作品情報
ふとした手違いで、老兄妹に引き取られることになった、やせっぽちの孤児アン。想像力豊かで明るい性格は、いつしか周囲をあたたかく変えていく。グリーン・ゲーブルズの美しい自然の中で繰り広げられるさまざまな事件と、成長していくアンを綴った永遠の名作。講談社だけの完訳版シリーズ、刊行開始。
上記はAmazonの内容紹介より転載。
タイトルを知らない人はいないであろう名作小説です。
妹について
マリラ・カスバート。
兄のマシューと一緒に暮らしている独身の中年女性。
一人称は「わたし」
兄の呼称は「マシュー」「兄さん」「あんた」
年齢は50歳。
一見、言葉はキツく厳しいが、根は優しい。
手違いでやって来たアンを最初は引き取る気はなかったが(本当は野良仕事を手伝える男の子を引き取るはずだった)アンが不幸な身の上と知ると哀れみを感じ、引き取ることを決める。
アンに対してはしつけのため厳しく接することも多いが、決して嫌っているわけではない。
小心者の兄のマシューに対しては、キツい態度を取ることが多い。
兄について
マシュー・カスバート。
独身の老農夫。
年齢は60歳。
内気で小心者な性格。口下手で寡黙で人付き合いが苦手。
一方でガンコな一面もあり、自分でこうと決めたことは譲らない。
容姿があまり良くないせいか女性恐怖症の気があり、妹のマリラと近所の主婦のレイチェル・リンド以外の女性は苦手。
怖がられるので小さな女の子も苦手だったが、アンは自分のことを恐れなかったので気に入り、可愛がっている。
アンにとって、いつだって優しくしてくれるマシューは「あいよぶ魂」の一人。
気の強いマリラに対しては頭が上がらなく、遠慮がち。
何かとアンに甘いので、よくマリラに怒られている。
内容と感想
この本はマリラのアン大好き日記です。
もう、本当にマリラが可愛すぎる。
マリラは引き取ったアンを立派に育てようとするために何とか厳しく接しようとするんですけど、内心ではアンを可愛いと思っているので厳しくしきれないんですよね。
アンがミセス・リンドにかんしゃく起こした時にさりげなく庇ったり、アンを引きとってよかったということをマシューに話す時の素直じゃない言い方や、アンに抱きつかれてキスされた時に、内心は喜びつつも表面上はぶっきらぼうに振舞うなど至る所に出てくるマリラのツンデレぶりがたまらない。
マリラが出てくると、もうそれだけでニヤニヤが止まらないです。
普段は自制心の強いマリラが、アンが怪我をして運ばれてきた時に取り乱すところは、特にお気に入りのシーン。
そんなマリラに育てられたアンが短大に通うために村を出ていくことになったシーンで、成長したアンを見て寂しさを感じるマリラにアンが言った台詞が心に残ります。
アン「わたしはちっともかわっていないわ……ちっともよ。いらないところを刈りこんで、枝をのばしただけなの。
ほんとうのわたしは……ここにいるのよ……いままでとおんなじ。
どこへいこうと、外見がどんなにちがおうと、そんなこと関係ないわ。
心の中は、いつまでも、マリラの小さなアンよ。
生きているかぎり、マリラとマシューとグリーン・ゲーブルズを愛し続けるアンなのよ」
アンが行ってしまった後に、アンが恋しくて一人で泣くマリラには心を打たれました。
兄のマシューと妹のマリラのやり取りは残念ながら多くはないです。
ただ、一緒に暮らしているだけあって、お互いのことをよくわかってるなという描写はチラホラ。
アンの育て方についても、マリラがしつけを担当し、マシューは甘やかすという役割分担で、実にバランスが取れています。兄妹というよりは長年連れ添った夫婦の方が雰囲気は近いですね。
(ここからネタバレあります。未読の方はお気をつけください)
兄妹描写に関してはそれほど見所はないんですが、兄のマシューが亡くなった時だけは別です。
普段めったなことでは感情を表に出さないマリラが、兄の死については、はげしく嘆き悲しみます。
同じく悲しむアンの泣き声をききつけたマリラがアンの元に来てかける言葉が印象的。
マリラ「さあ、さあ、いい子だから、そんなに泣くもんじゃないよ。泣いてもマシューはもどってこないんだから。そんなに……そんなに泣くもんじゃない。わかっているんだけどね、わたしもきょうは、どうにもがまんできなかった。マシューはわたしにとっちゃ、いつもかわらず、心のやさしい、いい兄さんだった。だけどこれも、神さまのおぼしめしだからね」
一見なんてことのない慰めの言葉なんですが、マリラというのはめったに自分の心を正直に話したりしない人間なので、この言葉はすごく特別なものに感じられます。
この後、アンに自分がどれだけアンを愛しているかを初めて伝えることといい、その後の丸くなった態度といい、マシューの死がマリラにとってどれだけ大きかったかがよくわかります。
(ネタバレここまで)
まとめ
さすが名作と呼ばれるだけありますね。
不幸なみなし子だったアンが、カスバート兄妹に引き取られた後は幸せに過ごし成長していく姿が、叙情豊かに楽しく描かれています。登場人物に悪人がいないので、世界観が非常に温かくて居心地がいいです。今回のレビューではマシューの妹のマリラを中心に書きましたけど、アンも本当に良い子ですし、ダイアナとのやり取りはちょっと百合っぽくて萌えました。
実妹モノとしては兄妹恋愛なんてものはまったく無いのですが、そこはアンに習って「想像をひろげれば」どうとでもなります。お互い未婚の兄妹がまるで夫婦のように一緒に暮らしているなんて、なかなか美味しいシチュエーションじゃないですか。年齢? そんなの関係ないですよ。幸いエロゲや漫画と違い小説なんですから、細かい問題なんて想像次第でどうにでもなります。
「妹なら、バ○ァだって萌えてみせる」って某魔眼持ちの人も言ってますし(注:言ってません)、僕の脳内ではアンのことをあれこれ文句言いつつも楽しそうに話すマリラとすべてわかってるよ、な表情でうんうん相づちを打ちながら聞いてるマシュー、という仲の良い兄妹の姿が再生されてますよ。