『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の伏線を改めて読み解き、「完全なる桐乃エンド」を考察してみた(3巻編、下)

注意

この記事はライトノベル俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を全巻読んでいることを前提に書いています。
おもいっきりネタバレがありますので、未読の方はお気をつけください。

3巻の時系列

日付 出来事 原作
9月のある日 桐乃からメルルとマスケラの鑑賞会の話を聞く 第一章
9月の木曜日(祝日) 自宅で鑑賞会。桐乃と黒猫の喧嘩を仲裁する 第一章
10月の半ば、とある金曜日の放課後 麻奈実の家に行き、ハロウィンフェアの準備を手伝う 第二章
同日夜 麻奈実の家に泊まることになり、今度家にくるか? という話をする 第二章
12月に入ってすぐ 桐乃の書いたケータイ小説が本になるという話を聞く 第三章
上記後の日曜日 新宿の出版社で編集者に会う 第三章
12月24日 桐乃と(ケータイ小説の取材と称した)クリスマスデート 第三章
12月25日 桐乃がケータイ小説を書き始める 第三章
元日 麻奈美と初詣に行く途中で、モデル仕事中のあやせに会う 第三章
冬休みが終わってほどなくの頃 桐乃のケータイ小説完成 第三章
三学期の始業式の日 桐乃から桐乃が書いたケータイ小説が盗作されたことを聞く 第四章
上記の週末 盗作について、沙織と黒猫に相談する 第四章
2日後 黒猫と一緒に新宿の出版社を訪れる 第四章
数日後 出版社の会議室で、黒猫と一緒に、盗作についてフェイトさんを問い詰める 第四章
桐乃のインフルエンザ回復後 フェイトさんと熊谷さんが桐乃に盗作の件について謝罪する 第四章
2月の休日 高坂家に沙織と黒猫が遊びに来る、桐乃が人生相談は次で最後と宣言する 第四章

第三章

P.116-117
ジャーっという、シャワーの音。ふんわりと漂ってくる、石鹸の香り。
桐乃は気付いてないようだが……シャワーを浴びている女の子のシルエットが、磨りガラス越しにぼんやり透けて見えるようになっている。照明といい、磨りガラスといい、淫靡な雰囲気を盛り上げるための仕様なのだろう。
「……っ」
バッ。俺は磨りガラスの秘密に気付くや、高速で視線をそらした。
自分の意志とは裏腹に、俺の足は貧乏揺すりをし始める。
「……………………………………なに緊張してんだ俺」
やばいだろ。やばいだろこれは。なあ、なあ、落ち着けよ京介、相手は妹だぞ?
「分かってる……分かってるが……」
貧乏揺すりが激しくなる。顔面の熱がどんどん上昇していくのが分かる。

桐乃と入ったラブホテルで妹を意識しまくる京介。
兄妹といっても年頃の男女ですからね。意識するのは仕方ない。

P.118
十二月に入ってすぐのこと。
例のごとく、俺は妹の部屋でパソコンゲームの対戦相手をさせられていた。
『真妹大殲シスカリプス』という3D格闘ゲームだ。ちなみに俺も桐乃も、別々のパソコンでゲームを動かしている。桐乃はデスクトップ、俺はノートパソコンを使って、オンライン対戦をしているというわけだ。だから実は、同じ部屋でゲームをする必要なんかないのだが――
「ノーパソ持ち出し禁止。ネットでエロサイト検索するから」
そんなことを言われちゃあ否応もない。もういい加減忘れてくれてもよさそうなもんなのにな。

仲良く(?)ゲームをプレイする兄妹。
桐乃がノーパソを持ち出し禁止にしたのは、なるべく京介と一緒にいたいからでしょう。そもそも、本当に京介のことが嫌いなら、ノーパソ自体貸したりしないし、一緒の部屋でゲームをプレイしたりしないですよね?

P.120
俺はもの凄く気が進まなかったのだが、
……『教えて欲しい』って答えないと、間違いなくこいつ怒るよな……。

どんどん桐乃の気持ちを察するのが上手くなる京介。

P.120-121
「……はぁ、言ってみろよ」
「なにそのふざけた態度。教えて欲しいんなら、もっとちゃんと礼を尽くしなさいよ」
「んだよそのふざけた態度!? 相談に乗って欲しいんなら、てめーこそもっとちゃんと礼を尽くせや! いい加減にしろ!」
チッ……俺はこれみよがしに舌打ちをして、
「ちなみに礼を尽くせって、具体的に何をさせるつもりなんだ?」
「土下座」
「なんで相談に乗ってやる方が土下座しなきゃなんねーんだよ!?」
もはや意味わからんだろ! おまえの相談事ってのは、神の託宣かっつーの。
「早く土下座しなさいよ」
「するかっ」
俺はむかついてしばらく黙っていたのだが、どうやら桐乃は『今回の相談事』とやらを喋りたくて仕方なかったらしく、俺の土下座を待たずしてこう言った。
「しょーがないなぁ…………今回だけは特別に教えてあげる。感謝して聞きなさいよね」

さすがの京介も桐乃の態度は酷すぎると感じたのか、今回は怒り気味。
妹を甘やかしてばかりだと調子に乗りますからね。たまにはビシっと言ってやった方がいいです。……っていうか、普段京介が桐乃に甘すぎるだけで、これが当たり前の態度なんですけどね。

P.123
桐乃は俺が持っているケータイ画面をわきから覗き込むや、身体を俺にぐいぐい押しつけるようにしてケータイを操作する。
「……お、おい、あんま密着すんな」
腕と腕がくっついてんだよ。それに甘ったるい匂いがして、気になるだろうが……。
シスコンとかじゃなくて、こういうのは肉親とか関係ないんだってば。
……あれ? そんな思考は、数カ月前までの俺にはなかったことに気付く。

普通に京介からケータイを取り上げて操作すれば済むことなんですが、これは桐乃が自分を意識させるためにわざとやっているのでしょうか? 桐乃の性格からして、おそらく計算ではなく天然でしょう。桐乃は好きなものに夢中になると、周りが見えなくなるようなところがありますから。

そして、桐乃を意識しまくる京介。
数ヶ月前とは京介の桐乃を見る目が違っているということが、珍しくここでハッキリと示されていますね。この時が12月に入ってすぐなので、数ヶ月前というのは、おそらく桐乃の偽告白以前のことでしょう。あれは二学期に入って1週間後ぐらいの出来事なので、約3ヶ月前。計算もしっかり合います。あの偽告白の後から、京介は妹のことをかなり意識するようになっています。

P.124
物憂げに髪をかき上げる。仕草がいちいち色っぽくて決まっていやがる。

何かあるたびに、いちいち桐乃を褒めるシスコン京介。

P.126
「す、すると、お前の書いたケータイ小説が……?」
「そう! 先月のランキング一位になってさあ!」
「マジで!? あのレイプ小説がか!?」
「マジマジ! エヘッ、凄いっしょー♪」
きゃ~~、と黄色い声を上げる桐乃。両頬に手を添えて、いやんいやんと恥じらっている。
猫をかぶっているときの様子に似ているが、いまは完全に素でやっているようだった。
俺の前でこんなに無防備にはしゃぐなんて……よっぽど嬉しいんだろうな。
つい俺が口走っちゃった『レイプ小説』って台詞も、全然気にならねーみたいだし。

桐乃が京介の前で、ここまで素直に喜ぶのは珍しい。
京介に対する距離が確実に縮まっているのを感じます。……というか、さっきからやたら京介に話したがっていたのは、大好きなお兄ちゃんに自分がしたことを知ってもらって、凄いと褒めてもらいたいからでしょう。それは次の描写を読むとわかります。

P.127
「……初めて書いた小説が本になるって、とんでもねえことじゃねえの……?」
「え? え~? あたしそういうの詳しくないし、よく知んないけどぉ~、そうなんじゃーん? んまー、それだけあたしの才能がずば抜けてたってことだよね! 投稿期間ばっか長くて頭でっかちなボンクラワナビどもには、ご愁傷様って感じだけどぉ~~♪」

この桐乃の嬉しそうなこと。調子に乗って余計なことを言っていますが、ブラコン桐乃ちゃんが大好きなお兄ちゃんに褒められて(正確には別に褒めたわけじゃありませんが)舞い上がってるだけなので、許してあげてください。

P.126-127
まあ俺は、桐乃の書いたケータイ小説、読んでないんだけどね。
妹が考えた物語なんて、まったく読む気になれん。あの殺したくなる概要を聞いたあとじゃあなおさらな。

京介が桐乃の書いたケータイ小説を読んでなくて、読む気もないというのはさりげない伏線です。

P.128
流れぶった切って命令すんな!
そしてどうして俺は、文句も言わず冷蔵庫に向かって歩いているのだろう?

シスコンだからしょうがない……というのもあるでしょうが、(言葉には出さないものの)桐乃に対しておめでとうという気持ちが京介にあるからでしょう。

P.130-131
「直接会って詳しいこと話したいって言われてて……」
「そいつ男? 女?」
「たぶん男だと思うケド?」
「たとえば編集者ってのがウソっぱちでさ。なんか変なやつだったら、危ねえんじゃねえか?」
世の編集者さんたちにゃ悪いけど、その職業、名前からして怪しげな印象あるんだよな。
それにケータイ小説って、女子中高生が書いているイメージあるし、『おまえのケータイ小説を本にしてやるよ?』ってのは十分魅力的な餌になるから、編集者を騙ったナンパってのも……あり得るかもしれねえ。俺が渋い顔で腕を組むと、桐乃が顔を覗き込んできた。
「……へー、なに? あたしのこと心配なんだ?」
「ば、バカ言え。誰がおめーなんか……」
俺がそっぽを向くと、桐乃は妙に楽しそうに笑い出す。
「きゃはは――ま、あんたってシスコンだからねー。あーきもいきもい」
「違うっつってんだろうが! いい加減にしろ!」
クソ、何度そのネタでからかうつもりだよ……。

京介が自分のことを心配してると知って、めちゃくちゃ嬉しそうな桐乃。京介は否定していますが、どこをどう見ても心配しているでしょう。桐乃が上機嫌の時のきもいは、大抵の場合嬉しいって意味なので、覚えておきましょう。

P.131-132
「はいはい、そーいうことにしておいてあげる。で、どうすんの? あんたが一緒に来たいってんなら、当日連れてってあげてもいーけどー?」
「………………くっ」
なるほどな。今回の人生相談ってのは、これか……。つまり自分一人で編集者と名乗る男と会うのが怖いから、俺に一緒に付いてきて欲しいんだろうよ、こいつは。
はぁ……素直にそう頼んでくりゃあ、俺だって鬼じゃねえから、しょうがねえ俺も行ってやるよって返事もできんだけどな。この態度はねーわ。ここで『行く』なんつったら、俺が妹のことが心配で、自発的にそうしてるみたいじゃねーかよ!

あの桐乃との会話からの、この察しよう。
京介の兄力は巻を重ねるごとに、どんどん上がっています。

P.133-134
「だから、お母さんには話せない。あんたが来ないなら、一人で行く」
「……あっそ」
勝手にしろよ……と言いかけた俺であったが、ふと妹を一人で行かせた場合のことを想像してしまった。
こいつ見てくれだけはかわいいからな……。東京なんて人の多いところいったらナンパされたりするかもしんねーし。その編集者とやらが悪いやつだったりしたら、いくらしっかりしてるっつっても中学生一人じゃ抵抗するのにも限界があるだろうしなぁ。
別に心配しているわけじゃないが、こうして直接聞かされると気になってくる。
チッ……しょうがねえな。
「……分かった。俺が一緒に行ってやるよ」
「は? なにその不本意そうな顔。ちゃんとお願いしないと連れてってやんないよ?」
「連れてってくださいお願いします!」
もうやけくそだ! ったく――これじゃシスコンって言われても、もう反論できねえな!
そんなつもりじゃねえってのによ。

いつもの京介による桐乃かわいい描写。
ここまで妹のことを心配している兄が、シスコンじゃなくてなんだと言うのか? そろそろ京介の言い訳も苦しくなってきました。
そして、桐乃も京介がシスコンだとわかっているから、こういう強気な態度に出られるのでしょう。京介に対する信頼があるからこその、わがままなんですよ? 妹が兄に言うわがままとは、兄なら自分のわがままを受け容れてくれるという信頼と前提があってこそ成り立つものなんです。

P.135-136
「で、待ち合わせはここのロビーなんだっけ?」
「うん……ロビーに四時半って言ってた。…………あんたはこの辺で待ってて」
「……ん? 一緒に付いていかなくていいのか?」
「バーカ。せっかくフォーマルファッションで決めてきたのに、あんたみたいなダサ男がとなりにいたら台無しじゃん。絶対付いてこないで」
……でも、そもそも一人で会うのが怖いから、俺をここまで連れて来たんじゃねーの?
俺の疑念が伝わったのかどうかはしらないが、桐乃は「……」と、口元を引き結んでしばらく押し黙り、やがて口を開いた。
「付いてこなくていいけど…………近くにいて。で、空メール送ったらすぐ来て」
「あいよ、了解」
ま、言うとおりにしてやるさ。

とうとう視線すら使わずに、意思疎通までし始めた高坂兄妹。
ツーカーの仲になりつつあります。

P.136
――うーん。俺、来た意味あったのか……? そんなことを考えていると、入っていったばかりの桐乃が、スーツを着た細身の男と並んで出てきた。

スーツを着た「細身の男」。
トリックの伏線ですね。

P.137
「っ! フゥ……連絡メールか」
やれやれ、あいつが別れ際に変な命令をしていくもんだから、メールが着信するたびにビクッとしちゃうよ。なんかアブねーことになったんじゃないかってさ……。

あれだけ心配してるわけじゃないと散々言っておきながら、実際はこの心配ぶり(笑)

P.137-138
「よう、お疲れ」
「……あれ? まだいたんだ、あんた」
「ははっ、こいつめ~、素でとんでもねえことを言いやがったな?」
まだいたんだ、あんた。
まだいたんだ、あんたって!
ひッでえ……! こ、この世に、これほどまでにひどい台詞があっていいのか……!?
せっかくの休日つぶして、新宿くんだりまで付いてきてやって、いつSOSがくるかと身構えながら一時間以上ここで待ってた兄貴に向かって! この仕打ち!
「あんたなんで涙目になってんの? はーん、そんなにあたしが心配だったわけぇ?」
「それだけは金輪際ねえよ! 誰がてめーなんぞの心配するかっ!」
突き放すように言い捨てて、踵を返す。そのまま桐乃を置き去りにする形で数歩歩き……
……さあてちっとは反省してっかな?
ちらっと後ろを振り返ると、
「おまえなに一人でタクシー乗って帰ろうとしてんだよ!?」
「え? いまタクシー代もらっちゃったから」
きょとんと返事してんじゃねえ! そういうことじゃなくて、なんでもの凄く自然に俺を置いて行こうとしてんのかって――もういいや。言うだけ無駄だなてめえには。

ここの桐乃の態度は、さすがに擁護できないかなぁ……。
編集部の人に褒められて浮かれているのはわかりますが……。

P.139-140
「かなり真面目そうな人だったかな。なんていうか、エリートビジネスマン? そんな感じ。人当たりもすごくよかった。そうそう、編集部のこととか色々質問してみたんだけど、よどみなく答えてくれたし――なによりあたしのケータイ小説について、具体的に批評してくれたしね。あんたが心配してるようなことはぜんぜんなかったよ」
「…………」
別に心配はしてないがな。ふん、あっそう、本物だったの。そりゃよかったね。
ま、確かにきっちりしてそうな人ではあったな。ほとんど後ろ姿しか見てないけど、ぱりっとしたスーツ着て、いかにもできる社会人って感じだった。
「へへ……わりと美形だったしね」
美形はカンケーねえだろ。これだから女ってのは……。顔で人を判断してんじゃねーよ。
俺がむすっと押し黙ると、桐乃は「なに怒ってんの?」とか言いながら、
「ほら、こんなのもらった」
さっきの人の名刺を差し出してきた。

京介のヤキモチ描写。
桐乃が珍しく人(しかも男)を褒めるので、すっかり不機嫌モード。まぁ、実際は男装した女性(フェイトさん)ですし、後ろ姿しか見ていない京介(読者)は編集者=男というイメージがあるので相手が女性であることに気付かないのですが……。この辺はいわゆる叙述トリックってやつですね。

P.210
「……そりゃ、いいように利用されたのはムカつくし、あのカマ野郎ブッ殺してやりたいとは思うけどねー」

このカマ野郎という単語を見る限り、桐乃も相手が女性だとは気づかなかったようです。

P.142
「あんたなんかに言われなくたって、勝手にするっての。そうそう。近いうち、取材のために渋谷行くから。あんたも付いてきなさいよ。今日は何の役にも立たなかったんだから」
はいはい。もはや怒る気にもならんな。あれもこれも、言うだけ無駄ってやつだ。
一度言い出したら聞きやしねえ。
もう煮るなり焼くなり好きにしてくれよ。

サラッと約束を取り付ける桐乃。
あまりに自然すぎて、桐乃の意図になかなか気づきにくい描写です。

P.145
「チッ、なんでわざわざイブに来たのかって思ってるでしょ? あたしだって嫌に決まってるじゃん。だけどこれから書こうと思ってるケータイ小説で、イブのシーンがたくさんあるから、締め切りの関係もあって、今日じゃなきゃダメだったの。断腸の思いで、あやせの誘い断ってまでっ。本当ならあやせの事務所が主催するクリスマスパーティに行くはずだったんだからっ」
べらべらべらべらまくしたてる桐乃。
なんつー恩着せがましい言い草なんだ。俺だってなあ、予定がなけりゃ例年通り、田村さん家のクリスマスパーティに顔出すはずだったんだよ。
それを曲げてついてきてやったんだから、てめーこそ感謝しやがれ。
「ねぇ、人の話聞いてんの? いまあたしが言ったこと、ホントに分かったァ?」

クリスマスイブに京介と渋谷に来た理由を、べらべらべらべらまくしたてる桐乃。
察しの良い人なら分かるかと思いますが、これは明らかに言い訳ですね。

P.142
「まあねー、結構忙しくなりそうだけどー」
俺の指摘は、桐乃自身も懸念していたことだったのだろう。腕を組んで、下唇を押し上げて、考えこむようなポーズになった。片手を広げ「あれと、これと、それと……」などと指折り数えながらブツブツ呟く。

スケジュールを整える桐乃。
すべては京介とクリスマスに渋谷デートするためです。

P.142
「あんたなんかに言われなくたって、勝手にするっての。そうそう。近いうち、取材のために渋谷行くから。あんたも付いてきなさいよ。今日は何の役にも立たなかったんだから」

よく読むとわかりますが、これは新作のケータイ小説を書き始める前の桐乃の台詞です。「これから書こうと思ってるケータイ小説でイブのシーンがたくさんあるから、締め切りの関係もあって、今日じゃなきゃダメだったの」とクリスマス当日に桐乃は言っていますが、これは嘘です。取材と称して京介とイブに渋谷でデートするために、わざわざそういう小説のプロットを組んだというのが真相です。

P.147

「順番にプロローグから行く。主人公の女子中学生が、イブに彼氏とデートしてるシーン」
「は?」
「だからー、あたしたち二人で、主人公たちと同じ行動をシミュレートしてみようってわけ。実際に体験したことのほうが、リアルに書けるから」
「なるほど、取材ってのはこういうことか。おまえが主人公役で、俺が彼氏の役ってわけね」
不本意だけどそういうこと」

さも、なるほどって感じで説明しているので騙されそうになりますが、これらはもちろん京介とクリスマスデートするための桐乃の方便ですよ。言葉巧みに京介を誘導していますね。

P.147
「オーケイオーケイ。よっしンじゃまずなにするよ? て、手でも繋いで渡ってみるか……?」

さりげなく妹と手を繋ごうとするシスコン京介。

P.153
「じゃ、そういうわけでアクセ買ってよ」
「は? な、なに? ……なんだって?」
唐突に言われた台詞が耳を疑うものだったので問い返すと、桐乃はチッと舌打ちをした。
「ここ、彼氏にアクセ買ってもらうシーンだから、アンタあたしにアクセ買って」
「……!!」
聞いたかオイ!? なんだよその詭弁はよお! ま、まさか……取材にかこつけて俺からむしり取るつもりじゃあるまいな。

京介にアクセをおねだりする桐乃。
京介にアクセを買ってもらうために、わざわざそういうシーンを作ったのでしょう。

P.154
「実はこの前来たとき、もう選んであってさぁ……クリスマス限定のシルバーリング&アクセサリーセットが欲しいのよ。これ、ちょーかわいくな~い?」
桐乃はすでにブツを見繕っていたらしく、ノータイムでショーケースを指差した。
む……まああれくらいならなんとか……ここ、わりと安いし……。

事前に欲しい物の下見まで済ませている桐乃。用意周到ですね。
この時は京介が桁を一つ見間違えていて結局買えなかったのですが、最終巻のクリスマスに、このクリスマス限定のシルバーリング&アクセサリーセットを京介が桐乃にプレゼントするシーンがあります。

P.154
「大変お待たせいたしました~。お客様、そちら彼女さんへのプレゼントにおすすめですよ~」

109のアクセサリーショップの店員さんの台詞なんですが、この店員さんは星野きららさんの妹(星野くららさんではない、別の妹)だそうです。ソースは『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』ドラマCD付録の書き下ろし小説「とあるメイド喫茶にて」より。

「あ、あと、渋谷の109にあるアクセサリーショップの店員さんも、きららさんそっくりだったんですけど……」
「あ~~~~」
きららさんは得心したように何度もこくこく頷いた。
「たぶんその娘たち、どっちも、わたしの妹です~」

P.155
「はぁ……ったく……どうしてくれんのよ? 恥ずかしくてもうあのショップ近づけないじゃん。結局『彼氏にアクセサリーを買ってもらう』取材はできなかったしぃ……」
唇をとがらせてスネてしまう桐乃。その仕草はやたらとかわいかったが、だまされてはいけない。内心じゃ小憎らしい悪態を吐いているに違いねーんだからな。ケッ。

京介の桐乃かわいい描写。
京介は内心じゃ小憎らしい悪態をどうこう言ってますが、実際の桐乃は京介にアクセサリーを買ってもらえなくて、普通に残念がっているだけでしょう。

P.155
そこまでいうかよ実の兄貴に。

京介の実兄描写。

P.156-157
「バカに教えてあげるけど。あたしたちくらいの女の子って、年上の彼氏ができるって展開に弱いんだよね。だって同じ学校の男って、ガキばっかなんだもん。あんな連中と付き合うくらいなら動物園の猿と付き合った方がマシだっての」
「………………」
もしかして俺も、同じクラスの女子に、そう思われてんの……?
マジかよ……やなこと聞いたな……。
「あたしの場合、恋愛対象になるのはせいぜい高二くらいからね。それ以下はマジ有り得ない」
「……あっそ」
俺は重々しくため息をついた。
こいつに惚れているだろう同じ学校の男子たちに、同情してしまったのだ。
だがまあ確かに同年代の男には、この女の相手は荷が重いだろうな。
いや年上を含めたって、たいして事情は変わらんか。
こいつと付き合える男がいるとしたら、仏のように人が好い野郎か、ドMだけだぜ。

>あたしの場合、恋愛対象になるのはせいぜい高二くらいからね。
ちなみに京介は高二です。

>こいつと付き合える男がいるとしたら、仏のように人が好い野郎か、ドMだけだぜ。
奇遇だな、この二つの条件を備えた男に心当たりがあるぞ。
……まぁ、つまりそういう事です。超絶鈍い京介は、全然気づかないようですが。

P.160
「そこ、あたしの行きつけのショップなのよ。シルバーアクセとか、安い割にセンスいいの揃ってるから、高校生が中学生の彼女にプレゼントするにはちょうどいいカンジ」
「……おまえ、あくまで俺にアクセサリー買わせるつもりなのか……」
「あったり前でしょ? 今回の貧乏彼氏はあまりお金は持ってないんだけど、そのぶん凄く気がつく人でセンスもいいの。だから『高いの買えなくてごめんな』って言って、主人公を行きつけのショップに連れてってくれるワケ。ねぇ、ねぇ、カッコいいと思わない?」
自分が考えた彼氏の設定を、自慢気に喋々する桐乃。
俺は内心いらつきながらも、妹の望む台詞を言ってやった。なるべく優しい声で、
「高いの買えなくてごめんな」
「うざっ!」
「なんでだよ!? 理不尽すぎるだろその態度!」
せっかく恥ずかしいのを我慢して言ってやったのに!
俺の叫びを受けた桐乃は、もの凄く嫌そうに顔をゆがめて、
「……あんたが言うとなぜかキモいんだよね。……なんでだろ……?」
不思議そうな顔すんな! どんだけ追い打ちしたら気が済むんだ!
しかも結局なんだかんだ文句つけられながらも、俺、一万円のピアス買わされたしな!

後述しますが、上記の貧乏彼氏(トシ)は京介をモデルにしたと思われます。
その彼氏の真似を京介がしてあげたのに桐乃がキモがった理由は、あくまで貧乏彼氏は桐乃の脳内設定のキャラで本物の京介とは違うからでしょう。脳内の理想と実際の京介は違うから、そのギャップが気持ち悪かったのではないかと。
ここは、過去に理想の兄である京介像を勝手に思い描いていた桐乃の伏線……というのはさすがに深読みのしすぎですかね?

P.162
「ハア……さっきからわがままばっかり……ホントに協力する気あんの?」
「協力する気はあるが死ぬ気はねえ。……あのさ、そもそもコレどういう話なんだ? 本当にこんなシーンが必要なのか? ちょっとその手帳見せてみろよ」
「……別にいいケド」
自分の考えた話を俺に見せるのが恥ずかしいのか、桐乃は少々頬を染めていた。

ここで桐乃が頬を染めている理由は、この小説が桐乃と京介をモデルにしたものだからです。詳しい説明は後述。

7巻 P.189-190
「クララちゃんが! めるちゃんが! リノ(あたし)の声やってるよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
あ、ああ、そういうことか。どっかで聞いたような声だと思ったら、メルルと同じ声なのね。
ってか、『あたしの声』って……やっぱり『妹空』の主人公って、おまえがモデルだったのかよ。

リノが桐乃をモデルにしたものだという根拠となる描写。

P.164
彼氏3(名前はトシ。最後くっつく人。超イケメン。家はお金持ちだけど、親の金は使いたくないから貧乏。高二。メンズノンノで読モやってる系←バイト代はバンド活動でなくなる。バンドでボーカルやってる系。ギターも弾ける系。金髪。成績は学年トップ。サッカー部の主将もやってる系)
気に食わねえ――。んだよこの男版桐乃みてーな野郎。

ここだけ見ると京介とは似ても似つかないのですが、

P.164
凄く優しくて心配性。主人公のことが大好きなんだけど、なかなか認めようとしない。
何事にも一生懸命で、どんなに苦しいときも諦めない。
「…………」
俺は眉をひそめながら、記述の先を読んでいく。

この太字の部分は、どう見ても京介ですね。

P.164-165
で、その先はどうなるかというと、すっかりやさぐれちまった主人公・リノに、新しい出会いがある。トシとやらだな。そいつはとても優しく、カッコよく、超完璧な野郎であり、リノがエンコーやっているのを叱ってやめさせたり、色々世話を焼いてやったりする。
当然リノは男不信になっているので、当初は中々信用しようとしない。むしろきついことばっかわめいて遠ざけようとする。
だってのにトシとやらは、辛抱強く付き合ってくれるわけだ。元彼がことごとく死んだり破滅したりしたせいで、リノは疫病神みたいに噂されているんだが、そんなことはまったく気にしない。親身になって相談に乗ってくれたり、噂を流している奴らのところに乗り込んで、自分の代わりに本気で怒ってくれたりする。
――バカか。こんな女に都合のいい男がいてたまるか。
つうかこのあらすじを読んでると、なんだか無性にイライラする。どうしてだろうな?

トシの設定にはかなり桐乃の理想が入っているので、細部はところどころ違うのですが、このリノとトシについては、桐乃と京介を思わせる要素が一杯ですね。

当然リノは男不信になっているので、当初は中々信用しようとしない。むしろきついことばっかわめいて遠ざけようとする。だってのにトシとやらは、辛抱強く付き合ってくれるわけだ。

ここなんて、桐乃の京介に対する態度(男不信を兄不信に読み変えてみてください)とそんな桐乃に対する京介の態度そのままです。京介もそのことに無意識のうちに気づいているから、読んでてイライラしているのでしょう。

P.166
「なあ桐乃、ちなみにタイトルとか決まってんの?」
「まだ決まってないけど…………『妹』って字は絶対入れたい」
「妹なんて設定だけであらすじに微塵も登場してなかったじゃねーかよ!」
「これから超重要キャラとして出すの!」

この妹というのはリノのことです。(しおりちゃんはミスリード
トシとリノは実は生き別れの兄妹だったという設定だと僕は考えています。
これに関してはおいおい説明していきます。

P.167
最終的には、愛の力で色々と病気とかをふっ飛ばしてハッピーエンド。

病気とかの「とか」には兄妹という問題も含まれていると思われます。
桐乃が書いたこの物語(妹空)は桐乃の理想を詰め込んだものなので、兄妹であるという問題もちゃんと解決してハッピーエンドになるのでしょう。(どうやって解決したのかはわかりませんが……)

P.168-169
「……桐乃……この男……トシ? こいつさあ」
「なに?」
「なんでこんなクソ女に、ここまでしてやんの?」
マゾとしか思えねーぞ。
「そりゃ……」
桐乃は即答しようとして、何故か寸前でやめたようだった。もごもごと言葉をさまよわせ、しばらく考え込んでいたようだったが……やがてむすっとした顔でこう言った。
「……好きだから、じゃん?」
「ケッ」
くっさ。なに言っちゃってんだか。

ここで桐乃が即答しようとした答えは「兄妹だから」だったのでしょう。寸前でやめた理由は、これを京介に教えると、この小説が自分たちをモデルにしていることが京介にバレてしまうと思ったから。……で、悩んだすえに適当な答えをひねり出したと。

P.171
「――なにやってんだオマエ!!」
俺は、あまりのことに目を剥いて叫んだ。
目前には、ずぶ濡れになった妹の姿。べしゃっと顔に張り付いた髪の毛、そしてじっとりとしめった衣服のあちこちから、ボタボタと冷水が滴っていた。見るも無残な有様だ。
いまの水音は、桐乃がバケツの水を自ら引っ被った音だったのだ。

いきなり路上でバケツの水を自ら引っ被る桐乃。
この奇行の理由は……。

P.171-172
意味が分からん! なにがしたいんだこいつは!?
完全に思考が混乱してしまったが――俺が躊躇していたのは一瞬だった。
「お、大バカ野郎! いまタオル買ってくっから、」
「まだいい」
「ああん!?」
振り向いた俺はイラだちを隠そうともせずにキバを剥いた。
もちろん妹の奇行に驚いちゃいたが、それよりもまず怒りが先に立っていたのだ。
どんな理由があったのか知らないが、兄貴の目の前でくだんねーことしてんじゃねえ。
(中略)
全身びしょびしょになって、そんなに寒そうに震えてさあ! 意味わかんねーよ! 息だってそんなに白いし……やめてくれよそういうの! 見てらんねえんだよ! ったく――
(中略)
「うるせえ! ほら! いいからこれ着てろ!」
俺は自分が着ていたジャケットを脱いで、座り込んでいる妹に無理やり羽織らせた。
次いでぐるりと周囲に睨みをきかせて、野次馬を追っ払う。幸い怒った俺の剣幕は、野次馬を牽制するだけの効果があったようで、桐乃に注がれていた奇異の視線と嘲笑がやや減った。
「あとタオルか……ええと――」
コンビニに駆け込んで、速攻でタオルを買って戻ってくる。
で――黙って俯いたまま座り込んでいる妹の頭におっかぶせ、乱暴に拭いてやった。
「ちょ、ちょっと……へんなとこ触らないでよ……!」
「身体拭いてやってんだろ!?」
こんなときにまで減らず口叩いてんじゃねえよ。

桐乃の奇行に動揺しつつも、桐乃の心配をし、面倒を見てやる京介。いかに京介が桐乃のことを大事に思っているかが分かる描写です。普段いくら憎まれ口で隠していても、こういう時には本音が出ますよね。

P.172
「……イブに、リノが雨でびしょ濡れになって、絶対来ないって分かってる元彼を待ってるシーンがあるから……だから……その取材……」

P.175
「リノとトシが初めて会うシーン……雨でびしょぬれになって座り込んでいたリノを……ライブハウスから出てきたトシが見つけて……ってふうにしたら、面白いって思ったの……」

このシーンはアニメ二期第13話で、幼少時に雨の中、京介に置いて行かれた桐乃のシーンを思わせるのですが、13話のあのシーンは伏見先生がこの描写を意図して書いたものなんでしょうか?

P.175-176
「ね、ねぇ……?」
「あん? いまどうすっか考えるからちっと待――何?」
「つ、次の取材は…………あそこ」
「こ、この期に及んでまだんなこと……」
桐乃が固い声でいずこかを指さしたので、俺はあきれ果てながらも示された先に目をやり、
「んなっ、なっ、な……!?」
あまりのことに、舌を噛んでしまう。桐乃が示した青い建物を見上げ、盛大に動揺する。
そう――分かるやつには分かると思うが、このあたりってのはいわゆるラブホ街なのさ。
「ば、バカじゃないのかおまえ! なんで兄妹であんなとこ入らなくちゃなんねーんだよ!」
「で、でかい声で兄妹とか言うなっ! ……くちゅっ! 雨でずぶ濡れになったリノをトシが見つけたあとは、一緒にラブホ行くシーンになるのが自然ってもんでしょ。だ、だから、それに、他にシャワー浴びられるとこないし……くちゅっ!」
ぐぬぬぬぬ…………! ぁ、ぁああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!」
来るんじゃなかった! 妹と渋谷なんか来るんじゃなかった!

路上で水を引っ被った後に、取材と称して兄とラブホに入ろうとする桐乃。
ここまでやるなんて根性ありますよね、桐乃は。

P.176-177
それにちょっと待って欲しい。あいつが書こうとしてるケータイ小説の中で主人公はさあ、シャワー浴びた後……まさか何もしないでチェックアウトする……わけないよな……?
シミュレーションって……その……。な、何をどこまでやるの?
「……………………うあ」
ぎゃああああああああああああああああああああ!
気色悪い想像をしちまったよォ~。最悪だくそっ……。なわけねーだろっての! アホか!
ジャーッという水音を聞きながら、俺は何とも言えない居心地の悪さを感じていた。

桐乃(妹)との行為を想像して錯乱する京介。
意識しまくりですね。

P.180
やばいだろ。いくら何でも。クリスマスイブに実妹とラブホに来てる兄貴って何よ?

桐乃の実妹描写。

P.181
「な、なんつー格好しとるんだおまえは……」
俯いて泣きそうになっていた俺は、顔を上げた途端、固まってしまう。何故なら目に飛び込んできた桐乃が、あられもないバスローブ姿だったからだ。
「き……キモっ。いやらしい目で見んな。しょうがないでしょ服乾いてないんだから。あんたもボサッとしてないで早くドライヤーとかであたしの服乾かしてよ」

桐乃のバスローブ姿を見て、固まってしまう京介。どこが固まっちゃったんですかねぇ?(お下品)あられもないバスローブ姿を京介の前で見せて、さりげなく誘惑する桐乃にも注目。

P.182
「ふんっ。もしかして妹のバスローブ姿に欲情したんじゃないのー? これだからシスコンはさーあ。あーやだやだきもいきもい」
「その台詞、おまえにだけは言われたくねえ!」
二重の意味で!
俺の突っ込みに耳を貸さず、ぷいっとそっぽを向いてしまう桐乃。

桐乃としては、もちろん京介に欲情して欲しいので水を向けてみたのですが、京介にその気は無さそうなので機嫌を損ねてしまいます。っていうか、よく読むと京介って桐乃の質問を否定してないですよね? ……欲情してたんですかね?(笑)

P.183
「今日行ったコース、ちゃんと覚えてた方がいいよ。いつか使うかもしんないでしょ。どーせあんたが自分で考えたら、死ぬほどださいデートコースになるに決まってるんだから。たとえば地元のデパートとかさー」

この桐乃の台詞の意図は、「次にあたしとデートする時の参考にして、今度はちゃんとエスコートしなさいよ」という意味でしょう。桐乃の京介調教の一環ですね。コースにラブホも含まれているかどうかは……不明。

P.185
ただ、俺自身も予想外だったんだが。
あんまりあっという間に時間が経っちまったもんだから――
これって……なんなんだろうなって。
妹と二人で遊びに行くことなんざ、いままでなかったから……
こういうのも悪くねーって……思った、とか? いや、いやいやいやいや。

楽しい時間はあっという間に過ぎるって言いますからね。
いろいろあったけど、京介にとって桐乃とのクリスマスデートは悪くない時間だったのでしょう。

P.185
はっ、ガラでもねー。なわけねーだろっての。こんなに理不尽な扱い受けてて、悪くねーなんてさあ、それこそドMの言い草じゃねえかよ。

何度でも言いますが、京介はドM。これは間違いない。ついでにわがままな妹に振り回されるのが大好きなシスコンです。

P.188
あん? 別に心配しているわけじゃないぜ? 取材に付き合ったっつっても、俺にはカンケーねえ世界の話だからな。妹が何をしてようが、知ったこっちゃねーさ。
ただ、その、あれだ。お袋も言ってたけど、あいつ、陸上部の練習とか、モデル活動とか、エロゲーとか、他にも色々やることあるわけじゃんか。
『ま、なんとかなんでしょ。あたしを誰だと思ってんの?』
そんなこと言ってやがったけどな……。すでになんとかなってねーんじゃねーの?
おまえの場合、根性入ってるから余計にアレなんだ……。アレってのは、心配するって意味じゃないよ?

相変わらず妹のことが心配だと言えない京介。
いつもの言い訳ご苦労様です。

第四章

P.200
「京介ぇ~。あの子、まだたっぷり熱があるのに、学校行くって聞かないのよ~」
「…………どーせ部活があるからとか、仕事がどーのとかごねてんだろ」
「そうそう、そうなのよー。は~、ぜんぜん言うこと聞かなくってねー、いまお父さんに説得してもらってるとこ」

妹のことをよくわかっている京介。

P.201-202
……どうしよう、何も考えてなかった。なんで妹の部屋をノックなんてしたんだろう、俺。
別に、用なんかなんもねーのにさ。…………っ……と……その……。
「…………いや。……ヨーグルト、食う?」
ふと片手に提げていたビニール袋を掲げる。帰り道、コンビニで買ってきたものだった。

妹の部屋をノックした理由? どこをどう考えても、風邪を引いた妹が心配だからでしょう。
わざわざコンビニで妹のためにヨーグルトまで買ってきておいて、このとぼけぶり。本当に素直じゃないですねぇ……。

P.202
「……うん、たべる」
桐乃は熱っぽい顔でこくりとうなずき、コンビニの袋を受け取った。異様に素直なのは、憎まれ口を叩く気力もないからだろう。皮肉な話だが、インフルエンザにかかっているときの妹は、喋らないので常よりかわいい。ヨーグルトくらいくれてやっても惜しくないくらいにはな。

隙あらば挟み込む、妹かわいい発言。

P.204
熱出して苦しいにしても……これは……いくら何でもしょんぼりしすぎのような気もした。
それにほんの少しだが、頬に涙のあとのようなものを見つけてしまったのだ。
「……どうかしたのか?」
「……なんでもない」
ウソだな、こりゃ。あんまり兄貴をバカにしてもらっちゃ困るぜ? そのくらいのことは態度を見てりゃ分かんだよ。第一落ち着いて考えてみりゃー、責任感とプロ意識の塊みてーなこいつが、せっかく学校休んだってのに、全力で病気を治そうとしないわけがない。

妹のことになると異様な洞察力を発揮する京介。
まぁ、鈍感で気づかないことも多いですけど。

P.206
……凄いじゃねえか。
口にこそ出さなかったが、そう思った。トシとリノの関係が、作者の想定通り『純愛』だと受け入れられているあたりに釈然としないものを感じはするのだが……。

京介は妹の小説を読んでない(読む気もない)ので気づきませんが、おそらくトシとリノが実の兄妹でありながら惹かれ合う、という部分が純愛として受け入れられているのでしょう。

P.207
……は。んだよ、まーた差ァ付けられちまったな。どんだけ兄を置いていくつもりなんだか、この妹様はよ……。悔しいやら、情けないやら……落ち込むよ、俺は。

のちに出てくるもやもやの正体の伏線。

P.211
おまえは本当、ウソを吐くのが下手なヤツだよ。
俺の妹は、確かに凄いやつだ。色々な才能があるし、相応の努力もするし、一度始めたことに対しては、気持ち悪いくらいの熱意を発揮する。その結果、こいつの思い通りにならないことなんて、何もないんじゃないかとさえ思う、だが、弱点がないわけじゃない。
こいつは想定外のトラブルにすこぶる弱いのだ。自分の想像が及ぶ範囲の困難に対しては用意周到に準備を整えるし、覚悟を決めてもいる。しかし死角からの攻撃というか、迎撃準備を整えていない問題に対しては一転、どうすればいいのか分からなくなってしまうのだろう。
そんな妹の弱点を、俺は、親父やあやせとのトラブルで、よーくわきまえていた。
なんだかんだ言っても、こいつは十四歳の中学生なんだよな。
幾ら才能があって凄いっつったってさ、そこを忘れちゃいけねえよ。
俺はこいつの兄貴なんだから。

妹のことになると異様な洞察力を発揮する京介、その2。
妹のことをよくわかっているというのは良兄の条件の一つですが、「この頃の京介は」その点、申し分ないですね。恋愛編辺りから、別人のように鈍感になってしまいましたが……。

P.212-213
だって俺、妹が嫌いなんだよ。すげえ嫌いなはずなんだよ。
繰り返しになるが――そこは断じて、間違いないんだ。
(省略)
「くっそ……ワケ分かんねー……」
このもやもやは、いまに始まったことじゃない。最近の俺が抱え込んでいる、ドでかい悩みだった。冷め切っていた妹との関係。妹の秘密を知って、適当にあしらうためだけに人生相談を受けて――変わっていた関係。いまも変わり続けている、微妙な距離感。無関心ではなくなりつつある、妹の存在。
これは、なんだ。自分の胸のうちを覗き込もうとしても、そこにはぐちゃぐちゃしたものが渦巻いているばかりでどうにもならない。どうしようもない。
ムカムカして、イライラして、気持ちが悪くて……。
ああ、ムカつくなあ畜生。どうすりゃいいんだよ、すっきりしねえな。
チッ、どうすんだよこれ。同じ立場のやつがいたらぜひとも聞いてみたいぜ。
なんでこんなに、あんな妹のことで嫌な気分になんなきゃなんねーんだ?
まさか妹が大嫌いってのは、間違いで。本当は――
「ぎゃーっ! ぜってー違げえって!」
そう本心からの悲鳴を上げながら。俺は病気で動けない妹に代わって、本来あいつが自分でやるであろうことを始めるのであった。

妹のことが気になってしょうがないという自分の気持ちに薄々気づきながらも、頑なに認めない京介。妹のことが嫌いだというのは本人が言うとおり、間違いないでしょう。でも、嫌いなはずの妹のことがこんなにも気になるのはなぜか? それは、好きと嫌いという感情が表裏一体だからでしょう。この矛盾した感情が京介の妹に対する気持ちの特徴であり、この頃の京介は、自分の気持ちを自分でもよくわかっていないようです。

ここのもやもやは強調されてないというのもポイント。
ここのもやもやは、後に出てくるもやもやの正体とは別のもやもやです。

P.215
「……ふん、なるほど、だから冬コミにも来なかったというわけ……」
「京介氏。実はその件で、黒猫氏は、きりりん氏のことをずっと心配していたのですよ。風邪を引いたらしいけど、こんなに長引くなんて大丈夫なのかしらと、それはもう寂しそうに――」
「――ハ、勝手に脚色しないで頂戴。別に心配していたわけじゃないわよ。ただ、今回はサークル申し込みが受かったから、私のサークルで、コスプレをして売り子でもさせようと思っていたの。この前の貸しを返してもらうためにね。……なのに、風邪引いて来られないなんて言うから。なんて間が悪い女なのかしらと、嘲笑っていただけ……」
「そっか……」
こいつ桐乃と一緒に冬のイベントに参加したかったんだな……。で、色々と計画練ってくれていて……それなのに桐乃が来られなかったから、寂しい思いをしたんだろう。
「ごめんな。……それと、さんきゅな」
「……どうしてあなたに謝られたり、お礼を言われたりするのか、分からないわ」

桐乃のことを心配する黒猫。
京介もそうですが、黒猫も素直じゃないですねぇ……。
まぁ、それはともかくとして、ごく自然に妹の代わりに謝ってお礼を言う京介の兄力はさすがです。

P.217
松戸ブラックキャットもとい黒猫は、取り繕うように、こほんとかわいく咳払いをする。
「話を戻して……その『妹空』とかいうナメくさったタイトルのケータイ小説が、盗作の被害に遭ったかもしれないということだけど……もう少し詳しい話を聞かせてもらいたいわ」
「おまえも……協力して……くれるのか?」
「……呆れたものね。脳はご無事? 興味本位に決まっているでしょう。どうしてこの私が、人間風情の尻ぬぐいをしてやらなければならないの。そんな妄言は、二度と口にしないで頂戴」
フゥ、と可憐な仕草でため息を吐く黒猫。

いよいよ、黒猫が動き出します。
ここだけ見ると、口ではなんだかんだ言いながら友人のために協力してくれる良いヤツなんですけど、後々の展開を考えるとね……。

P.217
「……あなたにだけは、言われたくない台詞ね。人の話をどれだけ都合よく解釈したのよこのマゾ犬は」

黒猫からもマゾ呼ばわりされる京介。
さすがに「ありがとうございます!」という京介の台詞はないです(笑)

P.218
「そういえば、きりりん氏抜きで京介氏とお会いするのはこれが初めてでしたか。……いい機会だから聞いておこうと思うのですが、初めてお会いしたオフ会のときといい、去年の夏コミといい……どうしてそんなに甲斐甲斐しく妹さんの世話を焼くのです? 少なくとも……表面上は迷惑きわまりないといった体(てい)ですのに」
この台詞。この前の黒猫に続いて、沙織にまで言われちまったな。
しかし相変わらず答えにくい問いではある。なにせ俺自身も自問自答し続けていて、いまだにすっきりとした答えが出ていないんだから。

自分の心がわからない京介。ここは京介の本心でしょう。
桐乃のことを意識しているのは確かでしょうが、それを認めたくないのか、相手は妹というフィルターがあるからなのか。

P.218
俺が考え込むようにしていると、沙織がぐっとこちらに身を乗り出してきた。
「……やはりお二人は、ただならぬ仲なのでしょうか?」
「ただならぬ仲ってなんだよ!? 断じて違ぇ! 妙な勘ぐりをするんじゃない!」
しかも『やはり』って言ったな! キサマ俺たちをずっとそんな目で見てやがったのか……!
これだからエロゲーマーは! なんでもかんでも、すーぐ近親相姦に結びつけやがる!

ただならぬ仲という単語から、当然のように近親相姦という単語を思い浮かべる京介には、やはり心の底でそういう願望があるのでしょうか? っていうか沙織ってエロゲーマーでしたっけ? フィギュアやサバゲー系のオタクだと思っていましたが。

P.218
「違うとおっしゃる? で、では、京介氏は……いわゆるドMという性癖の」
「さらに違ぇ――?」

黒猫に続いて、沙織にまでドM扱いされる京介。
否定してるのはあくまで本人だけで、周りからはそう見えるのでしょう。

P.219
「……別に、珍しい話でもないでしょう。妹のことが心配でたまらなかったり、つい過保護に世話を焼いてあげたくなったり……そういうのは好き嫌いを超越した、また別の感情だもの」
あるいはそれは、自身にも妹がいるという彼女だからこそ、言えた台詞なのかもしれない。
「……妹って、そういうものでしょう? ……こればかりはどうしようもないわ。手間がかかるわりに何の見返りもくれなくて――気まぐれな猫を飼っているようなものだもの」

この黒猫の台詞は、妹がいる人ならうなずけるものじゃないでしょうか?
妹というものの本質をよく表していると思います。

P.219
嗜虐的にせせら笑う黒猫を見ていて、俺も救われた気持ちになる。相変わらず胸のもやもやは取れてくれないが、それでもいいのだと肯定されたような気がした。
兄妹の関係。桐乃との関係。俺の好きなように、マイペースでやっていけばいいのだと。
諭されたような気がした。

ここは黒猫のナイスフォロー。こういう感じでずっとやってくれれば良かったのに……。
胸のもやもやが取れない理由は、普通の兄妹関係とは違う感情を持っているからでしょう。

P.232
「……そう言っていただけるのなら、沙織・バジーナをやっている甲斐がありました」
「……あん?」
「はっはっは、いやなに、こちらの話でござる」

沙織の過去の伏線。
沙織の過去については9巻の読み切り『カメレオンドーター』で。

P.251
「……キャラクター同士の会話には、かなり面白い部分もありました。特に、このキリノというマスケラ本編にはいないオリジナルキャラがよいです……。僕も読んでいて、キリノたんにはあはあしました。……萌え萌えです、はい」
このジジイぶっ飛ばすぞ。いい年こいて何が萌え萌えだこの野郎。このツラと声で何を言うかと思いきや……それが仕事だってのは分かるけどな? そいつはウチの妹をモデルにしたキャラなんですよ。クソ、なんか忘れてんなと思ってたらそれだったのかよ。性奴隷になるシーンがあるんだっけ? 黒猫てめえんなもん持ち込みに使うなや。

ここまでは冷静だったのに、妹をモデルにしたキャラに萌え萌えですと言われた途端に口調ががらっと変わり、明らかな不快感を示す京介お兄ちゃん。独占欲ってやつですね(笑)

P.254-255
黒猫はごしごしと袖で涙をぬぐってから、潤んだ瞳のままで俺を見上げた。
「……大丈夫よ。……怒ってくれて、有難う」
「…………そ、そうか」
その泣き顔に、目を奪われる。……そ、そういやこいつも美人だったんだっけ。普段まったく意識してないから、忘れてた。半泣きになっている黒猫があまりにもかわいかったので、こんな状況だというのに変なことを考えてしまった。――しかし女の子の泣き顔を見てドキドキしている俺は、ちょっと性癖に問題有りかもしれんな。しかも相手は中学生だってのに。

黒猫を意識し始める京介。

P.255
「……すみませんでした。兄さんはのこととなると、頭がおかしくなっちゃうんです」

この台詞で、黒猫が高坂兄妹について、よく理解しているのがわかります。
ちなみに妹という部分の強調は原作通りで、僕がつけ加えたものではありません。

P.268
「ちょっと熊谷さん、フェイトちゃんはもうやめてくださいってばー。いまは『理乃』ってペンネームがあるんですから、今後はそう呼んでくださいって言ったじゃないですか」
……こいつが『理乃』らしい。よくもまあぬけぬけと、その名前で呼んでくれなんて言えるもんだな。よりにもよって俺の目の前でよ……。俺は、いまだ寝込んだままの妹の姿を思い出してしまい、はらわたが煮えくりかえるほどむかむかしていた。

京介お兄ちゃんご立腹。妹のことになると、すぐこれだ。
さっき黒猫が言ったことは、実に正しい。

P.278
いやその、どうやら桐乃はあの取材中、俺が怒ったり、困ったり、泣きそうになったりする様子をイラストに起こしていたらしいんだ。わきに感想メモをそえてな。
まあ、正直、変と言われても反論できないド下手くそな絵ではあった。
でもってその脇には、
↑アクセ買うお金が足りなくて、情けなく店員さんに謝ってるバカの図(^o^)
←「お金なくてごめんな」だって! ゲラゲラ! きもいっつーの(笑)
↓ピアス買ゎせた。バカに選ばせょぅとしたのに、センスなさすぎて超時間かかったょ(^^;)
←ビチョ濡れになったぁたしを見てキレるバカ(>_<) どんだけシスコンだよこいつWWWWW
↓妹のバスローブ姿でハァハァするバカ。ゃ~~~、きりりん貞操の危機!?

ッァ――――! 殺してぇ~~! 思い出しただけでブッ殺してぇ~~~~ッ!
またこの読みにくい丸文字がイラつくんだよな! もうね? 一言一句がカンに触んの!

これはキレていい。
「ゃ~~~、きりりん貞操の危機!?」の部分がやたら嬉しそうに見えるのは気のせいですかねぇ?(笑)

P.281
「アンタもいい加減なこと言うな! 俺らの妹はそんなにかわいくねぇ――んだよ! もしもウチの妹がそんな妄言口走ったら、シバいて黙らせるわ!」
実際にはたぶん無理だけど、そのくらいの突っ込みは入れるってえの――心の中でな!

>――心のなかでな!
弱い……弱すぎるよ、京介お兄ちゃん……。

P.283
そして一方『自分用』ってページには何があったかっていうと、黒猫がレイプ小説と呼んでいた件のケータイ小説や、『妹空アナザーサイド妹視点』っていうタイトルのケータイ小説が保存されていた。後者を読んでみると、妹空の物語を主人公の妹・しおり視点で描いたものだった。ある意味続編といってもいいだろう。あのとき桐乃が妹のことを超重要キャラだと言ってたのは本当だったのだ。

リノの妹しおり。先程も書きましたが、妹空の妹というのはこのしおりちゃんのこと……というのはミスリードで、実際はリノのことだと僕は思います。

P.285
ただ、俺は思うんだよ。小説のことなんざサッパリ分からねえ素人だけども。
あいつの作った、どうにも好きになれねえキャラクターたちにしろ、お安い悲劇とご都合主義満載のストーリーにしろ、リノやらトシやらがくっ喋るお花畑な台詞にしろ――。
桐乃の中から生まれた、あいつだけのもんだってな。あいつが一生懸命考えて、大嫌いな兄貴を連れ出してまで取材して、きっといままで生きてきた経験も反映させて。
部活やらモデル仕事やらの合間に――。そうやって、ようやっとできたもんなんだ。だからこそ世の女どもに受け容れられて、人気が出ていたんだろうよ。

桐乃がケータイ小説にここまで入れ込んだ理由ですが、『妹空』という作品は桐乃の願望を詰め込んだ作品だったんじゃないでしょうか? 桐乃は京介のことを恋愛的な意味で好きですが、現実には二人は兄妹であり、結ばれることは難しい。でも、せめて小説の中でぐらいなら……と桐乃は考えて、リノとトシを自分たちに見立てて『妹空』という物語の中で幸せにしようとした。
そういう理由があったからこそ、インフルエンザにかかっても、桐乃は部活やらモデル仕事やらの合間に書いて書いて書いて、その努力の結果、物語は世間に『純愛』として受け容れられた。それが『妹空』という作品だったと僕は考えます。

P.289
この人が、こうも手放しで原稿を褒めるのを、俺は初めて見た。それだけの力が、桐乃の書いた原稿にあったのだろうと気分がさらに昂揚し――しかし同時に、いつかどこかで感じたようなもやもやが、俺の胸に再び渦巻いた。自然と唇を噛みしめていた。
作戦が上手くいっているのに――――どうしてか、俺は無性に悔しかったのだ。

このもやもやについては後述。

P.295-296
「ふん、あなただって他人のことを言えるの? なんで妹ばかり、そう思ったことがないとは言わせないわよ」
「そ、それは……いまはそんな話、関係ねえだろう!」
(中略)
俺はこいつらの気持ちなんざ分からない。分かるなんて言う資格もない。
でも、凡庸な自分とは大違いの妹が、こっちがいくら頑張っても絶対勝てない妹が、毎日毎日すぐそばにいる惨めさは分かる。勝てない相手と比較され続ける悔しさと、その状況をどうしようもないという、どうにもならないあの感覚は理解出来る。
なんで妹ばかり


――あ、それだ。


そこで不意に気づいちまった。
なんてこった、これだ。これだったんだ。
このきったねー嫉妬心が、俺の胸で渦巻いていたもやもやの正体なんだよ。

もやもやの正体が「きったねー嫉妬心」だと京介は言っていますが、これは伏見先生お得意のミスリードだと思います。
京介が桐乃の才能や努力に対して、嫉妬心を抱いているのがもやもやの正体なのは確かですが、その裏に京介の妹に対する兄妹愛や(自分でもおそらく気づいていない)恋心(P.212、219のもやもや参照)があるのもまた事実でしょう。それらがごっちゃになったのが、京介のもやもやの本当の正体だと僕は思います。

この時点で京介自身ハッキリとは気づいていませんが、もやもやの正体を「きったねー嫉妬心」だと思いこむことによって、後者のもやもやである桐乃に対する兄妹愛や恋心を否定できるから、この説は自分を納得させるのに非常に都合がいいんですね。これもまた、京介の桐乃に対する「俺は妹が嫌いだ」というフィルターの一つです。

P.296-297
いままで俺は、『なんでアイツばかりに才能があって、なんでもかんでも上手くいくんだ』
――そんな嫉妬から妹のことを嫌ってた部分があったと思う。最近は特にそうだ。妹との距離が縮まって、アイツの凄さを改めて見せつけられていたから――。
ったく、なんて情けない兄貴だろうな。
あのとき、桐乃が泣きそうなツラで強がってんの見て、自分が恥ずかしくなっちまってよ。
だから俺、あんなにイライラして……どうにかしなくちゃいけねえ、あいつの頑張りを無駄にしちゃいけねえって、思ったんだろうな。

ここはそのまんま。
特に裏はないので、額面通りそのまま受け取って問題ないでしょう。

P.297-298
そしてもしかしたら、さっきから桐乃へ暗い感情を吐き出し続けている黒猫も――。
「……あの女がどうなろうと、私の知ったことじゃない。助けるなんて冗談じゃないわ。もっと苦しめばいいのよ、あんな女」
こいつの台詞はすべて本心からのものでありながら、ウソと強がりと言い訳ばかりでできている。まるで誰かさんを見ているようだ。ガラじゃねえ、カンケーねえとのたまいながら、じゃあおまえは何をやっているんだと問われれば、何も言い返せないか、より苦しい言い訳に終始するしかない。
「ああ気に入らない。気に入らない。寝ても醒めても気に入らないわ。この世のすべてが気に入らない。いっそ爆弾でも落ちてきて、何もかもを滅ぼしてくれないかしら」
そのイラだちは俺もよく知っている。そのままならなさは誰もがよく知っている。
そう、俺たちがここでこうしているのは桐乃のためなんかじゃない。自分のためだ。
このどうしようもない感情を、どうにもならないなりにどうにかしようとしているだけだ。
だからこの件が首尾良く解決したとしても、絶対に妹から感謝なんてされたくない。黒猫だってそう言うはずだ。桐乃をどう思っているかという問いに対して――俺と黒猫は、きっと同じ意味で、同じ答えを返すだろう。
あんなやつ、大大大大大大大っっっっ嫌いだってな! だけど――

黒猫の言葉から、自分のもやもやした気持ちを黒猫も持っていることに気づく京介。

P.298
だけどね、それはそれよ


そのとおりだ。こいつがどんな気持ちでこの台詞を言っているのか、本当のところは分からない。だけどそうなんだ。理屈じゃねーんだ。確かに俺は妹が嫌いだよ。大嫌いだ。美人で多才なスゲエ妹なんざ、そばにいるだけで比べられるし、負けた気分になるし、当人にゃあバカにされて見下されて――。
だけどそれでも俺は、こう叫ぶしかない。兄貴だからな。
「なあ、聞いてくれ――刹那さん!」
「……!?」
いきなり話を向けられたフェイトが、びくりと身体を震わせる。
構わず俺は、大声を張り上げた。
「あんたが盗んだそれは、俺の妹が一生懸命書いたもんなんだよ! すげえ頑張って書いたもんなんだよっ! 大嫌いな兄貴と一緒に取材して、熱があるってのにぶっ倒れるまでケータイ弄って、俺なんかよりもずっとずっと頑張ってた。だからいい結果が出たんだ。それを見てもいねえくせに――なにもしてないのに上手くいっているみたいなこと言うんじゃねえよ!」
それは、いままでの俺に向けた台詞だった。自分とは大違いの妹に嫉妬して、あいつは特別だからと諦めて、桐乃の頑張りを見ようともしていなかった自分への怒りだった。
「あんたがどれだけスゲエ努力をしてきたのか――それは俺には分からねえよ。だけど、それであいつの頑張りをなかったことにするんじゃねえ! 俺の妹舐めるな」

ここもそのまんまですね。
妹のことは大嫌いだけど、自分は兄貴だから。兄貴だから妹のために、何かしてあげたくなる。妹が困っていたら、助けてやりたくなる。妹を悪く言われると腹が立つ。
先程も書きましたが、そういう矛盾を抱えているのが京介なんです。

P.299-300
「マジで尊敬する! たいしたもんじゃねえかよ! 大好きだぜ! ホントすげーって!」
「――んな」「……っ」
対面のフェイトが目を見開いた。俺のとなりで黒猫が息を呑んだ気配がした。
何か余計なことを口走ったかもしれないが、いまの俺には気にする余裕なんてない。

黒猫フラグを着々と立てる京介。

P.300
俺の激しくも無様な剣幕を見て、フェイトが目を見張っている。とんだシスコンだと思われているんだろうな。そうじゃねえってのに。絶対に絶対にそうじゃねえってのに。

絶対に絶対にそうじゃねえって言っている自分が、まさか6巻では自らシスコンだと絶叫することになるとは、この時の京介には知る由もないです。

P.303
兄貴だからしょうがない。その理屈にもなっていない言い訳は、自分にもわからない諸々を、無理矢理納得させるための方便でしかないからだ。大嫌いなのに、それは間違いないはずなのに、それでもこうするしかない。このどうにもならない衝動は、俺と、俺と似た立場になったことのあるヤツにしか、きっとわからない。

ここを読むと、京介は兄貴だからしょうがないというのが、理屈にもなってない言い訳であり、方便だと自覚していますね。自分にもわからない諸々というのが、先程僕が指摘した「妹に対する兄妹愛や恋心」(もう一つのもやもや)です。
この妹に対する矛盾と、どうにもならない衝動に苦しんでいるのが京介という人物です。自分自身の気持ちに対するフィルターを複雑に張り巡らしてしまったがゆえに、多くの人に最終巻の京介の気持ちが理解できないと言われてしまいました。

ちゃんとしっかり読めば、京介の気持ちは分かるはずなんですけどね。でも、そこまで読み込む人はなかなかいないのでしょう。だからこそ、最終巻が発売されて4年以上経っても、いまだに俺妹という作品についての評価や見解はバラバラになっているのだと思います。

P.304
「自慢じゃないけどね、私は友達少ないのよ」

黒猫の精一杯のデレ。
P.291でフェイトさんに「あなた友達一人もいないでしょう」と言われたことに対しての返し。
要するに黒猫は桐乃を数少ない友達だと認めているということです。

P.307-308
今回の事件に関わったせいで色々と気付くことはあったにせよ。そんなの全部いまさらだ。
理由が分かったところで、俺が妹のことを大嫌いなのは今後も変わりゃしねえわけだし――。

>俺が妹のことを大嫌いなのは今後も変わりゃしねえわけだし。
フラグ。このモノローグをぜひとも最終巻の京介に見せてやりたい。

P.308-309
「あー、あれね。もうやめた」
二巻の企画までは引き受けるけれど、それ以降の作家活動はしないらしい。
(中略)
「でもいま、あたし、他にどうしてもやりたいことがあるからさあ。優先度からいって、ケータイ小説をやめるしかないってわけ。この前無理して倒れたのも、反省してるし」
「やりたいこと? 新作のエロゲーじゃねえだろうな」
「そ、それもあるけど!」

このやりたいことというのは陸上での留学でしょう。
桐乃があっさり作家活動に見切りをつけたのは、書きたいこと(自分と京介をモデルにした恋愛小説)を書いてしまって満足したからでしょう。

P.311
「ええ、そうよ。感謝なさい、『妹空』のネット書評を、この私が検索して大量に集めてきてあげたの。世間の評判が気になっているでしょう? 作者の理乃先生としては」
「ふーんあっそう! それで『妹空』をボロクソ書いているネット書評ばかりを厳選して印刷して作者のこのあたしに見せに来たってわけ!? どんだけ性格悪いのよアンタ!」
「……心外ね。これは友情の証なのよ。下手くそな文章でも許してくれる心の広ぉい読者に、ちょっともてはやされているからって、あまり調子に乗らない方がいいわよという優しい忠告」

この黒猫の行動は、桐乃に対する嫉妬ももちろん混じってるでしょうが、優しい忠告というのも嘘ではないのでしょう。(桐乃は自分から悪い評判なんて見ようとしないでしょうし)「友情の証」としてこんなことをしちゃうあたりに、友達の少ない黒猫の不器用さが、かいま見えます。

P.311

「余計なお世話だってーの! なぁにが忠告よ偉そうに。はっはーん、あんた結局悔しいだけでしょ! 嫉妬ワナビ乙ぅ~ッ!」
桐乃は乙乙乙! と連呼しながら、黒猫を全力で嘲弄し始めた。
「キャハハハ! キャ――ハハハ! ひぃ~っひっひっ!」
踊るようなステップでパンパンパンパン拍手を叩く。相手の顔を覗き込んで、
「ねぇ、いまどんな気持ち? ねぇねぇ、あとから小説書き始めたあたしに先にデビューされて、いまどんな気持ち? 悔しかったら自分もデビューしてみれば? そんな子供じみた嫌がらせでしか鬱憤を晴らせないなんて、あんたクリエイターとして恥ずかしくないのぉ~?」
「……ぎぐがががががががが……」

それに対する桐乃の反応がこちら。
もうハナから擁護する気が失せるほどに全面的に桐乃が悪い。ここの黒猫にはさすがに同情します。こういうことするから桐乃は誤解されるんですよねぇ……自業自得ですが。

P.312-313
今回の件で得たものといえば、まあ、こいつとの奇妙な仲間意識くらいか。
俺と黒猫が抱く桐乃への想いはきっとよく似ているんだ。
高坂桐乃、被害者の会。嫉妬と羨望に支配され、それでも強がる小物たちの集い。
それが俺らだ。――ったく調子こきやがって、この可愛くない妹めっ。
ムカついてしょうがねえぜ。俺も会長を見習って、嫌味を言ってやるとするか!

黒猫とのフラグが着々と積み重なっていますね。

この可愛くない妹めっ。ムカついてしょうがねえぜ。

全然ムカツイているように見えないんですが……。
とくに「妹めっ」の部分。
呑気に状況分析なんてしてないで、桐乃の頭を一発はたくぐらいしてもいいと思うんですが。妹に対する暴力は嫌いな僕ですが、この桐乃はさすがに殴っていい。

P.313
「おいおい桐乃、てめーは作家サマだろ? 自分の本を読んでくださった読者サマによー、そんな偉そうな口利いていいと思ってんの? こっちゃオメーの本に貴重な時間を費やしてやってんだぞ? ええ? 読者のご意見は黙って謹聴するのが筋ってもんだろうが?」
「ばぁぁぁ~~~っかじゃぁあ~~~~~~ん?」
妹からこんなにも心のこもったお言葉をいただいたことは、これまでなかったよ。

京介ドM疑惑。
心のなかで「ありがとうございます」とか言ってるんじゃないでしょうか? これで怒らない京介は、心が広いとかいう問題じゃなくて、わざと妹を怒らせて罵倒の言葉を浴びせてもらい、喜んでいるとしか思えません。

P.314
「――ハ、さすがケータイ小説の作家先生、語彙が貧弱ね」
「キョェェェェェェェェッ! お――覚えてなさいよアンタ! いい!? アンタのその糞ブログ、そのうち絶対炎上させてやるかんね!」

>キョェェェェェェェェッ!
もはやヒロインの台詞ではない(笑)

P.318
……っと、なんだ、こりゃ? もしかしてコレ、いわゆる思い出話ってやつか? おお、だとしたらすげえ話だ。まさか俺と妹の間に、いまさら思い出なんてもんができるとは。
へっ、別に嬉しかないけどな。

もう、そろそろ説明の必要はないでしょう、ツンデレ乙。

P.319
黒猫は無表情で思案していたが、やがて桐乃を見つめながら、淡々とした口調で呟いた。
「あなたのお兄さんに『大好き』って告白されたわ」
「ゲフンゲフンゲフンゲフン……!」
盛大にむせた。――黒猫! て、テメエ!? んなななななななに言い出して……!?
(中略)
「……悪いけれど、それは教えられないわね。二人だけの秘密だから。――ねえ、兄さん?」
「すでに『兄さん』と呼ばせている!? エロゲ脳にもほどがありますぞ京介氏!」
「違えええええええええ――ッつの! 沙織てめえ! 分かってからかってやがるな!」
「むろんでござる」

黒猫の冗談……というか桐乃に対する挑発と牽制かな。

P.320
トドメとばかりに、ただひとりこの冗談に乗って来なかった桐乃が、軽蔑のまなざしでこちらを見ていた。
「…………キモ」
超不機嫌だった。おそらく俺と黒猫が仲良くしているのが気にくわなかったんだろう。
ホラ、俺に『友達を取られる』とでも思っちゃったんだろうな。それが分かってりゃ、微笑ましくも思えるさ。

恋愛に関しては恐ろしく鈍い京介。
不機嫌の原因は『友達を取られる』じゃなくて『兄を取られる』が理由でしょうに。

P.320
沙織は「ではお次はきりりん氏の番で――」と振ったのだが、ご機嫌斜めになってしまった桐乃は「まだ考え中……」と言ってそっぽを向いてしまう。

ここで桐乃が考えているのは、お題に関することではなく、京介と黒猫のことでしょう。

P.321
「んー、そーね。あんまりたいしたことじゃないけど、思いついたっちゃ思いついたかな。……『最近あった思いがけない出来事』でしょ? それなら……」
そして桐乃は、自分でも自信なさげに言葉をさまよわせ――
「妹ものだと思って『鬼畜兄貴』っていうゲーム買ったら、ホモゲーだったことかな」

珍しく自信なさげな桐乃。先程の黒猫の発言が気になって、お題に集中できていないのでしょう。
そして、桐乃隠れM疑惑が。一体どういう意図があって『鬼畜兄貴』なんてタイトルのゲームを買ったんでしょうかねぇ?

P.322
「いーから、さわんないで」
妹は、いつかと同じ台詞を吐いた。直前で手を出すのを躊躇したので、以前のように平手で払われることはなかったが――。
……ちっ。ほらな。俺たちの関係なんざ、結局こんなもんなんだよ。
ちくりと胸に針を刺されたような気分で、妹が化粧品類を拾い集める様子を眺める。

先ほどの京介と黒猫のことでまだ怒っている桐乃。まるで冷戦時代に戻ったかのように冷たいです。京介の方は強がりながらも、そんな桐乃の態度にショックを受けています。

P.323
「人生相談、次で最後だから」

次で最後だから(キリッ)。
今思うと、最後とはなんだったのか……。

まとめ

今まで脇役に過ぎなかったはずの黒猫が、ヒロインとしていよいよ表舞台に登場し始める巻。
おそらくこの辺りから、黒猫の人気がどんどん上がり始めたのでしょう。この先、どんどん出番が増えて優遇されていきます。

今回のクリスマスデートの件は、のちの考察でもたびたび出てくるので、なるべく覚えておいてください。

相変わらず素直じゃない京介ですが、桐乃に対するシスコン度はどんどん上がってきていますね。まぁ、この先の京介のことを考えると、まだまだこの程度は序の口なんですが。

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