『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の伏線を改めて読み解き、「完全なる桐乃エンド」を考察してみた(3巻編、上)

注意

この記事はライトノベル俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を全巻読んでいることを前提に書いています。
おもいっきりネタバレがありますので、未読の方はお気をつけください。

3巻の時系列

日付 出来事 原作
9月のある日 桐乃からメルルとマスケラの鑑賞会の話を聞く 第一章
9月の木曜日(祝日) 自宅で鑑賞会。桐乃と黒猫の喧嘩を仲裁する 第一章
10月の半ば、とある金曜日の放課後 麻奈実の家に行き、ハロウィンフェアの準備を手伝う 第二章
同日夜 麻奈実の家に泊まることになり、今度家にくるか? という話をする 第二章
12月に入ってすぐ 桐乃の書いたケータイ小説が本になるという話を聞く 第三章
上記後の日曜日 新宿の出版社で編集者に会う 第三章
12月24日 桐乃と(ケータイ小説の取材と称した)クリスマスデート 第三章
12月25日 桐乃がケータイ小説を書き始める 第三章
元日 麻奈美と初詣に行く途中で、モデル仕事中のあやせに会う 第三章
冬休みが終わってほどなくの頃 桐乃のケータイ小説完成 第三章
三学期の始業式の日 桐乃から桐乃が書いたケータイ小説が盗作されたことを聞く 第四章
上記の週末 盗作について、沙織と黒猫に相談する 第四章
2日後 黒猫と一緒に新宿の出版社を訪れる 第四章
数日後 出版社の会議室で、黒猫と一緒に、盗作についてフェイトさんを問い詰める 第四章
桐乃のインフルエンザ回復後 フェイトさんと熊谷さんが桐乃に盗作の件について謝罪する 第四章
2月の休日 高坂家に沙織と黒猫が遊びに来る、桐乃が人生相談は次で最後と宣言する 第四章

第一章

P.12
だけどな、それで俺たちの冷めた関係が変わったかというと、そんなわけもない。
むしろ悪化しているくらいなんだよ。詳しくは、言わないけどな。
俺は相変わらず妹のことが大キレーだし、どうでもいいと思っているし。
あいつはあいつで、俺のことをいままで以上に軽蔑し、嫌悪しているんだ。

相当に無理がある説明。
大キレーで、どうでもいい人間のために、あんなに必死になるわけがないでしょうに。
ここまで読んできた人には、この京介の説明がいかに信用できないか、京介がいかに信頼出来ない語り部ということが理解できるようになってきたかと思います。

P.13
まったくもって、何を着ても似合うヤツである。自然とそう思ってしまう自分が忌々しい。
で、そんな器量よしの妹は、携帯に向かって、なにやら楽しそうに笑いかけていた。

相変わらずの桐乃に対する褒めっぷり。
1巻の頃の素直な褒め方に比べるとかなりひねくれだしてますが、これは桐乃に対する気持ちを否定しようとする京介の心を表していると僕は見ています。

P.17
なんともむかつく仕草である。
三歳年上の兄貴にする態度じゃないだろこれ。

京介は桐乃の三歳年上。
ここは覚えておいてください。後の考察に出てきますので。

P.41
しばらくノックを続けていると、勢いよく扉が開いた。まるで、俺の顔面を撃ち抜かんばかりの攻撃的な開け方だったが、いい加減もう見切った。バシと片手で受け止める。

学習して成長している京介。
本人にとっては、全然嬉しくない成長でしょうけど。

P.49
「明らかにあたしをモデルにしたであろうオリキャラが、“魅惑”(チャーム)の魔術をかけられて、主人公の性奴隷にされているところ」
「それはおまえキレていいよ!?」
数秒前まで、喧嘩したのは桐乃が悪いと思ってたけど、一気に擁護する気が失せたわ!
人様の妹に何してくれてんだあのゴスロリ! 喧嘩の原因、両方にあんじゃねーか!

妹をモデルにしたであろうオリキャラが性奴隷にされていたと聞いて、キレる京介。
京介はシスコンですから、愛する妹が汚されたみたいで嫌だったのでしょう。にしてもキレすぎだと思いますが(笑)

P.50
あと、これだけは言っておく。
女子中学生がいきなり性奴隷とか口走んじゃねえ! 次は絶対止めるからな!

意外に堅物な京介氏。妹に対して、保護者入っていますね。

P.57
実はさっき、桐乃からメルルを借りたときに、こう言ってやったんだよ。『沙織のお土産がリビングにあるから、それだけでも受け取りに来いよ』ってな。
頑固きわまりねーあいつのことだ。まともに説得したって絶対素直に降りてきやしねえ。
それは分かってた。だけど、俺と黒猫が、あいつの愛するメルルを観て、メルルの話をしていれば、我慢できなくなって乱入してくるんじゃねぇかと思ったのさ。

さすが兄だけあって、妹の性格や趣味のことを実によく理解していますね。

P.59
いい加減うんざりしてきた俺の目前で、桐乃と黒猫は、いつものように喧々囂々の口論を繰り広げている。

× 喧々囂々 ◯侃々諤々
1巻の時にも同じ指摘をしましたが……。

P.62
「……とんだ物好きもいたものだわ。いい機会だから聞いておくけれど、あなた、どうしてあんなに邪険にされてまで、妹の世話を焼いているの?」
なんでだろうなぁ……俺にも分からん。最初は成り行きで……いや、いまだって成り行きなんだけど……それだけじゃない、んだろうな。断じて認めたくはねーけど。
俺にはやはり、こう言うことしかできない。
「……悪い、俺にも、よく分かんねーよ」
「…………シスコン?」
「それだけは違う!」
なんつーことを言いやがる! なわけねーだろっての!
全力で否定すると、アキレス腱をつま先で蹴っ飛ばされた。
「いッ――なにすんだテメエ!?」
怒鳴りながら振り向くと、桐乃が侮蔑の眼差しを俺に向けていた。
「……キモ」
……なんだってんだよ……! シスコンって台詞が気に入らなかったのは分かるけど、言ったのは俺じゃないし、ちゃんと否定しただろうが。いきなり蹴っぽってんじゃねぇよ……。

ここで桐乃が怒っているのは、2巻のP.302では自分のことをシスコンって認めたのに、京介が否定しているからですね。

2巻 P.302
「キモくて結構だっつってんだよ――。いいから言え。言ってみろ! ハッ、なんせ俺は、妹と仲良くなれたって勘違いしちゃってる、シスコン変態バカ兄貴だからな! 事情を聞くまでは絶対逃さねえよ。ウザいのがイヤなら、観念して白状するんだな」
我ながらなんつー言い草だよ。この前から俺、どんどん頭悪くなってねえ?

お兄ちゃん大好きな桐乃としては、京介がシスコンなのは大歓迎ですから、それを本人に否定されたら面白くないわけです。

P.63
「……マゾ?」
「それも違う!」
と、思う!
「……じゃあなに?」
首を傾げる黒猫。なんでかしらんが、この話題にずいぶんとご執心らしい。ちゃんと納得のいく答えを聞くまでは、追求をやめてくれそうになかった。

京介自身は否定していますが、ぶっちゃけ京介はマゾですよね。
あやせにセクハラをしまくるのも、蹴られるのを目当てでわざとやっているとしか思えません。

P.63
仕方ねーなあ……。
俺は頭をぼりぼり掻きむしって、この何とも言えないものを形にしようと試みる。
さんざん言葉をさまよわせた末……出てきたのは、実に陳腐な台詞だった。
「…………兄妹だからじゃ、ねぇの?」
俺はふいっと視線を外し、自分のこめかみを叩いた。
顔の熱さをごまかすように、舌打ちをする。ダメだこりゃ。自分で言っておいてなんだけど、理由になってねーよ。黒猫だって納得しちゃくれないだろう……そう思ったのだが。
「…………そう。分かった」
黒猫は、こくりと小さく頷いた。

「兄妹だから」これは俺妹という作品で何度も出てくるキーワードです。
黒猫がこの話題にご執心なのは、自身にも妹がいるのと、高坂兄妹の関係に興味を持ったからでしょう。2巻までは、あくまで脇役の黒猫でしたが、いよいよ、ここから表舞台に登場してきます。

P.64
「……いいお兄さんね。とても羨ましいわ」
桐乃に向かって囁く。いつもなら『なにそれ、嫌味?』とでも返すところなのに、桐乃は腕を組んだままムスっとしているばかりだ。無言のやりとりが、二人の間で交わされているようでもあった。俺はよく分からないまま、静観しているしかない。

黒猫が京介に興味を持ったことが気に入らない桐乃。
黒猫もその桐乃の気持ちを察して、お互いにいろいろと頭の中で考えているのでしょう。

P.64
「悪いこと言わないから、やめといた方がいいよ。だってこいつ、ブス専だし」
「てめえいま何つった!? 誰のことだそれは! 答えようによっちゃ妹でもブッ飛ばすぞ!」
「はいはいまたムキになると、ごっめんねぇ~」
バカにしたように肩をすくめる桐乃。こっの……! 幾ら何でもこの態度はないだろ!
俺は文句を言ってやろうとしたのだが、その前に桐乃が黒猫に向かってあごをしゃくった。
「こんなんでいいなら、幾らでもあげる。つか、キモいから持って帰ってくんない」
「こっ……の……」
俺が拳を怒りで震わせている横で、黒猫は無表情に俺たちを眺めている。

桐乃が言っているブスとはもちろん麻奈実のことです。
麻奈実のことを悪く言われて、当然怒り出す京介。
いくら黒猫が京介に興味を持ったのが気に入らないとはいえ、桐乃は京介のことになると、どうも子供っぽくなるところがありますね。麻奈実という京介の地雷を踏んで怒らせてしまうのは、どう考えても悪手。一方黒猫は冷静に二人の様子を眺めています。

P.65
「……ブス専……」
ぼそっと呟き、
「…………ふぅん」
冷めた得心を漏らす。それから黒猫は、桐乃をキツイ眼差しで見据えた。
「――ハ、くだらない勘違いをしないで頂戴。……私だって、こんな男、まるで好みじゃないわ。ええまったく、悪い冗談にもほどがあるというものよ。この私がネコ耳も付いていないような男に惹かれるわけがないでしょう? ――バカにしないでくれないかしら? こんな……男……ぜんぜん美形じゃないし、すごく地味だし、出世が望めそうにない顔つきをしているし……私の理想からは一億光年かけ離れているの。……はん、こっちから願い下げよ」

このブス専という黒猫の呟きの意味は解釈を絞るのが難しい。
既に桐乃から麻奈実の話を聞いていて意味と状況を察したのか、それとも京介がブス専=自分がブスじゃないという桐乃の言葉を聞いて、自分の容姿に対する桐乃の認識に悪い気はしなかったのか、はたまたその両方か。
まぁ、そこは大して重要じゃないので、どうでもいいとして、ここで大事なのは黒猫が京介に対してフラグを立て始めたことでしょう。

二章

P.71
ふん、まあ……スゲエ妹がいるってのも、特筆すべきところっちゃ、そうかもしれんけど。

P.73
そういえば『星くず☆うぃっちメルル』にも似たような、地味で眼鏡な魔法少女とやらが登場するのだが(髪の毛はピンク)、妹いわく『かわいそうに、いつもこの娘のキャラグッズだけ売れ残ってて、他のレギュラーメンバーと抱き合わせにされれるのよ……うう』とのことらしい。

P.83
少々解説に熱が入ってしまったぜ……フッ、俺も桐乃のことは言えないな。

P.85
妙にこっ恥ずかしくなってきて、なにやら俺までもじもじし始めてしまう。こういうところが桐乃に言わせりゃ、きもいってことなんだろうが……。しょうがねーだろ……。

P.86
まさか桐乃みてーに、凄まじいもんを隠し持っていたりはしないだろうけど。

P.87
同じ女の子の部屋でも、妹の部屋とはまるで趣が違う。

P.93
桐乃じゃないけど、こいつもたまに、よく分からん態度を取りやがるよな……。

麻奈実の家に遊びに来ているにも関わらず、事あるごとに桐乃の事を思い出す京介。順調にシスコン化が進んでいますね。

P.93
「へへ……嬉しいなぁ。すっごく久しぶりだね、きょうちゃんが家に泊まっていくのなんて」
「そういやそうだな。昔はよく、お互いの家行き来してたもんだけど……いつの間にかしなくなってたよな。なんでだっけ?」
「え? なんでって……なんでだろ?」
顔を見合わせてしまう俺たち。改めて考えてみると、理由なんて出てこない。
……そういうもんなのかもしれないな関係の変化ってのは、大概そんなもんなのだ。
「うーん。もしかして……きょうちゃんも、もう高校生でお年頃だから、女の子の家に泊まりにいくのに緊張しちゃうのかなぁ」

お互いの家を行き来しなくなった理由は、麻奈美と桐乃の不和が原因でしょう。
この時点での京介はその事を知らないですが、麻奈美の方は知っているはずなので、とぼけてさりげなく話を逸らしているのがわかります。(作者が3巻を書いた時点で、そこまで考えていたならの話ですが)

P.94
「むしろ、自分の家よりゆっくりできるくらいだよ」
なにしろ妹がいねーからな、と、心の中で付け加える。
さっきまで不満そうにしていた麻奈実は、俺の台詞を聞くや、くるりと態度を翻して、
「……そっか」と微笑んだ。
「あんだよ……なんか言いたいことでもあんの?」
「ううん……? そっちの方がいいかなぁって、思っただけ」
幼馴染みの言動は、やはり、よく分からなかった。

ここも過去編の伏線。
京介が高坂家より、田村家の方がゆっくりできると聞いて、嬉しそうな麻奈実。
麻奈実からしてみれば、高坂兄妹を普通の兄妹に戻すという目的があるので、そういう風に京介が思ってくれているのが、いろいろな意味で嬉しいのでしょう。(この解釈も作者が3巻を書いた時点でそこまで考えていた場合の話であって、普通に読めば、変に意識したりしない今の関係も悪くないと麻奈美が考えている、という風に解釈する方が自然です)

P.95-96
「…………じー」
擬態語を口に出しながら、なにか言いたげな眼差しを送ってくる麻奈実。
「……な、なんすか?」
俺はやや怯んで問うた。
しかし麻奈実は『分かってるでしょ』とばかりに、無言の姿勢を崩さない。
(中略)
最初から分かっちゃいたのだ、こいつが俺に、なにを言わせようとしていたのかは。
えーと……たぶんおまえさあ。……昼間、ハロウィンのお菓子を褒めてやったもんだから……それで……また期待してるんだろ?
「あー……さっきのメシだけど……美味かったよ」
「えへへ……ありがと。嬉しいな」

視線で通じ合う京介と麻奈実。
まだまだ麻奈実との関係は強いですね。

P.100
「ほら! 麻奈美! さっさと行こうぜ! 俺たちの風呂場へさあ! 俺のハイパー兵器を見せてやるよ!」

ハイパー兵器エロゲーのランスネタですね。なんでエロゲ初心者のはずの京介が知ってるんだよって話ですが(桐乃が妹ゲーでもないランスシリーズを持っていたとは考えにくい)、単なるネタなので、そこにツッコんでもしょうがないでしょう。

P.112-113
「たぶん……あんまり変わらないと思うよ?」
返ってきたのは、悪く言えば適当で、曖昧で……のんびりとした、こいつらしい答え。
それはきっと、俺が望んでいた答えでもあった。
「そうかもな」
そう言われると、そうかもしれないと思えてくる。高校卒業して、大学に入学して、色々な物が変わっていって。それでも、変わらないものもたくさんある。
「……は、なんか大学卒業するときも、おまえ、同じこと言いそうだな」
苦笑が漏れた。チラリととなりを見ると、麻奈実は目をぱちくりしていたが、やがて微笑み返してくる。
「ん……そうだね。……ずっと、同じことを言うんじゃないかな」
いつの未来を想像しているのか……その口調は柔らかい。
何故かその言葉が、強く印象に残った。心強いとも思った。

原作ではこんな未来は来ないわけですが、ひょっとしてPSPのゲームではこのフラグ回収されたんでしょうか? 僕は義妹になった桐乃なんて絶対に見たくないし、PSPのゲームはプレイする気がないので確認しようがないのですが。

P.113
「じゃ、今度は家くるか?」
ふと、そう言ってみた。麻奈実がここ数年、俺の家に来ていなかったことを思い出したのだ。
女ってのは、して欲しいことがあっても、そうとは言わない生き物で――。そいつを俺は、最近身をもって思い知らされていた。どっかの誰かさんのせいでな。
だからこれは、いままでの俺からはどうやっても出てこない台詞だった。
今度は家に来るか? ――俺にそう問われた麻奈実は、とても意外そうに、目をくるんと大きくして、ぱちぱちとさせた。次いで口元を毛布で隠したまま、こくりと頷く。
「えっと、うん。……行ってみたい、な」
その表情は布団で隠れて見えない。
けれどふにゃりと細められた目元だけで、俺には十分だった。
言いたいことを言えずにいた、引っ込み思案な幼馴染みから、この嬉しそうな態度を引き出せたのは、誰かさんのおかげだった。その点だけは、感謝してやらんこともない。

桐乃のおかげで、女心を学習している京介。
どっかの誰かさんとはもちろん桐乃のことです。
ここも過去編の伏線ですね。
麻奈実がここ数年、高坂家に来ていなかったのは、桐乃とのことがあったからでしょう。

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