っても一時間も付き合えば、いいところでしょう。それを二時間も付き合うとは……。

P.195-196
携帯の防御がおろそかになったところを狙い、俺は再び飛びかかり――
「……………………」
結果、とっても気まずい体勢になってしまった。
「……………………」
説明したくもない。以前、ダンボールの取り合いをしてもつれ合って転び、妹の胸を揉んじゃったあのときと、ほとんど同じ体勢だった。ただあのときと違うのは――
「……うあ」「わ、わり……」
身体がぴったり密着している点。
「な……なっ、な……あ、」
「ごめ……す、すぐ、どく……」
なんだこりゃ。この前とほぼ同じ状況なのに――――
どうして俺は、こんなに……
「……………………」
どく、と言っておきながら、俺は金縛りに遭ったかのように動けなかった。実際、どの程度そうしていたのかは分からない。一秒程度のことだったのかもしれないし、一分以上そうしていたような気もする。林檎のように紅潮した妹の顔を見詰めていた俺が、正気を取り戻したのは、頬に強烈な平手打ちを喰らったあとのことだった。
「さ、っさ、サイテー! 死ねっ!」

ここは2巻の『同人誌宅配テロ』事件の時の対になってますね。あの時は京介はのんきにエロゲーのことを考えていたし、桐乃もすぐに事態を認識し罵声を浴びせましたが、今回は二人とも動揺して動けなくなってしまいました。二人がお互いを意識しているのがわかるシーンです。桐乃が京介に平手打ちを喰らわせたのは、京介が黒猫と付き合っているのを思い出したからでしょう。彼女がいるのに妹を押し倒す(不可抗力ですが)というのは、最低の行為ですし。

P.197-198
――ああ、当時はマジやばかったけど……あれはきっと、楽しかったんだな。
そう、しみじみと胸から湧き上がる想い。
たとえるなら――いや、たとえるまでもない。
妹と再会してから、いままでの日々が、まさしくそうだった。
ボーイ・ミーツ・ガールというのは、面白い物語の定石なのよ――
いつか黒猫がそう言っていたけれど。
本当にそのとおりだった。
一度は離れ、生き別れになった兄妹が、再び出逢ったとき。
俺の――俺たちの物語は、始まったのだ。
……まあな。こんなこっ恥ずかしい想いを口にしたら、きっとあいつは、いつもの眼差しで、
『……キモ』
なんて言うんだろうぜ。やれやれ、本当に腹の立つ、うざったい妹だよ。
だけど何故だろうな?
その光景を思い浮かべると……俺の口からは、どうしてか優しい苦笑が漏れるのだ。
うっせ、とぼやいて、妹の頭に、手を乗せてやりたくなる。
このくすぐったい気持ちの正体を――っと、話がそれちまった。

このくすぐったい気持ちの正体は、兄妹愛なのか恋愛感情なのか……この時点ではまだ判別し難いですね。二つの間で揺れ動いているような感じです。おそらく京介自身もよくわかっていないのでしょう。ただ、ここで京介は思いではなく想いという言葉を使っています。桐乃に対する感情が、京介にとって特別なものなのは間違いないでしょう。

再会の部分は、1巻の人生相談の時のことですね。
京介は、冷戦時代の頃の桐乃とは生き別れていたと感じているようです。

P.199
桐乃のやつ……黒猫と俺が付き合ってること――どう思ってんのかな?
――『もしも近いうちに「あんたが大切にしてる女の子」から告白されたら、ちゃんと……真剣に考えてあげて』
応援してくれている、とは思うんだけど……

相変わらず黒猫と会っている最中に桐乃のことを思い出す京介。
もう何回目でしょうね? 数えるのも億劫になってきたんですが。

P.200
「制作を中断しているわ。先にシューティングの方を完成させて、一区切りさせたかったから」
「ふーん」
俺は黒猫の台詞に、些細な違和感を覚えた。が、すぐに忘れた。
黒猫がちょっと得意げに、ゲームの解説を始めたからだ。

この時点で黒猫は引っ越しと転校が決まっていて、京介と別れることも計算済みです。
ここはその伏線。

P.215
「おお……」
俺も陶然と見惚れて――
「………………かぐや姫みたいだ」
ばかみたいな感想を漏らした。

黒猫をかぐや姫と例える京介。
ちなみにかぐや姫公達や帝の求婚をすべて断り、誰とも結ばれないまま、月に帰ってしまいます。このかぐや姫の例えは、この後の黒猫の行動と黒猫の最終巻での扱いを暗示しているように思えるのですが、僕の考えすぎでしょうか?

P.221
「――次は、どうするんだ?」
「……ええ、次は……これよ」
黒猫は、慣れた手つきで、“運命の記述”を開き、それを俺に魅せつける。
そこにはこう書かれていた。


――先輩と、別れる。

突然の黒猫の提案。
黒猫の真意については第四章で。

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